業務システム刷新のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

業務システム刷新でフルスクラッチ・オーダーメイド開発を選ぶかは、独自性の高いコア業務か、SaaS・パッケージで対応できる非コア業務かを見極めて判断します。基幹システム/ERP刷新は数億〜十億円規模で経営トップの関与が必要ですが、部門の業務システムは部門長の決裁でスピーディーに進められる投資規模に収まりやすいです。

ただし、フルスクラッチが本当に必要かは、SaaS・パッケージへのリプレースと比べて慎重に判断すべき経営判断です。部門長が検討するときは、技術の詳細より、部門予算内で収まる費用感と、意思決定からスモールスタートまでの進め方を整理することが大切です。判断の観点は次の3つです。

  • 業務の独自性:SaaS・パッケージで対応しきれない、自社だけの業務ロジックがあるか
  • 投資規模:開発費に加えて、社内工数や教育研修費を含めた総額
  • 進め方:必要最低限の機能から始め、PoCで運用効果を確かめる段取り

本テーマの全体像は、次のガイド記事にまとめています。

▼全体ガイドの記事
・業務システム刷新の完全ガイド

業務システム刷新のフルスクラッチ・オーダーメイド開発の概要

業務システム刷新のフルスクラッチ・オーダーメイド開発とは何か

フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、既存のパッケージソフトやSaaSを使わず、要件定義から設計・実装までをすべて自社の業務プロセスに合わせて構築する開発手法です。業務システム刷新でこの手法が選択肢に挙がるのは、SaaSやパッケージの標準機能では対応しきれない独自のビジネスロジックが部門業務にある場合に限られます。

まずは、基幹システム/ERP刷新のフルスクラッチ判断との違いを理解したうえで、自社の部門業務がフルスクラッチに値する投資対象かを見極めることが大切です。

基幹システム/ERP刷新のフルスクラッチ判断との違い

全社横断的な基幹システム(ERP)のフルスクラッチ開発は、数億円〜十億円規模の投資になります。そのため、経営トップの関与や全社的なPMOの設置が必須となります。

意思決定では、会計・購買・生産・販売といった複数部門の利害を調整し、失敗した際の全社的な影響を織り込んだリスク評価が求められます。このため、投資判断だけで数ヶ月を要することも珍しくありません。

一方、部門特化型のシステム刷新は、関与するステークホルダーが限られるため、経営会議を通さなくても部門長の決裁でスピーディーに進められます。また、影響範囲が小さいことから、必要最低限の機能で始め、PoCで運用効果を見極めながら段階的に進めやすい点も、基幹システムのフルスクラッチとの大きな違いです。

「業務システムのモダナイゼーション」との違い

フルスクラッチ開発を選んだあとの技術手法の詳細は、姉妹記事「業務システムのモダナイゼーション」で解説しています。たとえば、既存システムのアーキテクチャをどう刷新するか、マイクロサービス化やAPI設計をどう進めるかといった点です。

一方、本記事が主に扱うのは、そもそもフルスクラッチを選ぶべきかどうかという投資判断そのものです。部門長がこの判断を下す際は、まず本記事で経営判断の観点を整理し、開発を進める段階になってからモダナイゼーションの記事で技術的な実装計画を詰める、という順で活用するとよいでしょう。

ポイント

部門の業務ロジックがSaaSやパッケージの標準機能で代替できるかどうかが、判断の起点です。代替できない独自ロジックがあり、その投資が部門予算で賄えるかを合わせて見ると、検討の方向が定まります。

フルスクラッチとSaaS・パッケージ、どちらを選ぶかの判断基準

フルスクラッチとSaaS・パッケージ、どちらを選ぶかの判断基準

フルスクラッチを選ぶか、SaaS・パッケージへのリプレースを選ぶかという判断は、業務システム刷新における最も重要な経営判断の一つです。

コア業務か非コア業務かという判断軸

システム刷新の手法を決めるには、その業務が「コア業務」か「非コア業務」かを見極めることが欠かせません。コア業務は、自社の競争優位性を生み出し、他社と差別化するための独自プロセスを含む業務です。

