業務システム更改のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

業務システム更改でフルスクラッチ・オーダーメイド開発を選ぶのは、契約更新やEOS/EOLの期限と、SaaS・パッケージでは再現できない業務要件を照合した後です。

更改では、まず現行契約の更新や既存サービスからの乗り換えを候補にします。そのうえで、独自業務への適合性、移行方式、将来のロックインまで含めて、自社開発の必要性を確認します。

  • 更改の期限と判断条件の確認
  • 必要な工程と検証範囲の整理
  • 依頼先と実行体制の比較

本テーマの全体像は、以下の記事で解説しています。

▼全体ガイドの記事
・業務システム更改の完全ガイド

業務システム更改におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の位置づけ

フルスクラッチの検討につながる契約上の問題と独自業務を、中央の項目から4つの条件へつなぐ図。
契約上の制約と独自業務の両面が判断のきっかけになります。

保守契約の満了やEOS/EOL、SaaS契約の更新といった外圧に直面したとき、多くの部門特化型システムは、まず現行ベンダーとの契約更新か、他社SaaS・パッケージへの乗り換えで解決を図るのが原則です。ここでいう業務システムとは、見積管理・案件管理・勤怠管理・経費精算のように、特定の部門または少数部門の業務プロセスを支える中小規模のシステムを指します。

業務システム更改の検討において、フルスクラッチ・オーダーメイド開発は本来の第一選択肢ではありません。

フルスクラッチが検討の対象に入るのは、現行ベンダーの更新と、SaaS・パッケージへの乗り換えのどちらも自社の業務に適合しないと分かった場合に限られます。

更改でフルスクラッチが選択肢に入るケース

現行ベンダーが保守契約の更新を打ち切る、あるいは値上げ幅が大きすぎて更新が現実的でないと判明することがあります。さらに、市場のSaaS・パッケージのいずれも、特殊な原価計算や複雑な承認フロー等の独自ロジックを再現できないと分かった場合、フルスクラッチが唯一の現実的な選択肢として浮上します。

もう一つの典型例は、長年利用してきたパッケージソフトがEOS/EOLを迎え、そのパッケージが業界内でも特殊な業務フローに深く根ざしている場合です。標準的な後継SaaSでは代替が効かないため、フルスクラッチが候補に入ります。

いずれの場合も、契約満了という締切がある以上、フルスクラッチを選ぶなら通常以上に慎重かつ迅速な意思決定が求められます。

「モダナイゼーション」「刷新」のフルスクラッチとの違い

フルスクラッチを選んだ後の実装の進め方(アーキテクチャ設計やマイクロサービス化等)は、姉妹記事「業務システムのモダナイゼーション」で扱っています。フルスクラッチとSaaS・パッケージのどちらを選ぶかという経営判断の観点は、姉妹記事「業務システム刷新」で詳しく解説しています。

更改の場面でフルスクラッチを検討する場合は、判断のきっかけが「契約満了」という外部要因であり、検討期間も契約満了日までに限られる点が両記事と異なります。

刷新であれば時間をかけて要件を練り込めます。一方、更改では現行の保守契約が切れる前に意思決定と着手を終える必要があり、この時間的制約が判断基準そのものに大きく影響します。

ポイント

契約更新と乗り換えのどちらでも業務が回らないと分かってから、フルスクラッチを候補にします。期限が迫る前にこの二つの確認を終えておくと、判断が遅れにくくなります。

フルスクラッチとSaaS・パッケージ乗り換え、どちらを選ぶかの判断基準

契約満了までの期間は限られるため、判断基準は事前に明確にしておく必要があります。ここでは、具体的な判断の観点を見ていきます。

Fit to Standardの適合率による判断

情報系・部門特化型のシステムは、基幹系システムと違って、「UIの良さ」「柔軟な機能追加」「外部SaaS・APIとの連携実績」を選定の最優先事項とされています。この観点から、契約更新のタイミングではまず、自社の業務プロセスをSaaS・パッケージの標準機能に適合させられるか、つまりFit to Standardの適合率を確認することが判断の出発点になります。

