MES改修のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

MES改修とは、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)を全面的に作り替えるのではなく、特定工程の実績入力画面の修正や、特定設備・PLCとの連携追加といった、部分的・小規模な範囲に絞って手を加える取り組みです。「MESのモダナイゼーション」「MES刷新」「MESのリアーキテクチャ」「MESリプレイス」がシステム全体または大部分を対象にした刷新であり、「MES更改」が保守契約満了・EOS/EOLという期限を起点にした全体入れ替え、「MESのリニューアル」が現場オペレーターの操作体験の刷新であるのに対し、本記事が扱うMES改修は、システム全体には手を入れず「今困っている特定の箇所だけ」を対象にする点で異なります。本記事が扱う「フルスクラッチ・オーダーメイド開発」というテーマも、他6波とは前提がまったく異なります。他6波におけるフルスクラッチは、システム全体をゼロから作り直す最も大規模な選択肢を指すのに対し、本記事が扱うのは「特定工程の実績入力画面修正」や「特定設備・PLC連携追加」といった小規模な改修を、既存システムへの部分的な追加開発で対応すべきか、それともフルスクラッチが必要になるケースがあるのかという、部分改修の枠組みの中での判断です。「小規模な改修のはずなのに、なぜフルスクラッチが選択肢に挙がるのか」と疑問に思う方も多いかもしれません。実務では、最初は「実績入力画面を1つ直したいだけ」という軽微な相談から始まったにもかかわらず、既存システムの調査を進めるうちに、その画面が他の複数の機能と密接に絡み合っており、部分的に手を入れること自体がリスクになると判明するケースが少なくありません。こうした事態を未然に防ぐためにも、部分改修とフルスクラッチという2つの選択肢の違いと、どちらを選ぶべきかの判断基準をあらかじめ知っておくことが重要です。

本記事では、対象システム種別を問わない総論や、システム全体の作り替えを前提とする他6波の記事群とは異なり、MESの部分的・小規模な改修に対象を限定したうえで、フルスクラッチ・オーダーメイド開発との関係にフォーカスして解説します。部分改修かフルスクラッチかの判断基準、規模別の費用感と期間の目安、既存システムがブラックボックス化している場合の対処法、そして開発会社選定のポイントまでを体系的にお伝えします。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。あわせて、開発期間・スケジュールやPoC・プロトタイプ、保守・運用費用については姉妹記事もご参照ください。

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・MES改修の完全ガイド

MES改修におけるフルスクラッチという選択肢の位置づけ

MES改修におけるフルスクラッチという選択肢の位置づけ

MES改修においてフルスクラッチを検討する前に、まず「部分改修で対応できるのが原則である」という大前提を理解しておく必要があります。フルスクラッチは、部分改修では対応しきれないと判明した場合に初めて視野に入れる、例外的な選択肢だからです。この原則を最初に共有しておくことで、社内での検討が「フルスクラッチにするかしないか」という極端な二択に陥ることを防ぎ、まずは部分改修で解決できないかを丁寧に検証するという建設的な進め方につながります。

他6波におけるフルスクラッチとの違い(全体刷新の手段か・部分改修の例外か)

「MESのモダナイゼーション」におけるフルスクラッチは5R(リホスト・リプラットフォーム・リファクタリング・リビルド・リプレース)の1つ「リビルド」に相当し、「MES刷新」「MESのリアーキテクチャ」「MESリプレイス」「MES更改」におけるフルスクラッチも、いずれもシステム全体をゼロから作り直すという大規模な意思決定を前提にしています。これらの記事群では、フルスクラッチは初期費用数千万円〜数億円、期間1年以上という規模で語られ、「作るべきかどうか」自体が経営レベルの重い判断になります。これに対し本記事が扱うMES改修の文脈でのフルスクラッチは、あくまで「特定工程の実績入力画面修正」や「特定設備・PLC連携追加」という小規模な案件を進めるにあたって、既存システムへの部分的な追加改修で対応できないと判明した場合の代替手段という位置づけです。原則は部分改修であり、フルスクラッチはその原則が成り立たなくなったときに検討する例外である、という前提が他6波との最大の違いです。

