業務システム刷新後の保守・運用費用・ランニングコストは、見積管理・案件管理・勤怠管理・経費精算といった特定部門の業務システムを対象とするため、企業の背骨を担う基幹システム/ERP刷新とは費用の桁も、予算の管理主体もまったく異なります。基幹システム/ERP刷新は全社で利用する複雑なシステムであり、24時間365日の稼働監視や複数人体制でのサポート、全社IT予算からの支出が前提となりますが、業務システム刷新は対象が特定部門に限定される分、部門長の裁量で予算を管理しやすく、ランニングコストの規模も相対的に小さく抑えられる傾向があります。保守・運用費用を見積もる際は、まずこの「予算の管理主体の違い」を理解したうえで、自社の刷新プロジェクトに合った費用感を把握することが重要です。
なお、SaaS移行やAPI化・サーバーレス化といった技術的な保守運用の効率化手法については、姉妹記事「業務システムのモダナイゼーション」で詳しく解説しています。本記事では技術手法の詳細には立ち入らず、部門長が保守・運用予算をどう確保し経営層にどう説明するかという経営・プロジェクトマネジメント視点から、業務システム刷新における保守・運用費用・ランニングコストの考え方を体系的に解説します。老朽化した部門システムを放置した場合の隠れコストや、刷新による費用削減効果の示し方まで、実務に役立つ判断軸をお伝えします。
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業務システム刷新の保守・運用費用とは何か(基幹システム/ERP刷新との対比)

業務システム刷新後の保守・運用費用を検討する際、多くの企業担当者が最初に参照するのが基幹システム/ERPの保守運用費用の相場です。しかし、この比較は前提が大きく異なるため注意が必要です。システム運用・保守コストの相場は一般に「初期開発費の年間5〜15%(〜20%)」が目安とされますが、基幹システム(ERP)は全社利用・24時間365日の稼働監視・複数人体制でのサポートが求められるため、月額60万〜100万円以上(年額720万円〜数千万円規模)になることが一般的です。これに対し、部門特化型の業務システムはSaaS導入や特定業務に絞った小規模開発が中心となるため、費用感も大きく変わってきます。まずはこの規模感の違いを踏まえたうえで、自社の刷新プロジェクトにふさわしい保守・運用予算を検討することが出発点になります。
基幹システム/ERP刷新との予算管理主体の違い
基幹システム/ERP刷新の保守・運用予算は、全社的なIT予算の中で情報システム部門が主体となって管理し、経営層への報告も年次の全社IT投資計画に組み込まれる形で行われるのが一般的です。一方、業務システム刷新の保守・運用予算は、対象が特定部門に限定されるため、部門予算の中で部門長が主体となって管理できるケースが多く見られます。この違いにより、業務システム刷新では保守・運用費用の見直しや契約形態の変更といった意思決定を、全社的な承認プロセスを経ずに部門内で完結できる場面が多くなります。ただし、情報システム部門が全社のセキュリティポリシーやライセンス管理を統括している企業では、部門予算であっても情報システム部門への事前相談が必要になる場合があるため、稟議を進める前に社内の予算管理ルールを確認しておくことが望ましいでしょう。
「業務システムのモダナイゼーション」との違い
保守・運用費用を抑える技術的な手法としては、SaaSへのリプレースによるインフラ保守の外部化や、API化・サーバーレス化による運用工数の削減といったアプローチがあり、これらの具体的な手法や工数感は姉妹記事「業務システムのモダナイゼーション」で詳しく扱っています。本記事が主眼とするのは、こうした技術的な手法そのものではなく、部門長がどのように保守・運用予算を確保し、経営層に費用対効果を説明し、老朽化した部門システムを放置した場合の隠れコストをどう可視化するかという、経営・プロジェクトマネジメントの視点です。技術選定の詳細を検討する段階になったら、モダナイゼーション記事も併せて参照することをお勧めします。
保守・運用費用の内訳と費用感の目安

