基幹システム/ERP刷新は、現行システムと業務の洗い出しから始め、7つのステップを順に踏んで進めるのが基本です。
ただし、実際には教科書どおりに進まず、スルガ銀行の95億円白紙撤回のような巨額の失敗も後を絶ちません。
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基幹システム/ERP刷新の意味と今取り組む理由

基幹システムやERPの刷新は、システムを更新するだけの作業ではなく、経営改革そのものです。老朽化した基幹を温存すると、DXの妨げとなり、競争力を損ないます。
その背景にある「2025年の崖」と「2027年問題」を正しく理解することが、意思決定の第一歩です。
基幹システム/ERPの定義と「2025年の崖」「2027年問題」
基幹システムとは、販売管理、生産管理、財務会計、人事給与など企業活動の根幹を支える業務システム群を指します。ERPは、それらを統合してデータを一元管理する経営資源計画システムです。両者は重なり合いながらも、ERPのほうが経営統合の色合いが濃い概念として区別されます。
「2025年の崖」は、経済産業省のDXレポートで指摘された課題です。レガシーシステムを放置すると、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が発生すると警告されています。老朽化、ブラックボックス化、アドオン肥大化が温存されたままでは、新しいデジタル施策を展開する余地が生まれません。
SAP ERP(ECC6.0)の保守期限は2027年末に設定されており、多くの大企業が刷新の判断を迫られています。S/4HANAへの移行、他社製品への乗り換え、コンポーザブルERP化など、選択肢は複数あります。ただし、保守が切れたまま自社の責任で運用すると、セキュリティや法令対応の面でリスクが極めて高くなります。
放置した場合の具体的リスク
刷新を先送りすると、業務の停止だけでなく、保守要員の確保も難しくなるなど、複合的な問題が同時に進みます。有識者の退職によるブラックボックス化や、セキュリティの脆弱性、データ連携の制約などが、その例です。特にCOBOLや独自フレームワークで作られたシステムは、技術者の高齢化とともに、メンテナンスが難しくなりつつあります。
業務面では、アドオンが肥大化して標準機能のアップグレードが不可能になり、法改正や制度変更への追従が遅れます。その結果、コンプライアンス違反や機会損失を招きます。みずほ銀行のATM障害に代表される大規模障害も、老朽化と複雑化が組織風土と結びついて起きた典型例といえます。
経営判断の面では、データが部門ごとにサイロ化し、経営ダッシュボードを作りにくくなります。意思決定のスピードで競合に後れを取り、M&Aや新規事業における統合コストも膨らみます。刷新は、やるかどうかではなく、いつやるかを考える段階に入っています。
基幹システム/ERP刷新の手法を徹底比較

刷新の手法は、システムの特性や業務要件に応じて、最適なものを選びます。
7Rフレームワークを中心に、Fit to Standardの考え方とコンポーザブルERPという新しい流れを比べながら、自社に合った戦略を組み立てます。
7Rフレームワーク(リホスト〜リプレイス)の使い分け
7Rフレームワークは、クラウド移行戦略として提唱された考え方で、基幹刷新にも応用されています。手法は、次のように分けて捉えます。
- リホスト(Rehost):サーバを変えるだけのリフト
- リプラットフォーム(Replatform):OSやミドルウェアの刷新
- リファクタリング(Refactor):コード構造の見直し
- リビルド(Rebuild)・リプレイス(Replace):フルスクラッチでの作り直し、パッケージやSaaSへの乗り換え
- リテイン(Retain)・リタイア(Retire):当面の現状維持、廃止や統廃合
7Rは、短期の延命から根本的な改革までを連続的に捉える枠組みです。全てのシステムを一律に刷新する必要はなく、業務価値と技術的負債のマトリクスで手法を振り分けるのが現実的です。
