OpenAIは2026年7月22日、企業向けの音声・チャットAIエージェント運用製品「Presence」を発表しました。一言でいえば、AIエージェントに何を任せ、どこで人に判断を戻すかというルールをあらかじめ設計し、実際の会話をシステムが監視しながら運用する、ガードレールと人間監督(human-in-the-loop)を前提にしたエンタープライズ向けサービスです。
チャットボットや音声botを導入しても、想定外の質問やクレーム対応で機能が破綻し、結局は現場が人手で巻き取るという悩みは珍しくありません。Presenceは、AIモデルの性能そのものではなく、本番投入前のテスト、運用中の監視、投入後の継続改善という「運用の型」を製品化した点に特徴があります。企業がAIエージェントを顧客対応の最前線に置く際、どこまでの設計が必要かを考える材料になります。
※本記事は2026年8月14日時点の情報です。
- Presenceとは何か、どんな課題を解決する製品か
- ガードレールと人間監督(human-in-the-loop)の具体的な仕組み
- 本番投入前のテストと投入後の継続改善のプロセス
- 実際に採用した企業の事例と、現時点の提供形態・料金
Presenceとは何か|「モデル」ではなく「運用」を製品化
Presenceは、OpenAIのモデルの上に載る展開・管理レイヤーで、企業の顧客対応や社内業務にAIエージェントを実際に投入する際の難所を引き受けます。具体的には、社内システムへの接続、エージェントが実行してよい範囲とそうでない範囲の定義、投入前のエッジケース検証、投入後の継続的な行動改善までを一つの製品としてまとめています。単なるモデルの新しいバージョンではなく、本番運用そのものを対象にした製品である点が、これまでの発表と異なります。
OpenAI自身が使う社内実績が説得材料になっている
OpenAIは、自社の英語電話サポート回線(1-888-GPT-0090)を実際にPresenceで運用しています。稼働から数週間で、これまでの人によるフロントサポートの品質基準に達するか上回る水準になり、着信の75%を人の対応なしで解決しているとしています。自社の実運用データを実績として示すことで、企業向けに導入を訴求する構成です。
ガードレールの設計|何を任せ、どこで人に戻すか
Presenceの中心にあるのは、企業側があらかじめ定義するポリシーです。エージェントがどう振る舞うか、どのアクションまで自律的に実行してよいか、どんな場合に人へ引き継ぐ必要があるかをチームが設計します。運用中は、システムが会話を能動的に監視し、やり取りが設定した境界の外に出た場合に介入する仕組みになっています。
「自律性を高める」より「境界を決める」ことが中心
Presenceは、社内のナレッジ、標準業務手順(SOP)、承認済みのアクション、シミュレーション、評価ツール、ガードレール、エスカレーションのルールを一つにまとめる設計です。どこまで自律的に動けるかを最大化するのではなく、どこで人に戻すかを先に決めることが前提になっています。エージェントに何をどこまで任せるかというガバナンス設計を欠くと、現場で個別最適な使い方が広がるシャドーAIエージェントのリスクにもつながりかねません。
本番投入前のテストと投入後の継続改善
投入前には、ルーチンのリクエストだけでなく、エッジケースや高リスクのシナリオに対してシミュレーションとグレーダー(評価器)を実行し、正確な結果が出ているか、適切なツールを使っているか、ポリシーに沿っているか、エスカレーションの判断が妥当かを検証します。人がその結果をレビューし、承認したうえで本番環境に展開する流れです。
投入後も検証は続きます。本番のセッションやエスカレーション、品質シグナルから、リリース後に見えてきたギャップを洗い出し、Codexを使った改善の仕組みが具体的な変更案を提案します。提案はチームがテスト・承認・展開する形で運用され、OpenAI自身の運用では、この改善ループによって人への引き継ぎ率が10日間で15ポイント下がったと報告されています。実行結果を評価し続けて改善するという発想は、AgentOpsで扱う可観測性・評価の考え方とも重なります。
導入企業の事例|銀行・通信・保険それぞれの使い方
初期の導入企業として、BBVA Mexico、SoftBank Corp.、保険グループIAG傘下のRetail Insurance Australiaの名前が挙がっています。BBVA Mexicoは銀行の口座システムと連携し、人へのエスカレーションなしに顧客の問い合わせを解決できる音声サポートを検証しています。SoftBank Corp.は日本語での顧客対応向けに音声エージェントを展開しています。Retail Insurance Australiaは、金融・保険分野特有のコンプライアンス要件がある中で、顧客対応にPresenceを使っています。業種によって求められる正確性やコンプライアンスの水準は異なるため、いずれの事例もガードレールの設計をどこまで厳格にするかが導入の鍵になっています。