業務システム刷新後の保守・運用費用は、選択する刷新手法によって費用感が大きく異なります。ここでは代表的な2つのパターンと、部門予算の中でランニングコストをどう管理するかを解説します。
SaaS型・小規模フルスクラッチ型それぞれの費用感
SaaSへのリプレースを選択した場合、保守・運用費用の大部分はクラウドサービスの利用料に集約され、月額2万〜6万円程度が目安となります。インフラの保守やセキュリティアップデートはベンダー側で実施されるため、自社での改修コストはほぼゼロに近く、費用予測が立てやすいという特徴があります。一方、特定部門向けのオリジナルツールを小規模フルスクラッチで開発した場合、月額数万円〜10万円前後(年額60万〜120万円程度)の保守費用が目安となります。フルスクラッチの場合はサーバー維持管理費、バグ修正、法改正対応などの費用が別途発生するため、SaaS型に比べると保守内容の把握と予算管理により注意を払う必要があります。いずれのパターンも、基幹システムの月額60万〜100万円以上という費用感と比べれば、部門予算の範囲内で十分に管理できる規模に収まります。
部門予算内でのランニングコスト管理と契約モデル
部門特化型システムは費用規模が小さいため、全社のIT予算に頼らず、部門長の裁量(部門予算)の中でランニングコストを管理しやすいという特徴があります。無駄なコストを抑えるためには、保守契約モデルの使い分けが有効です。月額固定型(定額制)は、毎月一定額を支払い安定したサポートを受けるモデルで、予算管理がしやすい反面、利用が少ない月は割高になる傾向があります。従量課金型・チケット制は、月額固定費を極力抑え、軽微な修正や設定変更など「対応が発生した分(時間・回数)だけ」支払うモデルで、稼働が安定した小〜中規模の部門システムと非常に相性が良い契約形態です。刷新後の初期数ヶ月は月額固定型で手厚いサポートを受け、運用が安定した段階で従量課金型に切り替えるといった柔軟な予算配分も、部門予算だからこそ実行しやすい選択肢です。
老朽化した部門システムを放置した場合の隠れコスト

刷新の予算対効果を経営層や自身に説明する際、見落とされがちなのが「刷新しないことで発生し続けているコスト」です。ここでは老朽化した部門システムを放置した場合の隠れコストを整理します。
Excel依存・手作業による見えない工数ロス
経営層や部門長が見落としがちなのが、古いシステムやアナログ運用を放置することで発生する隠れコストです。担当者がExcelでバラバラに管理していると、重複入力やデータの不整合が発生し、確認や修正に膨大な見えない人件費がかかっています。この工数は個々の業務としては小さく見えても、複数の担当者が日常的に繰り返している作業であるため、年間で積算すると無視できない金額になります。刷新の稟議資料を作成する際は、現状の手作業にかかっている時間を担当者へのヒアリングで洗い出し、時給換算で金額化しておくことが、経営層への説得力を高める材料になります。
属人化・ブラックボックス化という経営リスク
もう一つの隠れコストが、特定の担当者しかExcelマクロや古い部門システムの仕様を理解していない状態、いわゆる属人化・ブラックボックス化によるリスクです。この状態に陥ると、担当者が退職・休職した際に業務が停止したり、ちょっとした修正にも多大な調査時間がかかるようになります。特にコスト面で深刻なのは、こうした属人化リスクが顕在化するタイミングを部門長がコントロールできない点です。担当者の突発的な異動や退職が起きてから慌てて対応を検討するのではなく、平時のうちに刷新の必要性を経営リスクとして可視化し、保守・運用予算の確保につなげておくことが望ましい進め方です。
刷新による運用費用削減効果とROIの示し方

