レガシーシステムのモダナイゼーションの保守・運用費用・ランニングコストについて

保守・運用費用の削減幅は、技術的負債や属人化の度合い、刷新の手法によって変わります。年間運用費が20〜40%減る場合もあれば、60〜90%減る場合もあります。

費用が膨らむ要因、放置コストの確認、削減効果と相場、経営層へのROIの示し方、社内稟議の進め方を順に説明します。全体像は、レガシーシステムのモダナイゼーションの完全ガイドもご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・レガシーシステムのモダナイゼーションの完全ガイド

保守・運用費用が高騰する理由

保守・運用費用を押し上げる4つの要因をカードで示した図
費用増加の背景は、契約条件だけでなくシステム内部にもあります。

システムが古くなるほど、保守・運用費用は右肩上がりに増える傾向があります。多くの企業は、この増加を「経年劣化だから仕方ない」と受け止めがちです。しかし実際には、技術的負債が内部で「利子」を生み続け、追加コストを招きます。

保守契約の値下げを交渉しても、根本的なコスト増加は止められません。そのため、まずは費用が膨らむ仕組みを理解する必要があります。

継ぎ足し開発とブラックボックス化が招く改修コストの雪だるま式増大

急ぎの機能追加や改修が続くと、設計書などの更新が後回しになります。その結果、実際のシステムと資料が食い違うブラックボックス化が進みます。

こうなると、小さな変更でも影響範囲を予測しにくく、テストで想定外のバグが頻発します。検証期間と改修費用が増える要因です。

技術的負債は、返済せずに放置するほど追加の改修コストを積み上げます。とくに、「今は動いている」と保守を続ける選択が、将来もっとも高コストになりやすい点には注意が必要です。

属人化・ベンダーロックインによる保守費用の高止まり

仕様の属人化や特定ベンダーへの依存は、保守費用を押し上げます。障害時の損失にもつながるため、それぞれの中身を押さえておく必要があります。

  • 属人化:仕様や障害対応が、担当者や長年の保守ベンダーの記憶に頼った状態になっています。
  • ベンダーロックイン:古い技術に対応できる人材が限られるため、価格交渉力を失い、高額な保守費用が続くことがあります。
  • 緊急対応コスト:ハードウェアやミドルウェアの老朽化で突発障害が起き、複雑な構成や担当者不足で復旧が遅れると、停止による機会損失やブランド毀損を招きます。

複数の要因が重なると、IT予算の9割以上を、レガシーシステムの維持管理費が占めるケースもあります。

ポイント

費用増加を経年劣化として受け流してよいかは、直近の改修で工数や費用が前年より膨らんでいるかどうかで見極めます。

放置コストのセルフチェック(ランニングコストが適正かの診断)

ランニングコストを見直す4つのコスト面の確認項目を並べた図
4項目を並べると、維持費の見直し箇所を探しやすくなります。

自社のランニングコストが適正な水準か、レガシー化による「見えない利子」が上乗せされていないかは、コストとリスクの両面から見極められます。

コスト面のチェック項目

次のような状況があれば、保守費用にレガシー化の「利子」が加わっている可能性があります。

  • 費用の増加:維持管理費が毎年増えているのに、根本的な見直しに手が付いていない。
  • 見積もりの偏り:特定ベンダー以外から見積もりを取れないため、価格交渉の余地がない。
  • 改修工数の膨張:機能改修のたびに、影響範囲の確認へ想定以上の工数がかかっている。
  • 未使用機能:使われない機能や重複する機能を削除できず、維持費を払い続けている。

JUAS「企業IT動向調査報告書2024」では、4割の企業がレガシーシステムを使用していると報告されています。つまり、多くの企業が同じような構造的な費用負担を抱えている状況です。

リスク・障害対応面のチェック項目(緊急対応コスト)

次のような状況があれば、将来の緊急対応コストが表面化するおそれがあります。

  • サポート期限:OS・ミドルウェア・ハードウェアの提供終了時期(EOL)が過ぎた、または間近に迫った状態。
  • 復旧の長期化:障害の原因究明や復旧に、毎回長い時間がかかっている。
  • 対応の集中:全体像を説明できる社員が限られ、障害対応が特定の担当者に偏っている。

EOLを迎えると、新たな脆弱性への修正パッチが提供されなくなり、ランサムウェアなどに対して無防備な状態が続きます。そのため、平時の保守費用に加えて、インシデント時の損害も将来のバランスシートに織り込む必要があります。

ポイント

自社のランニングコストが適正かは、コスト面とリスク面の項目を並べて見て、当てはまる項目が複数あるかどうかで判断します。

モダナイゼーションによる運用費用削減の効果と相場

放置コストの構造を踏まえ、モダナイゼーションによる運用費削減の仕組みと実例を、順に見ていきます。

手法別のコスト削減メカニズム(マネージド化・サーバーレス化等)

手法ごとに運用作業や課金の仕組みが変わるため、削減効果も異なります。

  • マネージド化:バックアップやパッチ適用を自動化し、運用保守コストを抑えられる。
  • サーバーレス化:完全従量課金にして、インフラの常時稼働や監視を不要にする。

