AIモダナイゼーションのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

AIモダナイゼーションは、老朽化したシステムを刷新する際に、AIを刷新される対象ではなく、刷新を進める手段として使う技術トレンドです。フルスクラッチ開発は、最も柔軟な反面、期間とコストが最もかかるとされてきましたが、AIの活用でその見通しが変わりつつあります。

本テーマの全体像は、以下の記事で解説しています。

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・AIモダナイゼーションの完全ガイド

  • 対象:AIを活用したフルスクラッチ開発
  • 効果:設計・実装・検証の進め方の効率化
  • 判断:既存方式との違いを見て、どちらが合うかを決める

フルスクラッチ開発におけるAIモダナイゼーションの位置づけ

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討する前に、AIモダナイゼーションがこの領域でどのような役割を果たすのかを理解しておく必要があります。

リビルド(フルスクラッチでの再構築)は、既存システムを廃棄し、クラウドネイティブな技術でゼロから再構築する手法です。初期投資と開発規模が最も大きいため、従来は自社の競争力に直結するコア業務に限って適用すべき手法とされてきました。

AIモダナイゼーションは、リビルドという選択そのものを置き換えるのではなく、リビルドを選んだ場合の実行速度と品質を高める手段として働きます。

従来のフルスクラッチ開発が抱えていた課題

従来のフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、要件定義からコード生成、テストに至るまで、すべての工程を人間のエンジニアが担います。そのため、期間の目安は約12〜30ヶ月以上と、5つのアプローチの中でも最も長期化しやすい手法でした。

初期投資と開発規模が最も大きいうえに、要件定義の段階で認識の食い違いが生じると、実装が進んだ後の手戻りが大きくなるというリスクも抱えていました。既存システムの仕様がブラックボックス化している場合は、「何を作り直すべきか」の把握そのものに多大な工数がかかります。これも長期化の一因でした。

AIがフルスクラッチ開発にもたらす変化の方向性

AIモダナイゼーションは、こうした課題に対して、要件精緻化の短縮、既存システムの自動解析によるブラックボックス化の解消、AIエージェントによるコード生成の高速化の側面から取り組みます。要件精緻化は、Mob Elaborationを使うことで数時間規模まで圧縮できます。

フルスクラッチという選択が大きな投資判断であることは変わりませんが、AIの活用によって、作り直すべき範囲の把握から実装までのリードタイムが大幅に短くなりつつあります。これが従来との最大の違いです。

ポイント

フルスクラッチを選ぶかどうかは、初期投資と期間が最も大きい手法だという前提に立って考えます。そのうえで、AIで要件精緻化やコード生成をどこまで縮められるかを、自社の案件に当てはめて見てください。

AIエージェント型開発がもたらすオーダーメイド開発の変化

AIエージェント導入事例の期間短縮や開発速度の改善を4枚のパネルで示した図
移行作業の短縮から並列化まで、事例ごとに効果の現れ方が異なります。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発の実行速度を最も大きく変えているのは、Devinに代表されるAIエージェント型の開発ツールです。

従来はエンジニアが要件を1つずつコードに落とし込んでいましたが、AIエージェントはタスクを自律的に分解し、コード生成からテストまでを一貫して実行できる点が特徴です。

DeNAの事例に見るAIエージェント導入効果

DeNAは2026年3月にAIエージェント「Devin」のEnterprise版を全社導入し、約2,000名が利用可能な体制を整えたと公表しています。

同社の発表によると、この導入によって、従来半年を要していたプログラム言語移行作業をおよそ1ヶ月弱で完遂し、作業効率にしておよそ6倍の改善を実現したといいます。また、オーダーメイドの新施設向けアプリケーション開発でも、AI活用によって開発速度が2倍になったと同社は報告しています。

フルスクラッチに近い性質を持つ新規性の高い開発領域でも、AIエージェントの導入効果が明確に表れている事例といえます。

大規模受託開発における並列ワーカー運用の効果

オーダーメイド開発を専門とする受託開発の現場では、AIエージェントを定型タスク専用のワーカーとして複数並列で運用することで、開発リードタイムを30〜50%短縮できたという事例が確認されています。

フルスクラッチ開発は要件が多岐にわたり、並行して着手できるモジュールが多いという特性があります。そのため、AIエージェントによる並列処理との相性が良く、従来は人的リソースの制約で直列に進めるしかなかった工程を同時並行で進められる点が、期間短縮に直結しています。

ポイント

AIエージェントの効果は事例によって数字が大きく異なるため、自社の作業に置き換えたときにどの工程で効くかを見極めることが大切です。

リライト・リファクタリング・リビルドの3手法とAI関与度の比較

フルスクラッチでの再構築(リビルド)を検討する際は、リライトとリファクタリングを含む代表的な3手法をAIの関与度から比べ、本当にフルスクラッチが最適かを見極める必要があります。

自動変換によるリライトとフルスクラッチの比較

TISのXenlon~神龍のような自動変換ツールを使ったリライトは、COBOL・PL/IからJavaへのストレートコンバージョンに強みを持ちます。フルスクラッチでの再構築と比べて、コストを半減できるケースが多いとされています。

実際にJFEスチールでは、IBMメインフレーム上のPL/I・COBOL資産を刷新するにあたり、設計難易度と期間の観点からリビルドは非現実的と判断し、自動変換ツールによるリライトを採用しました。

この事例は、フルスクラッチでの再構築が必ずしも最適解とは限らないことを示しています。既存ロジックの資産価値が高い場合は、AIによる自動変換のほうが合理的になるケースが多いといえます。

