「IT新規事業開発を支援会社に依頼して事業を立ち上げたあと、保守・運用にはどれくらいの費用がかかり続けるのか」という質問を、新規事業を軌道に乗せようとしている経営企画・事業開発部門の担当者からよくいただきます。IT新規事業開発における「保守・運用」とは、特定のシステムを不具合なく動かし続けるためのシステム保守とはまったく異なり、立ち上げた事業を軌道に乗せ、グロース(成長)させるための仮説検証と改善を継続する伴走支援を指します。契約形態にもよりますが、月額顧問料型で月10万〜50万円程度、実務まで踏み込むハンズオン型で月100万〜300万円程度が費用相場の目安であり、事業のフェーズや支援の深さによって金額は大きく変動します。
本記事では、IT新規事業開発における保守・運用フェーズが具体的にどのような活動を指すのか、契約形態別の費用相場、費用に影響する要因とコストの内訳、そしてコストを無理なく抑えるための実務ポイントまでを体系的に解説します。なお、本記事で扱うIT新規事業開発の保守・運用は、個別のアプリやWebサービス、業務システムを安定稼働させるプロダクト開発のシステム保守とは異なり、事業そのものをグロースさせるための事業開発コンサルティングの継続支援に位置づけられるサービスです。システムの保守・運用費用の相場を知りたい方は、プロダクト開発カテゴリの各記事もあわせてご参照ください。すでに新規事業を立ち上げたものの、成長局面での伴走支援の費用感がつかめずにいる方にとって、実務的な判断軸が身に付く内容です。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
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・IT新規事業開発の完全ガイド
IT新規事業開発における「保守・運用」とは何か(システム保守との違い)

IT新規事業開発の保守・運用費用を正しく見積もるには、まず「保守・運用」という言葉が指す活動範囲を明確にしておく必要があります。システム開発の世界における保守運用は、システムが止まらないように維持し、バグを修正し、OSやミドルウェアのアップデートに対応するといった、機能を維持しマイナスをゼロに戻す活動を指します。これに対してIT新規事業開発における保守・運用は、立ち上げた事業をプラスに伸ばしていくための継続的な仮説検証と改善のプロセスであり、活動の性質そのものが根本的に異なります。この違いを理解しないまま費用を比較すると、システム保守の相場感で新規事業の伴走支援費用を判断してしまい、実態とかけ離れた予算設定をしてしまう恐れがあります。
グロースを支える4つの継続活動
IT新規事業開発における保守・運用フェーズには、主に4つの継続活動が含まれます。1つ目は、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の検証と改善です。リリース後も顧客からのフィードバックを収集し、ターゲット層や提供価値が本当に市場に合っているかを検証し、必要であればビジネスモデルのピボット(方向転換)も検討します。2つ目は、マーケティング・チャネルの運用と最適化です。立ち上げ初期に幅広く試した集客チャネルの中から効果の高いものを見極め、CPA(顧客獲得単価)を下げながらリードを獲得する運用を継続します。3つ目は、セールスプロセスの標準化です。属人的な営業から脱却し、誰が対応しても一定の成果を出せる営業トークや提案資料をブラッシュアップし、組織として勝ち切るための型を作ります。4つ目は、カスタマーサクセスとLTV(顧客生涯価値)の最大化です。獲得した顧客が離脱しないよう支援し、クロスセルやアップセルを通じて顧客単価を高めていきます。これら4つはいずれもシステムの保守運用には含まれない、事業成長そのものにコミットする活動です。
システム保守とはコスト構造も評価指標も異なる
システムの保守運用費用は、サーバー費用や監視ツールの利用料、障害対応の人件費といった比較的固定的なコスト構造を持ち、稼働率や障害件数といった技術指標で評価されます。一方でIT新規事業開発の保守・運用費用は、市場調査担当者やマーケター、セールス支援担当者といった多様な専門人材の稼働に左右される変動的なコスト構造を持ち、売上成長率や顧客獲得数、LTVといった事業指標で評価される点が大きく異なります。またシステム保守は「現状維持ができていれば合格」という性質が強いのに対し、IT新規事業開発の保守・運用は「前月より事業が伸びているかどうか」が常に問われるため、支援会社側にも高い当事者意識と事業への理解が求められます。この違いを踏まえたうえで、自社が求めているのは技術的な安定運用なのか、それとも事業成長への伴走なのかを明確にしてから発注先を選定することが重要です。
実際の発注現場では、「保守・運用」という同じ言葉を使っていても、依頼する側と受注する側でイメージしている業務範囲がずれてしまうケースが少なくありません。たとえば発注側が「毎月の売上分析とレポーティングだけをお願いしたい」と考えている一方で、支援会社側は「戦略の見直しやチャネル開拓の実務まで含む包括的な伴走支援」を前提に見積もりを出しているといった食い違いです。こうしたミスマッチを防ぐためには、契約前に「保守・運用フェーズで支援会社に何を任せ、何を自社で担うのか」を業務単位で棚卸しし、双方の認識を文書化しておくことが欠かせません。あわせて、月次のレポーティングだけを求めているのか、実際に手を動かす実行支援まで求めているのかによって適切な契約形態が変わるため、発注前の期待値のすり合わせが費用対効果を左右する最初のポイントになります。
契約形態別の費用相場