選択の基準は、競争優位に直結する業務か、法令対応などの守りの領域かによって分かれます。競争優位の領域はリビルドやコンポーザブル化で差別化を追求し、守りの領域はリプレイスで標準機能を活用するのが定石です。たとえば、アドオンを重ねてきた周辺システムは、リタイアの候補として整理すると、保守コストを大きく圧縮できます。
Fit to Standardとアドオン最小化の思想
Fit to Standardは、パッケージの標準機能に業務を合わせる考え方です。従来のFit&Gap分析では、業務要件にシステムを合わせてアドオンを積み上げる傾向が強く、結果として保守不能な状態のシステムを生み出してきました。そのため、標準機能の範囲内で業務プロセスを見直すことが、中長期の保守性と拡張性の確保につながります。
アドオン最小化の実践には、業務プロセスの標準化と現場の納得感が欠かせません。「今までこうやってきた」という慣習的な業務を洗い出し、本当に必要な差別化要素だけを残す作業が求められます。たとえば、食品加工工場の事例では、慣習的な不要チェック業務を廃止したことで、アドオン開発を避けつつ生産性を上げました。
一方で、Fit to Standardには限界もあります。日本企業特有の商慣行や業界固有の規制に標準機能が対応しきれないケースでは、無理に合わせると現場が混乱します。スルガ銀行と日本IBMの95億円訴訟は、パッケージと自社業務要件の不整合が根本原因であり、標準適用の限界を示す教訓として語り継がれています。
コンポーザブルERP(ポストモダンERP)という新潮流
コンポーザブルERPは、モノリシックな統合型ERPを解体し、業務領域ごとに最適なSaaSを組み合わせる新しい考え方です。ガートナーが提唱する「ポストモダンERP」の潮流を汲み、財務会計はA社、人事給与はB社、販売管理はC社というように、ベストオブブリードで構成します。APIやiPaaSによる連携が前提となります。
このアプローチの利点は、領域ごとに最適なサービスを選べること、法改正やビジネス変化への追従が速いこと、そしてベンダーロックインを分散できることです。一方で、連携の設計とガバナンスが複雑になるため、データモデルの統一や認証統合を先に決めておく必要があります。導入には相応の設計力とインテグレーション力が求められます。
コンポーザブルERPは、従来の「10年に1度の大規模刷新」から「常に進化し続けるERP」へのパラダイムシフトをもたらします。部分的な入れ替えが可能になるため、将来の再刷新コストを構造的に下げる効果があります。ただし、SaaS間のデータ整合性、同期タイミング、セキュリティポリシーの統一といった運用課題への備えが必要です。
失敗しない基幹システム刷新の進め方【7つのステップ】
刷新を成功させるには、7つのステップを順に確実に踏むことが大切です。教科書どおりの理想論ではなく、現場で実際に起きる調整や意思決定も含めて、実践的な進め方を見ていきます。
- 現行棚卸し:現行システムと業務の全体像の把握
- 体制構築:経営・IT・現場の目標をそろえる
- RFPと選定:要件を整理し、候補を比較する
- 要件定義:Fit/Gapの判定と必要機能の確定
- データ整備:移行前のデータの点検と整理
- PoCと移行:小さく検証して段階的に移行
- 定着化:変更管理と運用定着の推進
各ステップの落とし穴と対策を押さえておくと、炎上のリスクを大きく下げられます。
ステップ1: 現行システムの棚卸しと業務のAs-Is分析
最初のステップは、現行システムの構成要素とデータの流れを余すところなく把握することです。ハードウェアやOS、ミドルウェアといった基盤から、アプリケーションやバッチまで、全ての要素を可視化します。インターフェースや帳票、外部連携も、その対象です。ここでの手抜きが、後工程のコストを数倍に膨らませる最大の要因になります。
たとえば、キングジムの10億円基幹刷新では、最高額のJQ社が選ばれた決め手は、旧システムの全構成を漏れなく洗い出す調査力でした。見積は最も高かったものの、現状把握の精度が他社を圧倒していたため、プロジェクトの実現可能性が評価されたと言われています。表面的な見積の安さに惑わされない判断が、成功を呼びました。
