EC改修のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

EC改修でフルスクラッチ(オーダーメイド開発)を選ぶべきかは、改修が決済方法の追加やバグ修正などの部分対応で収まるかどうかで決まります。

判断を誤ると、数十万円・数週間で済むはずの改修に、数百万円・数ヶ月単位の投資が必要になってしまいます。

  • 位置づけ:EC改修とフルスクラッチの違い
  • 範囲:部分改修で対応できる条件
  • 転換:フルスクラッチに切り替えるサイン

EC改修全体については、次の記事で詳しくまとめています。

▼全体ガイドの記事
・EC改修の完全ガイド

EC改修とフルスクラッチの位置づけ(部分改修か作り直しかという判断)

EC改修でフルスクラッチを検討する前に、まず本記事が扱う対象の位置づけを明確にしておく必要があります。他の6テーマの記事は、いずれも全体の作り替えを前提に、フルスクラッチを技術手法(HOW)、投資判断(WHY/WHEN)、期限管理、顧客体験の独自性、構造再設計、ビルド・バイの判断という視点で論じています。

同じ「フルスクラッチを検討する」という問いでも、システム全体を作り替える前提で考えるか、部分改修の延長で考えるかによって、結論がまったく変わってきます。そのため、どちらの前提に立つのかを先に決めておくことが欠かせません。

この見極めを誤ると、部分改修で済むはずの案件に過大な投資をしてしまったり、部分改修では吸収しきれない規模の作業を安易に発注してしまったりするリスクが生じます。本記事は、全面刷新の投資判断ではなく、日々の実務で「この改修は部分対応で済むのか」に迷う方が、現実的な見極め方を身に付けられる内容です。

他の6テーマとの違い(部分改修の見極めという論点)

ECのモダナイゼーションは、フルスクラッチに当たるリビルドを対象システムを問わず横断的に扱う技術手法論です。EC刷新は、投資規模を経営層にどう説明するかが論点です。また、EC更改は、動かせない期限内で実現できるかどうかが論点になります。

ECリニューアルは顧客体験の独自性が論点です。さらに、ECリアーキテクチャは、コンポーザブルコマースによる構造再設計の技術論です。ECリプレイスは、自社スクラッチを維持するか他社製品へ乗り換えるかというビルド・バイの判断です。

これらはいずれも、システム全体をどう作り替えるかを土台にした議論です。それに対し、本記事のEC改修におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、案件単位の見極めに重心を置きます。つまり、今回の改修が部分対応で済むのか、部分対応の範囲を超えてフルスクラッチに近い規模の作り込みが必要なのかを問います。

判断基準(ブラックボックス化の度合い・将来要件・現行品質)

部分改修で済ませるか、フルスクラッチに切り替えるかは、主に3つの基準で判断します。

  • ブラックボックス化の度合い:ソースコードや仕様書が整備され、エンジニアが内部構造を理解できる状態であれば、部分改修が可能です。
  • 将来のビジネス要件:業務フローやビジネスモデルを大きく変えないなら部分改修で十分ですが、業務そのものを根本から見直すならフルスクラッチが適しています。
  • システムの品質:安定稼働していれば部分改修で問題ありません。処理速度の著しい低下やエラーの頻発で、システムが破綻しかけているなら抜本的な作り直しが必要です。

特に、ブラックボックス化が進み、構造が複雑化して「誰も仕様を説明できない」状態になっていれば、複雑な既存コードを解読するより、フルスクラッチで作り直したほうが安上がりで早いと判断されるケースが多くなります。

ポイント

部分改修か作り直しかは、システム全体の作り替えを前提にせず、ブラックボックス化の度合い、将来の業務要件、現行システムの品質から案件ごとに見極めます。

部分改修で対応できる範囲の目安

部分改修で対応しやすい範囲を、フロントエンドのUI/UX改善、軽微な機能追加、バックエンドの保守・修正に分けた図。
画面・機能・保守の小さな変更が中心です。

部分改修の対象範囲を具体的にイメージできると、フルスクラッチとの線引きも判断しやすくなります。次に挙げる範囲であれば、多くの場合、既存システムを大きく組み替えずに対応できます。