IT新規事業開発の保守・運用にかかる費用は、支援の深さやコンサルタントの専門性によって大きく異なります。ここでは代表的な3つの契約形態別に、費用相場と特徴を整理します。
月額顧問料(アドバイザリー型):月額10万〜50万円程度
アドバイザリー型は、月に数回のミーティング(1on1や壁打ちセッション)を通じて、戦略の方向性確認や課題への助言、業界のノウハウ提供を行う契約形態です。費用相場は月額10万〜50万円程度と比較的抑えられており、資料作成や営業活動といった実務そのものはクライアント側が担うため、支援会社側の稼働負荷が軽いことがこの価格帯の背景にあります。社内に一定のマーケティング・セールス人材が揃っており、「壁打ち相手」や「客観的な視点」を求めている企業に向いている契約形態です。ただし、実務のボトルネックが人手不足そのものにある場合、アドバイザリー型だけでは事業成長のスピードが上がらないこともあるため、自社のリソース状況を踏まえて選択する必要があります。
プロジェクト伴走型(ハンズオン型):月額100万〜300万円程度
ハンズオン型は、コンサルタントが実務の泥臭い部分まで入り込んで支援する契約形態です。ターゲットリストの作成、営業資料のブラッシュアップ、KPIダッシュボードの構築、実際の顧客ヒアリングへの同席といった具体的な作業を伴走しながら進めます。費用相場は月額100万〜300万円程度で、大手コンサルティングファームが提供する場合は月額300万〜500万円以上になることもあります。事業をグロースさせるための実働リソースが社内に不足している企業や、立ち上げ初期でスピード重視の意思決定を求められている企業にとって有効な選択肢です。費用は高くなりますが、支援会社側が実際に手を動かすため、社内担当者の負荷を抑えながら事業を前進させられるメリットがあります。
成果報酬型(レベニューシェア等):初期費用+成果の5〜20%程度
成果報酬型は、初期費用として数十万円程度を支払ったうえで、事業の売上や粗利の5〜20%程度、あるいはアポイント獲得1件につき数万円といった形で成果に連動した報酬を支払う契約形態です。支援会社側もリスクを取る形になるため、確度の高い事業や、すでに一定の信頼関係が構築できているパートナーとの間で結ばれることが多い契約形態です。固定費を抑えながら事業成長に強くコミットしてもらえる点がメリットですが、成果指標(アポ数なのか受注数なのか売上そのものなのか)の定義を契約前に明確にしておかないと、後になって認識のズレからトラブルになりやすい点には注意が必要です。
費用に影響する要因とコスト内訳

同じ契約形態であっても、実際にかかる費用は事業のフェーズや支援範囲によって大きく変動します。ここでは費用に影響する主な要因と、コストの内訳について解説します。
事業フェーズによる支援内容の違い
事業立ち上げ直後のフェーズでは、まだ営業チャネルや顧客獲得の型が確立していないため、マーケティング・セールスの実務そのものに支援会社が深く入り込むハンズオン型の需要が高く、費用も相対的に高くなる傾向があります。一方、事業がある程度軌道に乗り、社内に一定のセールス・マーケティング体制が整った段階では、月次の振り返りと改善提案を中心としたアドバイザリー型に切り替えることでコストを抑えられます。逆に、複数の事業や複数のチャネルを同時並行で拡大させたいスケールフェーズでは、KPIダッシュボードの構築や複数チームのマネジメント支援が必要になり、再び費用が上振れするケースもあります。このようにフェーズごとに求められる支援の性質が変わるため、契約時には「今どのフェーズにいて、次にどのフェーズへ移行する見込みか」を支援会社とすり合わせておくことが、無駄なコストを発生させないポイントになります。
コストの内訳(人件費・ツール費・広告費)
IT新規事業開発の保守・運用費用の内訳は、大きく人件費、ツール・システム利用費、広告・マーケティング費の3つに分けられます。人件費は、コンサルタントやマーケター、セールス支援担当者の稼働工数に応じて発生する費用であり、契約費用の大部分を占めます。ツール・システム利用費には、CRM(顧客管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツール、KPIダッシュボードを構築するためのBIツールの利用料が含まれ、月額数万円〜数十万円程度が一般的です。広告・マーケティング費は、リスティング広告やSNS広告、展示会出展費用などが該当し、事業のフェーズや獲得したい顧客層によって金額が大きく変動します。これらの費用はコンサルティング契約の費用とは別枠で発生することが多いため、見積もりを受け取る際にはコンサルティング費用にどこまでが含まれ、どこからが実費(広告出稿費など)として別途発生するのかを必ず確認するようにしてください。
もうひとつ見落とされがちなのが、社内側で発生する「見えないコスト」です。支援会社との定例会議に参加する社内担当者の工数、資料レビューや意思決定にかかる経営層の時間、支援会社から提供された施策を実際に社内で実行するための人員配置など、契約金額には表れない社内リソースの消費も実質的なコストとして考慮する必要があります。特にハンズオン型を選んだ場合でも、支援会社がすべてを代行してくれるわけではなく、顧客ヒアリングへの同席や社内システムへのアクセス権限付与、社内他部署との調整といった発注側にしかできない業務は必ず残ります。保守・運用フェーズの総コストを見積もる際には、支援会社への支払額だけでなく、こうした社内工数も含めたトータルコストで判断することが、契約後の「思ったより手離れが悪い」というギャップを防ぐポイントです。
コストを抑えるためのポイント

