在庫管理システム改修のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

在庫管理システム改修におけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、特定の機能や拠点だけをゼロから作り直す進め方です。既存コードを活かす部分改修と比べると、費用や期間、リスクの性質が異なるため、対象に応じて使い分けます。

  • 判断の分かれ目:対象機能が既存構造に手を加えずに済むかどうか
  • 仕様の把握:既存システムの仕様が文書で整理され、安定して稼働しているかどうか
  • 要件の変化:業務要件が既存システムの設計時の想定から大きく変わっているかどうか

改修を判断するうえでは、選定基準(候補製品と業務要件を比べる)、費用(導入と運用に関わる負担)、適用条件(自社に合う導入条件の確認)の三点が論点になります。

既存システムの一部だけを直すか作り直すか迷う方は、以下の全体ガイドもあわせてご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・在庫管理システム改修の完全ガイド

在庫管理システム改修における「部分改修」と「該当機能のみ作り直し」の位置づけ

在庫管理システム改修で「フルスクラッチ」が話題になるのは、既存の在庫管理システムの土台を残したまま、対象とする1機能・1拠点分だけをゼロから作り直すかどうかを決める、限定的な選択の場面です。システム全体を新規に作り直すことを指すわけではありません。この選択が改修の分岐点になる理由を、以下で説明します。

この選択が改修プロジェクトの分岐点になる理由

棚卸機能に軽微な改善を加える程度なら、既存のプログラムに手を加えるパッチ的な改修で十分に対応できます。一方で、特定拠点の在庫データをリアルタイムで受信して既存システムに反映させる連携機能を追加する場合、既存の在庫データベースの構造が、この新しい要件を想定していないことが多くあります。

そのため、既存の構造に無理に継ぎ足して対応するか、対象機能だけを新しいデータ構造で作り直すかを選ぶことになります。前者は短期的には安く済みますが、無理な継ぎ足しは将来の技術的負債になりやすくなります。

後者は前者より費用も期間もかかります。ただし、対象範囲を絞っている分、全面刷新に比べればはるかに低予算・短期間で完結します。

「モダナイゼーション」「刷新」「更改」「リニューアル」「リアーキテクチャ」「リプレイス」との違いと本記事の焦点

姉妹記事「在庫管理システムのモダナイゼーション」が扱うフルスクラッチ(リビルド)は、老朽化した在庫計算ロジックやデータベース構造を、クラウドネイティブなアーキテクチャで作り直す技術基盤の刷新です。「在庫管理システム刷新」は、フルスクラッチへの投資額に見合う効果が本当に得られるかを問う経営判断が中心です。

「在庫管理システム更改」は、動かせない期限を超えるリスクを抑えながらビルド・バイを判断する、期限制約下の論点です。

似た言い方のうち、次のものは本記事とは別の論点です。

  • 在庫管理システムのリニューアル:UI/UXをフルオーダーメイドで作り込むかという画面設計の論点
  • 在庫管理システムのリアーキテクチャ:モノリスをマイクロサービスへ分解する構造設計の技術的な深掘り
  • 在庫管理システムリプレイス:自社スクラッチを維持するか、クラウド型在庫管理SaaSへ乗り換えるかという、製品・ベンダー選定の根本判断

これらに対して本記事が扱うのは、在庫管理システム全体ではなく、特定拠点・特定機能だけを対象にした、低予算・短納期の作り直しです。全面的な作り替えの判断材料を知りたい方は、姉妹記事の完全ガイドもあわせてご参照ください。

ポイント

既存の構造に無理に継ぎ足すか、対象機能だけを作り直すかが改修の分岐点です。短期の安さだけで選ぶと、将来の技術的負債につながりやすい点に注意します。

パッチ的改修とミニリビルドを分ける判断基準

パッチ的改修とミニリビルドの判断に関わる、仕様の整理状況や要件変化を4枚のパネルで示す図。
仕様が見通せる状態と、影響を読み切れない状態が分岐点になります。

特定拠点の在庫連携追加や棚卸機能の改善では、どちらの手法を選ぶかは、対象機能の性質でおおむね判断できます。ここでは、パッチ的改修を選ぶ場合とミニリビルドを選ぶ場合に分けて見ていきます。

パッチ的改修を選ぶ基準(棚卸UI改善・仕様把握が可能な場合)

棚卸入力画面への項目追加や表示順の変更のように、既存のデータベース構造や在庫計算ロジックに手を加える必要がない改修なら、パッチ的な部分改修が合理的です。ただし、既存システムの仕様がドキュメントで十分に整理され、安定して稼働していることが前提です。

