EC刷新の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

「ECサイトが古くなってきたが、どこから手をつければいいかわからない」「刷新を検討しているが、移行中に売上が止まるのが怖い」「Shopifyに移行したいが、既存の受注データや会員データをどうすればいいのか」。このような悩みを抱えるEC担当者やシステム責任者は、年々増えています。実際、ECサイトの刷新は通常のシステム移行と異なり、24時間365日稼働し続ける販売チャネルを止めずに切り替えるという、極めて難易度の高い挑戦です。

本記事では、レガシーECシステムの問題点から始まり、刷新手法の比較、失敗しないEC刷新の5ステップ、繁忙期を避けた移行タイムライン策定、EC特有のデータ移行課題、SEO継続性の確保、そして炎上プロジェクトの撤退戦略まで、実務目線で徹底的に解説します。競合記事にはないEC固有の視点を多数盛り込んでいますので、現場で直面している泥臭い課題への処方箋として、ぜひ最後までお読みください。

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EC刷新とは?なぜ今やるべきなのか

EC刷新の全体像と背景

EC刷新とは、老朽化・陳腐化した既存のECサイト(電子商取引システム)を、新しいプラットフォームやアーキテクチャに移行し、ECとしての機能・性能・セキュリティを抜本的に向上させる取り組みを指します。単なるデザインリニューアルやページ追加ではなく、受注管理・在庫管理・決済・会員管理・物流連携などのバックエンド機能を含めた基盤ごと置き換えることが刷新の本質です。

レガシーECシステムの定義と具体的な問題点

レガシーECシステムとは、リリースから長い年月が経過し、技術スタックの老朽化・カスタマイズの蓄積・外部連携の複雑化によって改修・運用が困難になったECサイトのことです。典型的には、2000年代後半から2010年代前半に構築されたオンプレミス型の自社開発ECや、サポートが終了したパッケージ製品(例:古いEC-CUBEのメジャーバージョン、Magento 1系など)が該当します。

問題点の第一は、スマートフォン対応の不完全さです。現在、ECの購買トラフィックの60〜70%はスマートフォン経由ですが、レガシーECはPCファーストで設計されていることが多く、モバイルでの使いづらさが離脱率上昇と売上損失に直結しています。第二は表示速度の低下で、Googleが定義するCore Web Vitalsの指標(LCP 2.5秒以内が目標)を満たせないレガシーECは、検索順位の低下とコンバージョン率の悪化を同時に引き起こします。Akamai社の調査によれば、ページ表示が1秒遅れるごとにコンバージョン率が約7%低下するとされており、パフォーマンス問題は直接的な売上損失につながります。第三はセキュリティリスクで、PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ基準)への対応が困難化し、決済代行会社から利用停止を求められるケースも実際に発生しています。

放置した場合のリスク(セキュリティ・売上損失・SEO低下)

EC刷新を先送りし続けた場合のリスクは三層構造で積み重なります。第一層はセキュリティリスクです。サポートが終了したソフトウェア(OS、PHPバージョン、CMSコア)に対する脆弱性修正パッチは配信されないため、クレジットカード情報の漏えいリスクが高まります。2023年以降、不正アクセスによるEC情報漏えいの報告件数は急増しており、被害発生時は調査費用・通知費用・損害賠償に加え、ブランドへの信頼失墜という長期的損失が発生します。

第二層は売上損失リスクです。競合他社が最新のUI/UX・パーソナライゼーション・決済手段(後払い・コンビニ・QRコード決済など)を実装する中、レガシーECは選択肢の貧しさと使いづらさで顧客を逃し続けます。年間保守費用は初期開発費の15〜20%が目安とされますが、ブラックボックス化が進んだレガシーECでは小さな機能追加ですら多大な工数がかかり、保守費は膨らむ一方で競争力は落ちるという悪循環に陥ります。第三層はSEOリスクです。表示速度の低下・HTTPSへの対応遅れ・構造化データの未実装などが重なると、Google検索での順位が継続的に低下します。自然検索からの流入が主要集客源である場合、このリスクは特に深刻です。

