PostgreSQL導入のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

PostgreSQLは、オープンソースで提供される高機能なリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)であり、WebアプリケーションやSaaS、業務システムのバックエンドを支えるデータストアとして、世界中で豊富な実績を持っています。単なるリレーショナルデータベースにとどまらず、独自のデータ型・関数・演算子・インデックスを追加できる「オブジェクト関係データベース(ORDBMS)」としての拡張性の高さ、PostGISやpgvectorといった強力な拡張機能、JSON/JSONBによる柔軟なデータ格納、そしてウィンドウ関数やCTEを駆使した複雑なクエリ・分析処理への強さといった特徴から、独自性の高いシステムを作り込みたいフルスクラッチ開発と非常に相性が良いデータベースです。PostgreSQLを導入してシステムを構築する際には、大きく分けて「ゼロから独自に作り上げるフルスクラッチ(オーダーメイド)開発」と、「既存のパッケージソフトやSaaS、ノーコードツールを利用する方式」という2つのアプローチがあります。フルスクラッチ開発は、自社の業務フローに完全に合わせたシステムを、自由に設計したPostgreSQLのデータベースの上に構築できる一方で、開発期間と初期費用が最も大きくなります。どちらのアプローチが自社に適しているかは、業務の独自性や求める拡張性、予算、スケジュールによって変わるため、それぞれの特徴を正しく理解したうえで判断することが重要です。

本記事では、PostgreSQL導入におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当て、フルスクラッチとパッケージ/SaaS/ノーコードの違い、フルスクラッチのメリット・デメリット、費用相場と期間感、フルスクラッチが適するケースとパッケージが適するケースの見極め方、そしてPostgreSQLをフルスクラッチのDB基盤に選ぶ意義とフルスクラッチ開発を成功させるためのポイントまでを、具体的な数値とともに体系的に解説します。PostgreSQLはトランザクション処理を得意としつつ複雑なクエリにも強い汎用的なデータベースであり、Webアプリや業務システムのバックエンドDBとしてフルスクラッチ開発する際の視点を中心に、正直な相場感で整理していきます。開発方式の選定で迷っている方にとって、投資判断の判断軸となる内容を盛り込んでいます。

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PostgreSQL導入におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発とは

PostgreSQL導入におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発とは

フルスクラッチ開発とは、既存のパッケージソフトやテンプレートに頼らず、システムをゼロから独自に設計・開発する方式を指します。PostgreSQLを用いたシステムの場合、業務に合わせて自由にテーブル設計(スキーマ設計)を行い、そのデータベースの上でアプリケーションのロジックを一から作り込みます。「オーダーメイド開発」とほぼ同義で、自社の業務にぴったり合う「あつらえ」のシステムを作れるのが最大の特徴です。ここでPostgreSQLを選ぶことには特別な意味があります。PostgreSQLはオブジェクト関係データベースとして、独自のデータ型や関数を追加できる拡張性を持ち、JSONBによる柔軟なデータ格納や、ウィンドウ関数・CTEを使った複雑なクエリを標準で扱えるため、フルスクラッチ開発の「自由に作り込める」という価値を、データベース層でも最大限に発揮できます。これに対して、既存のソフトウェアをベースに必要な部分をカスタマイズする「パッケージ方式」や、プログラミングをほとんど書かずに構築する「ノーコード/ローコード方式」もあり、それぞれ費用と自由度のバランスが異なります。まずは、これらの方式の違いと、フルスクラッチであってもデータベース基盤にはクラウドのマネージドDBを使うのが定石であるという実務上の前提を押さえておきましょう。