フロントエンドのUI/UX改善・軽微な機能追加

フロントエンド(ユーザー画面)のUI/UX改善は、部分改修で対応しやすい領域です。たとえば、カート画面のレイアウトの微調整やボタンの追加がこれに当たります。また、文言や画像・バナーの差し替え、スマートフォンへの対応(レスポンシブ化)も該当します。

軽微な機能追加の例としては、決済手段の追加、SNS連携機能、お問い合わせフォームの追加があります。さらに、CSVデータ出力機能や、LINE・Slackへの通知機能の追加も挙げられます。

これらは、システムの根本的な構造を変えず、既存の画面や処理の一部に手を入れるだけで実現できます。そのため、フルスクラッチではなく部分改修として扱えるケースがほとんどです。

バックエンドの保守・修正

バックエンドの保守・修正も、部分改修の範囲に含まれます。具体的には、明らかなバグの修正や設定値の変更、マスタデータの追加などです。

これらは既存の処理ロジックの大部分を維持したまま、問題のある箇所だけをピンポイントで直す作業です。結果として、開発規模も比較的小さく収まります。

ただし、バグの原因が一部の処理だけでなく、システム全体の設計思想に根ざしている場合は注意が必要です。そのようなときは、表面的な修正を繰り返すより、根本原因に踏み込んだ再設計を検討すべきサインといえます。

ポイント

部分改修の範囲は、フロントエンドの軽微な改善や機能追加、明らかなバグの修正などです。原因が設計思想にまで及ぶ場合は、部分改修の範囲を超えると考えます。

フルスクラッチに切り替えるべきサイン

フルスクラッチへの切り替えサインとして、影響範囲の調査だけで数週間かかること、同じ箇所への改修依頼の反復、1つの修正が別の不具合を生む状態を並べた図。
調査や修正の負担が広がる様子を並べています。

部分改修を前提に見積もりを取ったにもかかわらず、想定より大掛かりな作業になりそうな場合は、フルスクラッチへの切り替えを検討すべきサインが出ている可能性があります。

影響範囲の調査だけで工数が膨らむケース

見積もりの段階で「この改修が既存のどの機能に影響するかを調べるだけで数週間かかる」と言われた場合は、システムがすでに複雑化・ブラックボックス化しているサインです。

たとえば、決済方法を1つ追加するだけのはずが、在庫連携や会員データの処理にまで影響が及ぶことがあります。その結果、システムの大部分に手を入れざるを得なくなるケースも少なくありません。

このような場合は、無理に部分改修で進めるより、影響範囲全体を見直したフルスクラッチや、対象領域を絞ったリビルドを検討したほうが、結果的に費用対効果が高くなることがあります。

同じ箇所への改修依頼が繰り返されるケース

カート機能や決済まわりに、短期間で何度も部分改修を繰り返している場合も、フルスクラッチへの切り替えを検討すべきサインです。

継ぎ足しの改修が積み重なるほど、コードの複雑性は増していきます。こうなると、1つの修正が別の不具合を生む「モグラ叩き」の状態に陥りやすくなります。

改修依頼のたびに数十万円を払い続けるくらいなら、一度腰を据えて該当領域だけをフルスクラッチで作り直したほうが、長期的なコストと保守性の両面で有利になることが多いといえます。

ポイント

想定より大掛かりな作業になりそうなら、部分改修を続けるより、影響範囲を見直してフルスクラッチかリビルドを比べるのが目安です。

内製と外部委託(外注)の使い分け

EC改修は規模が小さい分、内製で対応するか外部委託するかは、全面刷新とは異なる観点で判断する必要があります。

内製・外注それぞれが向いているケース

内製が向いているのは、社内にシステムの仕様を深く理解しているエンジニアがいる場合です。ノーコード・ローコードツールで対応できる範囲の改修も、これに当たります。こうした場合は、人件費を抑えやすく、スピーディーに対応できます。

