通販サイト/システムのモダナイゼーションの保守・運用費用・ランニングコストについて

通販サイト/システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用の問題は、自社が長年保有してきた通販システム――EC-CUBEベースの独自カスタマイズや、完全スクラッチで構築したOMS――を使い続けることで、保守委託費用・改修費用が年々高騰していく構造そのものに起因します。同じプロジェクト内の「ECのモダナイゼーション」は、プラットフォームを問わない老朽化ECシステム全般のコスト構造を扱う一般総論ですが、本記事はそれよりも一段具体的に、貴社が実際に運用している自社所有システムの会員データ・商品マスタ・注文履歴・独自ロジックという資産を前提に、保守費用がどう変化するのかを解説します。

また、ゼロから中〜大規模の通販システム基盤を新規構築する「通販サイト/システム開発」の保守費用が「新しく導入したシステムをどう維持するか」を扱うのに対し、本記事が扱う保守・運用費用は「すでに発生している老朽化コストをどう脱却するか」という前提で語られる点が根本的に異なります。目先の移行費用の大小だけでなく、放置した場合にコストがどこまで膨らみ続けるかという将来予測を含めて検討することが重要です。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

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・通販サイト/システムのモダナイゼーションの完全ガイド

通販サイト/システムのモダナイゼーションと保守・運用費用の関係

通販サイト/システムのモダナイゼーションと保守・運用費用の関係

保守・運用費用を考えるうえで最初に理解すべきは、「刷新にかかる初期費用」と「刷新しない場合に払い続けるコスト」を天秤にかけて判断する必要があるという点です。老朽化した自社の通販システムを放置すればするほど、保守費用は下がるどころか年々上昇していく傾向にあります。

新規構築・「ECのモダナイゼーション」総論との違い

「通販サイト/システム開発」の保守・運用費用は、新規に立ち上げたシステムをこれからどう維持していくかという前提で語られます。一方、本記事が扱う保守・運用費用は、すでに発生している高い保守コストをどう削減するかという前提で語られる点が根本的に異なります。また、「ECのモダナイゼーション」総論はプラットフォームやビジネスモデルを問わない一般的なコスト削減効果を扱いますが、本記事は自社が保有するEC-CUBEベースの独自カスタマイズや独自スクラッチOMSといった具体的なシステムを前提に、電話・FAX・Web・実店舗という複数チャネル統合、コールセンター運用、基幹(ERP)・WMS・EDI連携という通販基盤ならではのコスト構造に焦点を当てて解説します。

老朽化した自社通販システムの保守費用が膨らむ構造

EC-CUBEなどの老朽化したパッケージや、長年運用されたスクラッチシステムでは、OSやハードウェアのサポートが切れ、最新のセキュリティ基準(PCI-DSSなど)に準拠できなくなっていくケースが少なくありません。さらに、過去の複雑なカスタマイズの蓄積により、ちょっとした機能改修にも莫大なコストと時間がかかるようになります。加えて、現場では現行システムの機能が使いにくいために、ExcelやAccessなどのシステム外ツールを使って実運用を回している「シャドーIT」が蔓延しているケースもあり、これらを維持する見えないコストも積み上がっています。この構造を断ち切るには、モダナイゼーションによるコスト構造そのものの変革が必要になります。

移行前後のランニングコスト比較

移行前後のランニングコスト比較

自社の通販システムをモダナイゼーションすることで、運用維持のコスト構造は大きく変わります。ここでは代表的な変化のパターンを解説します。

SaaS・クラウド移行によるコスト削減効果

SaaSやクラウド型へ移行することで、レガシー環境で高騰していた改修費用や、法改正(インボイス制度など)への対応コストを大きく削減できます。自社ECをクラウドECへ、自社OMSをSaaS型の受注管理サービスへ置き換えることで、システム本体のバージョンアップやセキュリティ対応をベンダー側が継続的に提供してくれるようになり、自社で一から改修する負担が軽減されます。クラウドのオートスケーリングを活用すれば、テレビ通販の放送直後やカタログ配布直後に発生するアクセススパイクにも柔軟に対応でき、平常時の過剰なインフラ維持費を抑えつつ機会損失も防ぐコスト構造へ転換できます。

基幹・WMS連携に残る「隠れコスト」

一方で、基幹システムやWMSといった外部システムとAPIで連携している場合、相手方のシステムがアップデートするたびに連携部分の調整や追加開発が必要となり、これが継続的な「隠れコスト」として残り続けます。モダナイゼーション後も、この連携維持のコストがゼロになるわけではありません。むしろ、標準的なAPI連携やクラウドサービス間の疎結合な構成に置き換えることで、老朽化した独自実装の連携プログラムを都度個別改修していた状態と比べれば、連携先の仕様変更に追従しやすくなり、長期的な保守コストの伸びを抑制できます。ただし、連携の刷新には決済連携テストや在庫データの整合性検証といった追加工数が発生するため、短期的な移行費用は新規構築よりも高めに見積もっておく必要があります。

5手法別に見るコスト構造の違い

5手法別に見るコスト構造の違い

コストの削減効果は選択する手法によって性質が異なります。自社の通販システムに5手法を当てはめた場合のコスト構造を整理します。

リプレース・リホストの低コスト構造と限界

リプレース(自社ECをクラウドECへ、自社OMSをSaaSへ置き換え)は初期費用数百万〜数千万円と最も低コストで、開発・維持管理コストを自社で抱え込む必要がありません。ただし、自社の運用を標準機能に合わせるFit to Standardの調整が前提となり、従来の独自の受注フローや割引ルールに固執して過度なカスタマイズを重ねると、結局「新たなレガシー」を作り出してしまう恐れがあります。リホスト(コードを変えずインフラのみクラウド化)も低コストで短期間に移行できますが、オンプレミス時代の過剰なサイジング設定をそのままクラウド上に引き継いでしまうと、使っていないリソースにも課金され続け、かえってクラウド利用費が高騰する「クラウドリフトの罠」に陥る点に注意が必要です。

