受発注管理システムのリアーキテクチャのPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

受発注管理システムのリアーキテクチャにおけるPoC(概念実証)・プロトタイプ・モックアップ開発は、構造の作り直しが成り立つかを確かめる工程です。モノリスの分解、ドメイン駆動設計(DDD)による境界の再設計、API-first設計を、動くもので検証します。IT部門やアーキテクト、エンジニアの判断材料になります。

  • 対象:技術要件と業務条件
  • 工程:検証から実装まで
  • 確認:品質と運用条件

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・受発注管理システムのリアーキテクチャの完全ガイド

受発注管理システムのリアーキテクチャにおけるPoCの目的(技術実証実験としての性質)

新しい技術で動くものが作れるかを見るだけでなく、設計上の重要な判断が妥当かを、実際に手を動かして確かめるのがPoCの目的です。

ビッグバンリリースを避け、段階的に技術検証と移行を進めることが現在のベストプラクティスです。PoCはその最初の一歩として、ドメイン境界をどこに引くか、EDI/Web-EDIをどうAPI化するか、段階移行をどう進めるかを、実際に動かして検証します。

この検証を怠ったまま本開発に着手すると、「分散モノリス」化のような致命的な設計ミスに、大規模な開発投資を終えてから気づくことになりかねません。

他の切り口のPoCとの違い

モダナイゼーション記事群のPoCは、5つの技術的アプローチのうちどれが自社に適するかを選ぶ選定検証です。一方で、本記事群のPoCは、「リファクタリング・リビルドで構造を再設計する」という方針をすでに固めた前提で、その設計の実現可能性を検証します。

刷新記事群のPoCは経営層への説明材料としてのデモ、更改記事群のPoCは移行方式の実現可能性の検証、リニューアル記事群のプロトタイプは画面デザインと操作性の検証です。それに対して本記事のPoCは、ドメイン境界の妥当性、API疎通性、段階移行の安全性を、コードレベルの技術検証として確かめる点に特徴があります。

「垂直スライス」1つに絞ったPoC設計

受発注管理システム全体を一度にPoCの対象とせず、「発注受付」や「取引先マスタ管理」のような1つの機能・1つのドメインを、起点から終点まで貫通させる「垂直スライス」に絞って検証するのが定石です。

特に、この1つのスライスを通じて、DDDによる境界設計、API-first設計によるインターフェース定義、ストラングラーフィグパターンによる段階移行という、リアーキテクチャの根幹をなす3つの要素を実地で確かめられます。また、検証範囲を絞り込むことで、限られた期間と予算の中でも、意思決定に足る材料を得られます。

ポイント

PoCの対象は、まず1つの垂直スライスに絞ります。そのうえで、本開発で手戻りが最も大きくなりそうな要素を先に確かめると判断しやすくなります。

発注/受注ドメインの境界設計(DDD/Bounded Context)の検証

発注ドメインと受注ドメインの境界に、EventStorming、ユビキタス言語、補償トランザクション、耐障害性の注釈を添えた図。
業務の言葉合わせと処理失敗時の備えを一緒に確認できます。

既存のモノリスから「発注」と「受注」の機能を独立したサービスとして切り出せるかを確かめるPoCは、リアーキテクチャの成否を左右する最初の関門です。

EventStormingによる境界特定とユビキタス言語の統一

営業・購買・物流の実務担当者などドメインの専門家と、エンジニアが一堂に会します。業務上の出来事(イベント)を時系列に洗い出すEventStormingのようなワークショップを通じて、発注ドメインと受注ドメインの境界を特定します。

さらに、この過程では、開発者とビジネス側が共通の語彙(ユビキタス言語)をそろえられているかも検証します。境界設計は実装の複雑度が高いため、ワークショップを通じたドメイン分析には数週間〜1.5ヶ月程度を要するのが一般的です。

Sagaパターン(補償トランザクション)の検証

受発注業務では、発注受付、決済確認、在庫引当といった処理が、複数のサービスにまたがって連鎖的に実行されます。

PoCの段階では、補償処理が正しく動くかを先に見ておきます。たとえば在庫切れで出荷できなかった場合に、イベントブローカーを通じて、関連サービスへの補償トランザクション(在庫戻しや発注の取消処理といったUndo処理)が確実かつタイムリーに実行されるかを検証します。

あわせて、耐障害性の観点から、メッセージの消失や処理順序の逆転、ネットワーク遅延が起きたときのシステムの振る舞いも、この段階で確かめておく必要があります。

ポイント

境界の妥当性は、業務側とエンジニアが同じ言葉で出来事を語れるかを目安にします。補償処理と耐障害性の確認も、この段階で合わせて行うと判断の材料がそろいます。

取引先API連携(EDI/Web-EDIのAPI化)の疎通検証

API連携の疎通性を、API仕様、APIモックサーバー、実際のAPI連携の順に確認する図。
モックで仕様を先に確かめると、実接続の確認範囲を絞れます。

取引先ごとに異なるEDI・Web-EDI接続を標準化し、API-first設計で連携基盤を組めるかどうかも、受発注管理システムのリアーキテクチャに特有のPoCテーマです。

コントラクトベースの検証とモックサーバー活用

実際のバックエンドを書く前に、OpenAPIやProtocol BuffersでAPI仕様(コントラクト)を定義し、それが取引先側の要件を満たしているかを検証します。

PrismやMockoonでAPIモックサーバーを立ち上げ、フロントエンドや取引先システムが、ダミーデータでリクエストとレスポンスを正しく処理できるかを確かめます。その確認を結合開発の前に済ませておけば、後工程での手戻りを大幅に減らせます。

