AIモダナイゼーションとは、老朽化したシステムを刷新する「システムのモダナイゼーション」の取り組みにおいて、AIを”モダナイズされる対象”としてではなく”モダナイゼーションを実行する手段”として活用する技術トレンドを指します。リホスト・リプラットフォーム・リファクタリング・リビルド・リプレースといった従来の5つのアプローチのうち、既存システムを廃棄してゼロから再構築する「リビルド」、いわゆるフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、最も柔軟性が高い反面、最も期間とコストがかかる手法とされてきました。AIモダナイゼーションは、このフルスクラッチ開発においても、要件定義からコード生成、テストに至るまでの工程にAIを組み込むことで、従来の常識を覆すスピード感を実現しつつあります。対象システムの種別(基幹・業務・アプリケーション)を問わず適用できる点は、従来のモダナイゼーションと共通しています。
本記事では、AIモダナイゼーションにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当て、従来のリビルドが抱えていた課題、AIエージェント型開発がもたらす変化、リライト・リファクタリング・リビルドの3手法とAI関与度の比較、そして発注時に確認すべきポイントまでを具体的な事例とともに解説します。既存システムを刷新するにあたり、フルスクラッチという選択肢をAIの力でどこまで現実的にできるのか、判断軸を持ちたい方にとって参考になる内容です。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・AIモダナイゼーションの完全ガイド
AIモダナイゼーションとは何か(フルスクラッチ開発における位置づけ)

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討する前に、AIモダナイゼーションがこの領域でどのような役割を果たすのかを理解しておく必要があります。従来のシステムのモダナイゼーションにおいて、リビルド(フルスクラッチでの再構築)は、既存システムを廃棄しクラウドネイティブな技術でゼロから再構築する手法として位置づけられ、初期投資と開発規模が最も大きいため、自社の競争力に直結するコア業務に限定して適用すべき手法とされてきました。AIモダナイゼーションは、このリビルドという選択そのものを不要にするわけではなく、リビルドを選んだ場合の実行速度と品質を高める手段として機能します。
従来のフルスクラッチ開発が抱えていた課題
従来のフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、要件定義からコード生成、テストに至るまで、すべての工程を人間のエンジニアが担うため、期間の目安が約12〜30ヶ月以上と、5つのアプローチの中でも最も長期化しやすい手法でした。初期投資と開発規模が最も大きいことに加え、要件定義の段階で認識齟齬が生じると、実装が進んだ後の手戻りが甚大になるというリスクも抱えていました。既存システムの仕様がブラックボックス化している場合、フルスクラッチでの再構築は「何を作り直すべきか」の把握自体に多大な工数を要する点も、長期化の一因でした。
AIがフルスクラッチ開発にもたらす変化の方向性
AIモダナイゼーションは、こうした従来の課題に対し、要件精緻化フェーズの短縮(Mob Elaborationによる数時間規模への圧縮)、既存システムの自動解析によるブラックボックス化の解消、そしてAIエージェントによるコード生成の高速化という複数の側面からアプローチします。フルスクラッチという選択自体は依然として大きな投資判断ですが、AIの活用によって「作り直すべき範囲の把握」から「実装」までのリードタイムが大幅に圧縮されつつある点が、従来との最大の違いです。
AIエージェント型開発がもたらすオーダーメイド開発の変化

フルスクラッチ・オーダーメイド開発の実行速度を最も劇的に変えているのが、Devinに代表されるAIエージェント型の開発ツールです。従来はエンジニアが要件を1つずつコードに落とし込んでいましたが、AIエージェントは自律的にタスクを分解し、コード生成からテストまでを一貫して実行できる点が特徴です。
DeNAの事例に見るAIエージェント導入効果
DeNAは2026年3月にAIエージェント「Devin」のEnterprise版を全社導入し、約2,000名が利用可能な体制を整えたと公表しています。同社の発表によれば、この導入により従来半年を要していたプログラム言語移行作業をおよそ1ヶ月弱で完遂し、作業効率にしておよそ6倍の改善を実現したといいます。またオーダーメイドの新施設向けアプリケーション開発においても、AI活用によって開発速度が2倍になったと同社は報告しています。フルスクラッチに近い性質を持つ新規性の高い開発領域においても、AIエージェントの導入効果が明確に表れている事例といえます。
大規模受託開発における並列ワーカー運用の効果
オーダーメイド開発を専門とする受託開発の現場では、AIエージェントを定型タスク専用のワーカーとして複数並列で運用することで、開発リードタイムを30〜50%短縮できたという事例が確認されています。フルスクラッチ開発は要件が多岐にわたり、並行して着手できるモジュールが多いという特性を持つため、AIエージェントによる並列処理との相性が良く、従来は人的リソースの制約で直列に進めるしかなかった工程を同時並行で進められる点が、期間短縮に直結しています。
リライト・リファクタリング・リビルドの3手法とAI関与度の比較