EC刷新の手法を徹底比較

EC刷新手法の比較

EC刷新の手法は大きく三つの方向性に分類できます。インフラやミドルウェアのみを刷新する「リホスト・リプラットフォーム」、SaaSのECプラットフォームに乗り換える「リプラットフォーム(SaaS移行)」、そしてゼロから再構築する「リビルド」です。さらに近年は、これらを超えた最新アーキテクチャとして「コンポーザブルコマース(Headless Commerce)」が注目を集めています。自社の規模・予算・技術力・事業戦略に合わせて最適な手法を選ぶことが、EC刷新成功の出発点です。

リホスト・リプラットフォーム(SaaS移行:Shopify等)

リホストはサーバーのみをクラウドに移行する最もシンプルな手法で、アプリケーションコードには手を入れないため移行期間が短く、3〜6ヶ月で完了するケースもあります。ただし、技術的負債を温存したまま移行するため「刷新したつもり」になりやすく、クラウド移行後もパフォーマンスやセキュリティの根本問題が残るという限界があります。

SaaS移行(リプラットフォーム)は、Shopify・Shopify Plus・commercetools・Salesforce Commerce Cloud・BigCommerceといったECプラットフォームに乗り換える手法です。Shopifyは月額料金が約3,000円(Basic)から始まり、大規模向けのShopify Plusは月額約50万円程度ですが、インフラ管理・セキュリティ対応・決済機能の維持コストがほぼゼロになるため、中長期的なTCO(総保有コスト)は大幅に削減できます。SaaS移行の最大の課題は、プラットフォームの制約の中で自社業務に合わせることで、高度にカスタマイズされたレガシーECを持つ企業ほど、機能ギャップを業務改革で吸収するか、有料アプリやAPI連携で補完するかの判断が求められます。

リビルド(スクラッチ再構築)

リビルドは、現行ECの機能を参考にしつつ、ゼロベースで新しいアーキテクチャから作り直す手法です。自社独自の業務フロー・複雑な受注ルール・独自の会員ランク制度・複数ブランドの統合管理など、既製品プラットフォームでは賄えない要件を持つ大規模ECに適しています。ファッションや家電の大手EC事業者が独自の推薦エンジン・在庫割当ロジック・販促ルールを武器とする場合、スクラッチ開発でその競争優位性を保ち続けることには合理性があります。

一方、リビルドの費用は数千万円から数億円規模に及び、開発期間も2〜4年に達することも珍しくありません。スルガ銀行と日本IBMのシステム刷新訴訟(約95億円の白紙撤回)は銀行基幹系の事例ですが、EC領域でも同様に「要件の詰め不足と仕様変更の応酬」によるプロジェクト炎上事例は後を絶ちません。リビルドを選ぶ場合は、要件定義に最低でも全体工数の20〜30%を投入する覚悟と、アジャイル開発手法での小刻みなリリース戦略が不可欠です。

コンポーザブルコマース(Headless Commerce)という最新選択肢

コンポーザブルコマースとは、ECの機能を「ヘッドレス(フロントエンドとバックエンドの分離)」で組み合わせる最新のアーキテクチャです。フロントエンドにはNext.jsやNuxt.jsを使ったJamstackサイトを置き、バックエンドのカート・在庫・決済・検索・CMSはそれぞれ最適なSaaSをAPIで接続します。具体的には、commercetoolsやElastic Pathがコマースエンジン、ContentfulやSanityがCMS、AlgoliaやBloomsreachが検索、Stripeが決済を担当するといった組み合わせが典型例です。

最大のメリットは、各機能を独立してアップグレード・差し替えできる柔軟性です。決済代行会社を変更する場合も、コンポーザブル構成なら決済モジュールだけを入れ替えれば済み、他機能に影響を与えません。デメリットは、APIの設計・管理・監視が複雑化することと、複数のSaaS契約費用が積み重なることです。月額の運用コストはShopifyより高くなる場合が多いため、年商10億円以上の中大規模EC事業者向けの選択肢といえます。