提供形態・料金|限定的な一般提供とFDE主導のロールアウト
Presenceは、企業が自分でサインアップして設定するセルフサービス型の製品ではありません。OpenAIのForward Deployed Engineers(現場常駐型のエンジニア)と、選定されたグローバルシステムインテグレーターが主導する形で、限定的な一般提供として企業顧客に展開されています。料金は公開されていません。導入のハードルが高い分、PoCから本番稼働への移行に伴う失敗を防ぎやすい設計とも言えますが、AIエージェント導入事例で指摘される「導入の4割が中止に至る」実態を踏まえると、伴走型の展開だけに頼らず、自社側でも評価基準とエスカレーション設計を持っておくことが重要です。統治のアプローチとしては、Googleが基盤側のID・ログで統制するGemini Enterprise Agent Platformとは異なる切り口である点も、比較検討の材料になります。
riplaがガードレール設計から伴走します
Presenceのような製品を使うかどうかにかかわらず、AIエージェントを顧客対応の最前線に置くには、どこまで自律的に任せ、どこで人が承認するかというガードレール設計が欠かせません。riplaでは、業務の切り分けからエスカレーションルールの設計、投入後のモニタリング体制の構築まで、企業ごとの業務に合わせて支援しています。顧客対応にAIエージェントを取り入れたいがどこから設計すればよいか分からない場合は、対象業務と現状の課題をお聞かせください。
| 段階 | 何をするか | 人の関与 |
|---|---|---|
| 投入前テスト | ルーチン・エッジケース・高リスクのシナリオをシミュレーションとグレーダーで検証 | 結果をレビューし、承認してから本番環境へ展開する |
| 運用中の監視 | ガードレールが会話を常時監視し、設定した境界を外れたら介入する | エスカレーションされた案件に人が対応する |
| 投入後の改善 | 本番セッション・エスカレーション・品質シグナルからギャップを検出し、Codexが改善案を提案する | 提案をテスト・承認したうえでロールアウトする |
よくある質問(FAQ)
Q. OpenAI Presenceとは何ですか?
企業が音声・チャットのAIエージェントを実際の顧客対応や社内業務に投入するための運用製品です。ポリシー設計、ガードレール、投入前テスト、投入後の継続改善までを一つにまとめており、2026年7月22日に発表されました。
Q. 「human-in-the-loop」とは具体的にどんな仕組みですか?
エージェントが自律的に実行してよい範囲と、人に引き継ぐべき条件をあらかじめ定義し、運用中は会話が境界を外れた場合にシステムが介入する仕組みです。投入前の承認、投入後の改善提案の承認でも人が関与します。
Q. 料金や提供形態はどうなっていますか?
企業が自分で設定するセルフサービス型ではなく、OpenAIのForward Deployed Engineersと選定されたシステムインテグレーターが主導して展開する、限定的な一般提供です。料金は公開されていません。
Q. どんな企業が導入していますか?
初期導入企業として、BBVA Mexico(銀行)、SoftBank Corp.(通信)、IAG傘下のRetail Insurance Australia(保険)が挙げられています。OpenAI自身も英語の電話サポート回線で運用しています。
参考情報:
OpenAI公式「Introducing OpenAI Presence」
VentureBeat「OpenAI unveils Presence」
Enterprise DNA「OpenAI Presence: Enterprise Agent Platform in 2026」
QATechTools「OpenAI Presence Brings Agent Testing to Production」
まとめ|自律性より先に、人へ戻す境界を決める
Presenceが示すのは、AIエージェントを企業の最前線に置くうえで大切なのは、どれだけ自律的に動かせるかではなく、どこで人に判断を戻すかを先に決めることだという考え方です。投入前のシミュレーション、運用中のガードレール、投入後の継続改善という三段構えの運用は、Presenceを使うかどうかにかかわらず、社内でAIエージェントを設計する際の参考になります。自社の顧客対応や業務にどこまで任せるかを検討する際は、まず境界線をどこに引くかから考えてみてください。
関連記事
- AIエージェント導入事例の成功条件
- Gemini Enterprise Agent PlatformのGA機能
- シャドーAIエージェントのガバナンス
- AgentOpsで自律実行を評価・監視する
- AWS Kiro Crewに見るマルチエージェント設計
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
