レガシーシステム移行の保守・運用費用・ランニングコストについて

移行の実質総費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度が目安です。金額は、並行稼働の期間、ロールバック体制の範囲、廃棄・アーカイブの範囲によって変わります。

移行の手法を問わず発生する二重運用、ロールバック維持、廃棄・アーカイブの費用に加え、費用最適化も解説します。

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レガシーシステム移行における保守・運用費用の全体像

移行実行フェーズの費用を、並行稼働中の変動費、ロールバック体制の固定費、移行後の精算的な費用に分けた図。
費用の性質に応じて、予算へ含める時期を分けて考えられます。

IPAは、レガシーシステムがIT予算の約8〜9割を維持管理費として占めてきたと指摘しています。クラウドネイティブ環境へ移行すれば、ハードウェア費や人件費を削減できます。

ただし、効果はカットオーバー時に一気に現れるとは限りません。移行中は、旧システムのインフラ・ライセンス費と、新システムの構築・利用料が重なります。

このため、この期間の費用を見積もりに入れないと、ベンダーへの開発費だけで立てた予算を超えやすくなります。さらに、移行では、二重運用、ロールバック体制の維持、移行後の廃棄・アーカイブにも、それぞれ費用がかかります。

ベンダー支払額の1.3〜1.5倍を見込む「実質総費用」の考え方

ベンダーへの開発・改修の支払額だけで予算化すると、予算超過に陥りやすいとされています。そのため、実質総費用には、移行に伴う自社工数や教育研修費も含めて考えます。

  • 並行稼働:新旧システムを同時に動かす費用
  • 移行作業:社員によるテストやリハーサルの工数
  • 教育研修:クラウドやコンテナ運用に関する費用

実質総費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度を見込むのが安全とされています。旧システムの仕様を知る社員が限られると、移行検証の工数が想定以上に増えることがあります。そのため、予算には上振れ分の余裕を持たせます。

3つの実行局面ごとに発生するコストの分類

移行実行フェーズの費用は、二重運用、ロールバック体制の維持、移行完了後の旧システム廃棄・アーカイブの3局面に分けて見ると、全体像をつかみやすくなります。

  • 二重運用:並行稼働中に一時的に膨らむ変動費
  • リスクヘッジ:ロールバック体制を保つ固定費
  • 廃棄・アーカイブ:移行後に一度発生する精算的な費用

性質の異なる費用を局面別に予算計画へ含めることが、移行費用全体を過不足なく見積もる出発点になります。

ポイント

迷ったときは、並行稼働・ロールバック・廃棄の費用が見積もりに入っているかで判断します。ベンダー支払額だけで組んだ予算は、超過しやすくなります。

並行稼働期間中に発生する二重運用コスト

並行稼働中の旧環境と新環境を左右に置き、旧環境の保守契約・ライセンス料と新環境のクラウド環境・ライセンスを対比した図。
両方の環境を保つ期間に応じて、重複費用が積み上がります。

業務停止のリスクを避けるため、新旧システムを同時に運用して動作を確かめる期間を設けることがあります。並行稼働は、移行の実行中でも費用が見えにくい局面です。

旧システムのインフラ維持費・ライセンス料に加えて、新システムのクラウド利用料・ライセンス費用も発生します。見積もりから漏れると、想定外の出費になります。

インフラ・ライセンスの重複コストの実態

旧システムを保守しながら、新環境を本稼働と同じ水準に保つため、両側で費用が発生します。

  • 旧環境:メインフレームやオンプレミスの保守契約・ライセンス料
  • 新環境:本稼働と同等に設定するクラウド環境・ライセンス

旧環境の費用は月単位・年単位で発生し、期間を短縮できないと、解約も遅れがちになります。重複費用は期間に比例して膨らむため、業務サイクルに沿った設計が、リスクと費用の両面で重要になります。

見落とされがちな社内工数という隠れコスト

並行稼働中は、業務部門とIT部門にも作業が発生します。さらに、見積書には表れにくい社内人件費も、実質総費用に含めて考えます。

  • 業務部門:新旧システムの出力結果を突き合わせる
  • IT部門:不整合の原因を切り分ける
  • 負荷軽減:繁忙期を避け、自動照合ツールを検討する

月次や四半期の締め処理をまたいで並行稼働する場合、通常業務に照合作業が加わり、対象部署には一時的な負荷がかかります。

ポイント

新旧両方の利用料が重なる期間と、社内の照合作業の負荷を、どこまで予算に含めるかが判断の目安になります。期間が長いほど、重複費用は積み上がります。

ロールバック体制の維持コストとリスクヘッジ費用

重大なトラブルに備えて、旧システムへすぐ切り戻せる体制を保つことは、移行プロジェクトのリスク管理に欠かせません。この安心を支える維持費も、予算に含めます。

データバックアップと整合性維持のための工数コスト

切り戻しには、本番移行の前に入念なバックアップ計画を立て、新旧システム間の整合性を保つ仕組みを構築してテストする必要があります。そのため、移行本体とは別の費用が発生します。