仕様が把握できていれば、影響範囲の調査にかかる手間を抑えられます。そのため、短期間・低コストで改修を終えられます。

既存プログラムの品質がある程度良好で、過去の改修履歴も管理されているシステムほど、パッチ的改修と相性が良くなります。

ミニリビルドを選ぶ基準(拠点連携のブラックボックス化・要件の大幅変化)

一方で、既存の在庫データベースがブラックボックス化していて、特定拠点との在庫連携を無理に組み込むと、他の拠点や機能への影響が読み切れない場合は、ミニリビルドを選ぶべきです。この場合は、対象機能だけを新しいデータ構造で作り直します。

さらに、業務要件が既存システムの設計時の想定から大きく変わっている場合も、ミニリビルドが現実的な選択肢になります。たとえば、従来は単一拠点で完結していた在庫管理を、複数拠点をまたぐリアルタイム連携へ広げるケースです。こうした変化には、パッチでの対応に限界があります。

ポイント

既存の在庫データベースがブラックボックス化していて、連携の影響が読み切れない場合は、ミニリビルドを選ぶ目安になります。仕様が文書で整理され安定しているなら、パッチ的改修で足ります。

コスト・期間・リスクの違い

パッチ的改修とミニリビルドの期間と費用の目安を左右に並べて比較した図。
対象範囲を広げるほど期間と費用の目安も大きくなります。

パッチ的改修とミニリビルドは、コストや期間だけでなく、抱えるリスクの性質も異なります。それぞれの特徴を、具体的な数値とあわせて見ていきます。

パッチ的改修の短期的な安さと中長期的な技術的負債リスク

パッチ的な部分改修の期間の目安は約1〜3ヶ月、費用は約100万〜300万円が相場です。軽微な修正だけであれば、30万〜160万円程度に収まることもあります。

たとえば、棚卸機能の軽微な改善なら、この費用感で十分に対応できます。

ただし、短期的な安さと引き換えに、既存の構造をそのまま活かすことになります。そのため、老朽化した部分にさらに手を加える場面が増え、改修を積み重ねるほどシステムが複雑になります。やがて誰も仕様を理解できない技術的負債が蓄積するおそれがあるため、注意が必要です。

ミニリビルドの費用目安(500万〜2,000万円程度)とグルーコードのリスク

費用は、作り直す範囲の広さで大きく変わります。ミニリビルドとフルスクラッチの相場は、範囲ごとに次のように分かれます。

  • ミニリビルド:期間の目安は約4〜8ヶ月、費用は約500万〜2,000万円程度が相場
  • フルスクラッチ:在庫管理システム全体を作り直す場合で、数千万円〜1億円規模

一方で、対象を1機能・1拠点に絞ることで、費用を500万〜2,000万円程度に抑えられます。

ただし、新しい機能と既存の在庫管理システムをつなぐ「グルーコード(連携プログラム)」の開発が必要になります。システム間の通信制御やデータ整合性の維持が複雑になるため、開発コストが計画より超過しやすい、ミニリビルド特有のリスクがあります。

結合テストの工程には、想定より多めの期間を確保しておくことが望ましいでしょう。

ポイント

パッチ的改修は約1〜3ヶ月・100万〜300万円、ミニリビルドは約4〜8ヶ月・500万〜2,000万円程度が目安です。費用だけでなく、技術的負債やグルーコードのリスクもあわせて比べます。

稼働中のシステムを止めずに置き換える「ストラングラーフィグパターン」

連携用モジュールの構築から対象拠点データの処理、既存システムへの接続までを順に示す図。
新モジュールの担当範囲を絞ると、既存業務への影響を限定できます。

ミニリビルドを選んだ場合は、稼働中の在庫管理システムを止めずに、対象機能だけを安全に置き換えていく進め方が求められます。その実務的な進め方を、順に見ていきます。

古い機能を少しずつ新モジュールに置き換える進め方

ストラングラーフィグパターンは、既存システムの機能を一気に置き換えず、新しいモジュールで対象機能を少しずつ肩代わりさせる進め方です。最終的には、古い部分を完全に置き換えます。

特定拠点の在庫連携を追加する場合は、次の順で進めます。

  1. 既存システムの外側に、新しい連携用モジュールを独立させて構築
  2. 対象拠点のデータだけを、この新モジュール経由で処理
  3. 既存の在庫管理システム本体には、最小限の接続点だけを追加

