EC移行の発注/外注/依頼/委託方法について

EC移行の発注や外注は、現状を整理してRFPにまとめ、委託先を選んだうえで、アセスメントから本番移行まで順に進めるのが基本です。

ECサイトには商品マスタや会員データ、ポイント残高、決済連携が集まっています。そのため、移行の設計を誤ると、売上の停止や顧客離れにつながりかねません。

▼全体ガイドの記事
・EC移行の完全ガイド

EC移行の発注・外注を検討する前に押さえる基本

中央のEC移行から、会員データ、注文履歴、ポイント残高、商品マスタへつながる図解。
移行対象をデータ単位で整理すると、確認漏れを防ぎやすくなります。

EC移行の発注や外注を成功させるには、まず移行というプロジェクトの性質を押さえておく必要があります。EC移行は、サイトのリニューアルというより、会員データや注文履歴といった資産を新しい基盤へ安全に運ぶ、データ・基盤移行の側面が強い取り組みです。

この前提を押さえているかどうかで、発注先に求める要件も大きく変わります。

EC移行はデータ・基盤移行が主軸

ECサイトの移行で最も神経を使うのは、会員データや注文履歴を新しい基盤へ正確に運ぶ作業です。ポイント残高や商品マスタも、同じく正確に移す必要があります。

これらは事業の信用そのものです。わずかな欠損や不整合でも、顧客対応の混乱や売上の損失を招きます。そのため、移行プロジェクトの中心は見た目の刷新より、データと基盤を安全に移し替えることに置かれます。

  • 対象:会員・注文・ポイント・商品データの範囲と件数を洗い出す
  • 確認:欠損や重複、退会会員などの例外データの有無

とりわけ押さえたいのが、移行に伴うダウンタイムの最小化と並行稼働の設計です。注文を受け付けられない時間が長引くほど、その分だけ機会損失が積み上がります。

ダウンタイムを抑えるには、旧環境と新環境を一定期間並行で動かしながら段階的に切り替える設計と、本番移行の前に手順を検証する移行リハーサルが欠かせません。

発注先を選ぶ際は、こうした移行の実務を主導できる体制を持っているかどうかが、判断の基準になります。

また、外注を検討する段階で、自社のデータがどれほど複雑で、どこに不整合が潜んでいるかを把握しておくと、発注先との認識合わせがスムーズに進みます。長年運用してきたECほど、退会会員の扱いや過去のキャンペーンに紐づく特殊なデータが残りがちで、それが移行時の落とし穴になります。

外注・委託が選ばれる理由

EC移行を外部へ委託する企業が多いのは、内製だけでは確保しきれない専門性と人員が必要になるからです。

ヘッドレスコマースのアーキテクチャ設計、OMSや在庫管理との連携、決済の非保持化やPCI DSS準拠といった領域は、いずれも高度な知見を要します。そのため、これらを社内人材だけで賄うのは、現実的に難しい場面が少なくありません。

  • 対象:社内に不足する設計・実装・移行の専門性を洗い出す
  • 確認:不足する役割を、委託先の支援範囲と照らし合わせて見る

外注が選ばれる背景には、IT人材の不足もあります。IPAが約4,000社を対象に行い、799社から回答を得た調査でも、デジタル化を担う人材の不足が課題として挙がっています。

さらに、2030年には最大で79万人規模のIT人材が不足すると見込まれています。人海戦術での対応には限界があるため、専門のパートナーへ委託する合理性は今後いっそう高まっていきます。

外注によって、移行の設計から実装、テスト、本番切り替えまでを一貫して任せられれば、社内のリソースを商品企画やマーケティングといった本業へ集中させられます。

発注の目的を「人手の補充」ではなく「専門性の獲得とリスクの低減」と捉えると、選ぶべき委託先の像が明確になります。

ポイント

発注先を選ぶ際は、会員データやポイント残高を正確に移せるか、移行の実務を主導できる体制があるかを、判断の目安にします。

EC移行の委託先の種類と特徴

EC構築会社、SI企業、コンサルティング会社の3つを、それぞれの得意領域と組み合わせた図解。
委託先ごとに、得意領域の違いが見て取れます。

ひと口にEC移行の委託先といっても、得意とする領域や支援の範囲はさまざまです。

自社の課題にどの種類のパートナーが合うかを先に把握しておくと、発注先の絞り込みが速く進みます。

EC構築会社・SI企業・コンサルの違い

EC構築を専門とする会社は、ShopifyやecbeingといったECプラットフォームの実装に強く、サイト構築やデザイン、運用支援を得意とします。

SaaS型のECへ移行する場合や、フロントのリニューアルが中心の場合に相性がよい委託先です。一方で、基幹システムとの複雑な連携やフルスクラッチでの再構築では、別の専門性が求められることもあります。