既存のパッケージでは対応しきれない複雑な要件がある場合は、フルスクラッチ開発で業務に最適化したシステムを作ることが、中長期的な投資効果を最大化します。一方、勤怠管理や経費精算など、他社と差別化する必要がない標準的な非コア業務では、市販のパッケージやSaaSを導入します。

そのうえで、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard」のアプローチをとることで、開発期間とコストを大幅に圧縮できます。部門長がこの判断を誤ると、本来SaaSで済む業務に多額のフルスクラッチ投資をしてしまうほか、本来フルスクラッチにすべき差別化業務を標準機能に無理に合わせてしまう非効率も生じます。

パッケージの過度なカスタマイズが招くリスク

部門内でSaaS・パッケージを導入するかフルスクラッチにするかを決める際、「パッケージの過度なカスタマイズ」は避けるべき選択肢です。パッケージを自社の特殊な業務に無理に合わせると、初期費用が増大するだけでなく、将来のバージョンアップが困難になります。さらに、特定のベンダーに依存してしまう「ベンダーロックイン」のリスクも生じます。

もしSaaSやパッケージで要件を満たすために、たとえば数百万円〜数千万円の多額のカスタマイズ費用がかかるようであれば、判断は変わってきます。最初から拡張性を確保できる小規模フルスクラッチ開発のほうが、長期的なTCO(総保有コスト)を抑えられるケースがあります。

この判断も、部門長が投資規模と将来の運用コストの両方を見据えて下すべき経営判断です。

ポイント

コア業務か非コア業務かが、判断の中心になります。コア業務はフルスクラッチ、非コア業務はSaaSやパッケージが候補になり、カスタマイズ費用が多額になる場合は小規模フルスクラッチも比べます。

部門予算内で収まる費用感

部門予算内で収まる費用感

フルスクラッチとSaaS・パッケージのどちらを選ぶ場合でも、部門長が稟議を通すには、費用感を正確に把握しておく必要があります。

SaaS・パッケージ導入とフルスクラッチの費用比較

費用感の目安は、SaaS・クラウド型であれば初期費用を抑えつつ月額2万〜6万円程度で利用できることです。パッケージ導入では、月額約10万円程度から導入できるケースもあります。

これに対し、特定部署向けのオリジナルツールをゼロからフルスクラッチで開発する場合は、300万〜500万円程度が相場です。既存Excel業務のアプリ化などごく小規模なフルスクラッチであれば、100万〜300万円程度で実現できるケースもあります。

基幹システムのフルスクラッチが数億円〜十億円規模になることを踏まえると、部門特化型のフルスクラッチは、いずれの費用帯でも部門予算の中で十分に検討できる投資規模といえます。

部門長が稟議を通しやすい投資規模

フルスクラッチ開発を選ぶ場合でも、投資額が数百万円規模に収まる限り、多くの企業では部門長の決裁権限内、あるいは部門予算としての稟議でスピーディーに承認を通すことが可能です。稟議を通しやすくするには、ベンダーからの見積もりに加えて、社内工数(現場担当者のヒアリング対応やデータ整備にかかる時間)や教育研修費を含めた実質総費用を見込んでおくことが大切です。

実質総費用は見積もりに対して1.3〜1.5倍程度で見込んでおくと、後からの予算超過を防ぐうえで実務上有効です。そのうえで、この実質総費用まで含めて部門予算内に収まるかを事前に精査しておくことが、稟議を一度で通すコツです。

ポイント

費用面では、社内工数や教育研修費を含めた実質総費用が、部門予算に収まるかどうかで見ます。実質総費用は見積もりの1.3〜1.5倍程度で見込んでおくと、後からの予算超過を防ぐうえで役立ちます。

部門長主導の意思決定プロセスとスモールスタート

部門長主導の意思決定プロセスとスモールスタート

フルスクラッチ開発の投資判断が固まったら、次は意思決定のプロセスと、プロジェクトの進め方を決める段階になります。

部門長の決裁でスピーディーに進める意思決定

部門特化型のフルスクラッチ開発は、関与するステークホルダーが限られるため、経営会議を通さなくても部門長の決裁でスピーディーにプロジェクトを進められます。ただし、周辺システムとの連携やデータ管理のポリシーについては、情報システム部門との事前調整が必要になる場合があります。意思決定のスピードを優先するあまり、全社的なルールとの整合性確認を省略しないよう注意が必要です。

