購買管理システムのリニューアルのPoC・プロトタイプ・モックアップ開発について

購買管理システムのリニューアルにおけるPoC・プロトタイプ・モックアップ開発とは、本格開発に入る前に、利用者が直接触れる画面と操作の流れが現場で受け入れられるかを確かめる取り組みです。対象は、購買担当者の発注申請画面、承認者の承認画面、サプライヤー(取引先)のポータルです。

▼全体ガイドの記事
・購買管理システムのリニューアルの完全ガイド

  • PoCの位置づけと、他の刷新系記事群との目的の違い
  • PoC・プロトタイプ開発の全体像と進め方
  • ユーザー層別のユーザビリティテスト設計

購買管理システムのリニューアルにおけるPoCの位置づけ

購買管理システムのモダナイゼーション、刷新、更改、リニューアルで異なるPoCの目的を4つのパネルで示した図。
確かめる対象は、技術から使い勝手まで目的ごとに分かれます。

購買管理システムのリニューアルにおけるPoC・プロトタイプ・モックアップ開発を正しく設計するには、まず「何を確かめるためのPoCか」という目的を、隣接する記事群と切り分けて理解しておく必要があります。

同じ購買管理システムでも、確かめたい対象が技術なのか、投資対効果なのか、体験価値なのかによって進め方が大きく変わります。そのため、目的の切り分けが欠かせません。

他の刷新系記事群とPoCの目的の違い

各記事群のPoCは、目的が次のように分かれます。

  • 購買管理システムのモダナイゼーション:技術的なアプローチを選ぶ段階で、新旧の処理結果が一致するかを確かめます。主眼は機能等価性の確認です。
  • 購買管理システム刷新:投資判断の材料を得るため、発注ミスや支払遅延の削減効果を試算・実証する役割です。
  • 購買管理システム更改:EOS/EOLの期限内に、既存の発注〜検収・支払業務を止めず新システムで代替できるかを、短期間で見極めます。

これらに対し、本記事が扱う「リニューアル」のPoCは、画面デザインと操作フローという見た目や使い勝手そのものを対象にします。実際のユーザーが「使いやすい」「続けられそうだ」と感じてもらえるかを検証することが目的です。

技術的な実現可能性の検証や投資対効果の試算は、他の刷新系記事で扱う論点です。そのため、本記事はデザイン検証というテーマに絞って解説します。

本開発前にデザインを検証する理由

「見た目」や「使い勝手」は、要件定義書の文字だけでは正確に評価できません。ワイヤーフレームや静止画のデザインカンプでは、発注申請や承認の操作をしたときに出る細かな迷いやストレスを、購買担当者や承認者本人も事前に予見しにくいものです。

だからこそ、プロトタイプやモックアップという「触って動かせる状態」を用意し、実務に近いタスクを実際にこなしてもらう必要があります。そうすることで、初めて明らかになる課題があります。この検証を省いて本開発に進むと、リリース直前や稼働後に「思っていたのと違う」という声が噴出し、大規模な作り直しにつながるリスクが高まります。

ポイント

PoCの目的は、技術・投資対効果・業務の代替のどれを確かめたいかで変わります。使い勝手が目的なら、画面と操作の流れを対象にします。

PoC・プロトタイプ開発の全体像と進め方

購買管理システムは、関わるユーザー(購買部門、承認者、社外のサプライヤー)が多く、要件が膨らみやすい性質があります。そのため、PoCやプロトタイピングでは、実際の業務データを使った実務レベルの検証が最大の論点になります。

実務データを用いた実務レベルの検証

本格開発に入る前に、プロトタイプで実務に近いテストを行います。サンプルの発注データや実際の承認フローを使い、システムのパフォーマンスや操作手順を確認します。

ここで大事なのは、抽象的なサンプルデータではなく、自社の実際の品目カテゴリや承認金額の分岐パターンに近いデータを使うことです。そうすれば、リニューアル後に「実際の業務では使いにくかった」というギャップを防げます。