  • 対象:EC構築会社、SI企業、コンサルの得意領域の比較
  • 確認:基幹・OMS・在庫・決済との連携実績を、具体例を挙げて聞く

システムインテグレーターは、基幹システムやOMS、在庫管理との連携、大規模なデータ移行を伴う案件で力を発揮します。

複数システムをまたぐ要件定義や統合的な設計を任せられる反面、フロントの体験設計まで一気通貫で担えるかは、企業によって差があります。

コンサルティング会社は、移行戦略の立案や手法選定、業務プロセスの見直しといった上流工程の支援に強みがあります。

ただし、実装まで自社で手がけるのか、設計のみを担い開発は別の会社に任せるのかを、事前に確かめておく必要があります。理想は、戦略立案から開発・運用まで一気通貫で支援できるパートナーを見つけることです。

EC特有の連携実績を確認する重要性

EC移行の委託先を選ぶうえで見落としがちなのが、EC特有のバックエンド連携への精通度です。

OMSによる注文一元管理、リアルタイムの在庫連携、WMSやPOSとの統合といった領域は、一般的なシステム開発の知見だけでは対応が難しい部分があります。そのため、これらの実績があるかを必ず確かめる必要があります。

  • 対象:決済連携、ピーク負荷、WMS・POSとの接続の範囲
  • 確認:トークン決済、PCI DSS、負荷対策の設計経験の有無

決済まわりの知見も押さえておきたい点です。Amazon PayやPayPayなどの決済手段を、安全につなげられるかが問われます。

後払いといった多様な決済手段をAPIで柔軟に追加できる構造にしておくことは、EC事業の継続性に直結します。そのため、こうした点を設計段階から織り込めるパートナーかどうかを見極める必要があります。

加えて、セール時のピーク負荷への対策実績も確認しておきたい項目です。大型セールで急増するアクセスに耐えるため、オートスケールやサーバーレス構成を設計できるかは、機会損失を防ぐうえで欠かせません。

EC特有の事情を理解したうえで提案してくれる委託先こそ、安心して任せられる相手だといえます。

ポイント

自社の課題が基幹連携にあるか、フロントの刷新にあるかで、向く委託先の種類は変わります。どの種類でも、EC特有の連携や決済の実績は具体例で聞いて判断します。

発注前の準備と進め方

現状の整理とRFPから始まり、アセスメント、設計・開発、移行リハーサルと本番移行を経て、切り替え後の監視へ進む図解。
本番移行の前にリハーサルを挟み、切り替え後の監視までつなげます。

発注の成否は、依頼前の準備でほぼ決まるといっても過言ではありません。現状を一覧にし、何を実現したいのかを言葉にして委託先へ伝えられれば、見積の精度も提案の質も大きく上がります。

現状の整理とRFPの作成

まず取り組むべきは、現行ECの状況を整理することです。利用しているプラットフォームや外部連携の内容を洗い出し、会員数や商品数、注文件数といった数字に加えて、ピーク時のトラフィックも書き出します。

この整理が曖昧なままでは、委託先も適切な提案をしづらく、見積の前提が崩れてしまいます。

  • 対象:現行基盤と外部連携、会員数・商品数・注文量の状況
  • 確認:移行の目的・必須要件・予算・日程を、RFPに明記する

そのうえで、移行で実現したいことをRFP(提案依頼書)にまとめます。対象範囲や既存データの種類と量も書き添えます。条件をそろえて書いておけば、複数社へ同じ前提で提案を頼めるため、比較検討も公平になります。

とりわけEC移行では、会員ランクやポイント残高をどこまで引き継ぐのか、ドメインやURLの変更を伴うのかを書き込んでおくと、提案の精度が高まります。

逆に、口頭やメールの断片的なやり取りだけで発注すると、後から認識のずれが噴出し、追加費用やトラブルの原因になりがちです。そのため、準備に時間をかけることが、結果としてプロジェクト全体の安定につながります。

