RPAの進化を解説|AIエージェントの統制基盤としての役割

RPA大手のUiPathは公式サイトで、AIエージェントが非構造化データを読み取って状況を判断し次の行動を計画する一方、RPAロボットが定型処理を正確に実行する組み合わせとして、Agentic Automation(エージェンティック・オートメーション)を説明しています。この整理によれば、RPAは「AIエージェントに置き換えられる古い自動化」ではなく、AIエージェント時代の実行基盤として位置づけられます。

企業のIT・事業責任者にとっては、AIエージェントの柔軟な判断力とRPAの安定した実行力を、どの工程でどう組み合わせるかが業務自動化設計の起点になります。すべてを自律化するのではなく、判断が必要な工程と手順が固定された工程を切り分けて考える視点が欠かせません。

企業の業務は「判断」と「処理」の連続でできています。メールや書類の内容を読み取って次の対応を決める部分はAIエージェントが得意でも、ERPへの入力、請求書の発行、在庫の更新のようにルールが明確な作業は、RPAのほうが検証しやすく再現性を持たせやすいでしょう。導入の焦点は、すべてを自律化することではなく、どの工程を誰に任せるかを設計することです。

※本記事は2026年8月時点の情報です。

AIエージェントが判断し、RPAロボットが実行し、人が承認・例外処理を担うAgentic Automationの業務フロー図
AIエージェントが判断し、RPAロボットが実行し、必要な場面で人が承認する構成がAgentic Automationの基本形

RPAとAIエージェントの違い|「決められた処理」と「状況に応じた計画」

RPAは、画面操作やAPI、ファイル処理など、手順と条件をあらかじめ定義できるタスクをソフトウェアロボットに実行させる仕組みです。UiPathは、データ入力や取引処理のような反復的でルールベースの仕事を、RPAの代表的な適用領域として説明しています。入力と分岐条件が安定しているほど、処理結果をテストしやすくなります。

一方、AIエージェントは、自然言語の依頼や非構造化データを起点に、必要な情報源や作業手順を判断し、複数のツールを使って目標達成を試みます。依頼内容が毎回少しずつ異なる業務や、例外の内容を読んで次の対応を選ぶ業務では柔軟性を発揮しますが、出力の揺らぎや誤判断を前提に、監視・制御の仕組みも必要です。

観点RPAAIエージェント
主な役割定義された手順を正確に実行する目的を解釈し、情報を集め、次の行動を計画する
向いている入力構造化データ、決まった帳票、安定した画面メール、文書、会話、複数システムの文脈
得意な業務転記、照合、登録、定型通知、定期処理分類、要約、調査、提案、例外の一次判断
主なリスク画面変更やルール変更で処理が止まる誤解、誤情報、判断の揺らぎ、権限逸脱
設計の要点手順・条件・例外時の停止を明確にする目的・利用可能な情報・ツール・承認境界を明確にする

ポイント

RPAは手順・条件が安定した処理を正確に実行し、AIエージェントは非構造化データから状況を判断して次の行動を計画します。向いている入力とリスクが異なるため、業務ごとにどちらへ任せるかを最初に切り分けることが設計の起点になります。

「RPAを置き換える」のではなく、実行レイヤーとして組み合わせる

UiPathは、Agentic AutomationによってRPAが不要になるのではなく、両者がそれぞれの強みを生かして協働する可能性が高いと説明しています。特に、低い複雑性と変動性で動くルールベースの処理は、AIエージェントに任せるよりRPAのほうが効率・信頼性・精度を確保しやすい領域です。AIエージェントには、RPAを呼び出す条件を判断させ、RPAには許可された操作を実行させる分業が現実的です。

判断・実行・承認の3層に分けると設計しやすい

実務では、業務を「AIエージェントの判断」「RPAやAPIによる実行」「人による承認・例外処理」の3層に分けて考えると、過剰な自律化を避けられます。AIエージェントが申請内容を読み、必要な処理を選び、RPAが基幹システムへ登録する。金額が閾値を超える場合や、規程にないケースだけを人へ送る、といった構成です。AIエージェント導入の進め方は、AIエージェント導入事例で扱う「削減時間だけでなく運用条件を見る」視点とも共通します。

