ECリアーキテクチャの選定ポイント/選び方/種類

ECリアーキテクチャは全体を一度に作り替えず、課題の大きい業務ドメインから進めるのが基本です。

ただし、移行の範囲と体制が合わないと、サービスを分けても密結合が残ります。比べる観点は、着手前の課題整理から段階移行、PoCまでです。本テーマの全体像は、以下の記事にまとめています。

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・ECリアーキテクチャの完全ガイド

ECリアーキテクチャ着手前に整理すべき自社の課題

まず、現在のEC基盤のどこで変化に対応できていないかを整理します。課題の場所がはっきりするほど、先に切り出す業務ドメインと移行方式を選びやすくなります。

機能追加のリードタイムが課題かどうかの確認

全体のテストと全体のデプロイに時間がかかるなら、API-first化を優先します。変更の多い領域から切り出せば、チームごとに並行して開発を進められます。

また、先に契約を定義しておけば、統合作業や仕様変更の影響範囲を事前に確認できます。そのうえで、最初から全領域を分解せず、変更が多い機能を候補に絞ることが大切です。

特定機能への負荷集中が課題かどうかの確認

セール時に検索やチェックアウトだけが詰まり、全体を過剰に拡張しているなら、負荷の高い機能を独立して拡張できる構成を検討します。まずは負荷の集中箇所を特定し、影響の大きい機能から段階的に切り出します。

たとえば、検索だけを独立させれば、繁忙期は検索側を増強し、平常時は小さく運用できます。課題のある機能だけを対象にすると、移行の範囲と運用コストを抑えられます。

ポイント

EC基盤のどこで変化に対応できていないかを、機能追加の遅さや特定機能への負荷集中で切り分けます。課題の場所が決まってから、先に切り出す業務ドメインと移行方式を選びます。

ECリアーキテクチャの3つのアプローチ

フルMACH移行、部分的分解、コンポーザブル型を並べた3方式の図解
全体移行から機能単位の置き換えまで、方式の範囲を見比べられます。

進め方は、フルMACH移行、部分的分解、コンポーザブル型の置き換えに分けられます。選ぶ際は、トラフィック規模や体制を見たうえで、投資余力と止められない業務の範囲も確認します。

  • フルMACH移行:全体を再設計できる体制と運用力があるときに選ぶ方式。
  • 部分的分解:重要な業務ドメインから順に置き換えていく方式。
  • コンポーザブル型:特定機能を外部サービスへ置き換える方式。

フルMACH移行の前提となるトラフィック規模と開発体制

フルMACH移行は、4要素を組み合わせて全体を作り直す方式です。複数のサービスを独立して運用できる規模と体制が前提になります。

体制が足りないまま分割を進めると、サービス間の依存が残った分散型モノリスになりかねません。そこで、全体移行を選ぶ際は、開発だけでなく運用まで担えるかを確かめます。

コア業務ドメインから段階的に切り出す部分的分解

部分的分解は、カートや決済など中核の業務ドメインを先にサービス化し、残りは既存の構成で動かす方式です。既存システムを稼働させたまま進められるため、事業を止められない場合に適しています。

APIゲートウェイで新旧の処理を切り替え、パラレルランで出力を比べれば、切り替え前に不具合を見つけられます。なお、最初の対象は、効果と切り出しやすさの両方から選びます。

特定機能のSaaS置き換えから始めるコンポーザブル型

コンポーザブル型は、既存のEC基盤を残し、検索や決済など特定機能だけを外部のSaaSへ置き換える方式です。全体を変えずに始めやすい一方で、連携先が増えるほど構成が複雑になる可能性があります。

採用の前に、発注側と開発会社で、対象機能の境界、APIの責任範囲、障害時の代替手段を決めておきます。小さく始められることと、連携を管理し続けられることを、セットで判断します。

ポイント

体制と運用力が十分であれば全体移行を検討し、不足していれば部分的分解やコンポーザブル型から始めるのが目安です。トラフィック規模と止められない業務の範囲も、選択の材料になります。

技術選定で比べる評価軸

ドメイン分解の粒度、API設計、データ整合性、可観測性を示す確認カードの図解
候補ごとに同じ4項目を確かめる構成です。

方式を絞ったら、技術要素と体制を同じ質問で比べます。候補ごとの回答と根拠をそろえておくと、説明のわかりやすさだけで判断するリスクを減らせます。

ドメイン分解の粒度とAPI設計の確認

まず、業務上の境界とサービスの境界が合っているかを確認します。細かく分けすぎると通信や運用の負担が増えるため、最初は主要なコアドメインに絞って妥当性を検証します。

APIについては、契約の定義方法、契約テストをCI/CDへ組み込めるか、モックで先行開発できるかを見ます。候補ごとに、実際の検証方法まで確認してください。

データ整合性とオブザーバビリティ基盤の確認

サービス間でデータを分ける場合は、非同期イベントや補償処理で整合性を保つ方法を確認し、障害時にどの状態を正とするかまでPoCで確かめます。リクエストを一つのトレースIDで追えるかも見ておきます。特に、可観測性を後回しにすると、障害の切り分けに必要な情報が足りなくなります。

インフラでは、APIゲートウェイやコンテナ基盤などの運用負担と、サービスメッシュによるリソース増加を比べます。機能の費用だけでなく、運用を続けるための負担も見積もります。

また、組織面では、サービス単位の責任者、DevOpsやSREの人材、既存システムからの移行手順を確認します。ルーティング、カナリアリリース、ロールバックの仕組みがあるかも、評価の対象にします。

ポイント

境界やAPI、データ整合性、運用体制を候補ごとに同じ質問で比べ、回答の根拠まで確かめます。説明のわかりやすさだけで選ぶと、稼働後の運用で困る場面が生じかねません。