フルスクラッチ・パッケージ・ノーコードの違い

システム構築の3つの方式を、費用感を軸に整理します。まずフルスクラッチ開発は、すべてを独自に作り上げるため自由度が最も高く、費用は相場の100%(基準)となります。業務に完全に合わせたPostgreSQLのスキーマ設計とロジックを実現できる反面、開発工数が最も大きくなります。次にパッケージカスタマイズは、既存のソフトウェア(たとえばECサイトであればEC-CUBEなど)をベースにする方式です。基本機能があらかじめ揃っているため開発期間を短縮でき、費用は相場の40〜70%程度に抑えられます。ただし、標準機能から大きく外れるカスタマイズを行おうとすると、かえって手間がかかり、コストが増大するリスクがある点には注意が必要です。最後にノーコード/ローコード方式は、プログラミングをほとんど書かずにアプリを構築する方式で、費用は相場の20〜50%程度に抑えられます。素早く安く作れる一方、複雑なデータベース処理や大規模なトラフィックには不向きで、ツールの制約を超える要件には対応しきれません。ここで重要なのは、PostgreSQLの真価は「複雑な処理を自由に作り込める」点にあるため、ノーコードやパッケージでは扱いきれない高度なデータ処理こそがフルスクラッチ×PostgreSQLの得意領域だということです。このように、フルスクラッチは費用が最も高い代わりに自由度が最も高く、ノーコードは安い代わりに制約が大きい、という関係にあります。自社の要件がツールの標準機能で満たせるのか、それとも独自の作り込みが必要なのかが、方式選定の分かれ目になります。

フルスクラッチでもDB基盤はマネージドDBが定石

フルスクラッチ開発というと「データベースのインフラも自前でゼロから構築する」というイメージを持たれがちですが、実務上はそうではありません。アプリケーションをフルスクラッチで作り込む場合でも、PostgreSQLのインフラ自体は自前でサーバーを立てて運用するのではなく、Amazon RDS for PostgreSQLやAmazon Aurora(PostgreSQL互換)、Google Cloud SQL for PostgreSQL、Azure Database for PostgreSQLといったクラウドのマネージドDBを採用するのが現代の定石です。この組み合わせには合理的な理由があります。フルスクラッチ開発の価値は「柔軟なデータモデリングとロジックの作り込み」にあり、これはアプリケーションとスキーマの設計の自由度を指します。一方、データベースのバックアップ、パッチ適用、マルチAZ構成による冗長化、そしてPostgreSQL特有のVACUUMの一部運用といった「運用管理」の部分は、独自性を出すべき領域ではなく、むしろクラウドの標準機能に任せた方が安定し、コストも最適化できます。つまり、フルスクラッチならではの自由なアプリ設計とPostgreSQLの高度な機能の活用に集中しつつ、DBの面倒な運用はマネージドサービスに委譲する、という役割分担が最も効率的なのです。ただし、マネージドDBによってはサポートしていない拡張機能もあるため、使いたい拡張機能(PostGISやpgvectorなど)が採用するマネージドサービスで利用できるかは、設計段階で確認しておく必要があります。「フルスクラッチ=すべてを自前で」と考えるのではなく、独自性を出すべき部分と標準に任せる部分を切り分けることが、賢いPostgreSQL導入の考え方です。

フルスクラッチのメリット・デメリットとPostgreSQLを選ぶ意義

PostgreSQL導入のフルスクラッチのメリット・デメリット

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を選ぶかどうかを判断するには、その利点と欠点を正確に理解しておく必要があります。ここでは、PostgreSQLをDB基盤に選んでフルスクラッチ開発を行うメリットと、あわせて必ず理解しておくべきデメリットを掘り下げます。