使いやすさアンケートと現場の暗黙知の引き出し

PoCやトライアル期間中には、現場の担当者に実際にシステムを操作してもらいます。そのうえで、「本当に直感的に操作できるか」「マニュアルは分かりやすいか」「エラーが出たときに自力で解決しやすいか」を確かめます。

ここで集まった「画面が見やすくてやる気が出る」「これなら続けられそうだ」といった定性的な意見(使いやすさアンケート)は、デザイン確定の最終判断に組み込みます。その判断が、リリース後の定着率を高める鍵になります。

また、現場担当者が「当たり前」と考えている暗黙知を引き出すことも欠かせません。たとえば、特定のサプライヤーに対するイレギュラーな発注処理の手順などです。プロトタイプ検証を通じてこれを引き出し、機能要件・画面要件として明文化できるかどうかが、後の追加開発コストを抑える決定打になります。

ポイント

PoCでは、自社の実務に近いデータで操作を試し、現場の暗黙知を機能要件・画面要件として明文化できるかを見ます。ここが後の追加開発コストを左右します。

ユーザー層別のユーザビリティテスト設計

購買担当者、承認者、サプライヤーのユーザビリティテストで確認する観点を3枚のカードに分けた図。
社内外の利用者で、確かめる操作場面が変わります。

購買管理システムでは、購買担当者・承認者・サプライヤーという異なるユーザー層それぞれの目的に合わせたユーザビリティテストを設計する必要があります。

購買担当者・承認者向けのテスト設計

購買担当者向けには、日々の入力負荷が下がるかを検証します。入力項目の多さや画面遷移の複雑さは、現場が「影のIT(Excel等への逆戻り)」を生む最大の原因となります。そのため、プロトタイプで発注フローを通しで操作してもらい、迷う箇所がないかを丁寧に確認します。

承認者向けには、外出先からでも素早く承認できる体験が求められます。このため、PC画面でのデザイン確認だけでなく、必ずスマートフォンの実機を使い、承認ボタンのタップしやすさや見積書PDFの見やすさを検証することが必須の論点になります。役員や管理職といった多忙な承認者が対象になることも多いため、利用シーンを具体的に想定した検証設計が求められます。

サプライヤー向けのテスト設計

サプライヤーは社外のユーザーのため、操作のトレーニングを行うことが難しいのが実情です。そこで、「マニュアルがなくても直感的に操作できるか」「エラー表示が明確で自力で解決できるか」という視点での検証が欠かせません。これは、自社のサポート負荷の増大を防ぐことにもつながります。

サプライヤー向けの検証は、協力先企業とのスケジュール調整が絡むため、社内ユーザー向けより準備に時間がかかる点を見込んでおく必要があります。取引額の大きい主要サプライヤー数社にモニターとして協力を依頼し、実際の発注確認や納品書アップロードといった操作の流れを試してもらいます。そうすれば、より実態に即したフィードバックを得られます。

ポイント

購買担当者・承認者・サプライヤーそれぞれで、テストの目的を分けて設計します。承認者は必ず実機のスマートフォンで確かめ、サプライヤーは準備に時間がかかる点を見込みます。

ワイヤーフレーム〜デザインカンプの段階的検証プロセス

ワイヤーフレーム、デザイン初稿、クリッカブルプロトタイプへ進むデザイン検証の流れを示した図。
静止した画面から、操作を体験する確認へ進みます。

デザイン検証の段階でもっとも避けたいのは、開発が進んだ後に決裁者(社長・役員等)から仕様やデザインが覆される「ちゃぶ台返し」です。これを防ぐため、以下のプロセスで段階的に検証と承認を進めることが推奨されます。

ワイヤーフレームからデザイン初稿までの中間報告

まず、画面構成と主要ページのレイアウトを白黒の線画で示すワイヤーフレームを作ります。ワイヤーフレームでは、操作の動線に問題がないかを報告し、承認を得ます。

次に、ブランドイメージを反映したデザインの方向性を報告し、デザイン初稿(カンプ)のレビューで承認を得ます。この2段階を踏むことで、色や装飾といった表面的な議論に時間を取られる前に、「使いやすい画面構成になっているか」という本質的な部分の合意を先に固められます。

