EC刷新の進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

EC刷新は、稼働中の販売チャネルを止めずに基盤を新しくする取り組みです。進め方は、手法の選定、棚卸し、データ移行、SEO継続性の確保へと順に進みます。

ECの古さや移行中の売上への不安を抱える担当者は、年々増えています。全体像は次の全体ガイドにまとめています。

▼全体ガイドの記事
・EC刷新の完全ガイド

EC刷新の定義と取り組む背景

EC刷新を中心に、受注管理、在庫管理、決済、物流連携を放射状に配置した図解。
刷新の対象は画面だけでなく、受注や会員を支える基盤にも広がります。

EC刷新とは、老朽化・陳腐化した既存のECサイト(電子商取引システム)を新しいプラットフォームやアーキテクチャに移行し、機能・性能・セキュリティを抜本的に高める取り組みです。

単なるデザインリニューアルやページ追加とは違い、受注管理・在庫管理・決済・会員管理・物流連携などのバックエンド機能を含めて基盤ごと置き換えるところに、刷新の本質があります。ECサイトの刷新は、24時間365日稼働し続ける販売チャネルを止めずに切り替える、難易度の高い挑戦です。

レガシーECシステムの定義と具体的な問題点

レガシーECシステムとは、リリースから長い年月が経ち、技術スタックの老朽化、カスタマイズの蓄積、外部連携の複雑化によって改修や運用が難しくなったECサイトを指します。典型例は、2000年代後半から2010年代前半に構築されたオンプレミス型の自社開発ECや、サポートが終了したパッケージ製品(例:古いEC-CUBEのメジャーバージョン、Magento 1系など)です。

第一は、スマートフォン対応の不完全さです。ECの購買トラフィックの60〜70%はスマートフォン経由ですが、レガシーECはPCファーストで設計されていることが多く、モバイルでの使いづらさが離脱と売上損失に直結します。第二は表示速度の低下で、Googleが定義するCore Web Vitalsの指標(LCP 2.5秒以内が目標)を満たせないと、検索順位の低下とコンバージョン率の悪化を同時に招きます。

実際、Akamai社の調査によれば、ページ表示が1秒遅れるごとにコンバージョン率が約7%低下するとされ、表示速度の問題は直接的な売上損失につながります。第三はセキュリティリスクです。PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ基準)への対応が難しくなり、決済代行会社から利用停止を求められるケースも実際に起きています。

放置した場合のリスク(セキュリティ・売上損失・SEO低下)

年間保守費用は初期開発費の15〜20%が目安とされますが、ブラックボックス化したレガシーECでは、小さな機能追加にも多大な工数がかかります。保守費は膨らむ一方で競争力は落ちるという悪循環に陥ります。EC刷新を先送りし続けると、リスクは三つの層で積み重なります。

  • セキュリティ:サポートが終わったOS、PHPバージョン、CMSコアには脆弱性の修正が届かず、クレジットカード情報の漏えいリスクが高まります。
  • 売上損失:競合が最新の機能や決済手段を整えるなか、レガシーECは選択肢の少なさと使いづらさで顧客を逃し続けます。
  • SEO低下:表示速度の低下、HTTPSへの対応遅れ、構造化データの未実装が重なると、検索順位が継続的に下がります。

特に、自然検索が主な集客源のECでは、SEO低下の影響が深刻です。

2023年以降、不正アクセスによるEC情報漏えいの報告件数は急増しています。被害が出ると、調査費用・通知費用・損害賠償に加え、ブランドへの信頼失墜という長期的な損失も生じます。

競合が整えている機能や決済手段の例は、UI/UXやパーソナライゼーション、後払い・コンビニ・QRコード決済などです。

ポイント

刷新を判断するときは、既存ECが改修や保守の限界に来ているかと、先送りしたときの売上・セキュリティ・SEOの損失を並べて見てください。

EC刷新の手法の比較

EC刷新の手法は、大きく三つの方向性に分けられます。インフラやミドルウェアだけを刷新する「リホスト・リプラットフォーム」、SaaSのECプラットフォームに乗り換える「リプラットフォーム(SaaS移行)」、ゼロから作り直す「リビルド」です。

