アプリ移行の保守・運用費用・ランニングコストについて

アプリ移行の保守・運用費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度を実質総費用として見込むのが目安です。その幅は、並行稼働、旧環境の廃止、データ整備によって決まります。全体の流れは、アプリ移行の完全ガイドにまとめています。

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アプリ移行の保守・運用費用の考え方(他の取り組みとの違い)

アプリ移行の保守・運用費用には、切り替えの最中にだけ生じる特有のコストがあります。

「移行実行フェーズに発生する一時的コスト」という視点

取り組みの種類によって、保守・運用で重点を置く点は異なります。

たとえば、モダナイゼーションは技術的負債の再発防止が中心です。アプリ刷新では投資対効果を継続して説明すること、更改ではOS・フレームワークのライフサイクルを管理することが中心になります。

リニューアルはデザインの鮮度、リアーキテクチャは分散構成の複雑さが主な課題です。また、リプレイスは乗り換え後のライセンス費用、改修は日常的な小規模改修の予算配分が中心です。

  • 一時的な費用:移行の実行中だけ発生する費用。
  • 二重の費用:新旧環境の切り替えまで両方の費用が重なる状態。

アプリ移行では、実行中の一時的な費用や二重の費用と、移行後の旧環境の扱いを分けて考えます。

実質総費用の目安(ベンダー支払額の1.3〜1.5倍)

移行予算では、ベンダーへの開発・移行の支払額に加えて、自社側の費用も見込みます。

  • 二重運用費:旧インフラの維持費と新クラウドの利用料が重なる費用。
  • 自社工数:自社側のテスト参加工数。
  • 教育研修費:新しいクラウド・コンテナ環境の運用教育。

これらを含めた実質総費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度が目安です。この係数を予算計画に織り込めば、移行の途中で資金が足りなくなる事態を防ぎやすくなります。

ポイント

予算を立てるときは、移行の実行中だけかかる費用と移行後も続く費用を分けて見ると判断しやすくなります。両方を並べて一覧にすると、どちらかの抜けに気づけます。

並行稼働期間中の二重運用コストの実態

並行稼働期間中の費用項目として旧環境、新環境、テスト・検証、教育研修を並べた図解。
環境利用料に加えて、自社の確認や教育も費用に含まれます。

業務を止めるリスクを避けるため、移行では新旧システムを並行稼働させる期間を設けます。その期間に発生する費用を項目ごとに確認しておくと、予算の不足を防ぎやすくなります。

旧インフラ維持費+新クラウド利用料の二重発生

並行稼働の間は、旧環境と新環境の利用料が同時にかかります。

  • 旧環境:サーバー、ライセンス、保守契約の維持費。
  • 新環境:新システムのクラウド利用料。
  • 期間設計:二重支払いの期間を必要最小限に抑える。

並行稼働は避けにくいコストですが、期間を延ばしすぎると二重運用費が積み上がります。期間の目安は、主要な処理を最低1回以上確認できる数週間から数ヶ月で、月次や四半期の業務サイクルに応じて決めます。

期間は、短くしすぎると十分な検証ができないため、費用と安全性のバランスを見ながら設計します。

自社テスト工数・教育研修費という見落とされがちなコスト

移行中は、ベンダーへの支払いに加えて、自社の担当者が担う費用も見込んでおきます。

  • テスト・検証:自社担当者の参加工数。
  • 教育研修:新環境の操作方法や監視方法の習得。

コンテナ技術やマイクロサービスへ移行すると、既存のチームにスキルがない場合があります。その場合、教育費を見落とすと運用体制が追いつかず、移行後もベンダー依存と保守費用が続きます。

ポイント

並行稼働の期間は、主要な処理を確認できる長さと二重運用費の両方から決めます。一方だけで決めると、検証不足か費用超過を招きやすくなります。

移行完了後の旧環境の廃止・アーカイブによるコスト削減

旧環境の廃止とアーカイブに関する整理を、不要資産、必要データの保管、旧システムのリタイアの3パネルで示した図解。
データを保管する作業と旧システムを止める作業を分けて整理できます。

新環境が稼働したあとも、旧環境の処理まで済ませて初めて、コスト削減につながります。旧環境をそのまま残すと、並行コストが恒久化するおそれがあります。

塩漬け環境の放置がもたらす無駄なコスト

旧環境を参照用に残すだけでも、維持管理費はかかり続けます。

  • 維持管理費:IT予算の約8割を占めるケースがあります。
  • 塩漬け状態:過去データを参照するためだけに旧環境を稼働させている状態。

移行の効果を薄めないためには、旧環境をいつ、どのような手順で停止するかを先に決めておく必要があります。さらに、リタイア(廃止)の計画は、移行の計画段階からスケジュールと予算に組み込みます。