一方、外部委託が向いているのは、高度な専門知識やセキュリティ対策が必要な場合です。社内のリソースを本来のコア業務に集中させたい場合も、外部委託が適しています。

また、特定の担当者しかシステムを改修できない「属人化」を防ぎ、安定した保守体制を組織として築きたい場合にも、外注が有効です。

「日常運用は内製、複雑な改修は外注」というハイブリッド活用

実務では、「日常的な文言修正や運用は内製で行い、決済連携など複雑な機能追加や障害対応は専門のベンダーに外注する」という使い分けも多く見られます。すべてを内製化すると専門知識を保つコストが重くのしかかり、すべてを外注すると軽微な修正のたびに発注と見積もりの手間が生じます。

そこで、改修メニューの難易度と頻度をもとに、内製と外注の担当範囲をあらかじめ社内で線引きしておくことが、現実的な解になります。この線引きは一度決めたら終わりではなく、事業の成長や社内体制の変化に合わせて定期的に見直すべきものです。

改修依頼が増えてきた段階で、内製化できる範囲を広げるか、外注のパートナーを固定して効率を高めるかを検討することも、長期的な運用コストを抑えることにつながります。

ポイント

内製か外注かは、改修メニューの難易度と頻度で分けるのが目安です。日常的な文言修正は内製、決済連携などの複雑な機能追加は外注と、担当範囲を社内で決めておきます。

低予算でオーダーメイド改修を発注する際の注意点

低予算のオーダーメイド改修で押さえる点として、要件の具体化、最小限の機能、2〜3社への見積もり、テスト工程と保守・運用費用を確認する図。
金額とあわせて、見積もりに含まれる作業を見比べます。

低予算・短納期で外注する場合は、いくつかのポイントを押さえておかないと、結果としてコストが高騰するおそれがあります。部分改修の利点を活かすためにも、発注前の準備段階でこれらの注意点を確認しておくことをお勧めします。

要件の具体化とスモールスタートの徹底

要望は、「この画面のこの部分をこう変えたい」というように具体的に指定することが基本です。「使いやすくしてほしい」のように曖昧なままだと、開発中の仕様変更(手戻り)が頻発し、追加費用がかさむ原因になります。

予算を抑えるには、最初からすべての要望を詰め込まず、必須となる最小限の機能に絞って段階的にリリースするスモールスタートを徹底することが鉄則です。また、優先順位の低い要望は次回以降の改修に回すという判断も、発注の段階で明確にしておくことが欠かせません。

安すぎる見積もりのリスクと相見積もり

相場より極端に安い業者は、既存機能への影響範囲の調査や、既存機能が壊れていないかを確かめるテスト工程を、意図的に省いている可能性があります。あるいは、経験の浅い人員を配置していることもあります。

影響調査を省くと、決済機能を追加したせいで既存のカート機能が動かなくなるといった「デグレード(想定外の不具合)」が起きやすくなります。その結果、二重のコストが発生します。

2〜3社に同じ条件で見積もりを依頼し、単価だけでなく、テスト工程や保守・運用費用が含まれているかを確認します。費用の内訳と根拠を比べることで、適正価格を見極められます。

ポイント

低予算でも、要件を具体的に示して最小限の機能から始め、見積もりの内訳を比べることが、後から膨らむ追加費用を抑える目安になります。

まとめ

EC改修の判断基準や部分改修の範囲、フルスクラッチに切り替えるサインを見てきました。さらに、内製と外部委託の使い分けや、低予算で発注する際の注意点も確認しました。

他の6テーマは、いずれもシステム全体の作り替えを前提に議論します。それに対し、EC改修の本質は、決済方法の追加やバグ修正、カート機能の軽微な改善といった部分対応で済むかどうかを見極めることにあります。その判断は、ブラックボックス化の度合い、将来のビジネス要件、現行システムの品質という3つの基準で行います。

要件を具体化してスモールスタートで進め、相見積もりで比べます。そのうえで、部分改修の範囲を超えると判断したら、無理に小さく収めず、早めにフルスクラッチへの切り替えを検討することをお勧めします。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。