さらに近年は、これらを超える最新のアーキテクチャとして「コンポーザブルコマース(Headless Commerce)」が注目されています。自社の規模・予算・技術力・事業戦略に合う手法を選ぶことが、EC刷新を成功させる出発点になります。

リホスト・リプラットフォーム(SaaS移行:Shopify等)

リホストは、サーバーだけをクラウドに移す最もシンプルな手法です。アプリケーションのコードには手を入れないため移行期間が短く、3〜6ヶ月で完了するケースもあります。ただし、技術的負債を残したまま移行するため「刷新したつもり」になりやすく、クラウド移行後もパフォーマンスやセキュリティの根本問題は残ります。

SaaS移行(リプラットフォーム)は、ECプラットフォームに乗り換える手法です。乗り換え先には、Shopify・Shopify Plus・commercetools・Salesforce Commerce Cloud・BigCommerceなどがあります。Shopifyは月額約3,000円(Basic)から始まり、大規模向けのShopify Plusは月額約50万円程度です。

一方で、インフラ管理・セキュリティ対応・決済機能の維持コストがほぼゼロになるため、中長期的なTCO(総保有コスト)は大幅に削減できます。SaaS移行の最大の課題は、プラットフォームの制約の中で自社業務を合わせることです。高度にカスタマイズされたレガシーECを持つ企業ほど、機能ギャップを業務改革で吸収するか、有料アプリやAPI連携で補完するかの判断が求められます。

リビルド(スクラッチ再構築)

リビルドは、現行ECの機能を参考にしつつ、ゼロベースで新しいアーキテクチャから作り直す手法です。自社独自の業務フロー、複雑な受注ルール、独自の会員ランク制度、複数ブランドの統合管理など、既製品のプラットフォームでは賄えない要件を持つ大規模ECに適しています。

ファッションや家電の大手EC事業者が、独自の推薦エンジン・在庫割当ロジック・販促ルールを強みにしている場合、スクラッチ開発でその競争優位を保ち続けることには合理性があります。一方で、リビルドの費用は数千万円から数億円規模に及び、開発期間も2〜4年に達することは珍しくありません。

スルガ銀行と日本IBMのシステム刷新訴訟(約95億円の白紙撤回)は銀行基幹系の事例ですが、EC領域でも「要件の詰め不足と仕様変更の応酬」によるプロジェクトの炎上は後を絶ちません。リビルドを選ぶ場合は、要件定義に最低でも全体工数の20〜30%を投じる覚悟と、アジャイル開発による小刻みなリリース戦略が不可欠です。

コンポーザブルコマース(Headless Commerce)という最新選択肢

コンポーザブルコマースとは、ECの機能を「ヘッドレス(フロントエンドとバックエンドの分離)」で組み合わせる最新のアーキテクチャです。フロントエンドにはNext.jsやNuxt.jsを使ったJamstackサイトを置き、バックエンドのカート・在庫・決済・検索・CMSは、それぞれ最適なSaaSをAPIで接続します。

機能ごとのSaaSの候補は、コマースエンジン、CMS、検索、決済の4つの領域に分けて見ると整理できます。

  • コマースエンジン:commercetools、Elastic Path
  • CMS:Contentful、Sanity
  • 検索:Algolia、Bloomsreach
  • 決済:Stripe

最大のメリットは、各機能を独立してアップグレードや差し替えできる柔軟性です。決済代行会社を変える場合も、決済モジュールだけを入れ替えれば済み、他の機能に影響を与えません。

デメリットは次の2つです。

  • 運用の負担:APIの設計・管理・監視が複雑になること
  • 契約費用の増加:複数のSaaS契約費用が積み重なること

月額の運用コストはShopifyより高くなることが多いため、年商10億円以上の中大規模EC事業者向けの選択肢といえます。

自社に合った手法の選び方

手法選定の要は、自社のECで「競争優位の源泉がどこにあるか」を問うことです。UIのブランド表現力や独自の購買体験が差別化の要因であれば、表現の自由度が高いHeadlessやリビルドが適しています。一方で、標準的なECビジネスで競争優位が商品力や価格にあり、システムはあくまで手段と割り切れるなら、Shopifyへの移行で素早く高品質なECを手に入れるほうが合理的です。

