業務システム移行の保守・運用費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度が目安です。金額は、並行稼働期間、データクレンジング工数、教育研修の内容で変わります。
移行後に年間400万円の削減につながった例もあり、費用の内訳を順に見ていきます。
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業務システム移行の費用構造(実行フェーズ特有のコスト)

ベンダー支払額だけを予算化すると、移行プロジェクトは予算超過に陥りやすくなります。インフラ重複、データクレンジング、教育研修、自社社員のテスト工数が重なるためです。そこで、実質総費用はベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度を見込んでおくと安全です。
7波(モダナイゼーション・刷新等)との費用視点の違い
業務システム移行で扱うのは、作り替えを実行する過程で生じる費用です。
- 並行稼働:新旧システムを同時に動かす期間の費用です。
- 移行作業:ツール、クレンジング、ロールバックにかかる費用です。
先行する6本の記事では、技術手法、経営判断、契約起点、操作体験を扱っています。アーキテクチャ設計、製品乗り換え、部分改修も論点になっています。
モダナイゼーションや刷新の記事は、作り替え後の費用対効果を扱います。
ダブルメンテナンスコストが発生する仕組み
段階移行では、旧環境を残す期間の長さが二重コストの大きさを左右します。
- 旧システム:保守契約とライセンス費用が続きます。
- 新システム:クラウド利用料やSaaSの月額費用がかかります。
部門特化型では、二重コストの絶対額は基幹システムほど大きくありません。ただし、並行稼働が延びるほど、本来なら削減できる月額費用が積み上がります。
並行稼働期間中の二重コスト(新旧システムの保守費・インフラ費)

移行時のリスクを抑えるため、新旧システムを並行稼働させることが推奨されます。ただし、この期間は保守・運用費用が二重にかかる前提で予算を組む必要があります。
旧環境の保守費・ライセンス維持費
旧システムを残すあいだは、利用している環境に応じた契約費用が続きます。
- オンプレミス:ハードウェア、OS、ミドルウェアの費用が続きます。
- パッケージ・SaaS:月額費用や途中解約の違約金がかかります。
オンプレミスでは、ベンダーの保守サポート費用も、必要に応じて続きます。
解約条件は、移行スケジュールを立てる段階から契約書で確かめておく必要があります。
新環境のインフラ費用と実質総費用(1.3〜1.5倍)の目安
新環境のクラウド利用料は、本番稼働前の検証段階から始まることがあります。
- 新環境費用:並行稼働が長いほど積み上がります。
- 実質総費用:ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度です。
実質総費用には、インフラ重複、教育研修、自社社員のテスト工数が含まれます。
部門特化型の場合も、同じ係数をベンダー支払額に当てはめて考えます。
データ移行ツール・移行専用ミドルウェアのコストとクレンジング工数
データ移行では、ツールの費用より人の工数がコストを圧迫しやすくなります。
クラウド移行ツールの費用感(AWS MGN・DMS等)
クラウド移行では、用途の違う支援ツールを使い分けることになります。
- AWS Application Migration Service:サーバーの複製と移行
- AWS Database Migration Service:データベースの移行
- AWS Migration Hub:移行作業の支援
移行自体に追加料金がかからないか、安価に使えるツールもあります。部門特化型では、ツールのライセンス費用の影響は限定的です。そのため、移行スクリプトを設計・実行できる技術者の人件費を重視します。
データクレンジングの人件費が見落とされがちな理由
データクレンジングは、蓄積データの不整合を整理・修正する工程です。
- 表記揺れ:データの表記の統一
- 重複データ:重複の名寄せと整理
- 欠損値:不足している値の補完
稟議や見積もりでは、これらが「データ移行」の一言にまとめられがちです。クレンジングの工数を過小に見積もると、終盤の増員やスケジュール延長で、費用と納期が膨らみます。
発注側は、契約前にデータの状態を洗い出し、作業量をベンダーと見積もっておきます。
ロールバック発生時の追加コストと移行後の運用保守費用の変化

移行の実行フェーズには、失敗時の追加費用と成功時の削減効果があります。
ロールバック発動時に生じる追加コスト
失敗時に旧システムへ戻すためのロールバック手順は、事前に準備しておきます。
- 再移行作業:計画の見直しと再テストが必要です。
- 追加人件費:委託費や自社社員の残業代が発生します。
- 二重保守:インフラ維持費の二重払いが延びます。
ロールバックが発動すると、二重保守期間は数ヶ月延長されます。そのため、予算には予備費を確保し、月次で予算を管理することが推奨されます。
移行成功後のランニングコスト削減(鈴与商事の事例)
移行成功後は、中長期的なランニングコストが下がる可能性があります。
- 鈴与商事:年間400万円の維持・業務経費を削減しました。
- クラウド移行:設定を変えないと利用料が高騰します。
鈴与商事株式会社は、紙の申請書を前提とした独自ワークフローを移行しました。老朽化したシステムから、クラウドのSaaSへリプレースしています。旧来システムを維持する場合と比べ、年間400万円を削減しました。
移行後の費用を抑えるには、移行と同時にリソース設定を見直すことが欠かせません。
現場トレーニング・移行サポート費用とコストを抑える実務ポイント
教育・サポート費用は、移行後の現場定着を支えるために必要です。定着を軽視すると、旧システムへ戻るコスト増につながるおそれがあります。
定着化フォロー費用・教育研修費の目安
業務フローの変更が大きい場合は、稼働後も伴走支援の費用を予算に入れておく必要があります。
- フォロー期間:稼働後90日〜1年程度を設けます。
- 教育支援:リスキリング、マニュアル、ヘルプデスクを用意します。
- 総費用:支援費用を1.3〜1.5倍の計画に含めます。
これらは、ベンダー支払額に加わる隠れたコストです。
部門特化型は利用者が限られるため、教育研修費の絶対額は抑えやすくなります。一方で、教育研修費そのものを予算に計上しないケースには注意が必要です。
並行稼働期間を短縮してダブルメンテナンスコストを抑える方法
二重コストを抑えるには、並行稼働を必要最小限にとどめます。
- 終了条件を定め、主要な締め処理を1回確認できたかどうかも基準に含める
- パイロット部門の検証を前倒しして、本番移行の判断材料をそろえる
- 旧システムの解約条件と違約金を、契約前に確かめる
並行稼働期間そのものを短縮することが、ダブルメンテナンスコストを最小化する最も実効性のある方法です。そのうえで、必要最小限の期間で確実に検証を終えることが、移行プロジェクト全体のランニングコストを抑える鍵になります。
念のために期間を長く取るよりも、確実に検証を終える考え方へ切り替えます。
まとめ
業務システム移行では、実行フェーズ特有の費用を含めて予算を組みます。対象は、二重コスト、移行ツール、クレンジング、ロールバックです。
また、教育研修費や移行後のランニングコストも、予算判断に含める項目です。実質総費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍を見込むのが安全です。
並行稼働の終了条件を明確にし、期間を必要最小限に抑えることが重要です。さらに、鈴与商事の事例では、移行後に年間400万円の削減を達成しています。実行段階の費用と成功後のリターンを見据えて、予算計画を立てます。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
