業務システム移行のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

業務システム移行のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発は、新システムの画面や機能を試作して確かめる一般的なPoCとは目的が違います。旧環境から新環境へデータと業務を安全に移せるかを、本番移行の前に小さく試して見極める「移行の実現可能性検証」です。

同じ業務システムの作り替えでも、先行する記事群は、技術手法や経営判断、契約、操作体験、アーキテクチャ設計、製品乗り換え、部分改修といった論点を扱っています。一方、本記事が扱うのは、旧環境から新環境へデータと業務を安全に移し替える「実行フェーズ」です。

  • 対象:移行対象と業務条件
  • 工程:計画から切替まで
  • 確認:データと本番作業

業務システム移行の全体像は、以下のガイドで確認できます。

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・業務システム移行の完全ガイド

業務システム移行におけるPoC・プロトタイプの位置づけ(7波との違い)

業務システム移行で行うデータ移行、カットオーバー、パイロット移行、ロールバックの4つの検証を示した図。
検証対象を段階ごとに整理すると、移行計画の確認範囲を見渡せます。

一般的なシステム開発のPoCは、新機能のアイデアが技術的に実現できるか、ユーザーに受け入れられるかを確かめるために行われます。一方、業務システム移行では、どの手法で作り替えるかはすでに決まっている前提で、本番のデータと業務を計画どおりの手順で安全に移せるかを確かめます。手法の選び方は、「業務システムのモダナイゼーション」等の記事で扱う論点です。

部門特化型の業務システムでも、長年の運用で蓄積されたデータの癖や、現場が無意識に頼っている業務の例外パターンは、書類上の計画からは見つけにくいものです。そのため、小さく試して確かめるプロセスが欠かせません。

移行リハーサル・移行テストとPoCの関係

PoCは移行プロジェクトの初期に、技術的な実現可能性(フィージビリティ)を確かめ、移行の手法選定を確実にするために行います。たとえば、オンプレミスのデータベースをクラウドのマネージドサービスへ移す場合や、サーバーレス等のクラウドネイティブ技術を採用する場合には、小規模なプロトタイプを作って性能や互換性を評価します。

これにより、技術的な問題点や運用上のボトルネックを洗い出せます。部門特化型の中小規模システムでは、このアーキテクチャ検証のPoCを数週間〜1ヶ月程度でクイックに実施し、その結果をもとに本格的な開発や移行リハーサル(総合テスト)へ進むのが一般的です。

移行リハーサルは、このPoCで確認した技術的な実現可能性を踏まえ、本番さながらの条件で手順全体を通してテストする、より実践的な検証段階と位置づけられます。

移行における検証の全体像(4つの検証ポイント)

業務システム移行のPoC・プロトタイプ検証は、「データ移行そのものの検証」「カットオーバー手順の検証」「一部業務での試験運用(パイロット移行)」「ロールバック手順の検証」の4つに大きく整理できます。以降の見出しでは、この4つの検証ポイントを順に詳しく解説します。

これらは一連のプロセスとしてつながっています。データ移行の検証結果はカットオーバー手順の設計に、パイロット移行の結果はロールバックの判断基準に反映され、段階的に精度が高まっていきます。

ポイント

移行のPoCは新機能の良し悪しを見る場ではなく、決めた移行計画どおりにデータと業務を安全に移せるかを試す場と捉えると、何を検証すべきかが見えてきます。

データ移行のPoC(サンプルデータでの移行検証・データクレンジング検証)

サンプルデータの代表的なレコードを移行ツールやETLで試し、欠損や丸め誤差を確認する流れの図。
全データを扱う前に代表レコードで問題のパターンを見つけます。

データ移行は、移行プロジェクトで最も問題が起きやすく、スケジュールの遅延を招きやすい工程です。そのため、本番移行の前に小さく試すPoCの効果が、この工程で最も発揮されます。

トライアル移行の進め方

長年使い続けたデータには不整合が蓄積していることが多く、クレンジング(整理・修正)には予想以上の工数がかかります。そこで、本番移行の前に、サンプルデータや実際のバックアップデータを使い、プロトタイプ環境へ「トライアル移行(データ移行のPoC)」を実施します。

全データではなく、一部の代表的なレコードを抽出して試します。こうすることで、本番規模のデータ量を扱う前に、想定される問題のパターンを低コストで洗い出せます。

部門特化型の業務システムでは、対象データの母数自体が限られるため、比較的少人数・短期間でこのトライアル移行を回せる点が強みです。

データマッピング・機能等価性の検証内容

トライアル移行では、移行ツールやETLを使ったデータ変換ロジックが正しく機能するか、古いデータモデルから新しいデータモデルへのマッピングで欠損や丸め誤差が起きないかを確かめます。この「機能等価性」の確認が、トライアル移行の中心になります。

たとえば見積管理システムでは、旧システムと新システムの単価計算ロジックが同じ結果を返すかを検証します。勤怠管理システムでは、端数処理のルールが移行の前後で変わっていないかを確認します。いずれも業務の正確性に直結するため、重点的に検証します。

この検証を丁寧に行うほど、本番移行後に「数字が合わない」といったクレームを未然に防げます。

ポイント

データ移行は、トライアル移行で想定外の不整合を洗い出し、マッピングの欠損や丸め誤差まで確かめてから本番に進むと、本番後の数字の食い違いを防げます。

カットオーバー手順のプロトタイプ検証と移行リハーサル

本番移行の数週間から1ヶ月前のタイムトライアルから、手順書の修正を経て2回目以降のリハーサルへ進む時系列図。
初回の気づきを手順書に反映し、次の実施で確かめます。