判断の際に必ず確認すべきは、移行の許容期間と予算、そして現行ECのカスタマイズ量です。現行ECに数百の独自カスタマイズがある場合、SaaS移行では機能のギャップを洗い出すだけで数ヶ月を要し、ギャップを業務変革で吸収する経営判断が必要になります。

「まずリホストで時間を稼ぎながら、2年後にSaaS移行する」という段階的なアプローチも有効です。一発勝負のビッグバン移行を避けられるため、リスク管理の面でも優れています。

ポイント

手法は、自社の競争優位が表現やバックエンドの独自性にあるか、商品力や価格にあるかで選びます。移行期間や予算、現行ECのカスタマイズ量も判断材料にしてください。

失敗しないEC刷新の進め方【5つのステップ】

現行ECの棚卸しから移行タイムライン策定、データクレンジング、外部連携再整備、SEO継続性の確保へ進む5段階の図解。
準備からSEO対策まで、切り替え前に扱う工程を順番に追えます。

EC刷新が通常のシステム刷新と大きく異なるのは、稼働中の「収益を生む販売チャネル」を止めずに切り替えなければならない、というプレッシャーが常にある点です。

準備が不足したまま移行に踏み切ると、注文データの消失、決済エラーの多発、SEO評価の急落、顧客の混乱という四重苦に見舞われます。そこで、次の5つのステップで、これらのリスクを体系的に抑えながらゴールへ進めます。

ステップ1:現行ECの棚卸し(機能・データ・外部連携の把握)

最初に行うべきは、現行ECシステムの徹底的な棚卸しです。調査の対象は、画面上の機能一覧だけでなく、データ構造、夜間処理、外部連携、社内ツールにまで広げます。

  • データ:受注・在庫・会員・商品・ポイント・クーポン・ギフト・定期便
  • 夜間処理:バッチ処理のスケジュールと内容
  • 外部連携:物流倉庫WMS、基幹ERP、メールマーケティング、広告計測タグ
  • 社内ツール:Excelマクロや補助ツールの利用状況

特にEC固有で見落とされやすいのが、決済代行との契約条項です。現行の決済代行会社との契約に「加盟店URL変更時の事前申請義務」や「ドメイン変更を伴う移行時の再審査」が定められている場合、移行スケジュールに審査期間(通常2〜4週間)を織り込む必要があります。

この確認を怠ると、新ECへの切り替えと同時に決済機能が一時停止するという、最悪の事態が起きます。棚卸しシートは、カテゴリ別(機能・データ・連携・契約)に分けてスプレッドシートで管理します。各項目に「新ECへの移行要否」と「移行難易度」を記録するのが、実務的なやり方です。

ステップ2:繁忙期を避けた移行タイムライン策定【EC固有の視点】

EC刷新では、移行のタイミングを選ぶことが、他業種のシステム刷新とは重要度の次元が違います。通常のシステム刷新なら「年度末を避ける」程度の配慮で済みますが、ECでは「移行できない時期」が複数あり、これを無視したスケジュールは致命的な失敗につながります。

移行を避けるべき代表例は、まず年末商戦(11月後半〜12月末)です。ブラックフライデー、クリスマス、年末まとめ買いが集中するこの時期は、多くのEC事業者にとって年間売上の20〜30%を占める最重要期間です。次に、自社の大型セール期間(バーゲン、周年セール、新商品ローンチ)の前後3週間は、絶対に避けるべきです。

さらに、物流倉庫の繁忙期(お中元・お歳暮など)も、在庫データの正確性が求められる移行作業には不向きです。理想的な移行時期は、2月後半〜3月末や7月後半〜8月末など、ECの閑散期に当たる時期です。そのうえで、プロジェクト開始時に「移行禁止期間カレンダー」を作り、ステークホルダー全員で共有することを強くお勧めします。

