インフラコンサルのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

インフラコンサルとは、サーバー・ネットワーク機器・データセンター・クラウド基盤といった、ITシステムを支える物理・仮想インフラそのものの設計・構築・最適化に特化したコンサルティングサービスです。多くのインフラ構築は、クラウドベンダーが提供する標準的なリファレンスアーキテクチャやテンプレート構成を活用することで、コストと期間を抑えて構築できますが、事業特性や規制要件によっては、標準テンプレートに依らず、ゼロベースでネットワーク・サーバーアーキテクチャを設計する「フルスクラッチ・オーダーメイド」のインフラ構築が必要になるケースがあります。よく似た名称のサービスに「IT戦略コンサル」がありますが、IT戦略コンサルにおけるフルスクラッチが「標準テンプレートに依らない独自のIT基盤構想そのもの」という上位の構想レベルの話であるのに対し、インフラコンサルにおけるフルスクラッチは、その構想を実際のネットワーク構成・サーバー配置・可用性設計として具体的に組み上げる、より実装に近い技術専門領域を指します。IT戦略コンサルが「独自の基盤をどう構想するか」を扱うのに対し、インフラコンサルは「その基盤を実際にどう設計・構築するか」を扱う点で明確に異なり、この違いを理解しないまま発注してしまうと、構想レベルの提案書だけが納品され、実際に動くインフラが手に入らないという事態にもなりかねません。

本記事では、インフラコンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当て、フルスクラッチとは何か、標準構成との違い、具体的な進め方、期間・費用の目安、そして判断基準とリスク・注意点までを、具体的な数値とともに体系的に解説します。フルスクラッチによるインフラ構築は、自由度が高く自社の要件に完全に最適化できる一方、標準テンプレートを使う場合に比べて費用・期間ともに大きく膨らむ傾向があり、すべての企業・すべてのシステムに適した選択肢というわけではありません。「他社と同じ構成では差別化できない」「自社の業務は特殊だから標準構成では対応できない」といった思い込みだけでフルスクラッチを選んでしまうと、本来であれば数十万円・数週間で完了したはずのインフラ構築に、数千万円・数年単位の投資が必要になってしまうケースも少なくありません。これから自社の独自要件に合わせたインフラ構築を検討している方はもちろん、標準構成とフルスクラッチのどちらを選ぶべきか迷っている方にとっても、判断のための材料が身に付く内容です。

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インフラコンサルにおけるフルスクラッチとは何か(パッケージ・標準構成との違い)

インフラコンサルにおけるフルスクラッチとは何か(パッケージ・標準構成との違い)

インフラにおけるフルスクラッチとは、クラウドベンダーが提供する標準的なリファレンスアーキテクチャや、パッケージ化された定型のインフラ構成テンプレートを利用せず、自社の要件に合わせてネットワーク構成・サーバー設計・可用性設計・セキュリティ設計をゼロベースで組み上げる進め方を指します。多くの企業では、AWSやAzureが提供する標準的なマルチAZ構成やAuto Scalingの定型パターンを活用することで、設計工数を抑えつつ十分な品質のインフラを構築できます。しかし、独自の可用性要件(一般的なSLAでは満たせないレベルの稼働率が求められる)、特殊な法規制対応(特定業界向けのデータ保管要件)、既存システムとの複雑な連携要件がある場合には、標準構成では要件を満たせず、フルスクラッチでの設計が必要になります。フルスクラッチは自由度が高い分、設計者の専門性への依存度が高く、期間・費用ともに標準構成より大きくなる点を理解したうえで検討することが重要です。

対象となるケース(独自の可用性要件、特殊なハイブリッド構成等)