法的要件データのアーカイブと旧システムのリタイア

長く運用してきた旧環境には、未使用の機能や重複したデータが蓄積していきます。

  • 不要な資産:未使用機能や重複データの整理。
  • 保管が必要なデータ:法的要件に応じてアーカイブに移す。

法的要件などで必要なデータは、Amazon S3のような安価なクラウドストレージへ保管します。また、旧システム自体を完全にリタイアすると、無駄な保守コストを大幅に削減できます。

アーカイブとリタイアは、正式なタスクとしてスケジュールと予算に明記しておくことが重要です。

ポイント

旧環境の扱いは、移行の計画段階でリタイアの時期と予算まで決めておくのが判断の目安です。停止を後回しにすると、維持費が続くおそれがあります。

データクレンジング・データモデル見直しにかかる継続コスト

クラウド移行後の選択肢として、既存構造を保つリホスト、実行時間や回数に応じた完全従量課金、運用スキルと支援への投資が必要なコンテナ・マイクロサービスを並べた図解。
選択肢ごとに、既存構造・課金方法・運用投資の観点が異なります。

移行後もデータの品質を保つには、移行費用とは別に継続コストを見込んでおく必要があります。

データモデルを見直さないことによる運用負荷の残存

プログラムだけを新しくしても、データベースのテーブル設計が古いままでは、運用の負荷が残ります。

  • 古いデータモデル:変更しにくさと整合性の問題が残る。
  • データクレンジング:表記揺れなどの入力を整理・修正する。

旧システムのデータには、表記揺れなどのイレギュラーな入力が蓄積しています。そのため、データモデルの刷新とクレンジングの工数を計画に入れておかないと、移行後も整合性への対応が続いてしまいます。

クラウド移行後のランニングコストを左右するアーキテクチャ選定

クラウド移行後のランニングコストは、どのアーキテクチャを選ぶかで大きく変わります。

  • リホスト:既存構造を保ったままクラウドへ移す。
  • サーバーレス:実行時間や回数に応じた完全従量課金。
  • コンテナ・マイクロサービス:運用スキルと支援への投資が必要。

リホストで、最大リソースを前提にしたサイジングをそのまま引き継ぐと、クラウド利用費が高騰するおそれがあります。一方で、特定イベントの処理をサーバーレス化すると、大きなコスト最適化が見込めます。

コンテナやマイクロサービスでは、内製化の支援やリスキリングへの投資が、中長期の最適化につながります。

ポイント

見積もりにデータ整備の工数が入っているかを確かめるのが、判断の目安になります。入っていない場合は、移行後の運用負荷が残る前提で予算を組み直す必要があります。

保守運用費用を左右する依頼先選定のポイント

同じ移行内容でも、依頼先によって保守運用費用の総額は変わります。移行の実行と移行後の両方を見据えて提案できるかどうかが、選定の分かれ目になります。

並行稼働・リタイア計画まで含めた見積もりの透明性

見積もりを比べるときは、初期費用だけでなく、移行の前後にかかる費用まで確認します。

  • 移行開発費用:初期の開発と移行にかかる費用。
  • 並行稼働費用:二重運用コストと教育研修費を含む。
  • リタイア費用:旧環境の廃止作業までの見積もり。

移行の経験が一度きりの依頼先では、移行後の工程にかかる費用を具体的に示せない場合があります。そこで、過去の案件で実質総費用が支払額の何倍になったかを聞くと、見積もりの信頼度を確かめられます。

内製化支援・運用引き継ぎ体制の確認

移行後の保守運用費用を抑えるには、運用ノウハウの引き継ぎが欠かせません。

  • 内製化支援:ドキュメント整備と運用トレーニング。
  • 引き継ぎ体制:新環境のノウハウを自社に移す体制。

移行後のベンダー依存を抑えられるパートナーであれば、保守費用を管理しやすくなります。発注の前には、運用引き継ぎのマイルストーンと成果物、自社側の協力工数をすり合わせておく必要があります。

ポイント

依頼先を比べるときは、並行稼働やリタイアまで含めた総額の見積もりに加えて、運用の引き継ぎ体制も揃えて確かめると判断しやすくなります。

まとめ

アプリ移行の保守・運用費用を、他7つの取り組みと比べながら見てきました。並行稼働の期間中は、旧環境と新環境の二重運用コストがかかります。

移行の完了後は、旧環境の廃止とアーカイブでコスト削減を進めます。一方で、データクレンジングとデータモデルの見直しには、移行後も継続コストがかかります。

クラウド移行後のランニングコストは、アーキテクチャの選び方と運用スキルへの投資によって変わります。また、実質総費用はベンダー支払額の1.3〜1.5倍を目安に見込みます。

そのうえで、旧環境のリタイアとデータモデル刷新を計画に組み込んでおく必要があります。さらに、移行の実行と運用引き継ぎの両方に実績があるパートナーを、早めに探しておくことが大切です。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。