独自開発・既存SaaS・ベストオブブリードの判断基準

競争優位性と、業務要件が変わる頻度を軸に、内製する領域と外部サービスを使う領域を分けます。すべてを自社で開発する必要はないため、この線引きが大切になります。

競争優位性に直結する領域の独自開発

顧客体験や競争優位性に直結し、要件変更も多い領域は内製を検討します。たとえば、自社独自の販促やレコメンデーションなどは、事業の変化に合わせて仕様を変えられることに投資の価値があります。

ベストオブブリードで組み合わせるコモディティ機能

共通性が高い機能は、SaaSや専門サービスの利用が合理的な場合があります。決済や在庫管理がその例で、通知や検索も、外部に任せやすい機能です。また、既存のコンポーネントが要件を満たさないときは、該当する機能だけを置き換える選択肢もあります。

ただし、外部連携が増えるほど、契約や障害対応の管理に手間がかかります。そのため、必要な機能だけを入れ替えられるAPI設計と、どこまでを誰が受け持つかの線引きを先に整えておきます。

ポイント

競争優位性に直結し要件変更の多い領域は内製を、共通性の高い機能はSaaSを検討します。外部連携が増えるほど、契約と障害対応の管理が重くなります。

段階移行の進め方

選んだ方式は、いきなり全社へ広げず、フェーズに分けて進めます。各段階の達成条件を先に決めておくと、次へ進むか立ち止まるかを判断しやすくなります。

パイロットフェーズの達成指標

パイロットでは、最初のモジュールをAPIとサービスに分けられたか、CI/CDを自動化できたか、既存システムから切り離せたかを確認します。この段階では、ROIだけでなく、技術検証と基盤整備の達成度で評価します。

MVPフェーズ以降の投資回収の見込み

MVP以降は、ビジネス価値、コスト、業務プロセスの変化を確かめながら本番範囲を広げます。初期は効果が小さい可能性もあるため、経営層と評価期間を共有しておきます。

フェーズごとの指標を事前に決めておけば、投資を続けるかどうかを担当者の感覚に頼らず判断できます。さらに、次の移行条件と戻す条件を同じ表で管理すると安全です。

PoC・技術検証で確認すべき項目

PoCを中心にデータ境界、API契約、レイテンシ、障害時の縮退を配置した図解
正常時の性能と障害時の振る舞いをまとめて見渡せます。

PoCでは、資料の比較では見えない実現可能性と、障害時の振る舞いを確かめます。対象はカートや決済など1〜2のコア機能に絞り、正常系と例外系を同じ条件で検証します。

境界づけられたコンテキストとAPI契約の検証

PoCでは、サービスごとのデータ境界が業務の境界と合っているかを確認します。さらに、DTOを介した連携や、契約テストをCI/CDに組み込む方法、モックによる先行開発まで実際に試します。

レイテンシとレジリエンスパターンの検証

レイテンシはp50・p95・p99で測り、同期通信の詰まりを確認します。また、サーキットブレーカー、リトライ、タイムアウトが、遅延やサービス停止時に適切な縮退へつながるかも試します。

サービスメッシュを使う場合は、サイドカーのCPUとメモリ消費を監視します。さらに、本番規模へ広げる前に、負荷と障害を与えたときの傾向を記録します。

ポイント

PoCは1〜2のコア機能に絞り、正常系と例外系を同じ条件で動かします。データ境界、API契約、レイテンシ、障害時の縮退まで試し、通常時の結果だけで判断しないことが大切です。

ECリアーキテクチャ選定前に確認しておきたいポイント

方式と評価軸を整理した後は、契約や体制に関する見落としがないかを確認します。技術だけでなく、選定後に運用を続けられるかも判断材料に加えます。

特定ベンダーへの依存度の確認

SaaSを組み合わせるときは、特定ベンダー固有のAPIへ依存しすぎないかを確認します。そのうえで、標準的なAPIとデータエクスポートの手段があるかを、契約前に確かめます。

既存の開発チームのスキルとのギャップの確認

マイクロサービスやAPI-firstの経験が少ない場合、全体移行は設計と運用の両面で負荷が高くなります。そこで、部分的分解で経験を積みながら対象範囲を広げる方法も選択肢になります。

また、外部パートナーと協働する場合は、契約テストやCI/CDの方針を自社で説明できる状態を保ちます。将来の内製化や引き継ぎまで見据えて、体制を決めます。

複数の業務ドメインの優先順位の決め方

着手候補は、変更頻度、負荷の集中、競争優位性への影響で比べます。そのうえで、すべてを同時に進めず、効果と実行可能性が両立する一つのドメインから始めれば、体制と投資を管理できます。

まとめ

選定の出発点は、自社の課題と優先するドメインを明確にすることです。そのうえで、全体移行、部分的分解、機能単位の置き換えを、体制と運用の負担まで含めて比べます。

候補を選んだら、ドメインの境界とAPIを中心に、データ整合性や可観測性を確認します。インフラ、組織、移行性の面も見ておきます。最後に小さなPoCで、通常時だけでなく障害時にも運用できるかを確かめます。

自社のトラフィック規模と体制に見合ったアプローチの選び方

フルMACH移行は、規模と体制が整っている場合に効果を発揮します。一方で、条件が不足する場合は、部分的分解や機能単位の置き換えで実績を作り、対象を広げる進め方が現実的です。

候補製品の比較

候補製品を比べるときは、同じ評価軸で機能やAPIを見たうえで、運用と移行性も確認します。比較対象を整理する際は、ECリアーキテクチャのパッケージ・クラウド製品一覧も役立ちます。

既製の基盤では、独自の業務ロジックや基幹連携を吸収しにくい場合があります。そのときは、必要な領域を切り分け、要件整理から独自機能の構築まで一貫して検討します。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。