標準機能で8割以上をカバーできるなら、無理にフルスクラッチを選ばず、SaaS・パッケージへの乗り換えを優先すべきです。逆に、自社固有の業務プロセスが事業の競争優位に直結し、標準機能に合わせられない部分が大きい場合にのみ、フルスクラッチを選ぶという順で検討することをお勧めします。

過度なカスタマイズが招くリスクとフルスクラッチへの転換

契約更新時にSaaS・パッケージへの乗り換えを検討する中で、標準機能とのギャップを埋めるために多額のカスタマイズ費用(数百万円〜数千万円)がかかると分かることがあります。

この場合、パッケージを無理に自社仕様へ合わせると、将来のバージョンアップが難しくなります。その結果、特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)を再び生みかねず、本末転倒です。

過度なカスタマイズにこれだけの費用がかかるなら、最初から拡張性を確保できる小規模フルスクラッチを選んだほうが、長期的なTCO(総所有コスト)を抑えられる場合もあります。契約更新の交渉中にカスタマイズ見積もりが膨らんだ時点は、フルスクラッチへの方針転換を検討する重要な分岐点です。

ポイント

標準機能への適合率を先に見て、8割以上をカバーできるならSaaS・パッケージを優先します。カスタマイズ費用が数百万円から数千万円に及ぶ場合は、フルスクラッチを改めて検討する材料になります。

データ移行の粒度分けと移行方式

旧システムのデータを完全移行、簡易移行、移行対象外の3種類に分けたパネル図。
すべてを新環境へ移さず、参照頻度に応じて扱いを分けます。

フルスクラッチで自社開発する場合は、旧システムに長年蓄積されたデータを新環境へどう引き継ぐかが、締切に間に合わせるうえで最大の技術的論点になります。

完全移行・簡易移行・移行対象外の3分類

旧システムの全データをそのまま新環境へ移そうとすると、工数と難易度が跳ね上がり、契約満了までのスケジュールを圧迫します。そこで実務では、データを「完全移行」「簡易移行」「移行対象外」の3つに分けて取捨選択するのが鉄則です。

完全移行は、新システムの形式に合わせて変換し、直接投入するデータです。直近数年分の見積・案件データなど、日常業務で頻繁に参照するものが該当します。

簡易移行は、更新の必要がない過去データを、PDFなど参照できる形式に変換して取り込む対応です。また、移行対象外は、旧ファイルサーバーなどで引き続き保管し、新システムには持ち込まないデータです。この3分類は、ベンダー選定や要件定義の初期段階で確定させる必要があり、開発期間を締切内に収めるうえで欠かせない工程です。

ビッグバン移行・トリクルダウン移行とロールバック計画

移行方式には、すべてのデータを一度に移す「ビッグバン移行(一括移行)」と、段階的に進める「トリクルダウン移行(順次移行)」があります。契約満了日という明確な締切があるため、更改では期日に間に合わせやすいビッグバン移行が選ばれることも多くなります。そのぶん、リスク管理を徹底する必要があります。

本番と同じ条件でのリハーサルを事前に行い、移行時に致命的なエラーが起きた場合に、旧環境へ直ちに切り戻すための「ロールバック計画(コンティンジェンシープラン)」を必ず用意しておく必要があります。

ロールバック計画がないままビッグバン移行に踏み切ると、トラブル時に契約満了日を過ぎてもシステムが使えないという最悪の事態を招きかねません。そのため、この備えは更改プロジェクトで特に重視すべき点です。

ポイント

全データを移すより、完全移行・簡易移行・移行対象外に分けて取捨選択するほうが、締切に収まりやすくなります。ビッグバン移行を選ぶ場合は、ロールバック計画を必ず用意します。

費用感と期間の目安

更改でフルスクラッチを選ぶ場合は、契約満了までの残り期間で実現できるかを、費用と期間の両面から冷静に見積もる必要があります。

フルスクラッチの費用・期間の目安

部門特化型の業務システムをフルスクラッチで開発する費用は、規模によって大きく変わります。既存Excel業務のアプリ化のような小規模なものなら100万〜300万円程度、特定部署向けのオリジナルツールをゼロから開発するなら300万〜500万円程度が目安です。