ステップ3:商品マスタ・注文履歴・会員データのクレンジング

EC固有のデータ移行では、商品マスタ、注文履歴、会員データの三種類の難易度が特に高くなります。これらは長年の運用で品質が劣化していることが多く、そのまま移すと検索、レコメンド、会員サービスに支障が出ます。そのうえで、データクレンジングには専任チームを編成し、プロジェクト全体工数の10〜15%に当たる3〜4ヶ月を確保するのが標準的な目安です。

商品マスタでは、廃番商品の残存、カテゴリ分類の不統一、文字化け、画像との紐付けミスが頻繁に起きます。注文履歴は顧客サポートの根拠として欠かせず、移行漏れがあると「以前の注文が確認できない」というクレームが大量に出ます。

実際、刷新後に注文履歴が参照できなくなった事例では、コールセンターへの問い合わせが一時的に300%増えたと報告されています。会員データは、パスワードのハッシュ化方式が新旧で異なる場合、全会員に再設定を促す必要があり、離脱のリスクを伴います。

ステップ4:決済代行・物流システムとの連携再整備

EC刷新で最も手間がかかり、最も失敗しやすいのが、外部システムとの連携の再整備です。特に決済代行と物流倉庫WMSとの連携は、事前の調整が不十分だと本番稼働後のトラブルに直結するため、移行プロジェクトの早い段階から優先して着手する必要があります。

決済代行との連携では、クレジットカード、代金引換、コンビニ払い、後払い、QRコード決済などの各手段について、新ECのAPIと決済代行側のAPIの仕様を突き合わせ、動作検証を完了させる必要があります。後払い決済(BNPL)のようにAPIのバージョン依存が厳しいサービスは、新ECのサンドボックス環境での完全な動作確認が必須です。

物流倉庫WMSとの連携では、受注データの送信フォーマット、在庫引当のタイミング、出荷完了データの受信、返品・キャンセルの流れを確認します。こうした確認が不十分だと、二重出荷、在庫のマイナス、返金処理の滞留が起きます。フリーランスエンジニアの平均月単価は78〜80万円が相場で、決済・物流連携の経験者はそれより10万円以上高い傾向があります。

ステップ5:SEO継続性の確保(URLリダイレクト設計)

EC刷新でほぼ確実に起きるのが、URLの変更です。新旧でプラットフォームが変わると、商品ページやカテゴリページのURL構造は大きく変わります。適切なリダイレクト設定がないまま本番稼働させると、旧URLが持っていた被リンク評価、インデックス数、検索順位がすべて失われます。

EC刷新後にオーガニック流入が半減以下になった事例は国内でも複数あり、SEO資産の継承は移行の最重要課題のひとつです。そこで、旧URLから新URLへの301リダイレクト(恒久的移転)を漏れなく設定します。クロールツールのScreaming FrogとGoogle Search Consoleのデータを組み合わせ、インデックス済みURL(数万〜数十万件のこともある)を全件抽出して対応表を作ります。

この作業は単純に見えて工数が膨大で、漏れも許されないため、余裕のある移行スケジュールが要ります。加えて、構造化データ(JSON-LD形式のProductスキーマ・BreadcrumbListなど)が新ECでも正しく出力されているかを、Search Console経由で確認します。商品のリッチスニペット(評価星・価格表示)は、移行後2〜4週間かけて維持を検証します。

ポイント

5つのステップは、現行ECの棚卸しから始めて、移行時期、データ、外部連携、SEOの順に確かめる流れです。どこかに抜けがあると、稼働後のトラブルに直結します。

EC刷新で特に注意すべきリスクと対策

クラウドロックイン、移行後のSEO評価低下、並行稼働期間とロールバック計画の3領域を並べた図解。
三つの領域を並べると、準備の焦点を切り分けて考えられます。

EC刷新には、一般的なシステム刷新と共通するリスクに加えて、EC固有のリスクもあります。

クラウドロックイン、移行後のSEO評価低下、並行稼働とロールバック計画は、いずれも事前の設計と準備が不十分だと取り返しのつかない損失につながります。それぞれの具体的な対策を、順に見ていきます。