フルスクラッチ×PostgreSQLのメリット

フルスクラッチ開発の最大のメリットは、圧倒的な自由度と、それによる差別化です。独自の業務フローに完全に合わせたシステムを構築できるため、パッケージソフトでは実現できない、自社ならではの業務プロセスをそのままシステム化できます。既製品に業務を合わせるのではなく、業務にシステムを合わせられるため、現場の生産性を最大化でき、競合他社とのシステム面での差別化も図れます。ここでPostgreSQLをDB基盤に選ぶと、その自由度がデータベース層でも大きく広がります。第一に、オブジェクト関係データベースとしての拡張性です。PostgreSQLはユーザー定義のデータ型、関数、演算子、インデックスを独自に追加しやすいアーキテクチャを持ち、位置情報を扱うPostGISや、AI開発におけるベクトル検索を可能にするpgvectorなど、強力な拡張機能を利用できます。これにより、業務特有の複雑な要件をデータベース層で安全に処理でき、アプリケーション側のコードを複雑にせずに済みます。第二に、JSONBによる柔軟設計です。JSONB型によってJSONデータをバイナリ形式で保存し、GINインデックスで高速に検索できるため、RDBMSの強固なトランザクションを保ちつつ、NoSQLのようなスキーマレスで柔軟なデータモデルを同じデータベース内で混在させることが可能です。構造が固まっているデータは正規化テーブルで、頻繁に変わるデータはJSONBで、という使い分けを一つのDBで実現できます。第三に、複雑クエリ・分析処理の内製化です。高度なウィンドウ関数、CTE、複雑なJOINの最適化、並列クエリ処理を標準で備えているため、複数テーブルをまたぐ重い集計や大規模なバッチ処理、分析用途(OLAP的な処理)を、別の分析基盤を用意せずにPostgreSQL上で完結させられるケースもあります。これらのメリットは、自社の競争力の源泉となる中核システムほど強く効いてきます。

フルスクラッチのデメリット

フルスクラッチ開発のデメリットは、何よりも開発期間の長さと初期費用の高さです。ゼロからすべてを独自に開発するため、既存のパッケージを利用する場合と比べて開発期間が長くなり、初期投資が最も大きくなります。パッケージ方式であれば数週間〜数か月で導入できるものが、フルスクラッチでは数か月〜1年以上かかることもあり、その分の人件費が費用に直結します。また、ゼロから作るということは、パッケージ製品であれば標準機能として提供される部分も自前で設計・実装・テストする必要があるということであり、その工数と、それに伴う品質担保の責任も自社側に生じます。さらに、システムが完成した後も、機能追加や不具合対応、PostgreSQLのバージョンアップ対応などの保守・運用を継続的に行う必要があり、これらもパッケージのように提供元が面倒を見てくれるわけではありません。特にPostgreSQLでは、メジャーバージョン間でデータファイルの互換性がないためpg_upgradeを用いた移行作業が必要になることや、追記型アーキテクチャに伴うVACUUMの運用など、DB特有の運用負荷も自社側で担うことになります。また、PostgreSQLの高度な機能(拡張機能や複雑なクエリ)を活用するほど、それを設計・実装・運用できる専門性の高い人材が必要になり、体制面のハードルが上がる点も理解しておくべきです。加えて、フルスクラッチは要件定義や設計の巧拙がシステムの品質を大きく左右するため、上流工程に十分なリソースを割けないと、後から大きな手戻りが発生するリスクもあります。これらのデメリットを踏まえると、フルスクラッチは「自由度と引き換えに、コスト・期間・責任を自社が引き受ける」方式だと理解しておくことが大切です。だからこそ、本当にフルスクラッチが必要な要件なのかを見極めることが、投資判断の要になります。

費用相場と期間感

PostgreSQL導入のフルスクラッチの費用相場と期間感

フルスクラッチでPostgreSQLを用いたシステムを開発する場合の費用と期間は、規模によって大きく変わります。ここでは、規模別の費用・期間の目安と、開発費用が工程ごとにどう配分されるかを整理します。