リファクタリング・リビルドで得られる長期的なコスト最適化

リファクタリング(在庫引当や連携部分のAPI化、バッチのサーバーレス化)は約500万〜2,500万円の初期投資で、将来のキャンペーン機能追加や決済手段の拡張にかかる工数を減らし、中長期的な保守コストの伸びを抑制します。リビルド(クラウドネイティブでのフルスクラッチ再構築)は約3,000万〜2億円と初期投資が最も大きい一方、マイクロサービス化により機能単位で個別にスケーリング・デプロイできるようになれば、セール時に負荷が集中する在庫検索や決済処理にだけリソースを割り当てるといった精緻なコスト制御が可能になります。独自の受注・在庫引当ロジックが自社の競争力に直結する通販事業であれば、この長期的な視点での投資判断が、結果的に総保有コスト(TCO)を最小化する道につながります。

見落とされがちな移行固有コスト

見落とされがちな移行固有コスト

自社所有の通販システムの刷新は、既存資産の引き継ぎに伴う費用が上乗せされる分、見積もり段階で見落とされがちなコスト項目がいくつか存在します。

並行稼働の二重コストとデータクレンジング費用

移行直後の並行稼働期間中は、旧システムと新システムの両方の保守費用が同時に発生することが見落とされがちなポイントです。受発注業務を止められない以上、この二重コスト期間をどの程度の長さに設定するかによって、移行初年度の総コストが大きく変わります。加えて、長年運用してきた会員マスタ・商品マスタのクレンジング(表記揺れ・重複の修正)には、それだけで2〜3ヶ月分の作業費用がかかることが一般的です。この作業を過小評価して予算を組んでしまうと、稼働直前になって追加費用が発覚することになります。

会員データ移行・PCI-DSS対応・技術的負債という潜在コスト

会員のパスワードやクレジットカード情報は暗号化されているため原則として移行できず、新システム稼働後に顧客へ再登録を促す告知コンテンツの制作・配信費用が別途発生します。また、決済情報を扱う以上、最新のセキュリティ基準(PCI-DSSなど)への準拠対応も避けて通れず、老朽化したシステムほどこの対応コストが高くなる傾向があります。さらに、現場でExcelやAccessなどのシャドーツールに依存した実運用が定着している場合、その業務をどこまでシステムに取り込むかによって、追加のカスタマイズ費用が発生することもあります。これら移行固有の費用を最初から予算計画に組み込んでおくことが、想定外の出費を防ぐ鍵になります。

保守契約と見積もりで確認すべきポイント

保守契約と見積もりで確認すべきポイント

保守・運用費用を適正に管理するためには、保守契約や見積もりの段階で何が含まれ何が含まれないのかを明確にしておくことが欠かせません。最後に、確認すべき2つのポイントを解説します。

保守範囲・SLAの明確化

保守契約を結ぶ際に最も重要なのが、保守の範囲とサービスレベル(SLA)を明確にすることです。とくに自社の通販システムは基幹・WMSとの連携が止まると業務全体が停止するため、障害発生時にどれくらいの時間で対応してもらえるのか、休日や夜間の対応はどうなるのかといった取り決めが事業継続性に直結します。あわせて、監視の対象システム、障害発生時の連絡フローと初動対応時間、定例の保守作業に含まれる範囲、含まれない作業(大規模な機能追加やバージョンアップなど)の料金体系を、書面で具体的に確認しておきましょう。

5年間のTCOで複数社を比較評価する

開発会社や保守ベンダーを比較する際は、初期の移行費用だけでなく、5年程度の総保有コスト(TCO)で評価することを強くお勧めします。実質総費用は、ベンダーへの支払額に加えて社内の工数、並行稼働にかかるインフラコスト、会員向け告知にかかるコンテンツ制作費などを含めると、ベンダー見積もりの1.3〜1.5倍程度を見込むのが安全とされています。この5年TCOの視点で複数社の見積もりを並べると、目先の金額では見えてこなかった本当のコスト構造が浮かび上がります。老朽化した自社通販システムを放置し続けるコストと比較しながら、利益の残る運用体制を選ぶことが、事業の持続可能性を左右します。

まとめ

通販サイト/システムのモダナイゼーションの保守・運用費用まとめ

本記事では、通販サイト/システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用・ランニングコストについて解説しました。ゼロからの新規構築とも、対象を問わない「ECのモダナイゼーション」総論とも異なり、本記事はEC-CUBEベースの独自カスタマイズや独自スクラッチOMSなど、自社が保有する具体的な通販システムを前提に、SaaS・クラウド移行によるコスト削減効果と、基幹・WMS連携に残り続ける隠れコストを解説しました。5手法別ではリプレース・リホストが低コストで着手しやすい一方「クラウドリフトの罠」に注意が必要で、リファクタリング・リビルドは初期投資が大きいぶん長期的なコスト最適化効果が高くなります。並行稼働の二重コスト、マスタデータのクレンジング費用、会員データ移行に伴う告知費用、PCI-DSS対応という見落とされがちな費用を最初から予算計画に組み込み、保守範囲とSLAを明確にしたうえで、5年間のTCOで複数のベンダーを比較評価することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。