クリッカブルプロトタイプの活用

デザイン初稿の段階では、Figma等のデザインツールを使い、クリックして画面を遷移できる「クリッカブルプロトタイプ」を作ると効果的です。静止画のデザインカンプでは伝わりにくい画面遷移の流れや、ボタンを押した後の反応を、実際に体験できます。

その結果、決裁者や現場ユーザーは完成形を正確にイメージしやすくなり、開発着手後の「思っていたのと違う」という認識のズレを大きく減らせます。あわせて、各部署から「あれも載せろこれも載せろ」という追加要望が出るのを防ぐため、要件定義の段階で「何を載せ、何を載せないか」を明確にします。追加要望は別フェーズで扱うというルールを決めておくことも大切です。

ポイント

仕様の覆りを防ぐため、ワイヤーフレームで操作の動線について先に承認を得てから、デザイン初稿に進みます。クリッカブルプロトタイプで遷移を体験させると、認識のズレを減らせます。

PoCを成功させるための実務ポイント

ここまで見てきた進め方を踏まえると、購買管理システムのリニューアルにおけるPoCを成功させるには、期間の見込み方と依頼先の選び方の両方を丁寧に押さえることが欠かせません。

期間目安と検証範囲の絞り込み

現状分析から改善案(To-Be)の設計までは、約3〜6ヶ月程度が一般的な目安です。このうち、ワイヤーフレームの作成やデザインの制作には、通常約1〜2ヶ月を見込みます。

この期間をかけてPoCやプロトタイプ検証を丁寧に行うのは、一見遠回りに見えます。しかし、「現場で使われない」という失敗や大規模な手戻りを防ぎ、投資対効果を最大化するための最短ルートになります。

すべての機能や画面を一度に検証しようとすると、期間が際限なく延びてしまいます。そこで、発注申請・承認・サプライヤー確認という、最も利用頻度の高いコアフローに検証範囲を絞り込みます。優先度の低い周辺機能を後続フェーズに回すという割り切りも大切です。

依頼先選定のポイント

PoC・プロトタイプ開発の依頼先を選ぶ際は、デザインツールを扱えるかだけでなく、業務システムを対象としたユーザビリティテストの設計・実施経験が豊富かを確認します。

特に、購買・調達業務の商慣行を理解しているパートナーであれば、承認金額に応じた分岐や、サプライヤーごとの個別条件といった業務特有の複雑さを踏まえたプロトタイプ設計を期待できます。あわせて、社外のサプライヤーを巻き込んだユーザビリティテストの実施経験があるか、スマートフォン実機での検証を標準工程として組み込んでいるかも、選定の重要な基準になります。

ポイント

期間は現状分析から設計まで約3〜6ヶ月を見込み、検証範囲は発注申請・承認・サプライヤー確認のコアフローに絞ります。依頼先は業務システムのユーザビリティテストの経験で選びます。

まとめ

ここまで、購買管理システムのリニューアルにおけるPoC・プロトタイプ・モックアップ開発を、デザイン検証に絞って解説してきました。位置づけの確認から、実務データを使った検証、ユーザー層別のユーザビリティテスト、段階的な検証プロセス、実務ポイントまでを順に扱っています。

現状分析から改善案の設計までに約3〜6ヶ月を見込み、実務データと現場の暗黙知を引き出しながら、購買担当者・承認者・サプライヤーそれぞれに合わせた検証を積み重ねます。そうすることで、リリース後に「使われないシステム」になる失敗を防ぎやすくなります。

ワイヤーフレームとデザイン初稿という段階的な承認プロセスに加え、クリッカブルプロトタイプを活用すれば、決裁者の「ちゃぶ台返し」を防げます。そして、業務システムのユーザビリティテストの経験が豊富なパートナーと進めることが、購買管理システムのリニューアルを成功に導く鍵となります。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。