アセスメントから本番移行までの流れ

発注後は、まずアセスメントから始まります。委託先が現行システムの構造やデータの状態を詳しく調べ、移行方式や手法を選びます。

この段階で、SaaSへ移行するのか、ヘッドレスコマースを採用するのか、フルスクラッチで再構築するのかという方針が固まっていきます。

  • 対象:移行方式、データ品質、切り替え条件を決めておく
  • 確認:本番相当のリハーサルと、切り替え後の監視の計画

続いて設計・開発フェーズに進み、新環境の構築と各種連携の実装を行います。並行して、データ移行の設計も進みます。EC移行で特に重い局面は、その後に控える移行リハーサルと本番移行です。

本番と同じ条件でデータを移し替える予行演習を繰り返し、想定外の不整合や所要時間を洗い出しておくと、本番のダウンタイムを小さく抑えられます。

本番移行では、旧環境と新環境を一定期間並行稼働させながら、段階的に切り替える方式が安全です。一気に全てを切り替えるビッグバン方式はリスクが高いため、EC移行では避けるのが定石です。

切り替え後も一定期間は監視を強め、問題が起きたらすぐ動ける運用体制を整えておくことが、移行を成功で終える仕上げになります。

ポイント

複数社の提案を公平に比べられるかは、条件を同じ前提でRFPにまとめられているかで決まります。現状の整理が曖昧なままでは、見積の前提が崩れやすいため、まず整理し直すのが目安です。

契約形態の使い分けと費用の考え方

EC移行を外注するとき、契約形態の選び方は見落とされがちですが、プロジェクトのリスクを大きく左右します。

フェーズの性質に応じて契約形態を使い分けると、双方にとって無理のない関係を築けます。あわせて、費用の内訳とEC特有の隠れコストを把握しておく必要があります。

準委任から請負への切り替えとロックイン回避

契約形態の使い分けの基本は、アセスメントなどの上流工程を準委任契約で、開発・実装のフェーズを請負契約で進めることです。要件が固まりきらない調査の段階では、成果物を確定しにくいため、準委任が向いています。

要件が定まった開発段階では、完成責任を伴う請負契約にすることで、品質と納期のリスクを抑えられます。

  • 対象:準委任と請負の範囲、工程ごとの成果物
  • 確認:SLA・責任分界・ソースコードの権利を、契約書へ明記する

障害時の対応範囲や復旧目標、責任の境目を文書で定めておくと、いざというときの混乱を防げます。逆に、契約を曖昧なまま進めると、トラブル時に責任の押し付け合いが生じかねません。

もう一つ、ベンダーロックインを避ける点も見逃せません。特定の委託先でしか保守できない状態に陥ると、その後の改修費用が高止まりし、乗り換えも難しくなります。

ソースコードの著作権の帰属や運用権限の所在を契約で押さえておくと、将来の選択肢を確保できます。長く付き合う相手だからこそ、対等な関係を保てる契約にしておく必要があります。

費用の内訳とEC特有の隠れコスト

EC移行の費用は、アセスメント、構築・開発、データ移行といった大きな項目に加え、各種連携や運用保守にも分かれます。

総額だけで比べると、あとから想定外の追加費用が生じるおそれがあります。そこで、発注時には各項目が見積にどう含まれているかを確かめ、内訳を把握しておくことが大切です。

  • 対象:構築・データ移行・連携・保守それぞれの見積内訳
  • 確認:見積の前提条件と、後から追加になり得る費用の範囲

とりわけEC移行では、見積に表れにくい隠れコストに注意が必要です。

決済システムの改修費用、本番移行に備えた移行リハーサルの工数、旧環境と新環境を同時に動かす並行稼働期間中の二重のインフラ費用などは、見落とされやすい項目です。これらを見積に織り込んでおかないと、予算は大きく膨らみます。