業務のAs-Is分析では、現場へのヒアリングとドキュメント化を並行して進めます。属人化している業務、暗黙知で回っている手順、Excelやメールで補完している部分を、丁寧に拾い上げる必要があります。この作業を軽視すると、要件定義で抜け漏れが生じ、本番稼働後に致命的な不具合として表れます。
ステップ2: 経営・IT・現場の三位一体体制の構築
基幹刷新は、経営層、IT部門、現場の三者が一体となって進める仕事です。経営層は戦略と投資判断、IT部門は技術選定と実行管理、現場は業務要件と運用定着を担います。この三者の役割分担と意思決定の流れが曖昧なままだと、責任のなすりつけ合いで停滞が生じます。
ステアリングコミッティを設置し、経営層が最終的な意思決定者として関与する体制が理想的です。月次での進捗報告、四半期ごとの投資再評価、リスク発生時の即時エスカレーションなど、ガバナンスのルールを明文化しておきます。特に、経営層が「ITに任せた」と丸投げした瞬間に、プロジェクトは迷走を始めます。
現場では、各部署から「システムキーパーソン」を選出する運用が有効です。業務知識とITリテラシーを併せ持つキーパーソンが、要件定義からユーザー受入テスト、定着化教育までを一気通貫で担います。また、彼らが部門内の意見をまとめ、反発を和らげることで、全社横断の合意形成が加速します。
ステップ3: RFP作成とベンダー選定
RFP(提案依頼書)には、現状課題、業務要件、評価基準を明記し、そのほかの要件や予算感も示します。要件が曖昧なまま提案を受けると、ベンダー各社の見積を比べられなくなります。そのため、RFPを作る時点で評価基準の重み付けと採点方法を先に決めておくことが、公平な選定につながります。
ベンダー選定では、価格だけでなく、実装実績や要員の質、アフターサポート、継続性まで含めて総合的に評価します。独立系SIerのオービックは営業利益率44%を誇る高収益企業ですが、それは顧客との長期的な伴走関係によって実現されています。安値で飛びつくと後工程で苦労するのが、基幹刷新の鉄則です。
複数ベンダーの相見積と並行して、参考事例先の訪問やデモ環境での実機確認も行います。提案書の見栄えではなく、実際に動くシステムと、担当予定者の受け答えを評価することが重要です。最終候補を2〜3社に絞った段階で、契約条件やSLA、瑕疵担保、撤退条項まで詰めておくと、後の紛争リスクを下げられます。
ステップ4: 要件定義とFit/Gap分析
要件定義は、プロジェクトの成否を分ける最も重要な工程で、業務や機能、非機能などの要件を体系的に整理し、パッケージ標準機能とのFit/Gapを判定します。Gap(差異)が大きい領域では、業務プロセスを変えるか、アドオンで対応するかの判断を迫られます。そこで、アドオン判定の基準を先に決めておくことが、膨張を防ぐコツです。
現場の「欲しい」をそのまま積み上げると、気づけば旧システムと同じ、保守の難しい状態が再び生まれてしまいます。そのため、「競争優位に直結するか」「法令対応か」「代替手段がないか」といった判断軸を明文化し、ステアリングコミッティで承認した要件だけをアドオン化します。要件定義の成果は、機能一覧、画面設計、帳票設計といった形で整理します。
さらに、業務フロー、データモデル、インターフェース仕様まで整えます。スルガ銀行と日本IBMの訴訟では、要件定義での詰めの甘さが致命的な不整合を招きました。十分な時間と工数を確保し、経営層まで巻き込んだレビューを繰り返すことが求められます。
ステップ5: 泥臭いデータクレンジングの実務
データクレンジングは、刷新プロジェクトで最も地味かつ最も重要な工程です。旧システムのデータには、全角と半角の混在や重複レコード、不整合な外部キーといった汚れが蓄積しています。自由記述欄の乱用や廃止コードの残存も含め、汚れは多岐にわたります。
これを放置したまま移行すると、新システム稼働初日から障害が多発するため、実務ではデータプロファイリングで現状の汚れを定量化するところから始めます。たとえば顧客マスタでは、同一顧客の重複登録が何件あるか、住所表記のゆれや電話番号の形式がいくつ混在しているかを数値で把握します。定量的に押さえなければ、クレンジング計画は立てられません。