フルスクラッチでのインフラ構築が検討されるケースとしては、いくつかの典型的なパターンがあります。1つ目は、一般的なクラウドのSLAでは満たせない極めて高い可用性が求められる基幹システムで、複数リージョンにまたがる独自の冗長化構成を必要とするケースです。2つ目は、金融・医療・官公庁関連など、特定業界の規制によりデータの物理的な保管場所やアクセス制御に厳格な要件があり、標準的なクラウド構成だけでは要件を満たせないケースです。3つ目は、老朽化した既存のオンプレミス基幹システムと、新規に構築するクラウド環境を専用線で接続する独自のハイブリッド構成が必要なケースです。4つ目は、大量のセンサーデータを処理する独自IoT基盤や、超大規模データ分析専用のマルチクラウド環境など、汎用的なテンプレートが存在しない特殊な要件を持つケースです。これらのケースでは、標準構成をベースに部分的にカスタマイズするアプローチでは限界があり、ゼロベースでの設計が必要になります。このほかにも、M&Aによって複数の異なるITインフラ環境を統合する必要がある場合や、グローバル展開に伴い各国の法規制に応じたデータローカライゼーション要件を満たす必要がある場合など、単一の標準構成だけでは対応しきれない複合的な要件を抱える企業でも、部分的にフルスクラッチの要素を組み込んだ設計が検討されることがあります。

IT戦略コンサルの「独自IT基盤構想」との違い

フルスクラッチという言葉が指す内容を混同しないためにも、IT戦略コンサルにおける「独自IT基盤構想」との違いを整理しておきます。IT戦略コンサルにおけるフルスクラッチは、標準テンプレートに依らない独自のIT基盤アーキテクチャを、情報システム部門主体でゼロベースのグランドデザインとして構想する取り組みであり、期間は1年〜3年以上、費用は数千万円〜数億円規模に及ぶ、極めて上流の構想フェーズを指します。一方でインフラコンサルにおけるフルスクラッチは、そうした構想(あるいは既に確定している独自要件)を前提に、実際のネットワーク構成図・サーバー設計書・IaCコードといった、実装に直結する成果物を組み上げる作業を指します。つまり、IT戦略コンサルのフルスクラッチが「何を目指すかという設計思想の構想」であるのに対し、インフラコンサルのフルスクラッチは「その設計思想を実際に動くインフラへと落とし込む実装」であり、両者は連続する工程でありながら、担う専門性も成果物もまったく異なります。

フルスクラッチインフラ構築の進め方

フルスクラッチインフラ構築の進め方

ここからは、フルスクラッチのインフラ構築を実際にどのようなステップで進めるのかを見ていきます。フルスクラッチでのインフラ構築は、標準構成の構築と同じ7フェーズの流れ(ヒアリング・提案/要件定義/設計/PoC・負荷検証/環境構築/試験/移行)を踏みますが、各フェーズにかける工数と専門性の水準が大きく異なります。ここでは、特にフルスクラッチならではの重点ポイントを解説します。

ヒアリング・アセスメント〜要件定義・設計(非機能要件の数値化)

フルスクラッチでの構築は、まず既存システムの課題や稼働実績を精査するヒアリング・アセスメントから始まります。標準構成の構築以上に重要なのが、要件定義・設計フェーズであり、全体工数の20〜30%をこのフェーズに投じることが推奨されます。ここでは、スケーラビリティ(対応アクセス数)や稼働率(可用性目標)といった非機能要件を、独自の数値目標として具体的に定義し、セキュリティグループやIAM(権限管理)を「最小権限の原則」に基づいて独自に設計します。標準テンプレートが存在しないフルスクラッチでは、この要件定義・設計フェーズが後工程すべての土台になるため、ここでの手抜きは開発フェーズでの手戻りに直結します。開発フェーズでの修正は要件定義段階での修正に比べて10倍以上のコストと時間を要するとも言われており、フルスクラッチにおいては、この「デバッグコストの法則」がより顕著に表れる点を意識しておく必要があります。