本番切り替え(カットオーバー)時の業務停止リスクを抑えるには、手順そのものを事前にプロトタイプとして検証しておく必要があります。

本番さながらのタイムトライアルの実施

実際の移行では、「旧システムの停止」「データ抽出・変換・ロード」「新システムの設定と起動確認」という一連のステップを踏みます。そこで、検証環境で本番と同じタイムスケジュールに沿って、この流れを通しでテストします。

小規模システムであっても、本番移行の数週間〜1ヶ月前にこのタイムトライアル(移行リハーサル)を行い、予定したダウンタイム内に作業が終わるかを実証しておくことが欠かせません。特に部門業務を止められる時間が限られる場合、このタイムトライアルで計測した所要時間が、カットオーバーを平日夜間にするか休日にするかといった判断の根拠になります。

複数回のリハーサルによる手順書のブラッシュアップ

移行リハーサルは1回で終わらせず、複数回実施して手順書を練り上げていくのが望ましいアプローチです。1回目のリハーサルで洗い出した想定外の事象(特定のデータパターンでの変換エラー、想定より長くかかる工程など)は、手順書に反映します。そのうえで、2回目以降のリハーサルでは、その修正が効いているかを再確認します。

複数回の反復により、カットオーバー当日に作業を担当するメンバーが誰であっても同じ品質で作業でき、再現性の高い手順書が完成します。

ポイント

カットオーバーは、本番と同じ時間配分のタイムトライアルで所要時間を計測し、複数回のリハーサルで手順書を直してから臨むのが判断の目安になります。

パイロット移行(並行稼働の一部業務での試験運用)

システムを一気に全て切り替える「ビッグバン方式」は、障害時の業務停止リスクが高いため避けるべきです。部門特化型の業務システムであれば、この考え方をより実践しやすい形で取り入れられます。

影響の小さい部門・業務からの試験運用

「パイロットプロジェクト」として、影響の小さい一部の業務や特定部門から段階的に移行を進める、インクリメンタル方式が効果的です。新旧システムを並行稼働させながら、対象部門のユーザーに新しいシステムを試験運用してもらい、動作やデータ連携を検証します。

中小規模の業務システムでは、業務プロセスを整理したうえで必要なツールを小規模に開発し、成果を着実に積み上げていくアプローチが有効です。

効果検証から他部門展開までの流れ

パイロット運用は数週間〜1ヶ月程度とし、主要な締め処理などを1回以上確認する期間で効果を検証します。そのうえで、他の部門やプロセスへ広げていくのが一般的な流れです。

パイロット部門からは、「実際にどれだけの時間で作業が完了したか」「現場からどのような不満や要望が出たか」といった定量と定性の両面のフィードバックが得られます。これを他部門への展開計画に反映させることで、移行プロジェクト全体の精度が段階的に高まっていきます。

ポイント

ビッグバンを避けたいときは、影響の小さい部門で並行稼働させ、主要な締め処理を1回以上確かめてから他部門へ広げる順序が目安になります。

移行ツール・スクリプトの検証とロールバック手順の実地検証

最後に押さえたいのは、移行を支える技術の仕組みそのものの検証と、有事に備えた撤退ルートの検証です。

移行ツールの適合性検証(AI活用の等価性テストも含む)

移行には、クラウド移行ツールやソースコードの自動変換ツールなどが使われます。導入するツールが自社のレガシーな環境や特殊なデータ形式に適合するかを、PoC環境で検証しておく必要があります。移行スクリプトやツールをプロトタイプ環境で実行し、変換の正確性や処理性能を事前に評価することで、本番移行時のエラー率を下げられます。

近年では、生成AIなどのAI技術を使って古いコードの書き換えを支援したり、新旧システム間で動作が等価かを確かめるテスト自動化スクリプトを生成したりするアプローチも実用化されています。

ロールバック手順の実地検証

システム移行中や、並行稼働によるパイロット運用中に致命的なトラブルが起きたときに備え、被害を最小限に抑えるバックアッププランが欠かせません。

移行の「前進」の手順に加えて、万一の際に元の旧システムへ迅速に戻す「ロールバック(切り戻し)」の手順も策定します。移行リハーサルなどのテスト工程では、意図的にエラーを起こすなどして、定めた手順どおりに旧環境へ安全にデータを復元し、業務を再開できるかを実地で検証しておきます。

検証を済ませた移行計画では、安全な撤退ルートを確保したうえで本番移行に臨めます。

ポイント

移行ツールは自社の環境に適合するかをPoCで検証し、ロールバック手順は旧環境へ実際に戻せるかまで試しておくと、撤退の判断を迷わずに済みます。

まとめ

ここまで、業務システム移行のPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について、移行リハーサルとの関係からデータ移行、カットオーバー、パイロット移行、ツールとロールバックの検証まで解説しました。

業務システム移行のPoCは、「新機能のアイデアを試す」ためではなく、決まった移行計画を安全に遂行できるかを確かめるために行います。一般的なPoCとの最大の違いは、この点にあります。

サンプルデータでのトライアル移行、本番同様のタイムトライアル、影響の小さい部門からのパイロット移行、ロールバック手順の実地検証という4つの検証を段階的に積み重ねれば、本番移行当日のトラブルを大幅に減らせます。検証工程を省かず、実行力のあるパートナーと一緒に、着実な移行計画を描くことをお勧めします。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。