アプリリアーキテクチャのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

アプリリアーキテクチャのフルスクラッチ・オーダーメイド開発とは、既存コードを一切流用せず、ドメイン駆動設計で境界を定めてマイクロサービスなどで構造ごと作り直す開発です。

発注する側が判断の材料を持てるよう、要点を順に整理しました。全体ガイドは以下の記事で扱っています。

▼全体ガイドの記事
・アプリリアーキテクチャの完全ガイド

  • アプリリアーキテクチャにおけるフルスクラッチの位置づけ(他の4種類との違い)
  • フルスクラッチで実現するアーキテクチャ再設計の中身
  • 開発期間・費用の目安

アプリリアーキテクチャにおけるフルスクラッチの位置づけ(他の4種類との違い)

フルスクラッチ・オーダーメイド開発が指す内容は、どの言葉で語るかによって変わります。アプリ更改は期限に追われて止むを得ず作り直す外圧起点で、アプリリニューアルはブランド独自の世界観を100%表現するデザイン起点です。

一方、アプリリアーキテクチャのフルスクラッチは、既存の技術的負債を一掃し、構造そのものを技術面から組み直す設計起点です。この点が、ほかの種類との最も大きな違いです。

対象は、部分的な改修では限界がある密結合のモノリスです。ドメイン境界の再定義からアーキテクチャを組み直すため、最も抜本的なアプローチに当たります。

部分的リファクタリングとフルスクラッチ(Rip-and-Replace)の違い

部分的なリファクタリングは、アプリケーションの外部の動作(機能)を変えずに内部のコード構造だけを改善し、技術的負債を少しずつ減らす漸進的な進め方です。これに対しフルスクラッチによるリアーキテクチャ(Rip-and-Replace、完全な作り直し)は、既存のコードベースを完全に破棄します。

そのうえで、新しい技術スタックやインフラ、マイクロサービス等のアーキテクチャをゼロから構築し、スケーラビリティ・アジリティ・クラウドネイティブ化を根本から実現することが目的です。ただし、システム全体を一度に入れ替える「ビッグバンアプローチ」は、2〜3年の予算を完全に拘束し、すべてが一度に失敗するリスクも伴います。

そのため、ビッグバンは現在避けられる傾向にあります。一方で主流となっているのは、ゼロから設計した新しい基盤を用意したうえで、Strangler Figパターンにより旧システムから新システムへ機能を段階的に移すアプローチです。

他の4種類のフルスクラッチとの意味の違い

モダナイゼーションにおけるフルスクラッチは、リホスト・リプラットフォーム等と並ぶ選択肢の1つとして、アーキテクチャの全面刷新を指す総論的な扱いにとどまります。これに対しアプリリアーキテクチャのフルスクラッチは、なぜマイクロサービスを選ぶのか、境界をどう定めるのか、クリーンアーキテクチャの4層をどう設計するのかという、設計の中身まで踏み込みます。

アプリ刷新は予算承認の稟議プロセス、アプリ更改は期限管理、アプリリニューアルはデザインシステム構築を扱う、各フルスクラッチ記事があります。あわせて読むと、経営・期限・体験・技術という4つの異なる観点から、フルスクラッチの意思決定を多角的に検討できます。

ポイント

既存のモノリスが部分的な改修では限界に達しているかが、判断の出発点になります。フルスクラッチを選ぶなら、ほかの種類との起点の違いも合わせて押さえておきます。

フルスクラッチで実現するアーキテクチャ再設計の中身

クリーンアーキテクチャをエンティティ、ユースケース、インターフェースアダプター、フレームワーク&ドライバの4層で示した図。
外側から内側へ、役割の異なる層が重なります。

フルスクラッチによるリアーキテクチャでは、既存の制約に縛られず、理想的な構造を一から設計できます。一方で、検討すべき技術的な論点も多岐にわたります。

DDDによるドメイン再定義とマイクロサービス/モジュラーモノリスの選択

ゼロからドメイン駆動設計を適用する場合は、まずEventStorming等のワークショップで、ビジネス部門とエンジニアが共通言語(ユビキタス言語)をそろえます。そのうえで、境界づけられたコンテキストを再定義します。

いきなり「完全なマイクロサービス」を目指すのではなく、組織規模とのバランスを見極める必要があります。2026年時点の目安では、開発エンジニアが50人未満、または1日のリクエストが100万回未満の場合、マイクロサービスの運用オーバーヘッドがメリットを上回るとされています。

