受発注管理システムのモダナイゼーションの進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

進め方は、まず現状を洗い出して手法を選び、要件定義から設計・開発へ進むのが流れです。

電話やFAX、メールが入り乱れた受注業務を、人手でさばく企業は少なくありません。また、保守費が膨らみ、機能追加も難しい状況でも、段階的に切り替える進め方なら、リスクを抑えながら作り替えられます。

全体像を把握したい場合は、次のガイドをご覧ください。

受発注管理システムのモダナイゼーションの意味

受発注管理システムを中心に、アーキテクチャ、データモデル、業務プロセス、在庫や会計との連携を示す図
システムの構造と業務の両面に注釈が広がります。

モダナイゼーションとは、老朽化した既存の受発注システムを、現在のビジネス環境や技術水準に合わせて全面的に作り替え、近代化する取り組みを指します。延命のための部分改修とは異なり、この取り組みでは業務プロセスそのものを見直し、保守性・拡張性・連携性を抜本的に高めます。

刷新・リプレイス・移行との違い

モダナイゼーションは、刷新やリプレイス、移行と混同されがちですが、それぞれ範囲が異なります。移行(マイグレーション)は、既存の機能や構造を基本的に保ったまま、新しいサーバーやクラウド基盤へ載せ替えることが主眼です。一方で、リプレイスは、自社開発のシステムをパッケージ製品など別の仕組みへ置き換える場合を指すことが多いです。

これに対してモダナイゼーションは、基盤の載せ替えにとどまらず、アーキテクチャやデータモデル、業務プロセスまで含めて近代化する包括的な取り組みです。受発注管理システムでは、紙やFAX中心の運用をWebやEDIへ転換し、在庫や会計との連携を前提とした構造へ作り替えるところまで含まれます。また、業務をどう変えたいかを起点に手法を選ぶ点も大きな特徴です。

受発注システムの近代化が求められる背景

背景には、いわゆる「2025年の崖」と呼ばれるレガシーシステム問題があります。その一例として、長年カスタマイズを重ねた受発注システムは中身が見えにくくなり、改修のたびに保守コストが膨らみます。

IPAの調査では、2030年に最大で約79万人のIT人材が不足すると見込まれています。古い技術を扱える技術者の確保は、今後ますます難しくなると指摘されています。さらに、自社のレガシー放置が調達元や提供先を含むサプライチェーン全体に負の波及をもたらす点も、IPAの調査で明らかにされています。

受発注業務に特有の事情も、近代化を後押しします。たとえば、取引先からのEDI接続要請やWeb受注への対応、電子帳簿保存法をはじめとする法令対応など、システムに求められる要件は年々高度化しています。古いシステムのままでは、こうした要求に応えられず、商機を逃したり取引の継続に支障が出たりするおそれがあります。

モダナイゼーションの手法(7R)と選び方

受発注管理システムを全面的に近代化する際、実現の手法は一つではありません。クラウド移行の文脈で整理された「7R」と呼ばれる選択肢を知っておくと、自社の状況に合う方法を選ぶ際の判断材料になります。

7Rの種類とそれぞれの特徴

7Rとは、システムを近代化する際の代表的な選択肢を整理した考え方です。まず、リホスト(構成を変えずクラウドへ載せ替え)、リプラットフォーム(一部最適化しつつ移行)、リファクタリング(内部構造の改善)があります。

続いて、リアーキテクチャ(マイクロサービスなど構造の再設計)、リビルド(作り直し)、リプレース(別製品への置換)です。加えて、リタイア(廃止)も選択肢に含まれます。それぞれコスト・期間・難易度・効果が異なります。

リホストは短期間かつ低コストで実現できる反面、レガシーの課題が残りやすい傾向があります。これに対して、リビルドやリアーキテクチャは拡張性を最大化できますが、費用と期間がかさみます。そのため、受発注業務の中核機能は将来性を重視して作り直し、付随する周辺機能は安価な手法を組み合わせるといった、メリハリのある選び方が現実的です。