PoC・負荷検証〜環境構築・テスト〜システム移行

設計が固まったら、本格構築の前にPoC・負荷検証を行い、独自設計した構成が要件を満たすかを確認します。標準テンプレートを使う場合と異なり、参考にできる実績データが少ないため、フルスクラッチのPoCではより広い範囲のシナリオを想定した検証が必要になります。特に、複数のコンポーネントを組み合わせた独自アーキテクチャの場合は、単体では問題なくても組み合わせた際に想定外の相互作用が発生することがあるため、コンポーネントごとの個別検証と、全体を結合した状態での統合検証の両方を行うことが推奨されます。検証が完了したら、設計書に基づいてインフラを構築し、障害時のフェイルオーバー試験(自動切り替えテスト)などを実施して試験報告書を作成します。近年は、TerraformやCloudFormationといったIaC(Infrastructure as Code)ツールを用いて構築・運用自動化を行うことが標準的になっており、フルスクラッチであってもコードとして構成管理を行うことで、再現性と保守性を確保することができます。最後に、既存システムからのデータ移行や切り替えを実施するシステム移行フェーズに移ります。フルスクラッチのインフラは、構築後の運用・保守も独自の知見を要するため、構築を担当したエンジニア・アーキテクトが、そのまま運用フェーズにも一定期間関与できる体制を整えておくことが、安定稼働への移行をスムーズにする鍵になります。

期間と費用の目安

期間と費用の目安

フルスクラッチでのインフラ構築の期間・費用は、要件の複雑さによって大きく変動しますが、標準構成と比較した目安を押さえておくことで、発注時の判断材料にすることができます。

期間の目安:要件複雑度により数ヶ月〜1年超

フルスクラッチによるインフラ構築の期間は、要件の複雑さに応じて数ヶ月〜1年超と幅があります。単一システムの高可用性構成を独自設計する程度であれば3ヶ月〜半年程度で完了することが多い一方、複数拠点にまたがる独自のハイブリッド構成や、業界特有の規制対応を含む大規模基幹システムのフルスクラッチ構築となると、要件定義・設計だけで半年近くを要し、全体では1年を超えるプロジェクトになることも珍しくありません。標準テンプレートが存在しないため、参考にできる先行事例が限られ、設計レビューのサイクルを重ねる必要がある点が、期間が長期化する主な要因です。期間を現実的な範囲に収めるには、要件のうち「本当に独自設計が必要な部分」と「標準構成を流用できる部分」を切り分け、独自設計が必要な範囲を最小限に絞り込むことが有効な進め方です。また、全体を一度に完成させようとせず、最も重要度の高いコンポーネントから段階的にフルスクラッチ設計を適用し、優先度の低い周辺部分は標準構成のまま先行稼働させるという部分最適なアプローチをとることで、事業への影響を抑えながら着実にプロジェクトを進めることができます。

費用の目安:50万円〜3,000万円以上(規模別内訳)

フルスクラッチによるインフラ構築の費用は、規模によって大きな幅があります。複数のAZ(アベイラビリティゾーン)にサーバーとデータベースを独自に分散配置し、セキュリティを強化した高可用性構成であれば50万円〜60万円程度、これにAuto Scaling等の拡張性を独自に持たせた大規模アクセス構成では70万円〜が目安です。クラウドネイティブなプラットフォーム全体の構築や、業務システム・SaaSをゼロからインフラ含めて独自開発する場合は、250万円〜3,000万円以上(要件によっては数千万円超)に及びます。費用の約80%は人件費が占め、独自のアーキテクチャをゼロベースで設計するシニアエンジニアやアーキテクトの単価は月額80万円〜120万円以上(100万円超も多い)が相場です。加えて、構築後のランニングコストとして、マルチAZ構成の場合は中規模で月額8万円〜20万円程度、大規模システムでは月額数十万円〜100万円以上、保守費用は年間で初期開発費の10〜20%程度を見込んでおく必要があります。

判断基準とリスク・注意点

判断基準とリスク・注意点

フルスクラッチでのインフラ構築は自由度が高い反面、相応のリスクも伴います。発注前に、本当にフルスクラッチが必要かどうかを見極める判断基準を持っておくことが重要です。