クラウドロックイン(Shopify依存)のリスクと脱出戦略

Shopifyは世界最大級のECプラットフォームですが、「Shopifyに依存しすぎる」ことのリスクは、競合記事でもほとんど触れられていません。ロックインは主に三つの側面から現れます。

  • カスタマイズの限界:Liquidテンプレートの構造に縛られた表現の制約や、独自の機能モデルに合わない業務要件が、事業成長の障壁になることがあります。
  • 料金改定:Shopifyは2024年以降、プレミアムアプリの価格引き上げや決済手数料の変更を繰り返しており、利用コストを見通しにくくなっています。
  • データポータビリティ:蓄積した顧客データや注文データを他のプラットフォームに移す際、標準の書き出し機能では取得できない項目が存在することがあります。

業務要件の例は、複雑なBtoBの受注フロー、独自の在庫割当ルール、複数倉庫対応などです。

脱出戦略としては、初期設計の段階からShopify標準機能の範囲で業務を設計するか(ロックインを受け入れたうえで活用する)、APIレイヤーを介した疎結合の設計にしておくことが有効です。そのうえで、重要な顧客データは定期的に外部へバックアップを取る運用を、欠かさないようにしてください。

移行後のSEO評価低下を防ぐ手順

EC刷新後のSEO評価低下は、多くの担当者が経験する深刻なリスクです。URLリダイレクトの設定が完璧でも、移行後に検索順位が一時的に10〜20%程度下がることは珍しくなく、Googleがクロールと再評価を完了するまで3〜6ヶ月かかる場合もあります。これは通常の変動の範囲内ですが、リダイレクト漏れや構造化データの欠落があると低下幅が大きくなります。

予防策として最も重要なのは、移行前の徹底的なSEO監査です。Google Search ConsoleとGoogle Analyticsのデータを最低3ヶ月分取得し、流入数が多いページ(上位100〜200URL)の優先度を特定します。これらの高価値URLは、リダイレクト設定を二重・三重にチェックします。

移行後は毎週Search Consoleのカバレッジレポートを確認し、404エラーや「見つかりませんでした」の発生状況を追跡します。新URLの正しいインデックスは、サイトマップXMLを新ECに合わせて更新し、Search Consoleから送信することで促せます。また、移行前後の検索順位を主要キーワードごとに記録しておき、大きな変動の原因分析に使います。

並行稼働期間の設定とロールバック計画

EC刷新の本番切替前には、新旧システムの並行稼働期間を設けることが強く推奨されます。並行稼働とは、新ECの本番環境に実際の注文データを流しながら、旧ECでも同じ処理が正常に動くかを確かめる期間です。少なくとも2〜4週間、理想的には月次の決算処理を含む1〜2ヶ月を確保してください。

ロールバック計画は、本番稼働後に重大な問題が起きた場合に旧ECへ戻すための手順書です。具体的には、旧ECの停止タイミングと切替手順、新EC稼働後に取り込まれた注文データの反映方法、DNSの切り戻し手順、コールセンターへの案内スクリプト変更などを文書化します。

ロールバックを実施する判断基準(例:決済エラー率が2%を超えた場合、または1時間に10件以上の重大エラーが発生した場合)も、あらかじめ定量的に決めておき、担当者の主観に左右されない体制を整えます。計画書は、IT部門だけでなく、EC事業部・コールセンター・物流部門のリーダー全員が事前に読んで合意しておく必要があります。

ポイント

リスクは、クラウドへの依存、移行後のSEO評価、並行稼働とロールバックの三つを中心に、事前の設計で抑えられるかを見ます。

プロジェクト炎上時の「撤退の作法」

どれほど周到に準備しても、プロジェクトの途中で要件の破綻、ベンダーの能力不足、予算超過、開発遅延が重なり、「このまま続けるか撤退するか」という局面に立たされることがあります。

特にEC刷新では「年末商戦に間に合わせる」というビジネス上の期限があることが多く、焦りから冷静な判断ができなくなるケースが後を絶ちません。撤退は損失を最小化するための経営判断であり、適切な方法論として学んでおくべきテーマです。