フルスクラッチが選ばれる場面

一方で、既存システムの設計思想そのものが陳腐化し、業務プロセスの抜本的な見直しを伴う場合は、リライトやリファクタリングでは対応しきれません。また、競争力に直結するコア業務で、ビジネスモデルの変化に合わせた柔軟な拡張性が求められる場合も、リライトやリファクタリングでは対応しきれません。

こうした場合には、フルスクラッチでの再構築が依然として合理的な選択肢になります。AIモダナイゼーションは、フルスクラッチが必要なケースでも、要件精緻化とコード生成の両面からリードタイムを縮められます。そのため、「フルスクラッチだから長期化は避けられない」という従来の前提を見直す余地が生まれています。

ポイント

リライト、リファクタリング、リビルドを比べるときは、既存ロジックの資産価値が高いかを先に見てください。価値が高いなら、フルスクラッチより自動変換のほうが合う場合があります。

Gartner調査に見る複数ツール併用の効果とオーダーメイド開発への示唆

AI駆動開発ツールを複数使う企業と単一ツールの企業の短縮率中央値を左右で比べた図
複数ツールを組み合わせた側の中央値が、単一ツールの側を上回っています。

AIモダナイゼーションによるフルスクラッチ開発の高速化効果は、使用するツールの組み合わせ方によっても変わります。

Gartnerが2026年1月に発表した調査では、AI駆動開発ツールを2種類以上組み合わせて活用している企業の開発リードタイム短縮率は、中央値で42%に達しています。一方、単一ツールのみを運用している企業では18%にとどまるという結果が示されています。

オーダーメイド開発におけるツール組み合わせの考え方

フルスクラッチ・オーダーメイド開発では、工程ごとに異なるAIツールを組み合わせます。たとえば、要件精緻化にはMob Elaborationのようなツール、コード生成にはAIエージェント、テストには自動テストケース生成AIを使います。その結果、単一ツールに依存する場合より高い効果が得られる傾向があります。

特にオーダーメイド開発は要件の独自性が高く、汎用的な自動変換ツールだけでは対応しきれない部分が多くあります。そのため、複数ツールを適材適所で組み合わせることが、フルスクラッチならではの柔軟性とAIによる高速化を両立させる鍵になります。

AI-DLCの反復構築プロセスとオーダーメイド開発の親和性

AI-DLCの反復的な構築プロセスは、検証済みモデルに基づいてAIが論理設計とコード生成を行い、人間がレビューして承認する進め方です。要件が事前に固まりきらないオーダーメイド開発とも親和性が高いものです。

従来のスプリント(4〜6週間単位)より短い、数時間から数日単位の「Bolts」という反復サイクルを採用します。そうすることで、要件の変化にも素早く追従しながらフルスクラッチでの構築を進められます。これが、従来のウォーターフォール型フルスクラッチ開発との大きな違いです。

ポイント

AIツールは、単一の製品に頼るより、要件精緻化・コード生成・テストの工程ごとに組み合わせて考えるのが基本です。要件の独自性が高いほど、汎用の変換ツールだけでは足りない部分が増えます。

発注時に確認すべきポイント

発注前に確認するAIツールの活用実績、レビュー体制、契約形態を3枚のカードに整理した図
3項目を並べて確認すると、提案内容と進め方を照らし合わせやすくなります。

AIモダナイゼーションを活用したフルスクラッチ・オーダーメイド開発を外部に発注する際には、従来のモダナイゼーション発注時とは異なる観点での確認が必要になります。

AIツール・エージェントの活用実績の確認

発注先を選ぶ際は、DevinのようなAIエージェントやAWS Transformのような自動変換ツールを、実際のプロジェクトでどの程度活用してきたかを確認することが重要です。

AIツールの活用実績が乏しいベンダーに依頼すると、結局は従来型の人手中心のフルスクラッチ開発とほぼ同じ期間・コストになってしまうリスクがあります。

契約前の提案段階で、AIツールを活用した場合の期間短縮効果を具体的な数値とともに示してもらうことが、見積もりの妥当性を検証する近道です。

レビュー体制と契約形態の確認

AIエージェントが生成したコードを最終的にレビューする体制が整っているかは、発注前に必ず確認しておきたい点です。専門家によるコードレビューや現新比較テストがプロセスに組み込まれているかも、あわせて見ておく必要があります。

また、AIの活用によって要件の変化に素早く追従できる進め方が可能になったことを踏まえると、契約形態も請負よりも準委任契約でアジャイルに進める方式との相性が良くなっています。

スコープが変動しやすいフルスクラッチ開発の特性を踏まえ、AI活用を前提とした契約形態を発注前に取り決めておくことが安心につながります。

ポイント

発注前には、AIツールの活用実績、レビュー体制、契約形態を見積もりと並べて確認しておくと、判断の材料がそろいます。見積もりの妥当性を見るうえでも役立ちます。

まとめ

ここまで、AIモダナイゼーションにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発について見てきました。従来のリビルドの課題、AIエージェント型開発による変化、3手法とAI関与度の比較、発注時の確認ポイントを扱いました。

DeNAの事例のように、AIエージェントの導入によって従来半年を要していた作業がおよそ1ヶ月弱に短縮されるなど、フルスクラッチ開発における「長期化は避けられない」という従来の前提そのものが見直されつつあります。

一方で、既存ロジックの資産価値が高い場合は、自動変換によるリライトのほうが合理的なこともあります。フルスクラッチが本当に必要かを見極めることと、AIツールの活用実績やレビュー体制を備えたパートナーを選ぶことが、プロジェクト成功の鍵を握ります。

自社のシステムでフルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討する際は、AI活用の実績とレビュー体制の両面を確認できるパートナーへの相談から始めることをお勧めします。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。