基幹システム/ERPのモダナイゼーション後の保守・運用費用は、導入方式、インフラの持ち方、移行範囲によって変わります。年間の費用は初期投資額の15〜20%、最大でも22%程度が目安です。
刷新せずに使い続けた場合と、刷新後の費用では構造が異なります。そのため、両者を分けて見ていきます。
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基幹システム/ERPのモダナイゼーションにおける費用論点の位置づけ
保守・運用費用を正しく捉えるには、刷新が必要になった前提から確認することが欠かせません。
対象を全社基幹システムに限定する理由
費用を比べるには、対象範囲をそろえておく必要があります。そこで、比較の前提として、対象範囲を全社の基幹システムに絞ります。
- 対象範囲:会計・人事給与・生産管理・販売管理・在庫管理の基幹システム/ERP
- 比較対象:総論や新規導入とは異なる費用構造
- 評価軸:移行前の維持費と移行後の運用費
「システムのモダナイゼーション」の総論は、対象を問わない一般的な費用感を扱います。一方、「基幹システム開発」や「ERP導入」は、ゼロから構築するため、新規のライセンス費用や開発費用が中心になります。
この記事が扱うのは、既存の老朽化した基幹システムを刷新するブラウンフィールドです。移行前のレガシー維持費と、移行後の新しい運用費を比べて評価します。
保守・運用費用は、移行の前後どちらでも発生し続けます。さらに、旧バージョンのパッケージも刷新の対象になります。SAP ECCの2027年問題や法改正対応の圧力は、コスト構造に直接影響します。
基幹システムは、全社の業務データが集まる中核です。そのため、費用対効果を誤ると、経営全体の投資判断にも影響します。
モダナイゼーション前(レガシー放置)のコスト構造
レガシーを放置すると、維持管理、法改正対応、ブラックボックス化の影響で費用が膨らみます。その結果、IT予算の大半が過去の資産の維持に消える構造になります。
- 維持管理:IT予算の大半が既存システムに固定される状態
- 法改正対応:制度変更のたびに改修費用が積み重なる
- 先送り:ブラックボックス化が進み、移行前のコストが増えやすい
経済産業省の「DXレポート」では、既存システムの維持管理費がIT予算の8〜9割を占めるケースが示されています。また、老朽化したオンプレミス基幹システムの保守費用は、一般にライセンス費用の年15〜22%程度です。
インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正ごとに、対応費用が積み重なります。基幹システムはブラックボックス化が進むほど、法改正対応の改修工数も増えていきます。
経済産業省は「2025年の崖」問題として、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を警告しています。そのうえ、刷新を先送りするほど、移行前のコストと移行後のコストの差は開く傾向があります。
モダナイゼーション後のランニングコスト構造

刷新後のランニングコストは、インフラの持ち方と移行アプローチによって構造が変わります。そのため、刷新後の構造を事前に押さえておくことが、予算計画の精度を左右します。
オンプレ型とクラウド型のコスト構造の違い
オンプレ型とクラウド型は、初期投資型か月額運用型かという予算執行のスタイルの違いでも比べられます。
- オンプレ型:保守と設備更新の追加費用が発生しやすい構造
- クラウド型:月額料金に含まれる範囲が広く、費用を予測しやすい構造
オンプレミス型では、SAPなどのERP標準保守として、年間のライセンス費用の約22%がかかります。また、日常の運用保守をSIerやコンサルティングファームに外注すると、年間数千万円の追加費用が生じるケースもあります。
S/4HANA Cloudなどのクラウド型へ刷新すると、費用はサブスクリプションモデルになります。相場感としては、中小企業で月額300万円程度、大企業で月額1,000万円以上が一般的です。