サンクコストをいつ切り捨てるか:判断基準

撤退判断が遅れる最大の原因は、「ここまで投じた費用が無駄になる」というサンクコストです。意思決定論では、すでに支出した費用は将来の判断に影響させてはならないとされますが、現実のプロジェクトでは、これが難しいのが実情です。次の四点を定量的に評価すると、判断の材料になります。第一は追加投資額と期待効果の比で、本当に稼働できるかを保守的に見積もります。

第二は残工程の現実性で、稼働まで3ヶ月なのにテスト工程すら始まっていなければ、達成は困難です。第三は現場の疲弊度と離職リスクです。実務担当者が疲弊して離職が始まっていれば、継続コストに人的損失を加えて考える必要があります。第四はビジネス機会損失で、刷新が長引くほど、競合の先行による機能追加やSEO対応、新決済手段の導入の遅れを直視します。

これらの評価が「撤退してリセットしたほうが合理的」と示した場合は、第三者のPMOやITコンサルタントに客観評価を依頼し、撤退の是非を中立的に判断してもらうことを推奨します。内部だけで判断すると、感情的なバイアスが入りがちです。

契約形態別(請負/準委任)の解除手続きと責任分解

撤退時に最も揉めるのが、契約上の責任分解です。EC刷新の開発委託は請負契約と準委任契約があり、解除時の権利と義務が異なります。請負契約(完成責任あり)では、ベンダーは完成義務を負うため、重大な完成遅延や品質不良があれば、発注者は債務不履行として解除と損害賠償請求ができます。

ただし「重大な不履行かどうか」の認定が争点になりやすく、訴訟になると長期化します。準委任契約(業務遂行責任)では成果物の完成は義務とされないため、解除理由の立て付けと精算方法が問題になります。実務上最も重要な対策は、開始前の契約書に「撤退条項」を明文化することです。

具体的には、中間成果物(要件定義書・設計書・ソースコード・テストケース)の著作権帰属と引渡し義務、既払報酬と未完成部分の精算方法、機密保持義務の継続期間、紛争時の管轄裁判所と調停手続きを定めておきます。撤退を想定した条項は不信感の表れに見えるかもしれませんが、責任範囲を明確にする健全な契約管理です。真摯な開発パートナーなら、合理的な条項として受け入れるはずです。

ポイント

撤退を判断するときは、追加投資に見合う効果があるか、残工程が現実的かを数字で比べます。契約上の撤退条項があるかも、判断を続ける前に確かめておきたい点です。

まとめ

EC刷新は、レガシーECの問題点の把握から始まり、手法の選定、移行時期の設定を経て、ECビジネス固有の視点で進める長期のプロジェクトです。

移行の本番前に押さえたい作業は、次の四つです。

  • データクレンジング:商品マスタ、注文履歴、会員データの整備
  • 外部連携の再整備:決済代行会社や物流倉庫WMSとの連携
  • SEO継続性の確保:URLリダイレクトと構造化データの維持
  • 並行稼働とロールバック計画:新旧両方の稼働期間と、旧ECへ戻すための手順

通常のシステム刷新と違い、年中無休で売上を生む販売チャネルを止めずに刷新する制約が常にあるため、繁忙期を踏まえた移行時期の判断が特に重要です。

Shopifyをはじめとするクラウド型ECプラットフォームへの移行は、インフラ管理コストの削減と機能充実を同時に実現できる有力な選択肢です。一方で、プラットフォームへの過度な依存によるロックインリスクを認識したうえで選定・設計することが、中長期の経営の安定につながります。

コンポーザブルコマースは、この問題への一つの答えとして注目されており、規模と技術力を持つEC事業者にとって、ますます現実的な選択肢になっています。

注文履歴の移行漏れによるコールセンターへの問い合わせ急増、URLリダイレクト漏れによるSEO評価の急落、繁忙期の移行による決済トラブル。EC刷新の典型的な失敗パターンは、いずれも事前準備の充実で防げます。

本記事の5つのステップと各リスクへの対策を手がかりに、自社のEC刷新を成功へ導いてください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。