レガシーシステムリプレイスのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

フルスクラッチ・オーダーメイド開発とは、パッケージ・SaaSへの乗り換え(バイ)ではなく、独自の業務プロセスをそのまま維持・再構築する(ビルド)選択肢です。

製品・ベンダーへの乗り換えと比べながら、「自社で作り続けるべきか、買うべきか」で迷う担当者向けに、判断材料を3つの論点にまとめます。リホストやリファクタリングなどの技術手法は「モダナイゼーション」記事、経営層の投資判断や稟議は「レガシーシステム刷新」記事、保守契約の満了やEOS/EOLは「レガシーシステム更改」記事に譲ります。

  • ビルド・バイ判断:フルスクラッチとパッケージ・SaaSのどちらで進めるか
  • 費用・TCO:開発費用と長期的な負担
  • 依頼先選定:開発を進める体制と実績

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レガシーシステムリプレイスにおけるフルスクラッチ・オーダーメイド開発の位置づけ(ビルド・バイ判断の”ビルド”側)

レガシーシステムのリプレイスでは、まずSaaSやパッケージ製品への乗り換えを検討する企業が多くあります。しかし、経済産業省の調査によれば、メインフレームやスクラッチ開発を利用していた企業のうち、標準システム・パッケージへの移行を選んだのは25%にとどまります。

残る大多数の企業は、何らかの理由でフルスクラッチ・オーダーメイド開発、あるいはハイブリッドな構成を選んでいます。フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、既製品の仕様やライセンス体系の制約を受けず、要件定義から設計、実装まですべてを自社の業務プロセスに合わせてゼロから作り込める点が最大の特徴です。

開発期間と費用は他の選択肢と比べて最大規模になります。その分、他社には真似できない業務プロセスを、システムとしてそのまま実現できる可能性があります。

パッケージ・SaaSでは実現できない”独自業務プロセス”という壁

パッケージ・SaaS製品は「Fit to Standard」、すなわち自社の業務を製品の標準機能に合わせることで初めて、開発期間の短縮とコスト削減という本来のメリットを享受できます。しかし、製造業特有の原価管理ロジックや、長年の商習慣に根ざした独自の受発注フローのように、業界標準からかけ離れた業務プロセスがある場合、標準機能への合わせ込みそのものが事業運営上の制約になることがあります。

無理に標準機能へ合わせようとすると、業務側がシステムの制約に縛られて非効率な運用を強いられるか、大量のカスタマイズによって当初期待していたコストメリットが失われるかのいずれかに陥りがちです。特に、独自業務プロセスが競争力の源泉であればあるほど、この壁は無視できないものになります。

ビルド・バイの位置づけ比較(自由度と依存度のトレードオフ)

ビルドとバイを業務適合度・自由度という軸で並べると、3つの型に分けられます。SaaS型は「用意された標準機能の中で業務を最適化する」選択肢で、パッケージ型は「標準機能をベースにしつつ、部分的にカスタマイズを加える」選択肢です。フルスクラッチ型は「業務プロセスに完全に合わせて、ゼロから設計する」選択肢にあたります。

自由度が上がるほど、開発期間と費用も比例して大きくなります。同時に、製品ベンダーへの依存度は下がる一方で、開発・保守を担うパートナーへの依存度は残り続け、自由度と依存度はトレードオフの関係にあります。

自社が守りたい独自業務プロセスの範囲と、投じられる予算・期間・体制を天秤にかけて、どこまでの自由度が本当に必要なのかを見極めることが、最初に行うべき意思決定です。

ポイント

パッケージ・SaaSで足りるかを迷ったら、自社の独自業務プロセスが競争力の源泉かどうかを先に確かめます。標準機能への合わせ込みが事業の制約になるなら、フルスクラッチを検討する価値があります。

フルスクラッチを選ぶべきケースとパッケージ・SaaSに乗り換えるべきケース

フルスクラッチは独自業務プロセス、パッケージ・SaaSは業界共通業務に向くことを左右に比べた図。
業務の独自性が選択の分かれ目になります。

フルスクラッチは万能な選択肢ではなく、パッケージ・SaaSへの乗り換えが優れている領域も多く存在します。両者は優れる領域が異なるため、自社の状況がどちらに当てはまるかを冷静に見極める必要があります。

フルスクラッチが向くケース——競争力の源泉となる独自業務プロセス

自社でゼロからシステムを構築するフルスクラッチ開発は、企業の独自の強みや競争力の源泉となる業務プロセスをシステム化する場合に選ぶべき手段です。製造業特有の製造原価管理や、他社にはない独自の受発注・在庫管理の手順が競争力に直結している場合など、パッケージソフトでは到底カバーできない複雑な要件を抱える企業に適しています。