自社に合った手法の選び方

手法選定のポイントは、自社のECにおける「競争優位の源泉がどこにあるか」を問うことです。UIのブランド表現力や独自の購買体験が差別化要因なら、表現自由度の高いHeadlessやリビルドが適します。一方、標準的なECビジネスで競争優位は商品力や価格にあり、システムはあくまで手段と割り切れるなら、Shopifyへの移行で素早く高品質なECを手に入れるほうが合理的です。

判断の際に必ず確認すべきは、移行の許容期間と予算、および現行ECのカスタマイズ量です。現行ECに数百の独自カスタマイズが存在する場合、SaaS移行では機能ギャップの棚卸しに数ヶ月を要し、ギャップを業務変革で吸収する経営コミットメントが必要です。「まずリホストで時間を稼ぎながら、2年後にSaaS移行する」という段階的アプローチも有効で、一発勝負のビッグバン移行を避けられる点でリスク管理上も優れています。

失敗しないEC刷新の進め方【5つのステップ】

EC刷新プロジェクトの進め方5ステップ

EC刷新が通常のシステム刷新と大きく異なる点は、稼働中の「収益を生む販売チャネル」を止めることなく切り替えなければならないプレッシャーが常に存在することです。準備不足のまま移行に踏み切った場合、注文データの消失・決済エラーの多発・SEO評価の急落・顧客の混乱という四重苦に見舞われます。以下の5ステップは、これらのリスクを体系的に制御しながら確実にゴールへ進むための実務手順です。

ステップ1:現行ECの棚卸し(機能・データ・外部連携の把握)

最初に行うべきは、現行ECシステムの徹底的な棚卸しです。調査対象は、画面上の機能一覧だけでなく、受注・在庫・会員・商品・ポイント・クーポン・ギフト・定期便などのデータテーブル構造、夜間バッチ処理のスケジュールと内容、外部システムとのAPI連携(物流倉庫WMS、基幹ERPシステム、メールマーケティングツール、広告計測タグなど)、そして社内で暗黙的に使われているExcelマクロや補助ツールに至るまで網羅する必要があります。

特にEC固有で見落とされやすいのが、決済代行との契約条項です。現行の決済代行会社との契約に「加盟店URL変更時の事前申請義務」や「ドメイン変更を伴う移行時の再審査」が定められている場合、移行スケジュールに審査期間(通常2〜4週間)を織り込む必要があります。この確認を怠ると、新ECへの切替と同時に決済機能が一時停止するという最悪の事態が発生します。棚卸しシートはカテゴリ別(機能・データ・連携・契約)に分けてスプレッドシートで管理し、各項目に「新ECへの移行要否」と「移行難易度」を記録するのが実務的なアプローチです。

ステップ2:繁忙期を避けた移行タイムライン策定【EC固有の視点】

EC刷新において、移行タイミングの選定は他業種のシステム刷新とは次元が異なる重要度を持ちます。通常のシステム刷新であれば「年度末を避ける」程度の配慮で済みますが、ECの場合は「移行できない時期」が複数存在し、これを無視したスケジュール設定は致命的な失敗につながります。

移行を避けるべき時期の代表例を挙げると、まず年末商戦(11月後半〜12月末)があります。ブラックフライデー・クリスマス・年末まとめ買いが集中するこの時期は、多くのEC事業者にとって年間売上の20〜30%が集中する最重要期間です。次に、自社の大型セール期間(バーゲン・周年セール・新商品ローンチ)の前後3週間は絶対に避けるべきです。さらに、物流倉庫の繁忙期(お中元・お歳暮など)も在庫データの正確性を求められる移行作業には不向きです。理想的な移行時期は、2月後半〜3月末または7月後半〜8月末など、ECの閑散期に当たる時期です。プロジェクト開始時に「移行禁止期間カレンダー」を作成し、ステークホルダー全員で共有することを強くお勧めします。

ステップ3:商品マスタ・注文履歴・会員データのクレンジング

EC固有のデータ移行課題として、特に難易度が高いのが商品マスタ・注文履歴・会員データの三種類です。これらは長年の運用でデータ品質が劣化していることが多く、そのまま新ECに移行すると検索・レコメンド・会員サービスのすべてに支障をきたします。

