モダナイゼーションの保守・運用費用・ランニングコストについて

「モダナイゼーション」の保守・運用費用というと、老朽化したITシステムをクラウドへ移行した後のインフラ費用や保守委託費を思い浮かべる方が多いかもしれません。当社の別記事「システムのモダナイゼーション」では、COBOLやメインフレームからクラウドネイティブ環境への技術基盤刷新にフォーカスし、移行前後のインフラ・保守コストの変化を解説しています。しかし本記事で扱う「モダナイゼーション」は、システム刷新に閉じない、組織・業務プロセス・ビジネスモデルまで含めた企業変革全体を指す、より広義の言葉です。DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するための土台作りとしてこの言葉が使われる背景を踏まえると、保守・運用費用も「ITコストの話」だけでは語れません。経営層が予算を承認する段階で、この広さを認識せずにシステム開発の見積もりだけを見て意思決定してしまうと、後になって組織側の費用が想定外の追加予算として発覚し、プロジェクト全体の信頼性を損ねる原因にもなりかねません。稟議のタイミングで一度に全予算を確定させようとするのではなく、フェーズごとに費用の妥当性を検証しながら段階承認していく進め方も、想定外の追加予算リスクを抑えるうえで現実的な選択肢の1つです。

本記事では、全社的な変革としてのモダナイゼーションにかかる保守・運用費用・ランニングコストについて、システムのモダナイゼーション記事と重複しない切り口、すなわち変革を定着させるための組織運営コストや人材育成コスト、そして費用対効果の測り方までを体系的に解説します。ITシステムの保守費用だけを見て投資判断をしてしまうと、変革の定着に必要な「見えないコスト」を見落とし、想定外の予算超過を招くリスクがあります。実際、システム刷新のプロジェクトそのものは成功しても、その後の組織定着に必要な予算を確保していなかったために、数年後には元の業務のやり方に逆戻りしてしまう企業も少なくありません。システムだけでなく組織・人材まで含めた全社的な変革を検討している方にとって、現実的なコスト構造を理解するための判断軸となる内容です。ぜひ自社の予算計画と照らし合わせながら読み進めてください。

本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。

▼全体ガイドの記事
・モダナイゼーションの完全ガイド

モダナイゼーションの保守・運用費用を考える視点

モダナイゼーションの保守・運用費用を考える視点

広義のモダナイゼーションにおける保守・運用費用を考える際は、ITシステムの保守費用だけでなく、変革そのものを組織に定着させるための運営コストを含めて捉える必要があります。DXがビジネスモデルや企業風土の根本的な変革を目的とするのに対し、モダナイゼーションはその実現に向けた土台作りと位置づけられます。つまり保守・運用費用も、システムを維持するための費用と、変革を継続的に推進するための組織運営費用という、性質の異なる2つのコストで構成されると理解しておくことが、費用の見誤りを防ぐ第一歩になります。多くの企業では、システムの保守費用は情報システム部門の予算として明確に管理されている一方、組織運営コストは人事部門や各事業部門に分散して計上されがちで、全社モダナイゼーションの総コストとして一元的に可視化されていないケースが目立ちます。まずはこの2種類のコストを1つの予算表にまとめて管理する体制を作ることが、費用管理の出発点です。予算表を一元化する際は、単年度予算だけでなく、上流工程から定着化フェーズまでを含む複数年度のロードマップに沿った予算計画として整理しておくと、年度をまたぐ予算折衝の場面でも変革の全体像を経営層に説明しやすくなります。