この構成にしておけば、万が一新モジュールに不具合が出ても、既存の在庫管理業務全体への影響を限定できます。

一気に切り替えるビッグバン方式に比べて、この進め方は移行失敗のリスクを大幅に下げられます。部分改修ならではの安全策です。

成否を分ける置き換え単位の切り方

ストラングラーフィグパターンを成功させる鍵は、「置き換え単位」の切り方にあります。どこまでを新モジュールの担当範囲にし、どこからを既存システムに残すかを決めることです。

境界を広く取りすぎると、全面刷新に近い規模になり、低予算・短納期という改修本来の狙いから外れてしまいます。逆に、境界を狭く取りすぎると、新旧システム間の連携ポイントが増えて、グルーコードの開発・維持コストがかさみます。

特定拠点の在庫連携であれば、「対象拠点の在庫データ受信と既存マスタへの反映」を機能単位で明確に切り出します。そのうえで、それ以外の在庫計算ロジックや他拠点のデータには一切触れないという線引きを、最初に固めておきます。これが、置き換えをスムーズに進めるための実務的なコツです。

ポイント

稼働を止めずに置き換えるには、どこまでを新モジュールの担当範囲にするかを最初に決めます。境界が広すぎると全面刷新に近づき、狭すぎるとグルーコードのコストがかさみます。

低予算でオーダーメイド開発を実現する方法

ミニリビルドの規模であっても、進め方を工夫すれば、予算をさらに圧縮できる余地があります。すべてを独自開発するのではなく、既にある部品を活用する発想が欠かせません。

ローコード・SaaSとのAPI連携によるハイブリッド戦略

次の2つを使い分けると、特定拠点の在庫連携機能の開発工数を抑えられます。

  • 連携用モジュールの一部:ローコードツールを使う
  • 汎用的な通知やデータ変換:既存のSaaSをAPIで組み合わせる

たとえば、小規模な業務システムのスクラッチ開発が100万〜300万円かかるところ、ローコードを活用すると50万〜150万円程度に抑えられるケースもあります。

ただし、ローコードツールには月額5万〜30万円程度のライセンス費用が継続的にかかります。そのため、単年の初期費用だけでなく、5年程度の総所有コスト(TCO)で比べたうえで採用を判断することが重要です。

また、自社の独自業務にあたる在庫引当ロジックの根幹だけは自前で作り込み、周辺の汎用機能は既存の部品で済ませます。この切り分けが、低予算での実現を左右します。

MVPによるスモールスタートと補助金の活用

特定拠点の在庫連携機能は、いきなりフル機能で作り込むよりも、まず在庫数量の受信・反映という最も重要な1機能(MVP)に絞る方法があります。数週間・数百万円単位でリリースし、現場の反応を見ながら、発注確定や棚卸連携といった周辺機能を段階的に広げていきます。このアプローチは、無駄な投資を防ぐ鉄則です。

デジタル化・AI導入補助金やものづくり補助金といった公的な補助金を使うと、システム開発やPoCの費用の2分の1から最大80%(最大で数百万円〜1,000万円以上)が補助される場合があります。

低予算・短納期が求められる改修だからこそ、補助金が使えるかどうかを早い段階で確かめておくと、実現可能な選択肢が広がります。

ポイント

低予算で進めるには、独自業務の根幹だけを自前で作り込み、周辺は既存の部品で済ませるかが鍵です。ライセンス費用を含め、5年程度のTCOで比べます。

まとめ

ここまで、在庫管理システム改修における「パッチ的な部分改修」と「該当機能のみのフルスクラッチ(ミニリビルド)」の使い分けを見てきました。判断基準とコスト・期間・リスクの違いを押さえたうえで、稼働を止めない置き換え方と、低予算での進め方を取り上げました。

棚卸機能の軽微な改善なら、1〜3ヶ月・100万〜300万円程度のパッチ的改修で対応できます。一方で、特定拠点の在庫連携追加のように既存構造では対応しきれない要件には、4〜8ヶ月・500万〜2,000万円程度のミニリビルドを、影響範囲を絞り込みながら進めるのが現実的です。

システム全体を作り直す場合の判断材料については、姉妹記事「在庫管理システムのモダナイゼーション」「在庫管理システムリプレイス」もあわせて参照してください。そのうえで、部分改修とシステム全体の作り替えのどちらが自社に適しているかを見極めることをお勧めします。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。