この工程は実装の複雑度が「中」程度で、設計からモックアップ構築、CI/CDパイプラインへのコントラクトテストの組み込みまでを、通常は数週間で完了できます。

主要取引先を対象にした実接続テスト

モックサーバーでの検証を終えたら、取引額や取引頻度の大きい主要取引先を数社選び、実際のAPI連携で疎通を確認します。

JCA手順など電話回線経由の古いEDIを使う取引先がいる場合、新方式(流通BMSやインターネットEDI等)への切り替えには、取引先側の対応も必要になります。そのため、PoCの段階から取引先の情報システム部門を巻き込み、検証スケジュールを共有しておくと、後続のスケジュール調整がスムーズに進みます。

ポイント

取引先連携は、主要取引先の実接続テストに入る前に、取引先の情報システム部門と検証スケジュールを共有しておくとよいです。モックサーバーでの検証を先に終えると、実接続の手戻りも減らせます。

ストラングラーフィグパターンでの段階移行の実現可能性検証

段階移行の安全性を、ルーティング、データ整合性、CI/CD自動化の3枚のパネルで示した図。
新旧システムの切り替えと並行稼働を別々の観点から確認します。

旧受発注システム(モノリス)を稼働させたまま、切り出した新しいマイクロサービスへトラフィックを段階的に移していく、ストラングラーフィグパターンが自社システムで機能するかを検証します。

ルーティング・カナリアリリースの検証

APIゲートウェイを使い、特定の取引先や一部のテスト注文のトラフィックだけを新しい「受注マイクロサービス」へ流し、それ以外は旧モノリスへ流す制御が正しく機能するかを検証します。

あわせて、新旧システムを並行稼働させたときにデータのズレや二重登録が起きないかという、データ整合性の検証も行います。さらに、コンテナ環境でダウンタイムなしのデプロイが実現できるかというCI/CD自動化の検証も、同じ工程で確かめます。

検証にかかる期間・費用の目安

この段階移行パターンの実装は、複雑度もリソース要求も「高」に分類されます。そのため、最初の1機能(発注受付APIなど)を並行稼働させるMVPフェーズまでに6〜12ヶ月、旧システムを完全に停止する本番移行までに12〜18ヶ月のロードマップを引くのが一般的です。

段階移行を支えるクラウドネイティブインフラ(Kubernetesクラスタ・APIゲートウェイ・サービスメッシュ・分散トレーシング等)には、維持費として月額15万〜50万円以上のランニングコストが先行して発生します。さらに、これらを管理するDevOps/SRE人材のコスト(月額80万〜130万円)も見込んでおく必要があります。

ポイント

段階移行の計画は、ルーティングの検証と並行して、MVPまでの6〜12ヶ月、本番移行までの12〜18ヶ月と、インフラの月額費用を見込むとよいです。

PoC全体の投資対効果(ROI)と成功のポイント

アーキテクチャ再設計を伴うPoCは、通常の機能検証のPoCと異なり、初期段階では直接の利益を生まない「投資」として捉える必要があります。その投資対効果の考え方と、成功させるための実務上のポイントを順に見ていきます。

パイロットフェーズはROIマイナスが前提

パイロットフェーズ(3〜6ヶ月)にあたるPoCの期待ROIは0〜マイナス100%とされ、この段階でビジネス上の利益を求めるべきではありません。

パイロットフェーズ全体には、システム規模によって10万〜50万ドル(約1,500万〜7,500万円)規模を投資するのが標準的です。その予算は、ドメイン分析、インフラ手配、APIプロトタイプ構築を含む、実現可能性の検証に充てます。

この投資をきちんと行えば、本番稼働フェーズ(12〜18ヶ月)で期待ROIが50〜150%に達し、システム全体のTCOを20〜45%削減できるという成功パターンにつながります。一方で、簡易なモックアップ開発単体であれば、数十万〜150万円程度の予算でも実施できます。

Go/No-Go判断基準の設定

あらかじめ客観的なGo/No-Go判断基準を設定しておけば、PoCを「動いたかどうか」だけで判断せずに済みます。

目安として、開発組織の規模が50名未満、あるいは1日あたりのリクエスト量が100万回未満といった小規模な組織・トラフィックの場合、マイクロサービス化の運用オーバーヘッドがメリットを上回ります。そのため、無理にリアーキテクチャを進めず「モジュラーモノリス」にとどめるという判断もあり得ます。

逆に、最初のモジュールがAPI/サービスへ明確に分解でき、CI/CDパイプラインが自動化でき、最初のコンポーネントがデグレなく独立して本番稼働できていれば、Go判断の材料として本開発への移行を検討できます。

ポイント

PoCへの投資は、パイロットフェーズでROIがマイナスになる前提で予算を組み、Go/No-Goの基準をあらかじめ決めておくとよいです。

まとめ

受発注管理システムのリアーキテクチャにおけるPoCについて、技術実証としての位置づけから投資対効果の考え方までを解説しました。リアーキテクチャのPoCは、動くかどうかを確かめるにとどまらず、ドメイン境界の妥当性、取引先API連携の疎通性、ストラングラーフィグパターンでの段階移行の安全性を検証します。

「発注受付」など1つの垂直スライスに絞り、パイロットフェーズはROIマイナスが前提であることを関係者と共有します。そのうえで、客観的なGo/No-Go基準に基づいて本開発への移行を判断することが、リアーキテクチャ全体の成功確率を高めます。

アーキテクチャ設計の実現可能性を丁寧に検証したい方は、DDDとAPI-first設計のPoC設計に強みを持つパートナーへ早めに相談することをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。