クレンジングのルールは、業務部門と合意したうえで文書にすることが必須です。「この項目はこの優先順で名寄せする」「この条件に該当するレコードは削除する」といった判断基準を明文化し、承認プロセスを通します。自動化ツールで処理できる部分と、目視での確認が必要な部分を切り分け、工数と期間を現実的に見積もります。
ステップ6: PoC・並行稼働・段階的移行
本番稼働の前には、PoC(概念実証)、並行稼働、段階的移行の3段階で検証を重ねます。PoCは、特定の業務や機能について、実現可能性を小規模に確かめる取り組みです。大規模な投資を確定する前に、技術的なボトルネックや業務との適合性を早めに見つけることで、後戻りのコストを抑えられます。
並行稼働は、旧システムと新システムを同時に動かし、出力結果を突き合わせて新システムの正確さを確かめる手法です。一定期間は両方にデータを入力する運用になるため、現場の負荷は重くなります。一方で、本番切り替え時のリスクを大きく下げられるため、重要な基幹業務ほど並行稼働の期間を長めに確保します。
段階的移行(フェーズ移行)は、一気にすべてを切り替えるビッグバン方式ではなく、業務領域や拠点ごとに順番に切り替える方式です。ミッション・プロデュースの失敗事例では、テストと移行計画の不足から、3ヶ月で数億円の損失と100万ドル規模の追加修正費用が発生しました。移行計画の設計の精度が、プロジェクトの命運を左右します。
ステップ7: チェンジマネジメントと定着化
システムが稼働しても、現場で使われなければ投資は回収できません。チェンジマネジメントは、業務変更への抵抗を抑え、新システムを定着させるための組織的な取り組みです。トップメッセージや現場説明会、研修に加えて、ヘルプデスク体制やFAQの整備など、多層的な支援策を組み立てます。
デジタルデバイド対応も重要な論点です。ベテラン層やITに不慣れな現場担当者が置き去りにされると、シャドーITが発生したり、二重入力が残ったりします。そのため、マニュアルの動画化やチャットボット活用、対面トレーニング、伴走サポートなど、レベル別の支援を用意します。
定着化後も、KPIのモニタリングと継続的な改善を続けます。利用ログや業務処理時間、エラー件数などを定量的に追い、改善サイクルを回します。稼働後の半年から1年の安定化期間を経て、想定した効果が出ているかを見直すことが、投資対効果の検証につながります。
実名で学ぶ基幹システム刷新の失敗・成功事例
抽象論ではなく実名の事例から学ぶと、教訓を具体的に読み取れます。ここでは失敗2件と成功1件を取り上げ、何が分岐点になったのかを掘り下げます。
自社のプロジェクトに置き換えて読めば、避けるべき落とし穴と見習うべき点が見えてきます。
スルガ銀行(95億円白紙撤回)のパッケージ選定失敗
スルガ銀行と日本IBMの勘定系刷新プロジェクトは、基幹システム訴訟の歴史に残る事例です。IBM製パッケージ「Corebank」の導入を試みたものの、日本の銀行業務要件とのギャップが想定を超え、約95億円を投じたプロジェクトは白紙撤回されました。東京地裁は、日本IBMに約42億円の賠償命令を下しています。
失敗の本質は、パッケージの適合性の検証が甘かったことにあります。海外製パッケージを日本の商慣行に合わせようとしたため、アドオンが膨らみ、開発期間とコストを制御できなくなりました。さらに、Fit/Gap分析の段階では、撤退やパッケージ変更を決めるべき局面が何度もあったにもかかわらず、サンクコストに縛られて突き進んだことが裁判でも指摘されています。
教訓として、パッケージ選定時の実機検証の重要性、要件定義完了時点での投資再評価、ベンダーと発注側の役割分担の明文化が挙げられます。また、NHKと日本IBMの訴訟(2025年2月)でも、100%移行の非現実性が論点となっており、大規模パッケージ導入の根本的な難しさが改めて浮き彫りになっています。
ミッション・プロデュース(3ヶ月で数億円損失)のテスト不足
米国の農業企業ミッション・プロデュースは、新ERPの導入直後にテストと移行計画の不足が露呈し、3ヶ月で数億円規模の損失を計上しました。さらに、追加修正費用は100万ドルに達し、四半期決算にも影響を与えました。収穫・出荷のピークと本番稼働が重なったことも、被害を拡大させた要因として指摘されています。