「システムのモダナイゼーション」の保守費用との違い

「システムのモダナイゼーション」における保守・運用費用は、クラウドインフラの利用料、保守委託費、監視ツールのライセンス費といった、ITコストに閉じた領域を扱います。これに対して本記事が扱う広義のモダナイゼーションの保守・運用費用は、それらのITコストに加えて、変革を推進する専任チームの人件費、新しい業務フローに従業員を習熟させ続けるための教育コスト、組織変革の効果測定・改善サイクルを回すための運営コストまでを含みます。システム単体の保守費用だけを見積もりに計上し、これらの組織運営コストを見落としてしまうと、変革が「システムは新しくなったが定着しない」という中途半端な状態で頭打ちになり、結果的に投資回収が遠のくという事態を招きかねません。たとえば、新しい基幹システムを導入したにもかかわらず、現場では従来のExcel管理を並行して続けてしまい、二重の運用負荷が発生し続けるといったケースは、まさにこの組織運営コストの見積もり漏れが原因で起こる典型例です。こうした「二重運用」状態は放置すればするほど解消が難しくなるため、稼働直後から一定期間、旧来のやり方への回帰を防ぐためのフォローアップ担当者を配置し、現場からの疑問や不満に迅速に対応できる体制を保守・運用費用の一部としてあらかじめ組み込んでおくことが有効です。

なぜ運用コストが経営課題になるのか(IT予算の8〜9割問題)

経済産業省のDXレポートによれば、多くの企業でIT予算の8〜9割以上がレガシーシステムの維持管理費に費やされており、新規のデジタル投資に回せる予算が慢性的に不足しています。老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを放置しDXを推進できなかった場合、2025年以降に年間最大12兆円という現在の約3倍にあたる経済損失が生じる可能性がある、いわゆる「2025年の崖」も同レポートで指摘されています。この構造を放置したままでは、システムだけでなく組織全体としても「守り」に予算とマンパワーが偏り、変革に振り向けられるリソースが枯渇してしまいます。さらに深刻なのは、この「守り」への偏重が人材面にも波及する点です。保守・運用に追われる担当者は新しい技術やマネジメント手法を学ぶ時間を確保できず、結果として組織全体のスキルセットもレガシー化していくという悪循環が生まれます。保守・運用費用の議論は、目先のコストの大小だけでなく、この構造そのものを変えられるかという経営課題として捉える必要があります。この「守りのIT」に偏った予算配分は、システム部門だけの問題ではなく、経営企画や人事といった間接部門の予算配分にも同様の構造が見られることが多く、全社横断で予算配分そのものを見直す動きが近年広がっています。

移行前後のコスト構造比較

移行前後のコスト構造比較

モダナイゼーションを実行することで、ITコストと組織運営コストの両面で構造そのものを変えることができます。ただし、移行が完了した瞬間にすべてのコストが下がるわけではなく、初期段階では新旧の仕組みが併存する分だけ一時的にコストが増える局面もある点を理解しておく必要があります。ここでは代表的な削減効果と、その裏で発生する新たなコストについて解説します。

ITコストの削減効果(クラウド化・メインフレーム脱却)

システム基盤のクラウドネイティブ化によるコスト削減効果は大きく、長期的には年間運用費の20〜40%削減が期待できるとされています。特にメインフレーム環境から脱却できた場合には、高額なハードウェア保守費用や専門人材の人件費を最大60〜90%削減できるケースもあります。実際に、ある電子部品メーカーの事例では、メインフレームからクラウド環境への段階的な移行によって運用コストを約50%削減し、ある物流商社の事例では、独自開発のワークフローシステムをSaaSへ置き換えたことで年間400万円規模の維持・業務経費削減を達成しています。こうしたITコストの削減効果は、次に述べる組織運営コストを賄う原資としても位置づけられる点が、全社モダナイゼーションを検討するうえで重要な視点です。削減できたIT予算を単に利益として計上するのではなく、あえて変革推進チームの体制維持費や従業員教育費に再投資するという発想を持てるかどうかが、変革が一過性で終わる企業と、継続的な現代化サイクルを回せる企業の分かれ目になります。

実質総費用はベンダー見積もりの1.3〜1.5倍を想定

移行にかかる初期費用を見積もる際、ベンダーへの開発・ライセンス支払額だけを予算化してしまうケースが少なくありませんが、実質的な総費用はそれよりも大きくなるのが通常です。社内のテスト工数、新旧システムの並行稼働による重複コスト、そして従業員の教育研修費までを含めると、実質総費用はベンダー見積もりの1.3〜1.5倍程度を見込んでおくのが安全です。全社モダナイゼーションでは、この教育研修費の比重がシステム単体の刷新よりも大きくなる傾向があり、新しいシステムの操作研修だけでなく、新しい業務フローそのものへの適応を支援する研修まで含めると、当初の想定を上回る費用が発生しやすい点に注意が必要です。予算計画の段階でこの1.3〜1.5倍という係数をあらかじめ経営層と共有しておくことで、稼働後に追加予算の承認を都度取り付けるという非効率なプロセスを避けることができ、プロジェクト全体の意思決定スピードも向上します。