言い換えれば、他6波の記事群で語られる「フルスクラッチを選ぶべきか」という問いは、経営層が主体となって独自の工程管理ロジックや競争優位性への投資対効果を吟味する話であるのに対し、本記事が扱う問いは、現場の情報システム部門が「今回の改修案件は、身の丈に合った部分改修で片付くのか、それとも当初想定より大がかりな対応が必要なのか」を見極める、より実務的で日常的な判断です。この違いを理解しておくことで、社内での議論が不必要に大きな話(全社的なシステム刷新の是非)へと発展してしまうのを防ぎ、目の前の課題解決にフォーカスした検討を進めやすくなります。稟議を通す際にも、この規模感の違いを最初に明示しておくことで、経営層に無用な警戒感を与えず、スピーディーな承認を得やすくなるという実務上のメリットもあります。

「原則は部分的な追加改修」という基本方針

MES改修の対象となる「特定工程の実績入力画面修正」や「特定設備・PLCとの連携追加」といった小規模な案件は、原則として既存システムへの部分的な追加改修で対応するのが基本です。既存のMESが安定して稼働しており、対象箇所の仕様が明確であれば、わざわざゼロから作り直す必要はなく、部分改修の方が期間・費用ともに圧倒的に有利になります。しかし、既存システムの状態によってはフルスクラッチが必要になるケースもあるため、まずは自社の現行システムがどのような状態にあるかを客観的に点検することが、判断の出発点になります。この点検を怠り、「とりあえず改修してみて、ダメならまた考える」という進め方をしてしまうと、着手後にシステムの限界が発覚し、投じた費用と時間が無駄になるリスクが高まります。

部分改修かフルスクラッチかの判断基準

部分改修かフルスクラッチかの判断基準

自社の状態を点検し、どちらの手法を取るべきかを判断するための4つの軸を見ていきます。この4軸を1つずつ確認することで、感覚ではなく根拠に基づいた意思決定ができます。

将来の業務要件・現行システムの品質という2軸

1つ目の軸は「将来の業務要件(どう変えたいか)」です。今後、工場の業務プロセス全体を大きく変える予定がなく、特定工程の不便さのみを解消したいのであれば部分改修が適しています。逆に、全社的な業務フローを根本から見直したい場合はフルスクラッチの出番です。この軸を確認する際は、情報システム部門だけで判断せず、現場の生産技術部門や品質保証部門にも「今後3〜5年でこの工程の運用は変わる見込みがあるか」をヒアリングしておくことが望ましく、部門間で認識がずれていると、せっかく部分改修で片付けたはずの案件が、翌年には別の改修として再び持ち上がるという二度手間につながります。2つ目の軸は「現行システムの品質・限界」です。現在のMESが安定して稼働しているなら部分改修で十分ですが、長年の場当たり的なカスタマイズの繰り返しでシステムがスパゲッティ化し、少し画面をいじっただけで関係ない工程のシステムが停止してしまうような限界状態であれば、フルスクラッチ(リビルド)を視野に入れる必要があります。この2軸だけでも、多くのケースでどちらの方向性が妥当かを絞り込むことができます。

ブラックボックス度・予算と期間の制約という2軸

3つ目の軸は「ブラックボックス度(中身が分かるか)」です。当時の開発担当者が退職しており、誰もシステムの中身や設備連携の仕様を説明できない状態の場合、そのまま部分改修を行うと致命的な障害を招く危険があります。この場合は、まず現行システムの仕様を調査・文書化する「読める化」の工程を挟むか、それが不可能であればフルスクラッチへの切り替えを検討します。4つ目の軸は「予算と期間の制約」です。予算が限られている場合は、最初から全面刷新やフルスクラッチを狙うと失敗しやすいため、最も課題の大きい工程(設備連携など)に絞って段階的に部分改修を進めるのが安全です。この4軸すべてを点検したうえで、部分改修とフルスクラッチのどちらに寄せるべきかを総合的に判断することが望まれます。