複数ブランドを統合的に管理する必要があるケースや、特殊な業界規制に対応した独自の業務フローがあるケースも、フルスクラッチを検討すべき典型例です。また、業務プロセスをシステムの制約に合わせて妥協することが事業成長そのものの足かせになる状況であれば、初期投資が大きくてもゼロから設計する価値があります。

バイが向くケース——業界共通業務とFit to Standard

業務の独自性が低く、標準機能に自社の業務を合わせる「Fit to Standard」というアプローチが取れる場合は、パッケージ製品やSaaSへの乗り換えを選ぶべきです。

業界共通のバックオフィス業務には、勤怠管理、経費精算、顧客管理があります。人事や経理のような標準的な業務プロセスには、多くの企業で磨き込まれた標準機能を持つパッケージ・SaaSが最適です。

基本機能がすでに実装されているため、開発期間を短くでき、インフラの保守やアップデートの負担もゼロに近づけられます。なお、独自性が低い部分はパッケージやSaaSを使い、競争優位につながる部分は独自開発するという「ハイブリッドなアプローチ」も有効な選択肢です。システム全体を一つの方針で統一する必要は、必ずしもありません。

ポイント

業界共通のバックオフィス業務はパッケージ・SaaSへ、競争力に直結する独自業務はフルスクラッチへと分けて考えるのが目安です。独自業務の範囲が狭いなら、ハイブリッドな構成も候補になります。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発の費用感とTCOの比較

フルスクラッチを検討する際は、パッケージ・SaaSへの乗り換えとの費用差を正確に把握しておく必要があります。相場観を持たないまま検討を進めると、着手後に予算超過に直面しやすくなります。

企業規模別の初期費用比較(SaaS型/パッケージ型/フルスクラッチ型)

企業規模別の基幹システム導入費用の相場は、規模に応じた幅があります。小規模(50名以下)は100万〜500万円で、主にSaaS型クラウドパッケージを利用します。中規模(51〜300名)は500万〜5,000万円で、パッケージ導入に部分的なカスタマイズを加えます。

大規模(301名以上)は5,000万円〜数億円以上です。一方、フルスクラッチ(完全オリジナル)は、規模を問わず数千万円〜数億円という桁で費用が発生します。パッケージシステムは、フルスクラッチの1/3〜1/2程度の費用で導入できることがあり、初期費用だけで比べればフルスクラッチは最も高額な選択肢です。

ただし、独自業務プロセスをパッケージに合わせようとして大量のカスタマイズが必要になると、パッケージ導入であってもカスタマイズ費用が積み重なります。追加機能1件あたり100万〜1,000万円程度のカスタマイズ費用がかさみ、当初想定していたコストメリットが縮小するケースもあるため、注意が必要です。

実例に見るフルスクラッチ・オーダーメイド開発の投資規模

実際の事例を見ると、20年間使用してきた基幹システムをフルスクラッチでリプレイスした従業員500名規模の物流企業は、開発期間18ヶ月・総費用1億2,000万円を要しています。この成功を支えたのは、現行システムの徹底的な調査、段階的な移行計画の策定、そしてユーザー研修の重視でした。

また、従業員50名規模の製造業では、受注・在庫・売上管理システムをフルスクラッチで開発しました。要件定義に時間をかけて本当に必要な機能に絞り込み、段階的に導入し、データ移行も見積もり段階からしっかり想定したことで、開発期間6ヶ月・総費用1,200万円という比較的抑えられた規模でプロジェクトを成功させています。

この差からも分かるように、フルスクラッチの費用規模は要件範囲の絞り込み方によって大きく変動するため、独自性が必要な機能だけに焦点を絞ることが投資効率を左右します。

ポイント

費用は初期費用だけでなく、カスタマイズの量と長期の負担まで含めて比べます。大量のカスタマイズが必要になるパッケージは、フルスクラッチとの費用差が縮まることがあります。

ベンダーロックイン回避の設計

ベンダーロックイン回避に関わる権利の帰属、設計書・仕様書、技術スタック、API連携機能を並べたチェックリスト。
権利・文書・技術・連携の観点をそろえて確認できます。

フルスクラッチ開発は、レガシーシステムがベンダーロックインの末に生まれたことへの反省から選ばれることも多い選択肢です。しかし、進め方を誤ると、フルスクラッチであっても同じ問題を再発させてしまいます。

スクラッチ開発でもロックインは再発する——丸投げ体質の落とし穴

システムを構築・保守する際、開発を特定のベンダーに一任し続けると、システムがブラックボックス化し、社内にノウハウが蓄積されず、そのベンダーなしでは改修すらできなくなる危険があります。これはまさに、多くの企業が現在のレガシーシステムを抱えるに至った経緯そのものです。