フルスクラッチでの再構築(リビルド)を検討する際は、他の代替手法とAIの関与度を比較したうえで、本当にフルスクラッチが最適かを見極める必要があります。ここでは、AI活用の観点から代表的な3つの手法を比較します。
自動変換によるリライトとフルスクラッチの比較
TISのXenlon~神龍のような自動変換ツールを使ったリライト手法は、COBOL・PL/IからJavaへのストレートコンバージョンに強みを持ち、フルスクラッチでの再構築と比較してコストを半減できるケースが多いとされています。実際にJFEスチールでは、IBMメインフレーム上のPL/I・COBOL資産を刷新する際、リビルドは設計難易度と期間の観点で非現実的と判断し、自動変換ツールによるリライトを採用しました。フルスクラッチでの再構築が必ずしも最適解とは限らず、既存ロジックの資産価値が高い場合は、AIによる自動変換の方が合理的な選択となるケースが多いことを示す事例です。
どのような場合にフルスクラッチが選ばれるべきか
一方で、既存システムの設計思想そのものが陳腐化しており、業務プロセスの抜本的な見直しを伴う場合や、競争力に直結するコア業務でありビジネスモデルの変化に合わせた柔軟な拡張性が求められる場合は、リライトやリファクタリングでは対応しきれず、フルスクラッチでの再構築が依然として合理的な選択肢になります。AIモダナイゼーションは、こうしたフルスクラッチが必要なケースにおいても、要件精緻化とコード生成の両面でリードタイムを圧縮できるため、「フルスクラッチだから長期化は避けられない」という従来の前提そのものを見直す余地を生み出しています。
Gartner調査に見る複数ツール併用の効果とオーダーメイド開発への示唆

AIモダナイゼーションによるフルスクラッチ開発の高速化効果は、使用するツールの組み合わせ方によっても変わります。Gartnerが2026年1月に発表した調査によれば、AI駆動開発ツールを2種類以上組み合わせて活用している企業の開発リードタイム短縮率は中央値で42%に達する一方、単一ツールのみを運用している企業では18%にとどまるという結果が示されています。
オーダーメイド開発におけるツール組み合わせの考え方
フルスクラッチ・オーダーメイド開発では、要件精緻化にはMob Elaborationのようなツール、コード生成にはAIエージェント、テストには自動テストケース生成AIというように、工程ごとに異なるAIツールを組み合わせることで、単一ツールに依存する場合よりも高い効果が得られる傾向があります。特にオーダーメイド開発は要件の独自性が高く、汎用的な自動変換ツールだけでは対応しきれない部分が多いため、複数ツールの適材適所での組み合わせが、フルスクラッチならではの柔軟性とAIによる高速化を両立させる鍵になります。
AI-DLCの反復構築プロセスとオーダーメイド開発の親和性
AI-DLCの反復的な構築プロセス(検証済みモデルに基づきAIが論理設計・コード生成を行い、人間がレビュー・承認する)は、要件が事前に固まりきらないオーダーメイド開発とも親和性が高い進め方です。従来のスプリント(4〜6週間単位)よりも短い、数時間から数日単位の「Bolts」という反復サイクルを採用することで、要件の変化にも素早く追従しながらフルスクラッチでの構築を進められる点が、従来のウォーターフォール型フルスクラッチ開発との大きな違いです。
発注時に確認すべきポイント

AIモダナイゼーションを活用したフルスクラッチ・オーダーメイド開発を外部に発注する際には、従来のモダナイゼーション発注時とは異なる観点での確認が必要になります。
AIツール・エージェントの活用実績を確認する
発注先を選定する際は、DevinのようなAIエージェントやAWS Transformのような自動変換ツールを実際のプロジェクトでどの程度活用した実績があるかを確認することが重要です。AIツールの活用実績が乏しいベンダーに依頼した場合、結局は従来型の人手中心のフルスクラッチ開発とほぼ同じ期間・コストになってしまうリスクがあります。契約前の提案段階で、AIツールを活用した場合の期間短縮効果を具体的な数値とともに示してもらうことが、見積もりの妥当性を検証する近道です。
レビュー体制と契約形態の確認
AIエージェントが生成したコードを最終的にレビューする体制がどの程度整っているか、専門家によるコードレビューと現新比較テストがプロセスに組み込まれているかも、発注前に必ず確認すべきポイントです。また、AIの活用によって要件の変化に素早く追従できる進め方が可能になったことを踏まえると、契約形態も請負よりも準委任契約でアジャイルに進める方式との相性が良くなっています。スコープが変動しやすいフルスクラッチ開発の特性を踏まえ、AI活用を前提とした契約形態を発注前に取り決めておくことが安心につながります。
まとめ

本記事では、AIモダナイゼーションにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、従来のリビルドが抱えていた課題、AIエージェント型開発がもたらす変化、リライト・リファクタリング・リビルドの3手法とAI関与度の比較、そして発注時に確認すべきポイントを解説しました。DeNAの事例のように、AIエージェントの導入によって従来半年を要していた作業がおよそ1ヶ月弱に短縮されるなど、フルスクラッチ開発における「長期化は避けられない」という従来の前提そのものが見直されつつあります。一方で、既存ロジックの資産価値が高い場合は自動変換によるリライトの方が合理的な場合もあり、フルスクラッチが本当に必要かどうかの見極めと、AIツールの活用実績・レビュー体制を備えたパートナー選定が、プロジェクト成功の鍵を握ります。自社のシステムでフルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討する際は、AI活用の実績とレビュー体制の両面を確認できるパートナーへの相談から始めることをお勧めします。
▼全体ガイドの記事
・AIモダナイゼーションの完全ガイド
株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