フルスクラッチを選ぶべきケース・避けるべきケース

フルスクラッチを選ぶべきケースは、標準構成では明確に要件を満たせないことが事前検証で確認できている場合、あるいは規制要件によって選択の余地がない場合に限られます。逆に避けるべきケースは、「なんとなく自社は特別だから」という思い込みだけで独自設計を選んでしまうケースです。実際には、多くの企業が「特殊」だと考えている要件も、クラウドベンダーが提供する標準構成の組み合わせやパラメータ調整で十分に満たせることが少なくありません。フルスクラッチを検討する前に、まず標準構成でどこまで要件を満たせるかを技術検証し、それでも満たせない部分だけを部分的にカスタマイズするという「ハイブリッドなアプローチ」を先に試すことをお勧めします。フルスクラッチはあくまで最終手段であり、コストと期間の増加に見合うだけの明確な事業上の理由がある場合にのみ選択すべき進め方です。判断に迷う場合は、複数のインフラコンサル・ベンダーに標準構成案とフルスクラッチ案の両方を提示してもらい、要件充足度・費用・期間・将来の拡張性を横並びで比較したうえで、経営層を含めた意思決定者が納得できる形で選択することが望ましいでしょう。

オーバースペック・属人化を防ぐハイブリッド体制

フルスクラッチで構築する際に想定される主なリスクは3つあります。1つ目は、将来を見越した「余裕のあるオーバースペック」で設計してしまい、クラウドの従量課金制のもとで使っていないリソースに毎月無駄な料金が発生し続けるリスクです。2つ目は、独自設計であるがゆえに、設計者本人しか構成の全体像を把握できない属人化・ブラックボックス化が進み、技術的負債となってしまうリスクです。3つ目は、通信遅延・データ移行の失敗で、データ量や必要な帯域幅を少なく見積もってしまうと、想定外の追加コストと時間を要するリスクです。これらのリスクへの対策として、PoCを通じて実際の課金ペースを確認し適正なスペックを見極めること、設計ドキュメントとIaCコードの整備を徹底し属人化を防ぐこと、24時間体制の監視・運用はコアな業務は自社で管理しつつ専門性の高い部分は外部ベンダーに委託するハイブリッド体制を構築することが有効です。また、発注時は同一要件で3〜5社に相見積もりを取り、見積書に「システム構築一式」ではなく工程ごとの明細があるかを確認し、「要件定義完了後の仕様変更は別途見積もりとする」というルールを契約に明記しておくことが、費用超過を防ぐ実務上のポイントです。

まとめ

インフラコンサルのフルスクラッチまとめ

本記事では、インフラコンサルにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、標準構成との違い、進め方、期間・費用の目安、判断基準とリスク・注意点を体系的に解説しました。インフラコンサルにおけるフルスクラッチを正しく理解する鍵は、これがIT戦略コンサルの「独自IT基盤構想」という上流の構想レベルとは異なる、「その構想を実際のネットワーク構成・サーバー設計として組み上げる実装」だと理解することにあります。期間の目安は要件複雑度により数ヶ月〜1年超、費用の目安は50万円〜3,000万円以上と幅広く、費用の約80%を人件費が占めます。フルスクラッチを選ぶべきかどうかは、まず標準構成でどこまで要件を満たせるかを検証したうえで判断すべきであり、オーバースペック・属人化・通信遅延という3大リスクへの対策と、コア業務は内製・専門領域は外部委託というハイブリッド体制を組み合わせることが、フルスクラッチのプロジェクトを成功に導く最善のアプローチです。インフラコンサルにおけるフルスクラッチを検討されている方は、まずは本当に標準構成では対応できないのかを技術的に見極めることから始めることをお勧めします。標準構成・ハイブリッド構成・フルスクラッチのいずれを選ぶ場合でも、自社の非機能要件を数値レベルで言語化し、複数のコンサルティングパートナーに同一条件で相談することが、費用対効果の高いインフラ投資への近道です。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。