実務上は、この4軸のうち1つでも「フルスクラッチ寄り」の兆候が見られたからといって、即座に全面的なフルスクラッチへ舵を切る必要はありません。たとえばブラックボックス度が高いという課題が見つかった場合でも、まずは改修対象となる範囲だけを「読める化」し、その範囲に限定してフルスクラッチ(部分的な作り直し)を行うという中間的な選択肢もあります。4軸のどこに課題があるのかを具体的に切り分けることで、「全部作り直す」か「一切手を付けない」かの二択ではなく、課題のある部分だけをピンポイントで作り直すという、より現実的な落としどころを見つけやすくなります。この切り分け作業自体を情報システム部門だけで抱え込まず、現状調査に慣れた外部パートナーに早い段階から相談することも、判断のスピードと精度を両立させるための有効な手段です。

規模別の費用感と期間の目安

規模別の費用感と期間の目安

部分改修とフルスクラッチとでは、費用と期間の水準が大きく異なります。この差を理解しておくことが、投資判断の精度を高めます。

小規模な部分改修の費用感(約500万円〜2,000万円・期間約1〜3ヶ月)

小規模な部分改修(画面修正、特定設備連携など)は、期間の目安が約1〜3ヶ月、費用の目安が約500万円〜2,000万円です。単なる文言変更や単純な入力項目の追加であれば数万円〜数十万円で済むこともありますが、PLCなどの特定設備との連携追加が含まれる場合、テスト環境の準備や既存機能への影響確認(デグレードテスト)に多くの工数を要するため、表面的な画面修正以上に費用が膨らみやすい傾向があります。この規模感であれば、多くの製造業にとって年度予算内で対応できる現実的な水準に収まります。

費用の内訳をさらに分解すると、要件定義・設計に全体の35〜45%、開発・実装に30〜40%、テストに15〜30%程度が配分されるのが一般的です。部分改修であっても要件定義・設計の比重が決して小さくないのは、対象範囲を正確に線引きし、既存システムへの影響範囲を漏れなく洗い出す作業に相応の工数がかかるためです。見積もりを受け取った際は、この内訳のバランスが極端に偏っていないか(たとえば開発費用だけが突出して安く、テスト費用がほとんど計上されていないなど)を確認することも、後から想定外の追加費用を請求されないための実務的なチェックポイントになります。

フルスクラッチ(全面刷新)の費用感(8,000万円〜数億円・期間半年〜複数年)

これに対しフルスクラッチ(全面刷新)は、期間の目安が半年〜複数年(1年以上)、費用の目安が8,000万円〜数億円以上です。システム全体を設計からゼロベースで作り直すため、多大な期間とコスト、そして要件定義の負荷がかかります。両者の差は10倍〜数十倍にも及ぶため、部分改修で対応できる可能性がある案件を安易にフルスクラッチへ寄せてしまうと、本来不要だった投資を強いられることになります。逆に、部分改修では根本的な解決にならないと分かっているにもかかわらず部分改修に固執すると、改修を繰り返すたびに追加費用が発生し、最終的にはフルスクラッチに近い総額を払うことになるという本末転倒な結果にもなりかねません。自社の状況が前章の4軸のどこに該当するかを見極めたうえで、規模感を正しく選択することが重要です。

なお、この2つの数値レンジの間に明確な「中間の選択肢」が存在しない点にも注意が必要です。部分改修の上限(約2,000万円)とフルスクラッチの下限(約8,000万円)の間には大きな空白があり、この空白に該当するような「複数工程にまたがるがシステム全体ではない」規模の改修を検討する場合は、対象範囲をさらに細かく分割し、複数回の部分改修として段階的に進められないかを、開発会社と一緒に検討する価値があります。一度に大きな予算を確保するのではなく、優先度の高い工程から順に、年度をまたいで段階的に改修していくアプローチは、単年度の予算枠が限られる企業にとって現実的な進め方です。