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を選ぶ以上、この轍を再び踏まないための設計を意図的に組み込む必要があります。具体的には、ソースコードの著作権・知的財産権の帰属を契約時に明確にしておきます。

さらに、設計書・仕様書は実装と同時並行で整え、陳腐化させないようにします。特定の個人やベンダーの担当者しか理解できない実装は避け、標準的な技術スタックとドキュメント文化を採用することが、将来の柔軟性を確保する鍵になります。

「連携の余白」の確保と、将来の再乗り換えコストの抑制

フルスクラッチで構築したシステムでも、将来は一部の機能をパッケージ・SaaSへ切り出す、あるいはパッケージで導入した領域をフルスクラッチへ切り替える判断が必要になる可能性は常に残ります。

この柔軟性を確保するには、設計段階からCSVでのデータエクスポート機能やAPI連携機能といった「他システムとの連携の余白」を組み込んでおくことが大切です。さらに、データをいつでも取り出せる状態にしておけば、別の構成へ移行する際のデータ移行コスト(数百万円かかることもあります)を抑えられます。

フルスクラッチだからこそ得られる自由度を、将来のロックイン回避にも活かすことが、長期的な投資対効果を最大化します。

ポイント

ソースコードの権利、設計書、データの取り出し方を契約時と開発中に押さえておくと、フルスクラッチでもロックインを防ぎやすくなります。将来の乗り換えに備えた連携の余白は、設計の初期段階で確保します。

開発を成功させる進め方・依頼先選定

要件の絞り込みとPoCによる検証、依頼先に必要な業務理解力と技術力を4つのパネルで示した図。
要件を段階的に確かめ、依頼先の力を二つの面から見ます。

自由度が高い分、進め方とパートナー選びを誤ると、投資額に見合わない結果に終わるリスクも大きくなります。そのため、着手前に押さえておきたいポイントを整理しておく必要があります。

要件の絞り込みと、PoCによる段階的な検証

フルスクラッチ開発は自由度が高いがゆえに、要件定義の段階で「あれもこれも実現したい」と要望が膨らみやすく、際限なく開発規模が拡大してしまうリスクがあります。

これを防ぐには、本当に独自性が必要な業務プロセスの核となる部分から優先順位をつけて、段階的に要件定義を進めることが有効です。その際、姉妹記事「レガシーシステムリプレイスのPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について」で解説した検証プロセスを各段階に挟むと、絞り込みやすくなります。

たとえば、前述の中小製造業の事例のように、要件を本当に必要な機能に絞り込んだプロジェクトほど、投資規模と開発期間の両方を現実的な範囲に収められる傾向にあります。

業務プロセスへの理解力と技術力を両立できるパートナーの見極め方

フルスクラッチ開発を依頼するパートナーは、コードを正確に実装できる技術力だけでなく、自社の独自業務プロセスを正確に理解し、システムとして翻訳できる業務理解力の両方を兼ね備えている必要があります。

依頼先を選ぶ際は、類似業種・類似規模でのフルスクラッチ実績と、要件定義からデータ移行、稼働後の保守まで一気通貫で担える体制を確かめます。加えて、ビルド・バイ判断そのものについて中立的に助言してくれるかは、投資に見合う独自システムを実現するうえで最も見極めたい点です。

乗り換え(バイ)の提案だけを一辺倒に行うベンダーよりも、自社の状況を踏まえてビルド・バイ両方の選択肢を公平に比較検討できるパートナーに、早い段階から相談することが後悔のない意思決定につながります。

ポイント

要件は本当に必要な機能に絞り、PoCで段階ごとに確かめながら進めます。依頼先は、業務理解と技術力を兼ね備え、乗り換えの案も公平に示せるかどうかで見ます。

まとめ

ここまで、フルスクラッチ・オーダーメイド開発を、ビルド・バイ判断の”ビルド”側として見てきました。選ぶべきケースと費用感、ベンダーロックイン回避の設計、進め方と依頼先選定を、判断材料として取り上げました。

競争力の源泉となる独自業務プロセスがあるなら、数千万円〜数億円規模のフルスクラッチを選ぶ価値があります。一方、業界共通のバックオフィス業務であれば、パッケージ・SaaS(フルスクラッチの1/3〜1/2程度)への乗り換えのほうが合理的です。

フルスクラッチであっても、スクラッチ開発特有のベンダーロックインが再発するリスクがあります。そのため、著作権の帰属の明確化、ドキュメント整備、データエクスポート機能による「連携の余白」の確保が欠かせません。

要件を本当に必要な機能に絞り込み、ビルド・バイ両方を中立的に助言できるパートナーに、早い段階から相談することをお勧めします。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。