クラウド型では、インフラ管理とバージョンアップの費用が月額料金に含まれます。一方、オンプレ型では、ハードウェア更新や法改正対応のたびに追加コストが発生しやすくなります。そのうえで、自社の予算執行のスタイルに照らして、どちらが合うかを見極めます。
移行アプローチ別(グリーンフィールド/ブラウンフィールド/ブルーフィールド)のコスト差
移行方式は、初期費用だけでなく、5年・10年スパンのTCO(総所有コスト)で比べます。
- グリーンフィールド:業務プロセスを一から再設計する方式
- ブラウンフィールド:既存システムを基盤としてコンバージョンする方式
- ブルーフィールド:必要なプロセスやデータを選別して移行する方式
グリーンフィールドは初期構築の費用が高くなる一方で、既存のアドオンを標準機能へ置き換えます。そのため、将来の保守コストをシンプルにしやすい特徴があります。
ブラウンフィールドは初期の移行費用を抑えやすい反面、既存のカスタマイズも引き継ぎます。バージョンアップのたびにアドオンの改修が必要になり、長期の保守費用が高止まりする傾向があります。
ブラウンフィールドでは、法改正への対応も遅れがちです。
ブルーフィールドは、グリーンフィールドとブラウンフィールドの中間に位置するコスト構造が一般的です。移行方式は、初期費用の多寡だけでなく、5年・10年のTCOで比べて選びます。
移行によるコスト削減効果(事例で見る削減幅)

実際の削減幅は、コスト構造と移行後の運用体制の両面から見る必要があります。
削減効果の目安と代表的な企業事例
削減幅は、一般的な目安と企業事例を並べて比べます。一般に、基幹システム/ERPの刷新では、年間運用費の削減が見込めます。また、メインフレームからクラウドネイティブ環境への移行でも、削減の事例があります。
- 一般的な目安:年間運用費を20〜40%削減できる
- 移行基盤の事例:高額な保守費と人件費を最大60〜90%削減
- 電子部品メーカー:運用コストを約50%削減
- 専門商社:年間400万円の維持・業務経費を削減
ある大手電子部品メーカーは、約30年運用してきたPL/I言語のメインフレーム基幹システムを、Java言語ベースのクラウド環境へ全面移行しました。その結果、運用コストの削減につながっています。
ある専門商社は、独自開発のワークフローシステムをクラウドパッケージ(SaaS)へリプレースしました。この移行によって、維持・業務経費の直接的な削減を達成しています。二つの事例に共通するのは、インフラだけでなく、運用体制そのものを見直している点です。
FinOps・コスト最適化の罠
削減効果を確実に得るには、クラウド移行の後の運用設計まで見据える必要があります。
- 過剰サイジング:既存の構成をそのまま引き継ぐと費用が増える場合がある
- FinOps:クラウド費用を継続的に最適化する活動
- 運用期間:稼働後6〜12ヶ月をリソース最適化に充てる期間
既存システムをそのまま移すブラウンフィールドでは、オンプレ時代の過剰なサーバーサイジングを引き継ぐことがあります。その結果、クラウドへ移行したあとに、かえってコストが増えるケースも報告されています。
真の削減効果は、運用フェーズに入ってから表れます。そのため、稼働前の段階からFinOpsの設計を組み込んでおくことが欠かせません。
パフォーマンス監視と運用の自動化も、FinOpsとセットで計画しておく必要があります。稼働後の最適化期間には、継続的なモニタリングとインスタンスサイズの見直しを行います。そのうえで、リソース最適化の予算とスケジュールを、あらかじめ組み込んでおきます。
定着化フェーズ〜安定稼働後の費用内訳とTCO

本番稼働の後も、安定稼働に至るまで費用は変化します。そのため、費用の動きを見ながら、予算を段階的に配分することが求められます。
ハイパーケア期間の費用(伴走委託・専任工数)
稼働直後は、集中的なフォロー体制と定着支援の費用を見込んでおく必要があります。
- 期間:本番稼働直後の3〜6ヶ月、長ければ1年程度
- 伴走体制:導入パートナーへの委託と、社内の専任工数
- 予算:定着支援コストを1〜2年分組み込む
この期間は「ハイパーケア期間」と呼ばれ、導入パートナーへの継続的な伴走委託費用が発生します。あわせて、社内の業務リーダーやシステム管理者を専任で配置するため、人的コストも集中します。