したがって、この規模に満たない場合は、内部が疎結合な単一アプリケーションである「モジュラーモノリス」としてまず構築します。トラフィックや組織規模が拡大した段階で、必要なドメインだけをマイクロサービスとして切り出していく方法が、現実的な選択肢になります。

クリーンアーキテクチャ・マイクロフロントエンド・BFFのゼロベース構築

バックエンドは、エンティティ・ユースケース・インターフェースアダプター・フレームワーク&ドライバの4層からなるクリーンアーキテクチャを基盤にします。依存関係逆転の原則(DIP)に基づき、ビジネスロジックをフレームワークやDBから独立させる形で、ゼロから設計します。

フロントエンドは、Module Federation等を用いたマイクロフロントエンドへの分解を前提にします。共通デザインシステムとチーム間の疎結合な状態管理方針を、最初から組み込んで構築します。フロントエンドとバックエンドの間には、デバイスごとに合わせて作るBFF(Backend for Frontend)層を新規に設計します。

既存資産を引きずらずゼロから設計できるため、これら3つの技術要素を最初から整合性のとれた形で組み上げられます。この点が、フルスクラッチならではの利点です。

ポイント

境界の定義から、バックエンドやBFFまでを一貫して設計します。構成は組織規模とトラフィックの目安に照らして選ぶことが大切です。

開発期間・費用の目安(テンプレート・部分改修との比較)

パイロットフェーズ3〜6ヶ月、本番移行12〜18ヶ月、ROI達成12〜36ヶ月を順に並べた期間図。
投資回収までを見越した段階的な計画が必要です。

フルスクラッチによるマイクロサービス化は、クラウドインフラや運用ツールの導入を伴います。このため、初期投資と運用コストの両方が部分改修より高額になる一方、長期的なリターンも大きくなる傾向があります。

パイロット〜本番移行〜ROI達成までの期間

フルスクラッチによるリアーキテクチャの期間は、段階ごとに見込むのが目安です。パイロットフェーズは3〜6ヶ月で、DDDによるドメイン分析、Kubernetes等のインフラ基盤構築、最初の1〜2ドメインの切り出しと稼働検証を行います。

本番移行とプラットフォーム全体の完成には12〜18ヶ月を見込みます。主要機能が新アーキテクチャ上でフルスケールで稼働するまでが、この段階です。さらに、デプロイの高速化やインフラ費用の最適化といったビジネス価値が実現し、投資を回収できるまでのROI達成には12〜36ヶ月を見込みます。

部分改修であれば数週間〜数ヶ月で完了する対応も、フルスクラッチでは全体で1年半〜数年単位の長期プロジェクトになります。そのため、経営層への説明資料や予算計画に、あらかじめ織り込んでおく必要があります。

初期投資増加とランニングコストの変動費化

マイクロサービスのフルスクラッチ構築は、モノリス(またはモジュラーモノリス)と比べて、インフラやツール、高度なスキルを持つエンジニアが必要になります。そのため、初期投資は40%高くなるとされています。

稼働後のランニングコストは、サービスメッシュ・分散トレーシング・APIゲートウェイといった運用オーバーヘッドにより変動費化します。一方で、長期的には負荷の高いサービスのみを選択的にスケーリングできるため、インフラの利用コストを25〜30%削減できます。全体のTCO(総所有コスト)も、20〜45%削減される可能性があります。

テンプレート活用や既存SaaSの標準機能に業務要件を合わせる「Fit to Standard」と比べると、フルスクラッチは初期費用・期間ともに大きくなります。ただし、自社独自の業務ロジックや競争優位性を構造レベルで作り込める点が、最大のメリットです。

ポイント

フルスクラッチは全体で1年半〜数年単位の長期となり、初期投資も部分改修より高くなる傾向があります。その前提を、経営層への説明や予算計画に最初から織り込んでおく必要があります。

フルスクラッチで失敗しないための注意点

分散型モノリス、ナノサービス、データ不整合、組織規模とアーキテクチャのミスマッチを示す4枚の図解パネル。
分割の設計と組織との適合が、運用の安定性を左右します。

ゼロからDDDやマイクロサービスを導入するフルスクラッチには、既存の技術的負債を一掃できる大きなメリットがあります。一方で、典型的な失敗パターン(アンチパターン)も存在します。

分散型モノリス化・ナノサービス化のアンチパターン

DDDによる境界(Bounded Context)の定義を誤ると、サービス間が密結合になります。その結果、一つの機能を追加・修正するたびに複数のサービスを同時にデプロイしなければならない「分散型モノリス」に陥ります。これは、独立したデプロイという利点を得られないまま運用コストだけが跳ね上がる、最悪の状態です。