保守・運用フェーズの費用は、契約形態の選び方や社内体制の整え方次第で無理なく抑えることができます。ここでは実務でよく使われるコスト最適化のポイントを紹介します。
チャネルを絞り込み「やりきる」ことでCPAを下げる
複数の集客チャネルを中途半端に手広く運用すると、それぞれのチャネルに対する予算も人手も分散してしまい、結果として全体のCPA(顧客獲得単価)が高止まりしやすくなります。効果が見え始めたチャネルを見極めたら、そこに予算と人員を集中させて泥臭く「やりきる」ことで、運用ノウハウが蓄積されCPAが徐々に下がっていきます。反対に反応が薄いチャネルは早めに見切りをつけ、無駄な広告費や工数の垂れ流しを止めることが、保守・運用フェーズ全体のコストを抑える最も基本的な考え方です。支援会社を選ぶ際にも、あらゆるチャネルを一律に提案してくる会社よりも、自社の事業特性に合わせてチャネルを絞り込む提案をしてくれる会社の方が、結果的にコスト効率の良い運用につながりやすい傾向があります。
内製化を見据えた段階的な契約形態の移行
立ち上げ初期はハンズオン型で伴走してもらいながら実務のノウハウを社内に吸収し、体制が整った段階でアドバイザリー型に移行して費用を抑えるという段階的な契約形態の見直しも、コストを最適化するうえで有効な考え方です。この移行をスムーズに行うためには、契約当初から「いずれは自社で運用できるようになること」をゴールとして支援会社と共有し、単に作業を代行してもらうのではなく、ノウハウの移転や社内担当者の育成を並行して進めてもらうことが重要です。あわせて、KPIダッシュボードやマニュアルといった成果物を都度資産として社内に残してもらうよう契約時に取り決めておくことで、支援会社が変わったり契約形態が変わったりしても、蓄積したノウハウが失われずに済みます。結果として、長期的に見たトータルの運用コストを大きく引き下げることができます。あわせて、内製化の進捗を四半期ごとに数値で確認できるチェックリストを支援会社と共同で作成しておくと、「そろそろ契約形態を見直すタイミングかどうか」を感覚ではなく客観的な基準で判断できるようになり、必要以上に長くハンズオン型の高額な契約を継続してしまうリスクも避けられます。
まとめ

本記事では、IT新規事業開発の保守・運用費用・ランニングコストについて、システム保守との違い、契約形態別の費用相場、費用に影響する要因とコスト内訳、コストを抑えるためのポイントを体系的に解説しました。IT新規事業開発における保守・運用は、システムを止めないための維持活動ではなく、PMFの検証と改善、チャネル運用の最適化、セールスプロセスの標準化、カスタマーサクセスによるLTV最大化という4つの継続活動を通じて事業をグロースさせる伴走支援です。費用相場は、月額顧問料型で月10万〜50万円、プロジェクト伴走型で月100万〜300万円、成果報酬型で初期費用に加えて売上・粗利の5〜20%程度が目安であり、事業フェーズと支援範囲によって適切な契約形態は変わります。チャネルを絞り込んで「やりきる」ことでCPAを下げ、内製化を見据えて契約形態を段階的に移行していくことが、無理なくコストを抑えながら事業を成長させる最善のアプローチです。IT新規事業開発の保守・運用フェーズの支援を検討されている方は、自社が求めているのは技術的な安定運用なのか事業成長への伴走なのかを整理したうえで、複数の支援会社に相談することをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