教訓は、業務の繁忙期を避けた稼働時期の設計、受入テストの網羅性の確保、移行当日の縮退運用計画の整備です。出荷や決算などビジネスのピーク時期に切り替えをぶつけると、小さな不具合でも業務停止と売上損失に直結します。カレンダー上で最も影響の小さい時期を選ぶことが、リスクを下げる基本です。
テスト計画では、単体テストから結合、総合、受入へと段階を追って進め、負荷テストや障害訓練も行います。受入テストは、現場のキーパーソンが主導し、日常業務のシナリオを網羅します。本番稼働の前に、必ず「失敗したときの戻し(ロールバック)手順」を机上で演習しておくことが、致命傷を避けるための最後の備えになります。
キングジム(10億円逆転劇)の成功要因
キングジムの10億円基幹刷新プロジェクトは、失敗事例が多い中で成功を収めた代表例です。選定段階で最高額を提示したJQ社が採用された理由は、旧システムの全構成を徹底的に洗い出す調査力にありました。
安値の提案に飛びつくのではなく、現状把握の精度で実現可能性を見極めた経営判断が、プロジェクトを成功へ導きました。別の成功例として、TISが提供する基幹リビルドフレームワーク「Xenlon〜神龍」は、次の点が評価されています。
- 実績:JFEスチールの3,400万ステップを29カ月で刷新した実績
- 移行の手法:COBOL資産をJavaへ機械的に変換しつつ、品質とスケジュールを担保する
- 進め方の考え方:独自フレームワークを組み合わせ、大規模刷新のリスクを構造的に下げる
成功パターンに共通するのは、現状把握の徹底と経営層のコミット、ベンダーとの対等なパートナーシップ、そして段階的な移行設計です。オービックのように、独立系SIerとしての専門性と長期伴走を掲げる企業が営業利益率44%を実現している事実も、品質と継続性に対する正当な対価があることを示しています。
プロジェクト炎上時の「撤退の作法」

刷新プロジェクトが炎上したとき、最も大切でありながら多くの企業が苦手とするのが「撤退の作法」です。サンクコストに縛られて突き進むより、適切なタイミングで損切りできるかどうかが、組織と事業を守ります。
サンクコストをいつ切り捨てるかの判断基準
サンクコスト(埋没費用)は、すでに支出して回収できなくなった費用を指します。心理的には「これまで投資したから続けたい」と感じがちですが、経済合理性の観点では、これからの投資対効果だけで判断すべきです。たとえば、スルガ銀行の95億円案件も、早期に撤退していれば被害を抑えられた可能性があります。
撤退を検討するときは、当初計画に対する遅延率や追加予算の規模、要件充足率を定量的に評価します。そのほか、品質指標やベンダーとの協業関係も評価の対象になります。遅延率が50%を超え、追加予算が当初の1.5倍を突破し、要件充足率が70%を下回るような局面では、撤退または大幅な計画の見直しを真剣に検討すべきタイミングです。
撤退の判断は、プロジェクトマネージャーやIT部門長だけで決められるものではありません。経営層が関わるステアリングコミッティで、定期的にGo/No-Goを再評価する運用を組み込むことが重要です。マイルストーンごとに「今から始めるとして、この投資を続けるか」を問い直す文化を育てることで、サンクコストにとらわれずに判断できるようになります。
契約形態別(請負/準委任)の解除手続き
契約解除の作法は、契約形態によって大きく異なります。請負契約では、発注者が仕事の完成前にいつでも契約を解除できますが、ベンダーに生じた損害を賠償する義務があります。完成した部分の扱いや未完成部分の清算、知的財産権の帰属など、細部を詰めずに解除を進めると、追加の紛争に発展します。
準委任契約では、善管注意義務の履行を前提として、いつでも各当事者から解除が可能です。ただし、不利な時期の解除では、相手方の損害を賠償する必要があります。業務範囲と成果物の定義が曖昧な場合は、どこまでが完成分か、どこからが未了かの線引きで揉める傾向が強いため、契約書の記載内容を事前に精査しておくことが必要です。
解除手続きでは、法務部門と弁護士を早期に巻き込み、書面によるやり取りを残します。成果物の引き渡しやソースコードの扱い、秘密情報の返却など、併走期間も含めて移行期の作法を合意しておきます。ベンダーとの関係を敵対させず、可能な限り協調的な清算を目指すことが、次のパートナー探しや事業継続の面でも大切です。