規模別の費用と期間の目安

PostgreSQLを含むバックエンド・Webシステムをフルスクラッチで開発する場合の、規模別の費用・期間の目安は次の通りです。小規模開発は、コーポレートサイトや小規模なWebアプリ、シンプルなREST API(データをやり取りする仕組み)などが該当し、費用は50万〜100万円、期間は1〜2か月程度です。問い合わせフォーム、CMS、基本的な管理画面といった機能で、PostgreSQLのテーブル数も少なく済みます。中規模開発は、予約システムや会員制サイト、ECサイト、業務システムなどが典型で、費用は100万〜500万円、期間は2〜4か月程度になります。この規模では、決済機能(50万〜150万円)、会員管理(30万〜80万円)、管理画面(50万〜200万円)、外部API連携(30万〜100万円)といった機能を組み合わせて構築し、Java、Ruby、PHP(Laravel)、Pythonなどの言語がよく用いられます。大規模開発は、大規模業務システムやマッチングサイト、高トラフィックなWebサービスなどで、費用は500万〜2,000万円以上、期間は4〜12か月以上に及びます。この段階では、1日100万PVに耐えうる負荷分散、コンテナ技術(Dockerなど)の活用、PostgreSQLのストリーミングレプリケーションによる冗長化やリードレプリカの活用といった、高度なインフラ設計が必要になります。なお、PostGISやpgvectorといった拡張機能を活用したり、複雑な分析クエリを内製したりする野心的なプロジェクトでは、その設計・実装・検証に相応の工数が加わるため、同じ規模でも費用・期間が上振れしやすい点は考慮しておきましょう。これらはあくまで目安であり、実際の費用は詳細な要件を固めたうえで見積もる必要があります。

工程別の費用配分

フルスクラッチ開発の費用が、どの工程にどれだけ配分されるかを理解しておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。一般的な配分の目安は、要件定義・設計に全体の15〜20%、開発・実装に50〜60%、テスト・品質確認に15〜20%、環境構築・リリースに10〜15%です。要件定義・設計の工程では、画面設計に加えて、PostgreSQLのテーブル設計(DB設計)とAPI設計を行います。PostgreSQLの場合はここで、豊富なデータ型のどれを使うか、正規化とJSONBをどう使い分けるか、どの拡張機能を採用するか、といった設計判断が加わるため、この工程の重要性が特に高くなります。ここが曖昧なまま進むと、後の工程で仕様変更が多発し、1件あたり数万円といった追加費用が積み重なって予算を圧迫するため、上流にしっかり投資することが結果的にコストを抑えます。開発・実装の工程は費用の過半を占め、フロントエンド・バックエンド・データベース連携のプログラミングが中心となります。PostgreSQLの強みであるウィンドウ関数やCTEを使った複雑な処理は、この工程で腕の見せどころとなる部分です。テスト・品質確認の工程では、単体テスト、結合テスト、そして本番相当のデータ量での負荷テストを行い、リリース前の品質を担保します。環境構築・リリースの工程では、本番用のサーバーとPostgreSQLインスタンス(マネージドDBの構築を含む)を用意し、実際のリリース作業を行います。この配分を知っておくと、たとえば「要件定義・設計の費用がやけに安い見積もり」は上流を軽視している可能性があると気づけるなど、見積もりを評価する目が養えます。工程ごとの内訳が明示された見積もりを取り、各社を比較することが、適切なパートナー選びにつながります。

フルスクラッチが適するケース・パッケージが適するケース

フルスクラッチが適するケース・パッケージが適するケース

フルスクラッチとパッケージのどちらを選ぶべきかは、要件の性質によって決まります。ここでは、PostgreSQLを活かしたフルスクラッチが適するケースと、逆にパッケージやSaaSが適するケースを整理し、判断の軸を示します。

フルスクラッチ×PostgreSQLが適するケース

以下のような要件がある場合は、パッケージやSaaSでは対応しきれないため、フルスクラッチが推奨され、その際PostgreSQLがDB基盤として特に力を発揮します。第一に、独自の業務フローや複雑なビジネスロジックがある場合です。企業独自のルールに基づいた複雑なデータベーススキーマ設計や、複数のテーブルをまたぐ高度な集計・検索機能が必要なケースでは、既製品の決まった枠組みに収まらないため、フルスクラッチで自由に設計する必要があります。ウィンドウ関数やCTE、独自関数といったPostgreSQLの機能は、こうした複雑なロジックをデータベース層で効率的に実現する強力な武器になります。第二に、長期的な拡張・改修を見込む場合です。事業の成長に合わせて継続的に機能を追加していくことが前提となるB2Bプラットフォームや、自社の中核となるSaaSプロダクトは、拡張性を確保するためにフルスクラッチが適しており、PostgreSQLのORDBMSとしての拡張性がその発展を支えます。第三に、高いスケーラビリティとパフォーマンスが要求される場合です。トラフィックの急増に耐えるため、PostgreSQLへの負荷を軽減するキャッシュ層やリードレプリカの導入、大量アクセスを捌くための最適化された設計が必要なケースでは、フルスクラッチで作り込む価値があります。第四に、地理空間データやベクトル検索、半構造化データといった特殊なデータを扱う場合です。PostGIS・pgvector・JSONBといったPostgreSQL固有の機能を活かせば、他のデータベースでは実現が難しい高度なデータ処理を、フルスクラッチのシステムに組み込めます。第五に、既存システムの技術的な刷新(リプレイス)を行う場合です。これらに共通するのは「自社の競争力に直結し、かつ既製品では実現できない独自性が必要」という点です。