「勇気ある廃止」による投資の集中

手法選定で見落とされがちなのが、7Rの一つであるリタイア(廃止)です。長年運用してきた受発注システムには、過去の一部の取引先のためだけに作られた特殊機能や、もはや誰も使っていない帳票出力などが残っていることが珍しくありません。こうした機能を移行対象から外す「勇気ある廃止」を行えば、移行コストと維持費を同時に減らせます。

廃止で浮いた予算と工数は、受注処理の自動化やEDI連携など、本当に価値を生むコア機能の刷新に振り向けられます。限られた投資を生かすには、どの機能を残し、どの機能を捨てるかを見極めることが鍵となります。そのため、アセスメントの段階で機能の利用実態を一覧にし、廃止の候補を洗い出しておくことが欠かせません。

ポイント

機能ごとに手法を使い分けるのが現実的です。中核機能は将来性を重視して作り直し、使われていない機能は廃止できないかを先に検討します。

受発注システムのモダナイゼーションの進め方

現状可視化、要件定義、設計・開発、段階的な切り替え、テスト・本番稼働と運用定着の順を示す図
前半で現状と要件を固め、後半で段階的に稼働へ移ります。

現状把握から運用定着までを段階的に進めると、成功率が高まります。一度にすべてを切り替えるビッグバン方式は、リスクが大きくなりがちです。そのため、フェーズを区切って着実に積み上げる進め方が基本です。

現状可視化(アセスメント)と要件定義

最初の工程は、現状の受発注システムを徹底的に洗い出すアセスメントです。どの機能がどの業務で使われ、どの外部システムと連携しているのかを一覧にします。なかでも、在庫・会計・CRMなどと密結合していることが多い受発注システムでは、データの流れを正確につかまないまま着手すると、移行後に連携が破綻する原因となります。

続く要件定義では、新しいシステムで実現したい業務の姿を明らかにします。ここで欠かせないのが、後述するFit to Standardの考え方です。

標準的な業務プロセスに寄せられる部分を見極め、本当に必要な要件だけを定義します。なお、アセスメントは仕様が固まりきらない段階で進むため、準委任契約で柔軟に協働する形が適しています。

設計・開発フェーズと段階的な切り替え

要件が固まったら、設計・開発フェーズへ移ります。そのうえで、クラウドネイティブやAPI連携を前提にした拡張性の高いアーキテクチャを採用し、将来のEDI接続先の追加や新たな業務システムとの連携にも耐えられる構造を目指します。仕様が確定しているこのフェーズは、成果物に責任を持たせやすい請負契約での発注が適しています。

リリースは、全業務を一斉に切り替えるより、特定の取引先や事業部から段階的に新システムへ移行するほうが安全です。新旧システムを一時的に並行稼働させると、不具合が起きても影響範囲を限定でき、現場も少しずつ慣れていけます。ただし、並行稼働には後述する二重コストが伴うため、計画段階から織り込んでおく必要があります。

テスト・本番稼働と運用定着

本番稼働の前には、実際の受注データを使ったテストと、データ移行のリハーサルを十分に行います。受発注システムは日々の取引を止められないので、切り替えに伴うダウンタイムを最小限にする移行手順を、事前に検証しておくことが欠かせません。そのうえで、月末や繁忙期を避けた静止点を設定し、その時点のデータを基準に移行する計画を立てます。

稼働後は、現場が新システムを使いこなせるよう、定着の支援を続けます。「前のシステムではこうできた」という現場の声に丁寧に向き合い、運用ルールの整備や教育を重ねるチェンジマネジメントが、投資効果を実際の成果に結びつけます。さらに、受注処理時間や入力エラー率といったKPIをモニタリングし、改善を回し続ける体制づくりまでが、進め方の一連の工程です。

ポイント

段階を区切って進めるのが基本です。現状の洗い出しと要件の絞り込みを先に済ませると、後の工程での手戻りを減らせます。並行稼働の二重コストも、計画段階から見込んでおきます。