会計の月次・四半期・年次の締め処理を一通り経験して、初めて本当の安定稼働といえます。したがって、稼働開始から半年以上、周辺システムとの連携運用が安定するまでを見込みます。定着支援コストを事前に計上しておけば、稼働後の想定外のコスト超過を防げます。
安定稼働後の年間ランニングコスト内訳
安定稼働後の年間費用は、費目ごとに初期投資額に対する比率で捉えると把握しやすくなります。なかでも保守料は初期投資額の5〜10%と、ほかの費目より大きな割合を占めます。
- 保守料:初期投資額の5〜10%程度
- 運用支援費用:初期投資額の5〜7%程度
- ライセンス更新料:初期投資額の3〜5%程度
- インフラ利用料:初期投資額の2〜3%程度
年間の費用全体では、初期投資額のおおむね15〜20%が一般的で、最大でも22%程度が目安です。費目ごとの比率は幅で示した目安のため、各費目の上限を単純に足した数字とは一致しません。
クラウド型では、初期費用約10万円に、月額1.2万〜1.8万円/ユーザーを加える料金モデルがあります。たとえば30名規模の場合、3年間の総費用は約1,300万〜1,950万円が目安です。利用者が100名規模では約4,330万〜6,490万円、300名規模では約1億3,000万〜1億9,500万円程度になります。
費目を把握しておけば、ベンダーからの見積もりが適正かどうかを判断しやすくなります。
コストを最適化するための実務ポイント
継続的にコストを抑えるには、業務、契約、運用体制の各面を見直す必要があります。
Fit to Standard徹底とアドオン最小化
Fit to Standardは、業務を標準機能に合わせる考え方です。この考え方は、初期費用とランニングコストの両方を左右します。
- 標準機能:業務をシステムの標準機能に合わせる
- アドオン:独自開発を最小限に抑える
- 再設計:グリーンフィールドを業務慣行の見直しに生かす
独自カスタマイズを重ねると、初期の開発費用だけでなく、更新のたびに発生する改修費用も増えます。アドオンの改修が続けば、長期的なTCOを押し上げる要因になります。
グリーンフィールドでは業務プロセスを再設計できるため、標準機能への適合を検討しやすくなります。既存の業務慣行にこだわりすぎないことが、両方の費用を抑える実務策です。
内製化・複数年契約・保守契約SLAの見極め
外部委託費とライセンスの無駄は、契約の中身と社内の運用体制を見直すことで抑えられます。見直しの軸は、内製化、段階的導入、SLAの3つです。
- 内製化:簡易な設定変更や受入テスト(UAT)を自社で担う
- 段階的導入:フェーズごとに必要なライセンス数を見直す
- SLA:初動対応や恒久対策までの期限を契約で明確にする
内製化を進めると、ベンダーへの外部委託費を段階的に抑えられます。さらに、特定のパートナーへの依存、いわゆるベンダーロックインを避けることにもつながります。加えて、不要なライセンスに無駄な支払いが出ていないかも見ておきます。
保守契約では、料率だけでなく、初動対応の時間、恒久対策までの期限、改修範囲を確認する必要があります。特にSLA(サービスレベルアグリーメント)の内容を明確にしておくことが重要です。
複数年契約によるライセンス割引を活用し、クラウド利用料も定期的に見直します。また、安定稼働後も費用を継続的に最適化する仕組みを、社内に組み込んでおきます。
まとめ
基幹システム/ERPの費用は、レガシー放置の費用、移行方式による違い、削減効果、TCO、最適化策の順に見ていくと、全体像をつかみやすくなります。
オンプレ型を放置すると、IT予算の8〜9割がレガシーの維持に消える場合があります。一方、刷新によって、年間運用費を20〜40%、事例では50〜90%削減できる場合もあります。
効果を高めるには、FinOpsとFit to Standardを設計に組み込み、ハイパーケア期間の費用も予算化しておきます。
中長期のTCOで予算を組み、業務規模と法改正対応の期限を踏まえて判断してください。そのうえで、複数のパートナーに相談しながら、現実的な予算計画を立てることをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