  • 準備・検証:バックアップ計画の策定、整合性の仕組みづくりとテストにかかる工数
  • 運用:別枠で見積もるストレージ費用とバックアップ運用の人件費

保険的な費用は、見積もりから外れやすい項目です。また、データモデルの見直しを後回しにすると、整合性の維持が複雑になり、想定以上の費用がかかることがあります。

旧システムの待機稼働にかかるコストと撤収判断

カットオーバー後も、旧システムを再稼働できる状態で待機させるケースがあります。待機中は、ハードウェア保守契約やライセンス費用が続きます。

新システムの安定稼働をどこまで確認したら撤収するか、その判断基準をプロジェクト計画に定めておきます。「念のため」と長く残すと、維持費が膨らみます。

撤収基準がないまま旧システムを残すと、移行完了後のコスト削減効果を圧迫します。そのため、待機期間を管理できるよう、撤収の判断を事前に計画します。

ポイント

切り戻しの準備、バックアップ、待機中の旧システムの維持費まで含めて、ロールバック体制の費用を見積もります。撤収の基準を事前に決めておくかどうかで、維持費の膨らみ方が変わります。

旧システム廃棄・データアーカイブ費用と移行完了後のコスト

移行後も古いシステムを「念のため」と稼働させたまま放置すると、塩漬け状態となり経営上の損失につながります。旧システムの畳み方も、移行後の費用計画に含めます。

リタイア(廃止)によるコスト削減効果

長年運用したシステムには、使われていない重複機能や不要な処理が残っていることがあります。そのため、どの機能を廃止するかを先に確かめ、段階的に契約を解除する計画を立てます。

不要な機能をリタイア(廃止)すれば、高額なハードウェア保守契約やソフトウェアライセンス費用を削減できます。この契約解除の予定を移行計画の最終工程に含め、削減効果につなげます。

データアーカイブへの転換による維持費の圧縮

法的要件や将来の監査対応で過去データを残す場合も、システム自体を稼働させ続ける必要があるとは限りません。その場合は、必要なデータを安価なクラウドストレージへ移す方法があります。

  • 保存先:Amazon S3やS3 Glacierなど
  • 運用設計:参照頻度に応じてストレージクラスを使い分ける

この方法では、ハードウェアの維持費とライセンス費を、月額のストレージ費用に置き換えられます。対象データの選び方まで含めて設計すれば、要件を満たしたままランニングコストを抑えられます。

ポイント

迷ったときは、システムを動かし続ける必要があるのか、データだけ残せばよいのかで判断できます。データだけなら、ストレージへの移行を検討する余地があります。

ランニングコストを最適化する視点

ランニングコストを抑える管理項目として、並行稼働期間、クラウド利用料、撤収時期を並べたチェックリスト図。
3項目を分けて追うと、費用の長期化や増加に気づきやすくなります。

移行実行フェーズ特有の費用を理解し、それを抑える実践策を用意しておくと、予算全体の最適化につながります。

並行稼働期間の最短化とFinOpsによる監視体制

二重運用費を抑えるには、リスクとの兼ね合いを見ながら、業務サイクルに応じた必要最小限の並行稼働期間を見極めます。期間が短いほど、費用を圧縮できます。

クラウド利用料が想定を上回るリスクに備え、稼働開始前からFinOpsによるコスト監視を計画します。また、並行稼働中の利用料は、リアルタイムで把握できるようにします。

サーバーレスなど従量課金の構成では、移行の効果が現れやすい場合があります。ただし、効果を測定できなければ、コスト最適化の判断が後手に回ります。

移行計画に組み込む撤収スケジュール

旧システムの撤収を現場の裁量に任せると、責任の所在が曖昧になり、待機稼働が続きやすくなります。そのため、関係者間で合意した項目を移行計画書に記します。

  • 並行稼働:終了条件
  • ロールバック:体制を解除する時期
  • 旧システム:契約解除・データアーカイブの時期

移行完了後6〜12ヶ月程度の運用最適化フェーズと撤収予定を、実質総費用の予算計画に組み込みます。また、経営層を含む関係者が合意しておくことが、コスト削減効果の実現につながります。

ポイント

並行稼働の期間、クラウド利用料、撤収時期を別々に管理できるかが、ランニングコストを抑える分かれ目になります。撤収の時期が決まっていないと、待機費用が長引きやすくなります。

まとめ

移行実行プロセス特有の費用構造を、並行稼働の二重運用、ロールバック維持、旧システムの廃棄・アーカイブ、ランニングコストの最適化の順に扱いました。

実質総費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度を見込む考え方があります。費用は、二重運用・ロールバック・廃棄の局面ごとに洗い出します。

並行稼働の最短化、FinOpsによる監視、撤収予定の明文化を計画に含めると、移行後のコスト削減効果を得やすくなります。実績豊富なパートナーと予算計画を詰めていくことも検討できます。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。