隠れコストを可視化したら、次に必要なのは刷新によってどの程度の費用削減が見込めるかを具体的に示すことです。実際の削減事例と、経営層への説明の仕方を見ていきましょう。
削減効果に学ぶ事例
オンプレミスの古いサーバーや手作業から、クラウド型のシステムへ刷新することで、サーバー維持費や運用工数の劇的な削減が見込めます。たとえば住宅保証機構の事例では、老朽化したシステムからAWS(クラウド)へ段階的に移行したことで、数年ごとの機器更新が不要になり、インフラ運用コストを約50%削減することに成功しています。また東海旅客鉄道(JR東海)の事例では、専属担当者が24時間体制でエラー対応をしていた古い基幹システムを刷新したことで、少ない人数で複数システムを保守できるようになり、運用保守コストを約4割削減しています。これらは大規模システムの事例ですが、部門システムにおいても「サーバーの保守不要化」「業務自動化による残業代・人件費の削減」により、同様のランニングコスト削減効果が期待できます。
経営層への費用対効果(ROI)の説明の仕方
部門特化型システムの稟議を経営層や上長に通す際は、単なる「ITツールの導入費」ではなく、「コスト削減効果と投資回収のシナリオ」を定量的に説明することが重要です。まず、初期費用だけでなく導入後5年間の「クラウド利用料+保守費」を含めたTCO(総保有コスト)で比較し、現状の隠れコスト(人件費やトラブル対応費)をどれだけ削減できるかを示します。次に、「月末の集計作業にかかる時間を30%削減する」「データ一元化により在庫ロスを年間○万円削減する」といった、経営や部門の利益に直結する定量的な目標(KPI)を提示します。最後に投資回収期間(ROI)をシミュレーションします。一般的なIT投資の回収期間の目安は1.5年〜4年とされており、たとえば「初期費用に300万円かかるが、自動化によって毎月10万円分の残業代や外注保守費が浮くため、2年半で初期投資を回収でき、それ以降は部門の利益体質が向上する」といった形で説明すれば、経営層からの予算承認は格段に得やすくなります。
部門長が保守運用予算を確保する際の注意点

保守・運用予算を確保し、稟議をスムーズに通すためには、いくつかの実務上の注意点があります。最後に、部門長が押さえておくべきポイントを整理します。
保守範囲とサポート体制を事前に確認する
保守・運用費用の見積もりを依頼する段階で、どこまでが保守契約の範囲に含まれ、どこからが追加費用の対象になるのかを明確にしておくことが重要です。特にSaaSへのリプレースでは、ベンダー標準の保守範囲を超えるカスタマイズ対応やデータ連携の追加が発生した場合、想定外の追加費用が発生することがあります。稼働後のハイパーケア期間(集中サポート期間)の有無や、その後の通常保守への移行タイミングについても、契約前に確認しておくことで、部門予算内での費用管理がしやすくなります。
年次での費用見直しを稟議に組み込む
部門予算での保守・運用費用の管理は、全社的な予算プロセスに比べて機動的に見直しやすい反面、見直しの機会が形骸化しやすいという側面もあります。刷新時の稟議段階で「年に一度、利用実績と費用対効果を棚卸しし、契約形態やライセンス数を見直す」というルールをあらかじめ組み込んでおくことで、無駄なライセンス費用の払い続けや、逆に必要なサポートの打ち切りといった事態を防げます。部門長自身が保守・運用費用の管理主体であるからこそ、こうした定期的な見直しの仕組みを最初に設計しておくことが、長期的なランニングコストの最適化につながります。
まとめ

本記事では、業務システム刷新の保守・運用費用・ランニングコストについて、基幹システム/ERP刷新との予算管理主体の違い、費用の内訳と目安、老朽化した部門システムを放置した場合の隠れコスト、刷新による運用費用削減効果とROIの示し方、部門長が予算を確保する際の注意点を経営視点で体系的に解説しました。業務システム刷新の保守・運用費用は、SaaS型で月額2万〜6万円程度、小規模フルスクラッチ型で月額数万円〜10万円前後と、基幹システムに比べて部門予算で十分に管理できる規模に収まります。一方で、Excel依存や属人化による見えない工数ロスといった「刷新しないことのコスト」を可視化し、TCOやKPI、投資回収期間を用いて経営層に説明することが、予算確保をスムーズに進める鍵となります。技術的な運用効率化の手法を検討する際は「業務システムのモダナイゼーション」の記事も併せて参照し、自社に適した保守体制を早めに検討することをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