リホストは、オンプレ時代の過剰なサイジングを引き継ぐため、かえってコストが増える場合があります。

Amazon RDSのようなマネージドサービスへの置き換えは、リプラットフォームの一例です。

AWS Mainframe Modernizationなどを使って、COBOL・メインフレームからクラウドネイティブへ移行するケースでは、運用コストが60〜90%削減される可能性があります。

削減効果は移行後の運用段階で現れます。そのため、稼働前からFinOps、パフォーマンス監視、運用自動化を設計に含めておくことが欠かせません。

削減効果の事例(IBMメインフレーム移行・SaaSリプレース)

削減効果が出た事例として、次の2件があります。

  • メインフレーム移行:大手電子部品メーカーがIBM環境からAWSクラウド(Java環境)へ段階的に移行し、運用コストを約50%削減しました。
  • SaaSリプレース:大手商社がワークフローをX-point Cloudへ置き換え、ペーパーレス化とあわせて、年間400万円の維持・業務経費の削減につなげました。

前者ではインフラ運用を減らし、後者では開発・保守を外に任せています。

前者はリホストとリファクタリング、後者はSaaSへの置き換えです。対象の領域に応じてアプローチを使い分けることが、費用対効果の高い削減につながります。

ポイント

削減効果を見積もる際は、移行後の運用段階で効果が出る手法かを基準にし、稼働前から運用の設計も含めて考えます。

経営層の刷新判断を後押しするROIの示し方

経営層にコスト削減効果を説明する際は、技術的な必要性に加えて、ビジネス上のメリットを定量的に示すと投資判断が進みやすくなります。

ポートフォリオ管理によるメリハリのある投資戦略

刷新の順番を説明するには、IT資産をビジネス価値と改修難易度の2軸で分類するポートフォリオ管理が有効です。

  • 価値の低い業務:バックオフィスなどはSaaSの標準機能に移し、自社独自の維持費を抑える。
  • 不要な機能・システム:使われていない機能や、役割が重なるものを廃止する。
  • コアシステム:浮いた予算を、競争力の源泉となるシステムの再構築に振り向ける。

この投資戦略を示せば、すべてを同時に刷新せず、この順番で進める理由を経営層に説明できます。

定量的なKPI設定と運用コスト削減シミュレーション

刷新後の効果を測れるKPIを定め、稟議資料に削減シミュレーションを載せておくと、判断材料になります。

  • 保守コスト:削減率の目標値。
  • 障害対応時間:短縮の目標値。
  • リリース速度:向上の目標値。

不要なシステムの廃止やSaaS移行では、稼働後の年間保守運用費が20〜40%削減できるケースが多いとされます。具体的な試算があれば、感覚的な主張より説得力のある材料になります。

ポイント

経営層への説明では、刷新の順番をビジネス価値と改修難易度で並べ、すべてを同時に刷新しない理由を一言で示せるかを基準にします。

社内稟議を通すための進め方

対象を絞り、小規模に実証してから段階的に進める流れを示した図
小規模な実績が、本格展開へ進むための足場になります。

削減効果を数値で示しても、刷新の進め方に不安があれば稟議は通りにくくなります。そこで、経営層と現場の懸念を先回りして解消しておくことが、稟議を通す最後の一押しになります。

ビッグバン回避・スモールスタートの強調

経営層や現場は、刷新に伴う業務停止や失敗を懸念します。そのため、全体を一度に切り替えず、段階的に進める安全な計画を稟議書で明確に示しておきましょう。

  • 対象を絞る:影響の小さい周辺機能や、単一の部門から移行する。
  • 小規模に実証する:パイロット導入で、短期的な成果とコスト削減効果を確かめる。

段階的に進めれば、リスクを最小限に抑えられます。さらに、パイロットの実績があると、本格展開の予算獲得にもつながります。

現場部門との早期連携と「2025年の崖」の経営課題化

稟議の前に利用部門へヒアリングし、業務課題や改善要望を計画に反映しておきます。事前に情報を共有して合意を形成することで、現場の抵抗を抑えられます。

レガシーシステムを放置すると、経済産業省が警告する「2025年の崖」により、2025年以降に年間最大12兆円規模の経済損失が生じる可能性があります。

影響は自社にとどまらず、取引先やサプライチェーンにも及ぶおそれがあります。全社の経営課題として提起すれば、稟議の後押しになります。

ポイント

社内稟議の計画は、影響の小さい部門から始められるか、パイロットで成果を示せるかを基準に組み立てると、判断を得やすくなります。

まとめ

レガシーシステムの保守・運用費用は、経年劣化に加えて技術的負債によって増え、放置するほど複利的に膨らみます。まずは費用が高騰する要因と自社の状態を一覧にして、放置コストを把握しましょう。

マネージド化、サーバーレス化、SaaSへのリプレースによって、運用費を削減できる可能性があります。刷新の承認を得るには、ポートフォリオ管理による投資戦略と、定量的なKPI・削減シミュレーションが有効です。

社内稟議では、経営層と現場の懸念に先回りし、スモールスタートで移行する計画も示しておくとよいでしょう。

毎年の保守費用に疑問があるなら、まず自社のコスト構造がレガシー化によってどれだけ歪んでいるかを洗い出し、信頼できるパートナーに相談することをお勧めします。

▼全体ガイドの記事
・レガシーシステムのモダナイゼーションの完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。