開発期間は、要件定義からリリースまでで3〜8ヶ月程度を見込む必要があります。これにベンダー選定期間の1.5〜2.5ヶ月を加えると、全体では半年〜1年弱に及ぶこともあります。

契約満了までの残り期間がこれより短い場合、フルスクラッチは現実的ではありません。そのため、現行契約を短期延長したうえで改めてフルスクラッチのプロジェクトを立ち上げるか、SaaS・パッケージへの乗り換えに切り替えるかを判断する必要があります。

短期延長契約という「時間を買う」選択肢

フルスクラッチの開発期間が契約満了までの残り時間を上回る場合は、現行ベンダーと半年〜1年程度の短期延長契約を結び、開発の時間を確保するという選択肢も現実的です。

短期延長は、通常の契約更新より割高になることもあります。ただし、拙速なフルスクラッチ着手によるプロジェクト失敗のリスクを避けられるなら、十分に検討する価値があります。

交渉では、あらかじめフルスクラッチの開発スケジュールを固め、必要な延長期間を明確に示しておくと、話し合いが進みやすくなります。

ポイント

費用と期間は、残りの契約期間と照らして見積もります。残り期間が開発の見込み期間より短い場合は、短期延長契約か、SaaS・パッケージへの乗り換えを検討します。

将来のベンダーロックインを避けるための契約・発注時のポイント

ベンダー依存を避ける契約項目として、データ所有権、データ書き出し、技術とAPI、SLAとドキュメントを並べたチェックリスト。
解約後のデータ利用と他社による保守を契約時に備えます。

せっかく自社開発に踏み切っても、発注先のパートナーに依存しすぎると、次の更改で同じ問題を繰り返すことになります。そこで、契約と発注の段階で押さえておきたい点を見ていきます。

契約に明記すべきデータ所有権・オープン技術・SLA

フルスクラッチを発注する際は、必ず盛り込むべき条項があります。まず、自社開発したシステムのデータ所有権が自社にあることを契約書で明確にし、解約時にはCSVなどの汎用形式でデータを書き出せることを保証してもらいます。

特定ベンダーの独自仕様に縛られないよう、オープンな技術や標準的なAPIを採用してもらいます。さらに、障害発生時の復旧時間を定めたSLA(サービスレベル合意書)を締結し、仕様書などのドキュメントを他社でも保守できる状態で整備してもらいます。

これらを怠ると、せっかく自社独自のシステムを作っても、次の更改で再び同じベンダーへの依存から抜け出せなくなります。

締切内に開発できる依頼先の見極め

契約満了という締切がある更改のフルスクラッチでは、依頼先の選定で「対象業務への理解度」に加えて、「限られた期間内で確実に開発を完了できる体制があるか」が重要な評価軸になります。

提案の段階で、契約満了日までの詳細なスケジュールを引けるかどうか、遅延が起きた場合のリカバリー体制をどう考えているかを確認しておく必要があります。これは、締切に間に合わない事態を避けるための実務上の備えです。

相見積もりを取る際も、金額だけでなく期日遵守の実績や体制の厚みを比べることが、更改を成功させるうえで欠かせません。

ポイント

データ所有権、オープン技術、SLAを契約に盛り込み、発注先に依存しすぎない状態を作ります。依頼先は、期日を守る実績と遅延時のリカバリー体制で比べます。

まとめ

ここまで、更改の場面でフルスクラッチが選択肢に入るケースや、契約更新時の判断基準を見てきました。データ移行の粒度分けと移行方式、費用感と期間の目安、契約・発注時のポイントも解説しました。

業務システム更改におけるフルスクラッチは、現行契約の更新でもSaaS・パッケージへの乗り換えでも自社の業務が回らないと判明した場合に検討する選択肢です。Fit to Standardの適合率と過度なカスタマイズのリスクを見極めたうえで判断すべきです。

契約満了までの残り期間がフルスクラッチの開発期間を下回る場合は、短期延長契約で時間を確保する選択肢も含めて検討します。そのうえで、データ所有権・オープン技術・SLAといった契約条項を盛り込んでおくことを勧めます。次回の更改を有利に進めるための備えになります。

▼全体ガイドの記事
・業務システム更改の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。