この分業では、AIエージェントが実行できる操作を無制限にしないことが大切です。データ取得用のロボットと更新用のロボットを分け、更新処理には入力値の検証や承認済みフラグを要求するなど、権限を小さく設計します。エージェント、ロボット、人を一つの業務プロセス上で連携させ、ガードレールと監視を組み込む考え方は、UiPathが説明するAgentOpsの運用論とも接続します。

ポイント

AIエージェントが判断し、RPAが実行し、人が承認・例外処理を担う3層構成にすると、過剰な自律化を避けられます。エージェントが実行できる操作を無制限にせず、更新系の操作には検証や承認済みフラグを求めるなど、権限を小さく設計します。

業務フロー例|受注から請求までをどう分担するか

受注から請求までのOrder-to-Cashで、AIエージェントの読み取り・判断、RPAのシステム操作、人の例外処理が連携する5ステップの流れを示す図解
受付・読み取りから改善まで、AIエージェントとRPA、人が段階ごとに役割を分担する

UiPathのRPA公式ページには、受注から請求までのOrder-to-Cashを題材に、AIエージェント、RPAロボット、人が連携する流れが示されています。顧客メールやポータルから注文情報を読み取り、顧客情報・与信・価格ルールに照らして次のワークフローを判断するところは、AIエージェントや文書理解の役割です。

  1. 受付・読み取り:AIエージェントがメールやポータルから注文内容を抽出する。
  2. 判断・振り分け:与信枠、在庫、価格条件を確認し、定型処理へ進めるか人へ送る。
  3. システム操作:RPAロボットがERPへ受注を登録し、請求書や在庫情報を更新する。
  4. 例外処理:価格の不一致や欠品などを人が確認し、承認後に処理を再開する。
  5. 改善:処理結果や例外を分析し、ルール・プロンプト・フローを見直す。

この例から分かるのは、AIエージェントがすべての工程を自分で操作する必要はないということです。エージェントは「何をすべきか」を決め、RPAは「決められた操作を実行する」ことで、業務全体の品質を保ちやすくなります。AIエージェントが社内システムを直接操作する構成を採る場合も、同じ入力を再実行できるか、失敗時に安全に止められるか、誰が復旧するかを先に決めておきましょう。

ポイント

AIエージェントは「何をすべきか」を判断し、RPAは「決められた操作を実行する」という分担を保つと、業務全体の品質を維持しやすくなります。エージェントが基幹システムを直接操作する場合も、再実行できるか、失敗時に安全に止められるかを先に決めておきましょう。

導入時の注意|自律性より、権限・監査・人の介入点を先に決める

AIエージェントの判断、RPAの実行、人の承認を3層に分け、権限制御と監査ログで囲むガバナンス構成を示す図解
判断・実行・承認を3層に分け、権限制御と監査ログで安全性を担保する

Agentic Automationでは、処理の柔軟性が高まるほど、AIエージェントの誤判断が実システムの変更につながるリスクも増えます。UiPathは、エージェントとロボットの双方にアクセスできるデータや操作を制限すること、暗号化・ロールベースアクセス制御・監査などのデータガバナンスを整えることを挙げています。業務上の「できること」を増やす前に、「してはいけないこと」をシステムで制約することが重要です。

人の介入は、AIが失敗したときの最後の手段としてではなく、設計要件として組み込みます。たとえば、高額な支払い、顧客への確定通知、個人情報の更新、規程にない例外は、人が承認してからRPAが更新処理を行うようにします。UiPathの公式ドキュメントでも、Human-in-the-loopのステップは自動化を一時停止して人へ承認・補正・例外処理を依頼し、選択された結果に応じて後続処理を再開する仕組みとして説明されています。

承認画面には、AIエージェントの結論だけでなく、参照したデータ、信頼度、判断理由、実行予定の操作を表示します。承認・却下・差し戻しの結果と理由をログに残し、後から業務監査や品質評価に使えるようにします。社内で個別にエージェントを作る場合は、シャドーAIエージェントのガバナンス対策として、所有者、利用目的、接続先、停止方法を台帳化することも欠かせません。

ポイント

「できること」を増やす前に「してはいけないこと」をシステムで制約し、高額な支払いや個人情報の変更など影響の大きい操作には人の承認を必須にします。承認画面には参照データ・信頼度・判断理由・実行予定の操作を表示し、結果と理由をログに残します。

PoCの評価項目|「自動化できた」だけで終わらせない

PoCで確認する判断品質・実行品質・例外対応・権限と証跡・運用コストの5つの評価軸を示す図解
処理時間だけでなく、判断品質から運用コストまで5つの軸でPoCを評価する