パッケージ・SaaSが適するケースと判断軸

一方で、フルスクラッチが常に最善というわけではありません。以下のような場合は、パッケージやSaaS、ノーコードを選ぶ方が合理的です。まず、実現したい業務が一般的で、既製品の標準機能でおおむね充足できる場合です。たとえば、ごく標準的な勤怠管理や会計処理、汎用的なECサイトなどは、成熟したパッケージやSaaSが数多く存在し、それらを使えば短期間・低コストで導入でき、提供元による保守やバージョンアップの恩恵も受けられます。次に、予算や納期の制約が厳しい場合です。フルスクラッチは費用も期間も最も大きくなるため、限られた予算で早く立ち上げたいなら、パッケージやノーコードで始める方が現実的です。また、PostgreSQLの高度な機能を活かすには、それを設計・運用できる専門人材が必要になるため、社内外にそうした体制を確保できない場合は、無理にフルスクラッチにこだわらない判断も重要です。判断の軸としては、「その業務が自社の競争力の源泉かどうか」を考えるとよいでしょう。競争力に直結する中核業務であれば、独自性を出せるフルスクラッチ×PostgreSQLに投資する価値がありますが、他社と差がつかない汎用的な業務であれば、既製品に任せてコストを抑え、リソースを本当に重要な部分に集中させるのが賢明です。また、最初はパッケージやノーコードで小さく始め、事業が成長して既製品の限界が見えてきた段階でフルスクラッチに移行する、という段階的な選択肢もあります。自社の要件の独自性、予算、スケジュール、運用体制、そして将来の拡張見込みを総合的に照らし合わせて、最適な方式を選ぶことが重要です。

フルスクラッチ開発を成功させるポイント

PostgreSQL導入のフルスクラッチ開発を成功させるポイント

フルスクラッチ開発は自由度が高い分、進め方によって成否が大きく分かれます。ここでは、PostgreSQLを用いたフルスクラッチ開発を成功に導くための2つの重要なポイントを解説します。

要件定義とDB設計に十分投資する

フルスクラッチ開発を成功させる最大のポイントは、要件定義とデータベース設計という上流工程に十分な時間とリソースを投じることです。パッケージ製品と違い、フルスクラッチではすべてを自分たちで決めなければならないため、上流の設計品質がそのままシステム全体の品質と、後の変更のしやすさを決定づけます。特にPostgreSQLのスキーマ設計は、システムの土台であり、いったんデータが蓄積されると後から大きく変更するのが困難になります。PostgreSQLは選択肢が豊富なぶん、設計時の判断も多くなります。豊富なデータ型のどれを使うか、どのデータを正規化テーブルで持ちどのデータをJSONBで持つか、どの拡張機能を採用するか、インデックスをどう設計するか(B-tree、GIN、GiSTなど)といった判断を、将来のデータ増加やクエリのパターン、機能拡張の可能性を見越して慎重に行うことが、後々の手戻りや性能問題を防ぎます。要件定義の段階では、管理すべきデータと主要な業務フロー、そして非機能要件(想定するデータ量、レスポンス目標、可用性の要求水準)を数値で明確にし、ドキュメントとして残しておきます。上流を軽視して早く実装に入りたくなる誘惑もありますが、フルスクラッチではここでの手抜きが最も高くつきます。むしろ、必要であれば前段でプロトタイプやPoCを行い、想定するスキーマで業務が回るか、本番のデータ量で複雑なクエリや拡張機能が期待どおりの性能を出すかを検証してから本開発に入ることが、堅実な進め方です。