商品マスタについては、廃番商品の残存・カテゴリ分類の不統一・商品説明テキストの文字化け・画像ファイルとの紐付けミスが頻出します。注文履歴は顧客サポートの根拠として不可欠であり、移行漏れが発生すると「以前の注文が確認できない」というクレームが大量発生します。実際、ECの刷新移行後に注文履歴が参照できなくなった事例では、コールセンターへの問い合わせが一時的に300%増加したというケースも報告されています。会員データは、パスワードのハッシュ化方式が新旧プラットフォームで異なる場合、全会員に再設定を促す必要があり、会員離脱のリスクを伴います。データクレンジングには専任チームを編成し、プロジェクト全体工数の10〜15%に当たる3〜4ヶ月を確保するのが標準的な目安です。

ステップ4:決済代行・物流システムとの連携再整備

EC刷新において最も泥臭く、かつ最も失敗しやすい工程が、外部システムとの連携再整備です。特に決済代行と物流倉庫WMSとの連携は、事前の調整不足が本番稼働後のトラブルに直結するため、移行プロジェクトの早期段階から優先的に着手する必要があります。

決済代行との連携では、クレジットカード・代金引換・コンビニ払い・後払い・QRコード決済・ポイント払いなどの各手段について、新ECプラットフォームが提供するAPIと決済代行側のAPIの仕様突合せを行い、動作検証を完了させなければなりません。後払い決済(BNPL)のようにAPIバージョンの依存関係が厳しいサービスは、新ECのサンドボックス環境での完全な動作確認が必須です。物流倉庫WMSとの連携では、受注データの送信フォーマット・在庫引当のタイミング・出荷完了データの受信・返品・キャンセルフローの整合性を確認します。この部分のテストが不十分なまま本番稼働すると、二重出荷・在庫マイナス・返金処理の滞留が発生します。フリーランスエンジニアを活用する場合、平均月単価は78〜80万円が相場ですが、決済・物流連携の経験を持つスペシャリストは10万円以上高くなる傾向があります。

ステップ5:SEO継続性の確保(URLリダイレクト設計)

EC刷新でほぼ確実に発生するのが、URLの変更です。現行ECと新ECでプラットフォームが変われば、商品ページ・カテゴリページ・特集ページのURL構造が大きく変わります。このURL変更を適切なリダイレクト設定なしに本番稼働させると、Googleが認識していた旧URLへの被リンク評価・インデックス数・検索順位がすべて失われます。EC刷新後にオーガニック流入が半減以下になったという事例は国内でも複数報告されており、SEO資産の継承は移行における最重要課題のひとつです。

対策の基本は、旧URLから新URLへの301リダイレクト(恒久的移転)を漏れなく設定することです。具体的には、Screaming FrogなどのクロールツールとGoogle Search Consoleのデータを組み合わせて、現行ECのインデックス済みURL(数万〜数十万件になることもある)を全件抽出し、対応する新URLとの対応表を作成します。この作業は単純に見えて膨大な工数を要し、かつ漏れが許されないため、移行スケジュールに十分な余裕を確保する必要があります。加えて、構造化データ(JSON-LD形式のProductスキーマ・BreadcrumbListなど)が新ECでも正しく出力されているかをSearch Console経由で確認し、商品のリッチスニペット(評価星・価格表示)が維持されているかを移行後2〜4週間かけて検証します。

EC刷新で特に注意すべきリスクと対策

EC刷新のリスクと対策

EC刷新には、一般的なシステム刷新と共通するリスクに加え、EC固有のリスクが存在します。クラウドロックインの問題、移行後のSEO評価低下、そして並行稼働期間の設定とロールバック計画は、いずれも事前の設計と準備が不十分だった場合に取り返しのつかない損失をもたらします。それぞれについて、具体的な対策とともに解説します。