刷新後の「次の技術的負債」対策
刷新が完了した瞬間から、次の技術的負債は蓄積し始めます。10年後に同じ苦労を繰り返さないために、設計思想と運用ポリシーを刷新の時点で組み込んでおくことが重要です。
クラウドロックインの回避と、コンポーザブルERPによる柔軟性の確保が、現代のキーワードです。
クラウドロックインを防ぐアーキテクチャ
クラウドロックインとは、特定のクラウドベンダーの独自サービスに深く依存し、他のベンダーへの移行が困難になる状態を指します。マネージドサービスは便利ですが、ベンダー固有のAPIやデータ形式に頼りすぎると、将来の乗り換えや交渉で不利になります。設計の段階で、ロックインのレベルを意識しておくことが必要です。
対策としては、業界標準の技術スタック(コンテナ、Kubernetes、PostgreSQLなど)を採用し、独自サービスは抽象化レイヤを挟んで使います。マルチクラウド前提の設計、IaCによる環境の再現性の確保、データフォーマットの標準化などを積み重ねることで、将来の選択肢を保てます。初期開発の速度は落ちますが、中長期の柔軟性は大きく向上します。
契約面では、出口戦略(Exit Strategy)を契約書に明記することも有効です。データの取り出し手段や移行支援の範囲、猶予期間、違約金の上限などを事前に合意しておくと、いざというときの交渉力を確保できます。ベンダーロックインのリスクとコストを、経営指標の一つとして定量的に管理する視点が求められます。
コンポーザブルERPによる柔軟性確保
コンポーザブルERPは、刷新後の柔軟性を確保するうえで最も有力なアプローチです。業務領域ごとに独立したSaaSを組み合わせる構成のため、領域単位での入れ替えが可能になります。財務会計や人事、販売などの領域ごとに最適な製品を選び、連携基盤で統合する構成が主流になりつつあります。
設計の要は、APIファーストのアーキテクチャ、iPaaS(統合プラットフォーム)の活用、共通データモデルの定義です。各SaaSが公開するAPIを中心に連携を組み立て、iPaaSで連携ロジックを一元管理します。データモデルを統一することで、SaaS間の整合性を担保でき、分析基盤との接続も容易になります。
運用面では、SaaSのバージョンアップへの追従や、認証統合(SSO)、監査ログの統合などが継続的なテーマになります。セキュリティポリシーの統一も欠かせません。ガバナンス体制を整え、新しいSaaSの追加や既存SaaSの入れ替えを判断できる意思決定の仕組みを定着させることで、コンポーザブルERPは「常に進化し続けるERP」として機能します。
まとめ
基幹システム/ERP刷新は、2025年の崖と2027年問題を背景に、多くの企業が避けて通れない経営課題になっています。7Rフレームワーク、Fit to Standard、コンポーザブルERPといった手法を適切に組み合わせ、7つのステップを着実に踏むことが成功への道筋です。
現行システムの洗い出しや要件定義、データクレンジングなど、どの工程でも泥臭い調整と継続的な意思決定が求められます。体制づくりやベンダー選定、PoCと段階移行、定着化も例外ではありません。スルガ銀行の95億円白紙撤回やミッション・プロデュースのテスト不足といった失敗事例は、いずれもパッケージ適合性の甘さ、計画の不備、サンクコストへの執着が共通項でした。
一方で、キングジムの成功事例が示すように、現状把握の徹底と経営層のコミットがあれば、大規模刷新も成功させられます。撤退の作法、クラウドロックイン対策、コンポーザブルERPによる柔軟性確保まで含めて、長期の視点でプロジェクトを設計することが、次の技術的負債を防ぐ有効な対策になります。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・基幹システム/ERP刷新の完全ガイド
▼開発を相談する前に読みたい無料ホワイトペーパー
・レガシーシステム刷新の完全ガイドブック
・【2026年最新版】AI駆動開発の完全ガイドブックをご覧ください。
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