段階的リリースと変更管理でリスクを抑える

もう一つの重要なポイントは、一度にすべてを作ろうとせず、段階的にリリースしながら進めることと、変更管理のプロセスを整えることです。フルスクラッチ開発は規模が大きくなりがちで、すべての機能を作り切ってから一斉にリリースしようとすると、開発期間が長期化し、その間にビジネス環境が変わったり、当初の想定と現場のニーズがずれたりするリスクが高まります。これを避けるには、まず事業価値の中心となる機能に絞ってPostgreSQL上に構築し、早期に本番リリースして検証し、その後フェーズ2・フェーズ3で機能を拡張していく段階的アプローチが有効です。PostgreSQLはマイグレーションツールでスキーマの変更を管理しながら段階的に拡張していけるため、こうした反復的な開発と相性が良いのが特徴です。特に、初期は柔軟性を優先してJSONBで受けておいた属性を、要件が固まった段階で正規化テーブルへ移していくといった、PostgreSQLならではの段階的な設計の進化も可能です。あわせて、開発途中で必ず発生する仕様変更に備え、変更管理のプロセスを最初に合意しておくことも欠かせません。変更要求が出たら、影響範囲を調査し、追加の工数と費用を見積もり、承認を得てから実施する、という流れを明文化しておくことで、口頭での「ちょっとした追加」が積み重なって予算とスケジュールを圧迫する事態を防げます。また、全体予算の15〜20%程度をバッファとして確保しておくと、想定外の事態にも柔軟に対応できます。段階的リリースと変更管理は、フルスクラッチという大きな投資の失敗リスクを抑えるための、実務上の要となる工夫です。

まとめ

PostgreSQL導入のフルスクラッチ・オーダーメイド開発まとめ

PostgreSQL導入におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、自社の業務に完全に合わせたシステムを、自由に設計したPostgreSQLのデータベースの上に構築できる方式です。費用は相場の100%(基準)で、パッケージカスタマイズ(相場の40〜70%)やノーコード(相場の20〜50%)と比べて最も高くなりますが、独自の業務フローへの適合、最適なDB設計、長期的な拡張性という大きなメリットが得られます。とりわけPostgreSQLをDB基盤に選ぶと、オブジェクト関係データベースとしての拡張性(独自データ型・関数・PostGISやpgvectorといった拡張機能)、JSONBによる柔軟設計、ウィンドウ関数やCTEを使った複雑クエリ・分析処理の内製化という、フルスクラッチの自由度をデータベース層でも最大限に活かせます。規模別の費用・期間の目安は、小規模で50万〜100万円・1〜2か月、中規模で100万〜500万円・2〜4か月、大規模で500万〜2,000万円以上・4〜12か月以上で、工程配分は要件定義・設計に15〜20%、開発・実装に50〜60%、テスト・品質確認に15〜20%、環境構築・リリースに10〜15%が標準です。フルスクラッチが適するのは、独自の複雑な業務ロジック、長期的な拡張前提、高いスケーラビリティ要求、特殊なデータ(地理空間・ベクトル・半構造化)の活用、既存システムの刷新といった、自社の競争力に直結し既製品では実現できないケースです。逆に、汎用的な業務や予算・納期の制約が厳しい場合、専門人材を確保できない場合は、パッケージやSaaSが合理的です。フルスクラッチであってもDBインフラはマネージドDBを使うのが定石であり、独自性を出すべき部分と標準に任せる部分を切り分けることが賢い選択です。成功の鍵は、要件定義とDB設計への十分な投資、そして段階的リリースと変更管理によるリスク抑制にあります。自社の要件の独自性と将来性を見極めたうえで、複数の開発会社に相談し、工程別の内訳が明示された見積もりを比較することから始めてみてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。