受発注システムならではの論点と落とし穴

受発注管理システムのモダナイゼーションには、他の業務システムにはない固有の難しさがあります。多数のシステムとの連携、複雑なマスタデータ、BtoB特有の商習慣がそれにあたります。これらを軽視すると、せっかくのプロジェクトが頓挫しかねません。

EDI・在庫・会計・CRMとの連携設計

受発注システムは、単体で業務を完結させることはほとんどありません。たとえば、取引先とのデータ交換を担うEDIや、在庫の引き当てを行う在庫管理システムがあります。ほかにも、売上計上のための会計システムや顧客情報を管理するCRMなど、多くのシステムと連携して初めて業務が成り立ちます。

近代化にあたっては、これらの連携をAPIで疎結合に再設計し、片方の変更がもう一方に波及しにくい構造にすることが望まれます。とりわけEDIは、取引先ごとに異なるデータ形式や通信手順への対応が求められ、難易度が高い領域です。

電話・FAX・メールが混在する受注をWebやEDIへ転換することで、入力作業の削減と転記ミスの防止につながります。そのうえで、EDI自動化率や入力エラー率といった指標を改善目標に据え、連携設計の優先順位を決めていくとよいでしょう。

得意先別単価マスタの移行とFit to Standard

受発注システムの移行で最大の難所となるのが、得意先別単価マスタの移行です。BtoB取引では、同じ商品でも取引先ごとに価格が異なるうえ、数量に応じた段階単価や期間限定の特別条件など、複雑なルールが積み重なっています。しかも、これらのマスタデータは長年の運用で重複や不整合を抱えていることが多く、移行前のクレンジングとマッピングに想像以上の工数がかかります。

ここで陥りやすい最大の落とし穴は、Fit to Standardを無視した過剰なカスタマイズです。標準機能で対応できる部分まで「これまでのやり方」に固執し、例外ルールをすべてカスタマイズで作り込むと、開発が際限なく膨らみ、プロジェクトそのものが頓挫してしまいます。一方で、標準に業務を寄せ、本当に競争力の源泉となる例外だけを残す線引きが、受発注システム近代化の成否を分けます。

ポイント

連携設計やマスタ移行も含め、業務を標準に寄せる範囲を決めることが、迷ったときの判断の目安になります。例外の残し方は、競争力に直結するかどうかで決めます。

費用相場とコストの内訳

設計・開発の人件費、データクレンジング、新旧システムの二重コスト、稼働後のランニングコストを4枚のカードに分けた図
初期の作業費に加えて、並行稼働と稼働後の費用も並びます。

受発注管理システムのモダナイゼーションにかかる費用は、手法や規模によって大きく変わります。一般的には数百万円規模の小規模なものから、基幹に深く関わる大規模なものでは2億円規模に達することもあります。そのため、初期費用の総額だけでなく、見えにくい隠れコストまで含めて全体像を押さえることが大切です。

費用の内訳と人件費・工数の考え方

費用の大半を占めるのは、設計・開発に投じられる人件費です。エンジニアやプロジェクトマネージャーの工数に単価を掛けて算出するため、機能が多く連携が複雑な受発注システムほど、工数が膨らみます。このほかにも、アセスメントの調査費用、データ移行の作業費、クラウドやライセンスの利用料などが内訳に加わります。

前述したFit to Standardを徹底し、カスタマイズを最小限に抑えることが、人件費を圧縮する最も効果的な手段です。逆に、例外対応を積み上げるほど、工数は雪だるま式に増えていきます。また、手法選定の段階でリタイアを活用して移行対象を絞り込むことも、結果として工数と費用の削減につながります。

見落としやすい隠れコストとランニングコスト

初期見積もりに現れにくい隠れコストには注意が必要で、代表的なのが得意先別単価マスタなどのデータクレンジングにかかる費用です。汚れたデータを整えてから移行する作業は地味ながら膨大な手間を要し、見積もり時に過小評価されがちです。また、新旧システムを並行稼働させる期間は、両方の運用費が同時に発生する二重コストとなります。