費用を抑える有効な手段の一つは、不要機能を思い切って廃止することです。長年の運用で増えた使われていない機能を移行の対象から外すと、開発工数と維持費を減らせます。

初期費用の比較だけでなく、移行後の運用コストがどれだけ下がるかを試算しておくと、投資対効果を経営層に説明しやすくなります。

判断にあたっては、中長期の総コストで見る視点が欠かせません。

ポイント

フェーズごとに準委任と請負を分け、著作権と運用権限を契約で明記しているかが、契約の目安になります。費用は総額だけでなく、内訳と中長期の総コストで比べます。

EC移行の発注で失敗しないためのポイント

EC移行には、ECならではの落とし穴が数多く潜んでいます。発注前にこれらを理解し、委託先と対策を共有しておくことが、失敗を避けるうえで最も効果的です。

特に注意したいのは、データ移行の落とし穴と、発注先を最終的に見極める基準です。

パスワード・ポイント・301リダイレクトの落とし穴

EC移行で最も顧客離れを招きやすいのは、会員パスワードの扱いです。多くのECでは、会員のパスワードが暗号化された状態で保管されているため、原則として新環境へそのまま引き継げません。

配慮がないまま全会員に再設定を求めると、ログインを諦めた顧客が離れていきます。そのため、再設定の案内を丁寧に設計するなど、移行方式を検討する段階から対策を織り込む必要があります。

  • 対象:パスワード・会員ランク・ポイント・URLの移行範囲
  • 確認:再設定案内、残高照合、301転送をリハーサルで検証する

会員ランクやポイント残高を正確に移すことも、信用に直結します。たとえば、ポイントが消えたり残高がずれたりすれば、顧客の不満は一気に高まります。

データが正しく引き継がれているかは、移行リハーサルの段階で入念に検証しておく必要があります。

ドメインやURLが変わる移行では、301リダイレクトの設計を省かないことが鉄則です。旧URLから新URLへ適切にリダイレクトを設定しないと、これまで積み上げてきた検索エンジンの評価が失われ、流入が大きく落ち込みます。

SEO評価を引き継ぐリダイレクト設計を具体的に提案できるかは、委託先の力量が表れる部分です。

発注先を見極める最終チェックポイント

発注先を最終的に選ぶ際は、EC業務そのものへの理解度を見ておく必要があります。

商品マスタの構造や会員データの特性、決済や在庫の流れといったEC固有の業務を理解して提案できる相手かどうかが、移行の質を大きく左右します。特に、技術力に加えて事業への理解があるかを見極めることが大切です。

  • 対象:EC業務の理解、段階移行、連携の設計力
  • 確認:障害時の対応と運用の引き継ぎを、具体的に聞く

段階的な移行を提案できる設計力も、判断基準になります。ダウンタイムを抑える並行稼働の設計や、本番前の移行リハーサルを当たり前の工程として組み込んでいる委託先は、移行の実務に通じているといえます。

逆に、一気に切り替える前提でしか話さない相手には注意が必要です。

最後に、契約への向き合い方も見ておきたい点です。SLAや責任分界点、ソースコードの権利関係を誠実に説明してくれるかどうかは、長期的な信頼関係につながります。

コンサルティングから開発、運用まで一気通貫で支援でき、こうした実務に通じたパートナーを選べば、難易度の高いEC移行も安心して任せられます。

ポイント

EC業務を理解しているか、段階的な移行と移行リハーサルを当たり前に組み込んでいるかで、委託先の力量を見分けられます。

まとめ

EC移行の発注を成功させるには、データと基盤の移行がプロジェクトの中心だと理解し、それに合わせて準備と委託先選定を進めることが大切です。

発注前には現状を整理してRFPにまとめ、委託先の種類と特徴を踏まえて、EC特有の連携や決済、ピーク負荷への対応実績を確かめることが重要です。

契約面では、アセスメントを準委任、開発を請負と使い分けたうえで、SLAや責任分界点、ソースコードの権利関係を明記し、ベンダーロックインを避けるのが基本です。

費用は、内訳と隠れコストを把握したうえで、運用コストの低減まで含めた総コストで判断することが求められます。

暗号化されたパスワードやポイント残高の引き継ぎ、301リダイレクトなど、EC固有の論点も事前に詰めておきます。並行稼働と移行リハーサルを計画に含めることが、失敗の予防につながります。

EC業務への理解と段階移行の設計力、誠実な契約姿勢を兼ね備えたパートナーを選べば、売上を止めることなく安全に新しい基盤へ移行できます。

本記事を、自社にとって最適な発注先を見極めるための判断材料として活用していただければ幸いです。

▼全体ガイドの記事
・EC移行の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。