反対に、サービスを細かく分割しすぎると、ネットワークのレイテンシ、データのシリアライズ負荷、運用複雑性が増大します。こうなると、ビジネス価値を損なう「ナノサービス」というもう1つのアンチパターンに陥ります。

モノリス時代の「1つの巨大なデータベース(ACIDトランザクション)」とは異なり、マイクロサービスでは「データベース・パー・サービス」が原則です。したがって、複数サービスを跨ぐ処理では、メッセージキューを用いたSagaパターン(補償トランザクション)による結果整合性の実装が必要になります。この実装難易度を甘く見ると、データ不整合による致命的なバグを引き起こします。

組織規模とアーキテクチャのミスマッチ(コンウェイの法則)

マイクロサービスは技術的な選択である以上に組織構造の選択だとする「コンウェイの法則」は、フルスクラッチの計画段階で見落とされがちな重要な論点です。Kubernetesのコンテナオーケストレーションやログ集約・分散トレーシングといった可観測性基盤が整わないまま分散システムを稼働させると、障害発生時の原因を特定できなくなります。

その結果、開発チームは機能開発よりもインフラ維持に忙殺されることになります。

自社の組織規模とトラフィック規模は、「開発エンジニアが50人未満」「1日のリクエストが100万回未満」といった目安と照らして、客観的に見極めます。それをせずに本格的なマイクロサービス構成で着手すると、運用オーバーヘッドがメリットを上回り、かえって開発生産性を下げてしまいます。

ポイント

最大の失敗要因は、分散型モノリス化・ナノサービス化という分割の誤りと、組織規模に合わないアーキテクチャです。DDDの境界定義とデータ整合性の実装も、甘く見ないことが大切です。

依頼先選定のポイント

フルスクラッチは最も抜本的なアプローチであるため、依頼先の技術力とプロジェクトマネジメント力が成否を大きく左右します。

DDD・クラウドネイティブの実績確認

依頼先を選ぶ際は、ドメイン駆動設計のワークショップを進め、境界づけられたコンテキストを的確に定義できるアーキテクトが在籍しているかを確かめます。あわせて、Kubernetes等のクラウドネイティブ基盤、API-first設計、クリーンアーキテクチャの構築実績を、具体的な事例とともに示せるかも確認します。

マイクロフロントエンド・BFFといったアプリ特有の技術要素について、実装パターンの選定理由まで説明できるパートナーであれば、自社の規模・要件に合った現実的な設計を提案してもらえる可能性が高まります。

段階移行(Strangler Fig)のプロジェクトマネジメント実績

フルスクラッチは1年半〜数年に及ぶ長期プロジェクトになるため、段階移行の進め方を事前に確かめておくことが欠かせません。Strangler Figパターンを用いたマイルストーン設計と進捗管理をどう行うか、ビッグバン方式に陥らず価値を少しずつ届け続けられる体制があるかが、確認の要点です。

過去にモノリスからマイクロサービスへの移行を無停止で完遂した実績、データ移行・クレンジングの計画立案経験があるかを、契約前の提案段階で具体的に確認しておくことをお勧めします。稼働後のFinOps・SRE体制まで見据えた提案かどうかも、あわせて確かめる必要があります。

ポイント

依頼先は、DDDとクラウドネイティブの実績に加え、段階移行を長期で回せるプロジェクトマネジメント体制で選びます。契約前の提案で、稼働後のFinOps・SRE体制まで見据えているかが判断材料になります。

まとめ

アプリリアーキテクチャのフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、既存コードを完全に破棄し、ドメイン駆動設計・マイクロサービス・クリーンアーキテクチャでゼロから構築する方法です。期間はパイロット3〜6ヶ月、本番移行12〜18ヶ月、ROI達成12〜36ヶ月で、初期投資はモジュラーモノリス比で約40%増となるのが実態です。

最大の失敗要因は、分散型モノリス化とナノサービス化というアンチパターン、そして組織規模とアーキテクチャのミスマッチです。開発エンジニア50人未満・日次リクエスト100万回未満であれば、まずモジュラーモノリスから着手する判断も有効です。

ドメイン駆動設計とクラウドネイティブアーキテクチャの実績を備え、長期プロジェクトを段階移行で伴走できる信頼できるパートナーに、早めに相談することをお勧めします。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。