部門長が「自分の裁量でどこまで決められるか」を社内規程で事前に確認し、そのうえで意思決定プロセスを設計することが、後々のトラブルを防ぎます。

PoCで運用効果を見極める段階的な開発

部門特化型のフルスクラッチ開発は影響範囲が小さいため、必要最低限の機能から始め、運用効果をPoCで見極めながら段階的に開発を進めやすいです。また、既存システムを活かしながら特定部門から段階的に導入できる「コンポーネント型ERP」を使い、フルスクラッチとパッケージのハイブリッドで進める選択肢もあります。

全機能を一度にフルスクラッチで作り切るより、まず最も効果の大きい機能から着手するほうが、投資リスクを分散できます。部門長が効果を確認しながら追加予算の稟議を段階的に通すことで、成果を着実に積み上げられます。

ポイント

進め方では、部門長の裁量の範囲を社内規程で事前に確かめておくことが欠かせません。そのうえで、効果の大きい機能から小さく始めると、投資リスクを抑えられます。

依頼先選定と事例に学ぶ進め方

依頼先選定と事例に学ぶ進め方

フルスクラッチとSaaS・パッケージのそれぞれで、実際にどう進められたかを事例から見ていきます。

SaaS・パッケージへのリプレース事例

ポイントサービス事業を展開するグリーンスタンプ社は、自社サーバーの故障を契機に、システムのクラウド化を決断しました。そのうえで、既存のデータを活かしつつカスタマイズを行わず、業務をシステムの標準機能に合わせる方針をとりました。その結果、プロジェクト開始からわずか3ヶ月強でクラウドERPへの移行を完了し、インフラの保守運用負担から解放されています。

この事例が示すのは、フルスクラッチにこだわらず標準機能に業務を合わせる決断を早く下せたプロジェクトほど、要件定義や独自仕様の作り込みに要する時間を圧縮できるということです。その時間の圧縮は、部門長の投資判断のスピードにも直結します。

小規模フルスクラッチ(現場密着型開発)事例

一方、大手ベンダーのパッケージでは拾いきれない、製造業の現場の細かな課題があります(紙への転記作業やExcel管理による属人化)。従業員数十名規模の開発会社が、現場のボトルネックを直接ヒアリングし、ExcelやAccessのマクロなどを活用して、数百万円レベルの低コストで小規模なオリジナルツールを開発した事例もあります。

このような現場密着型の刷新は、大手SIerによる大規模フルスクラッチとは異なり、部門の課題をピンポイントで解決することを目的としています。依頼先を選ぶ際は、部門業務への理解の深さと、小回りの利く体制を持つ開発会社かどうかを確かめることで、過剰投資を避けつつ成果を確実に出せます。

ポイント

依頼先は、部門業務への理解が深く、小回りの利く体制を持つ開発会社かどうかで選びます。課題が現場の細かな範囲に限られるなら、小規模なオリジナルツールという選び方も検討できます。

まとめ

業務システム刷新のフルスクラッチまとめ

ここまでは、基幹システム/ERP刷新との違い、判断基準、費用感、意思決定とスモールスタート、依頼先選定と事例を、経営・PM視点で整理してきました。

業務システム刷新でフルスクラッチを選ぶかは、コア業務か非コア業務かという判断軸で見極めます。そのうえで、パッケージの過度なカスタマイズを避けつつ、部門長の決裁でスピーディーに投資判断を下せる点が、この手法の特徴です。

また、300万〜500万円程度の投資規模であればPoCを挟んで段階的に開発を進められ、基幹システムのフルスクラッチに比べてリスクを大幅に抑えられます。技術的な実装手法を具体的に検討する段階では、「業務システムのモダナイゼーション」の記事も併せて参照し、自社の部門業務に最適な刷新手法を選ぶとよいでしょう。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。