稼働後のランニングコストも見据える必要があります。クラウドの利用料や、新しい技術を扱うための人材教育費、追加ライセンス費などが継続的に発生します。経営層を説得する際は、初期コストの比較だけでなく、移行後に保守費や運用費がどれだけ下がるかを示す運用コスト低減シミュレーションを提示すると、投資の妥当性が伝わりやすくなります。

ポイント

費用は、人件費と隠れコストを分けて見積もるのが基本です。カスタマイズを絞るほど人件費を抑えられるため、稼働後のランニングコストも含めて比べると判断の目安になります。

発注・契約とベンダー選定のポイント

受発注管理システムのモダナイゼーションを成功させるには、信頼できるパートナーをどう選び、どう契約するかが極めて重要です。ベンダーへの丸投げや不利な契約は、後々のトラブルやコスト超過の温床になります。

契約形態の使い分けとロックイン回避

契約形態は、プロジェクトのフェーズに応じて使い分けるのが定石です。仕様が固まっていないアセスメントや要件定義の段階では、柔軟に協働できる準委任契約が適しています。一方、仕様が確定した設計・開発フェーズでは、成果物の完成に責任を負う請負契約に切り替えると、コストとリスクを抑えられます。

あわせて警戒したいのが、特定ベンダーへの過度な依存、いわゆるベンダーロックインです。ソースコードの著作権の帰属や、システムの運用権限を契約書に明記しておかないと、将来の保守や他社への乗り換えの際に、足元を見られるおそれがあります。そのため、設計書やデータ仕様といった成果物を確実に引き渡してもらう条件を、契約段階で盛り込んでおくことが肝心です。

業務理解と体制で見るベンダー選定基準

ベンダー選定では、技術力だけでなく、受発注業務への理解度も重視すべきです。EDIや得意先別単価マスタといった業務特有の論点を理解しているベンダーなら、要件定義の精度が高まり、手戻りを防げます。

IPAの調査では、CDOやCIOといったCxOを設置している企業ほど、情報共有が円滑で、現状を把握しやすく、内製化も進み、モダナイゼーションが順調に運ぶという明確な相関が示されています。そこで、コンサルティングから開発、運用定着までを一気通貫で支援できるパートナーを選ぶと、社内の推進力を補い、プロジェクト全体の成功確率を高められます。

発注前には、自社の現状と要件を整理したRFP(提案依頼書)を用意し、複数社を同じ土俵で比較することをおすすめします。そのうえで、受発注や基幹システムの構築実績があるか、同規模・同業の事例を持っているかも確認するとよいでしょう。

ポイント

ベンダーは技術力と受発注業務への理解の両面で選び、契約は準委任と請負をフェーズに応じて使い分けます。成果物の引き渡し条件は、契約段階で定めておきます。

まとめ

進め方の基本は、アセスメントで現状を洗い出して要件を固め、7Rの手法を見極めたうえで、設計・開発、段階的な切り替え、運用定着へと工程を積み上げることです。さらに、受注処理時間や入力エラー率、EDI自動化率といったKPIを改善の指標に据えることが、効果測定の鍵となります。

受発注システムならではの論点には、EDI・在庫・会計・CRMとの連携設計と、得意先別単価マスタの移行があります。とりわけ、Fit to Standardを無視して例外をすべてカスタマイズしてしまう落とし穴は、開発の肥大化と頓挫を招くため要注意です。費用面では、隠れコストや並行稼働の二重コストまで見据え、運用コスト低減シミュレーションで経営層を説得することが有効です。

契約形態は準委任と請負を使い分け、ベンダーロックインを避けながら、業務理解の深いパートナーを選ぶことが大切です。こうした実務とPMの視点を押さえておけば、受発注管理システムの近代化は着実に成果へつながります。本記事が、自社に合ったモダナイゼーションの第一歩を踏み出す参考になれば幸いです。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。