クラウドロックイン(Shopify依存)のリスクと脱出戦略

Shopifyは世界最大級のECプラットフォームとして絶大な実績を誇りますが、「Shopifyに依存しすぎる」ことのリスクについて、競合記事はほとんど言及していません。Shopifyロックインの問題は主に三つの側面から現れます。第一にカスタマイズの限界で、Shopify Liquidテンプレートの構造に縛られた表現の制約や、Shopify独自の機能モデルに合わない業務要件(複雑なBtoBの受注フロー・独自の在庫割当ルール・複数倉庫対応など)が、事業成長とともに障壁になる場合があります。

第二に料金改定リスクで、Shopifyは2024年以降、プレミアムアプリの価格引き上げや決済手数料の変更を繰り返しており、利用コストの予見可能性が低下しています。第三にデータポータビリティの問題で、Shopifyに蓄積された顧客データ・注文データを他プラットフォームに移行する際、標準の書き出し機能では取得できないデータ項目が存在することがあります。脱出戦略としては、初期設計段階からShopify標準機能の範囲内で業務を設計すること(ロックインを受け入れた上で活用する)か、将来の移行を考えてAPIレイヤーを介した疎結合設計にすることが有効です。重要な顧客データは定期的に外部バックアップを取得する運用を欠かさないようにしてください。

移行後のSEO評価低下を防ぐ手順

EC刷新後のSEO評価低下は、多くの担当者が実際に経験する深刻なリスクです。URLリダイレクトの設定が完璧だったとしても、移行後に検索順位が一時的に10〜20%程度低下することは珍しくなく、Googleがクロール・再評価を完了するまでに3〜6ヶ月かかる場合もあります。これは通常の変動の範囲内ですが、リダイレクト漏れや構造化データの欠落があると低下幅が大きくなります。

予防策として最も重要なのは、移行前の徹底的なSEO監査です。Google Search ConsoleとGoogle Analyticsのデータを最低3ヶ月分取得し、流入数が多いページ(上位100〜200URL)の優先度を特定します。これらの高価値URLについては、リダイレクト設定の確認を二重・三重にチェックします。移行後は毎週Google Search Consoleのカバレッジレポートを確認し、404エラーや「見つかりませんでした」の発生状況を追跡します。新URLが正しくインデックスされているかは、サイトマップのXMLを新ECに合わせて更新し、Search Consoleから送信することで促進できます。また、移行前後の検索順位を主要キーワードについて記録しておき、大きな変動が起きた場合の原因分析に活用します。

並行稼働期間の設定とロールバック計画

EC刷新の本番切替前には、新旧システムの並行稼働期間を設けることが強く推奨されます。ECにおける並行稼働とは、新ECの本番環境に実際の注文データを流しながら、旧ECでも同じ処理が正常に動作するかを確認する期間です。少なくとも2〜4週間、理想的には月次の決算処理を含む1〜2ヶ月の並行稼働を確保してください。

ロールバック計画は、万が一本番稼働後に重大な問題が発生した場合に旧ECへ戻すための手順書です。具体的には、旧ECの停止タイミングと旧ECへの切替手順、新EC稼働後に取り込まれた注文データの旧ECへの反映方法、DNSの切り戻し手順、コールセンターへの案内スクリプト変更などを文書化します。ロールバック実施の判断基準(例:決済エラー率が2%を超えた場合、または1時間に10件以上の重大エラーが発生した場合)もあらかじめ定量的に設定しておき、担当者の主観に左右されない判断ができる体制を整えます。ロールバック計画書は、IT部門だけでなく、EC事業部・コールセンター・物流部門のリーダー全員が事前に読んで合意しておく必要があります。

プロジェクト炎上時の「撤退の作法」

EC刷新プロジェクトの炎上と撤退戦略

どれほど周到に準備を進めても、プロジェクト途中で要件の破綻・ベンダーの能力不足・予算超過・開発遅延が重なり、「このまま続けるべきか撤退すべきか」という局面に立たされることがあります。特にEC刷新では、「年末商戦に間に合わせる」というビジネス上の期限が存在することが多く、焦りから冷静な判断ができなくなるケースが後を絶ちません。撤退は敗北ではなく、損失を最小化する経営判断であり、適切な方法論として学んでおくべきテーマです。