全社変革を支える組織運営コスト(見落とされがちな費用)

全社変革を支える組織運営コスト(見落とされがちな費用)

広義のモダナイゼーションの保守・運用費用で最も見落とされがちなのが、変革を推進し続けるための組織運営コストです。ITシステムの保守契約書には現れない費用だからこそ、経営層があらかじめその存在を認識し、事前に予算化しておく必要があります。特にシステム開発を外部に発注するプロジェクトでは、契約書に記載された保守範囲がインフラ・アプリケーションの保守に限定されているケースがほとんどで、組織運営コストは発注元企業が自ら手当てしなければならない領域だという点を、プロジェクトの初期段階で関係者間の共通認識にしておくことが重要です。

変革推進チーム・CoEの体制維持コスト

全社モダナイゼーションを軌道に乗せるためには、部門横断でシステム・業務プロセス・組織変革を統括する推進チーム(いわゆるCoE:Center of Excellenceのような役割)を設置し、稼働後もその体制を一定期間維持する必要があります。クラウドネイティブ化やマイクロサービス化による効果は、稼働直後ではなく運用フェーズで顕在化するため、稼働後90日〜1年程度は、この推進チームがコスト最適化・運用自動化・現場からのフィードバック収集を継続的に行う体制を維持することが望まれます。この体制維持コストを移行初期費用にしか予算を割かないプロジェクトでは、稼働後にチームが解散してしまい、変革の効果が中途半端なところで頭打ちになるケースが少なくありません。推進チームの規模は企業規模によって幅がありますが、専任3〜5名程度に加えて各部門のキーパーソンを兼任メンバーとして巻き込み、月次で進捗と課題を共有する定例会議体を運営するだけでも、年間で数百万円規模の人件費・運営費が継続的に発生することを見込んでおくべきです。また、外部のコンサルティングパートナーに変革推進の伴走支援を委託する場合は、月額での準委任契約として費用が発生するのが一般的で、社内人材の育成が進むにつれて徐々に内製化し、外部委託費を段階的に縮小していくという中長期的なコスト計画を描いておくことも有効です。

従業員教育・リスキリングのランニングコスト

組織の知識をアップデートし続ける人材のモダナイゼーションも、一度きりの研修費で終わるものではありません。IT部門・現場部門の双方が最新技術やデータ活用への習熟度(AIリテラシーなど)を高め続けるためには、継続的な教育プログラムの運営コストを、システムのライセンス費用や保守委託費と同じように、恒常的なランニングコストとして予算に組み込んでおく必要があります。特に、クラウドの運用に不慣れな従来のオンプレミス担当者や、旧来の業務フローに慣れた現場担当者に対するリスキリングは、一度の集合研修だけで完結せず、実務を通じたOJTや定期的なフォローアップ研修を組み合わせることで、初めて実質的な変革の定着につながります。近年は、社内にeラーニングプラットフォームを整備し、部署異動や新入社員の入社のたびに標準化された研修コンテンツを提供できる体制を構築する企業も増えており、これも広い意味での保守・運用費用として継続的に計上しておくべき項目です。

費用を見誤らないためのポイント

費用を見誤らないためのポイント

保守・運用費用を正確に見積もり、後から想定外の出費に驚かないためには、見積もり段階で確認すべきポイントを押さえておくことが重要です。特に全社モダナイゼーションでは、システム開発会社・コンサルティング会社・社内の複数部門にまたがって費用が発生するため、誰がどの費用の責任を持つのかを最初に整理しておくことが、後々の予算超過を防ぐうえで欠かせません。費用の責任者を明確にしておくことは、稼働後にトラブルが発生した際の対応スピードにも直結するため、契約前の段階で役割分担表として文書化しておくことをお勧めします。あわせて、四半期に一度は予算執行状況を関係者全員でレビューする場を設けておくと、費用の見落としや重複計上に早期に気づける体制を維持できます。