RPAとAIエージェントを組み合わせるPoCでは、処理時間だけを測ると判断の誤りや復旧作業を見落とします。正常系だけでなく、入力欠損、規程外の依頼、権限不足、システム停止、モデルの誤読を含むケースを用意し、AIが迷ったときに安全に人へ引き継げるかを確認します。AIエージェントの本番運用を考える際は、専用ID・最小権限・操作ログといった観点も評価軸に加えます。

評価軸確認すること合格条件の例
判断品質分類、抽出、振り分け、提案が業務ルールと一致するか誤判断の種類と発生条件を説明できる
実行品質RPAが正しい画面・API・レコードへ処理できるか再実行しても二重登録や不整合が起きない
例外対応不確実な入力や規程外ケースを人へエスカレーションできるか停止条件、担当者、復旧手順が決まっている
権限と証跡エージェントとロボットの権限を必要最小限にできるか参照データ、実行操作、承認者、時刻を追跡できる
運用コストモデル利用料、ロボット実行、監視、保守、人の確認時間手作業との差を総コストで比較できる

最初の対象は、判断の影響範囲が限定され、RPAで実行する手順がすでに安定している業務が向いています。AIエージェントには分類や候補作成をさせ、RPAは承認済みデータの登録だけを行うなど、段階的に自律性を広げます。評価結果が良くても、業務責任者が止められない、ログを確認できない、例外時の手動処理がない場合は、本番展開を急がないことが安全です。

ポイント

処理時間だけでなく、判断品質・実行品質・例外対応・権限と証跡・運用コストの5軸でPoCを評価します。業務責任者が止められない、ログを確認できない、例外時の手動処理がない場合は、本番展開を急がないことが安全です。

よくある質問(FAQ)

Q. RPAとAIエージェントは何が違いますか?

RPAは、構造化データや決められたルールに沿って、入力・照合・登録などの処理を正確に実行する仕組みです。AIエージェントは、自然言語や非構造化データから目的と状況を理解し、必要な情報やツールを選んで次の行動を計画する仕組みです。

Q. AIエージェントが普及するとRPAは不要になりますか?

不要になるとは限りません。低い複雑性と変動性で動くルールベースの処理は、RPAのほうが効率・信頼性・精度を確保しやすい領域です。AIエージェントが判断し、RPAが定型処理を実行する協働モデルが現実的です。

Q. RPAとAIエージェントはどのように組み合わせますか?

AIエージェントにメールや文書の内容を読み取らせ、条件に応じて処理を選ばせます。その後、RPAがERPへの登録、請求書の発行、在庫更新などの定型操作を実行し、価格不一致や高額取引などは人へ送ります。

Q. Agentic Automationでも人の承認は必要ですか?

必要です。高額な取引、顧客への確定通知、個人情報の変更、規程外の例外など、誤操作の影響が大きい場面には承認を置きます。承認時に参照データ、判断理由、実行内容を確認でき、結果と理由を監査ログへ残せる設計にします。

Q. RPAとAIエージェントの導入は何から始めるべきですか?

まず、RPAで実行する手順が安定し、判断の影響範囲が限定された業務を一つ選びます。正常系と例外系を含むPoCで、判断品質、二重登録の有無、停止・復旧、権限、監査証跡、総コストを測定し、結果に応じて自律化の範囲を広げます。

参考情報:
UiPath「What is Agentic Automation?」
UiPath「What is Robotic Process Automation – RPA Software」
UiPath「What is Agentic Orchestration?」
UiPath Documentation「Human-in-the-loop tasks」

まとめ|RPAはAIエージェント時代の実行基盤になる

RPAとAIエージェントは、競合する一つの自動化方式ではありません。AIエージェントが非構造化データを読み、状況を判断し、次に行うことを決める一方、RPAは定義されたルールに沿って基幹システムの入力・照合・更新を実行します。両者を人の承認や例外処理と組み合わせることで、判断と実行が混在する業務を段階的に自動化できます。

導入時は、AIエージェントの自律性を競うのではなく、権限を限定し、判断理由と操作ログを残し、必要な場面で安全に止められるかを確認しましょう。小さなPoCで正常系・例外系・復旧手順を検証し、品質と運用コストを測ったうえで、RPAからAIエージェントへ任せる範囲を広げることが、Agentic Automationを実務で定着させる近道です。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。