サンクコストをいつ切り捨てるか:判断基準

撤退判断が遅れる最大の原因は「ここまで投じた費用が無駄になる」というサンクコストの呪縛です。意思決定論の観点では、すでに支出した費用は将来の判断に影響させてはならないとされますが、現実のプロジェクト現場ではこれが難しい。判断基準として実務的に有効なのは、次の四点を定量評価することです。第一に「追加投資額と得られる期待効果の比」。さらに数千万円を投じて本当に稼働できるのかを、楽観的でなく保守的に見積もります。第二に「残工程の現実性」。稼働予定日まで残り3ヶ月なのに、テスト工程すら始まっていない状況は、どう考えても達成不可能です。

第三に「現場の疲弊度と離職リスク」。EC運営の実務担当者が刷新対応で疲弊し、離職が発生し始めている場合、プロジェクトの継続コストに人的損失を加算する必要があります。第四に「ビジネス機会損失」。刷新が長引く間も競合他社は先行しており、機能追加・SEO対応・新決済手段の導入が遅れ続けることのビジネス損失を直視します。これらの評価が「撤退してリセットしたほうが合理的」という結論を示した場合は、第三者PMOやITコンサルタントに客観評価を依頼して撤退の是非を中立的に判断してもらうことを推奨します。内部だけで判断すると、感情的バイアスが入りがちです。

契約形態別(請負/準委任)の解除手続きと責任分解

撤退時に最も揉めるのが、契約上の責任分解です。EC刷新の開発委託には請負契約と準委任契約の二種類があり、それぞれ解除時の権利と義務が異なります。請負契約(完成責任あり)の場合、ベンダー側は完成義務を負うため、重大な完成遅延・品質不良があれば発注者側は債務不履行として契約解除と損害賠償請求が可能です。ただし「重大な不履行かどうか」の認定が争点になりやすく、訴訟になると長期化します。準委任契約(業務遂行責任)では、成果物の完成は義務とされないため、解除理由の立て付けと精算方法が問題になります。

実務的な対策として最も重要なのは、プロジェクト開始前の契約書に「撤退条項」を明文化することです。具体的には、中間成果物(要件定義書・設計書・ソースコード・テストケース)の著作権帰属と引渡し義務、既払報酬と未完成部分の精算方法、機密保持義務の継続期間、そして紛争発生時の管轄裁判所と調停手続きを定めておきます。撤退を想定した条項を入れることがプロジェクトへの不信感を示すと思われるかもしれませんが、むしろ「お互いの責任範囲を明確にしている」という健全な契約管理の証であり、真摯な開発パートナーであれば合理的な条項として受け入れるはずです。

まとめ

EC刷新のまとめ

EC刷新は、レガシーECシステムの問題点の把握から始まり、手法選定・タイムライン策定・データクレンジング・外部連携再整備・SEO継続性確保・並行稼働・ロールバック計画まで、ECビジネス固有の視点を持って進める長期戦のプロジェクトです。通常のシステム刷新とは異なり、年中無休で売上を生む販売チャネルを止めずに刷新するという制約が常に存在するため、繁忙期カレンダーと連動した移行タイミングの判断が特に重要です。

Shopifyをはじめとするクラウド型ECプラットフォームへの移行は、インフラ管理コストの削減と機能充実を同時に実現できる有力な選択肢ですが、プラットフォームへの過度な依存がもたらすロックインリスクを認識した上で選定・設計することが中長期的な経営安定につながります。コンポーザブルコマースというアーキテクチャは、この問題への一つの回答として注目されており、規模と技術力を持つEC事業者にとってはますます現実的な選択肢になっています。

注文履歴の移行漏れによるコールセンター問い合わせ急増・URLリダイレクト漏れによるSEO評価の急落・繁忙期移行による決済トラブル——EC刷新の典型的な失敗パターンは、いずれも事前準備の充実で予防可能なものです。本記事で解説した5つのステップと各リスク対策を羅針盤として、自社のEC刷新プロジェクトを成功へ導いてください。

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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。