予算計上時に分けて確認すべき4つの費用

全社モダナイゼーションの保守・運用費用を予算化する際は、(1)インフラ・クラウド利用料、(2)システム保守・監視委託費、(3)変革推進チームの体制維持費、(4)従業員教育・リスキリング費という4つの区分に分けて確認することを推奨します。この4区分を最初から明確に分けておくことで、どの費用がどのフェーズで増減するのかを見通しやすくなり、稼働後に「想定外の予算超過」が発覚するリスクを減らせます。特に(3)と(4)は、システム開発会社からの見積もりには含まれないことが多いため、社内で独自に予算化する必要がある点を忘れないようにしましょう。また、移行直後は旧システムと新システムを並行稼働させる期間が発生することも多く、この期間中は(1)と(2)が一時的に二重計上される点も予算計画に織り込んでおく必要があります。並行稼働の長さをどの程度に設定するかによって、初年度の総コストが大きく変動します。並行稼働期間を必要以上に長く取りすぎると二重コストがかさみますが、逆に短く切り上げすぎると現場の不安が高まり移行への協力が得にくくなるため、業務の重要度・繁忙期を考慮したうえで、無理のない期間設定を関係部門とすり合わせておくことが望まれます。

費用対効果を測る際は間接効果も含めて評価する

費用対効果を社内で説明する際は、単純な「移行前後の月額費用の差額」だけでなく、属人化していた業務の負担軽減、意思決定スピードの向上、従業員のエンゲージメント向上といった間接的な効果も含めて評価することが望ましいといえます。前述のメインフレーム脱却の事例のように運用コストを約50%削減できたケースもあれば、SaaSリプレースによって年間400万円規模の直接的な経費削減を実現できたケースもありますが、共通しているのは、移行前にどれだけ正確に現状のコストと業務実態を可視化できていたかが、削減効果を測るうえでの前提になっているという点です。ITコストと組織運営コストの両方を移行前に棚卸ししておくことが、投資対効果を正しく評価するための出発点になります。加えて、離職率の低下や採用競争力の向上といった人事面の効果も、中長期的には全社モダナイゼーションの投資対効果に含めて評価する企業が増えており、財務指標だけでなく非財務指標も交えた多面的な効果測定の枠組みをあらかじめ用意しておくことをお勧めします。四半期ごとにコスト削減額・業務効率化指標・従業員満足度アンケートの結果を1枚のダッシュボードにまとめて経営層に報告する仕組みを作っておくと、変革の進捗と費用対効果を継続的に可視化でき、追加投資の意思決定もスムーズに進みやすくなります。

まとめ

モダナイゼーションの保守・運用費用まとめ

本記事では、システム刷新に閉じない広義の「モダナイゼーション」における保守・運用費用・ランニングコストについて、ITコストと組織運営コストの両面から体系的に解説しました。システム基盤のクラウドネイティブ化によって年間運用費の20〜40%削減、条件によっては60〜90%規模の削減も見込める一方、変革推進チームの体制維持費や従業員のリスキリング費用といった、ITシステムの保守契約書には現れない組織運営コストを見落とすと、変革が中途半端なところで頭打ちになりかねません。実質総費用はベンダー見積もりの1.3〜1.5倍を想定し、インフラ・保守委託・推進体制・教育費という4区分で予算を管理することが、費用を見誤らないための実践的なポイントです。費用対効果の評価も、月額費用の差額という財務指標だけでなく、業務負担の軽減や従業員エンゲージメントといった非財務指標も交えて多面的に測定することで、経営層への説明責任を果たしやすくなります。ITコストの削減効果を、変革を定着させるための組織運営コストの原資として位置づける発想が、全社モダナイゼーションの費用計画を成功させる鍵となります。

▼全体ガイドの記事
・モダナイゼーションの完全ガイド

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。