開発会社選定のポイント(失敗しないための基準)

開発会社選定のポイント(失敗しないための基準)

工場システムは「絶対に止められない業務」であるため、部分改修であってもフルスクラッチであっても、パートナー選定は慎重に行う必要があります。ここでは3つの確認基準を解説します。

製造業・PLC連携の実績と「読める化」の提案力

「実績多数」という言葉に惑わされず、製造業(工場)のシステム改修や、PLC等の設備連携の実績があるかを確認します。大企業向けのシステム開発ばかりやっている会社に依頼すると仕様が過剰になりコストが膨らみ、逆にWeb系システムしか経験のない会社では現場の業務やセキュリティ要件を理解できずプロジェクトが混乱する恐れがあります。あわせて、要望を聞いて「はい、作れます」と技術的な可否だけで即答する会社は、既存システムとの影響範囲を見落とす危険があります。真のパートナーは「まずは業務フローや既存システムの仕様を拝見させてください」と、課題の構造把握やシステムの「読める化」から着手することを提案してくれます。この姿勢の有無が、部分改修とフルスクラッチのどちらが妥当かを、発注者側だけでなくベンダー側の視点からも検証してくれるかどうかの分かれ目になります。

見積もりの内訳(工数・単価)の明確さ

「システム改修一式〇〇万円」という総額だけの見積もりは、追加費用が発生しやすい典型的なパターンです。どの画面の改修に何人月、テスト工程に何人月、PM(プロジェクト管理)に何人月かかっているのか、内訳を明示してくれる会社を選んでください。特に部分改修とフルスクラッチのどちらで進めるか迷っている段階では、両方のパターンで見積もりを取得し、内訳ベースで比較することで、想定外の予算超過を防げます。見積もりの内訳が明確な会社ほど、後工程での仕様変更が発生した際にも、変更箇所の工数を的確に算出してくれるため、プロジェクト全体を通じた信頼関係を築きやすくなります。

あわせて確認しておきたいのが、契約形態です。改修範囲と要件がすでに明確に固まっている案件であれば、納期とコストを確定させやすい請負契約が適していますが、「読める化」の結果次第で対応方針が変わる可能性がある案件では、まず調査・分析フェーズだけを準委任契約で発注し、方針が固まった段階で本改修を請負契約に切り替えるという二段階の進め方も有効です。最初からすべてを一括の請負契約で発注してしまうと、調査の結果フルスクラッチが必要だと判明した際に、契約自体を結び直す手間や、当初の見積もりとの差異をめぐる交渉が発生しやすくなるため、契約形態を柔軟に使い分けられる開発会社かどうかも選定時の確認ポイントです。

まとめ

MES改修のフルスクラッチ・オーダーメイド開発まとめ

本記事では、MES改修とフルスクラッチ・オーダーメイド開発の関係について、他6波のフルスクラッチとの違いという位置づけ、部分改修かフルスクラッチかの判断基準、規模別の費用感と期間の目安、そして開発会社選定のポイントを体系的に解説しました。特定工程の実績入力画面修正や特定設備連携追加であれば、まずは「部分的な追加改修」を前提に進めるべきであり、期間約1〜3ヶ月・費用約500万円〜2,000万円という現実的な水準で解決できるケースが大半です。ただし、現行システムがブラックボックス化している、あるいはスパゲッティ化して限界を迎えている場合は、フルスクラッチへの切り替えも視野に入れる必要があります。将来の業務要件・現行システムの品質・ブラックボックス度・予算と期間の制約という4つの軸で自社の状況を点検し、製造業に強い開発会社に「既存システムの仕様調査」から依頼したうえで、現行システムに手を入れても問題ないかを確認し、見積もりと方針を決定するのが最も確実なアプローチです。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。