システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用の問題は、多くの企業でIT予算の大部分をレガシーシステムの維持管理費が占めているという構造そのものに起因します。経済産業省のDXレポートによれば、多くの企業でIT予算の8〜9割以上が既存システムの保守・運用に費やされており、新規のデジタル投資に回せる予算が慢性的に不足しています。COBOLやメインフレームで稼働し続ける老朽化した技術基盤は、ハードウェア・ソフトウェアの保守費用が年々高騰するだけでなく、システムを理解している技術者の高齢化・退職による人材不足も相まって、保守運用コストがさらに膨らむ悪循環に陥りやすいのが実情です。この構造を断ち切るには、クラウドネイティブ化によるコスト構造そのものの変革が必要になります。
本記事では、システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用・ランニングコストに焦点を当て、移行前のレガシー放置コストの実態、移行前後のランニングコスト比較、アプローチ別のコスト削減効果、稼働後に欠かせないFinOps(クラウドコスト最適化)の実践、そして費用を見誤らないためのポイントまでを、具体的な数値と企業事例とともに体系的に解説します。老朽化したシステムの保守コストに課題を感じている方はもちろん、これから移行を検討している方にとっても、現実的なコスト構造を理解するための判断軸が身に付く内容です。
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システムのモダナイゼーションと保守・運用費用の関係(なぜコストが問題になるのか)

システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用を考えるうえで最初に理解すべきは、「移行にかかる初期費用」と「移行しない場合に払い続けるコスト」を天秤にかけて判断する必要があるという点です。老朽化したシステムを放置すればするほど、保守費用は下がるどころか年々上昇していく傾向にあり、この上昇カーブを断ち切れるかどうかがモダナイゼーションの投資対効果を決めます。個別システムの導入・刷新を支援するシステムコンサルの保守費用が「新しく導入したシステムをどう維持するか」を扱うのに対し、モダナイゼーションの保守・運用費用は「老朽化した基盤をどう脱却し、コスト構造そのものを変えるか」という、より根本的な問いを扱う点が最大の違いです。
レガシーシステム放置のコスト構造とIT予算の実態
経済産業省のDXレポートによれば、多くの企業においてIT予算の8〜9割以上がレガシーシステムの維持管理費に充てられている実態が明らかになっています(出典: 経済産業省「DXレポート」)。この背景には、ハードウェア・ソフトウェアの保守費用の高騰に加え、システムを理解している技術者の高齢化・退職による人材不足と属人化の進行があります。特定の担当者しかシステムの挙動を把握していない状態では、小さな障害対応にも多くの工数がかかり、保守委託費用も年々上昇しがちです。この構造の恐ろしさは、放置している間は表面上の出費が緩やかに見えても、複利的にコストが積み上がっていく点にあります。IT予算の大半が「守り」に費やされ、新しい価値を生む「攻め」の投資に予算を回せない状態が続くこと自体が、モダナイゼーションを検討すべき最大のシグナルです。
「2025年の崖」が示す放置コストのインパクト
放置コストのインパクトを定量的に示すのが、経済産業省が警告する「2025年の崖」です。老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを放置し、DXを推進できなかった場合、2025年以降に年間最大12兆円という、現在の約3倍にあたる経済損失が生じる可能性があると指摘されています(出典: 経済産業省「DXレポート」)。この数値は日本経済全体を対象にしたマクロな試算ですが、個々の企業に当てはめれば、保守運用コストの高騰、システム障害による機会損失、競合他社へのスピード劣後という形で具体的に表れます。保守・運用費用を検討する際は、目先の移行費用の大小だけでなく、「今の延長線上でコストがどこまで膨らみ続けるか」という将来予測を含めて比較検討することが欠かせません。
移行前後のランニングコスト比較

モダナイゼーションを実行し、クラウドネイティブな環境へ移行することで、運用維持のコスト構造を劇的に変革させることができます。ここでは代表的な削減効果のパターンを紹介します。
マネージドサービス化・サーバーレス化によるコスト削減効果
インフラとアプリを同時に刷新する「リプラットフォーム」では、データベース等をクラウドベンダーが提供するマネージドサービス(Amazon RDSなど)へ切り替えることで、バックアップやOSのパッチ適用といった定型的な運用作業が自動化され、保守運用コストを大きく削減できます。さらにサーバーレス(FaaS等)アーキテクチャへの移行に成功すれば、インフラの常時稼働や監視そのものが不要となり、プログラムが実行された時間や回数に対してのみ課金される「完全従量課金」が実現し、劇的なコスト削減が見込めます。従来のオンプレミス環境では、ピーク時の負荷を見越して常に余裕を持たせたサーバーを保有し続ける必要がありましたが、クラウドのマネージドサービスやサーバーレスを活用すれば、実際に使った分だけの費用に近づけることができます。
メインフレーム脱却によるコスト削減インパクト(60〜90%)
特にコスト削減インパクトが大きいのが、メインフレーム環境からの脱却です。クラウドベンダーが提供するメインフレーム移行支援サービスを活用し、COBOLやメインフレーム環境からクラウドネイティブ環境へ移行した場合、メインフレーム固有の高額なハードウェア保守費用や専門人材の人件費を最大60〜90%削減できるという圧倒的なコスト構造の変革を実現できるケースがあります。ある電子部品メーカーの事例では、IBMメインフレームからAWSクラウド(Java環境)への全面移行において、段階的なリホストとリファクタリングを組み合わせ、運用コストを約50%削減することに成功しています。ある物流商社の事例では、老朽化した独自開発のワークフローシステムをSaaSへリプレースしたことで、保守費用の削減に加え、ペーパーレス化により年間400万円のダイレクトな維持・業務経費削減を達成しています。
アプローチ別に見るコスト削減効果と注意点

コスト削減効果は選択するアプローチによって性質が異なり、「移すだけ」で満足してしまうと期待した削減効果を得られないケースもあります。
リホストだけでは削減しきれない「クラウドリフトの罠」
クラウドへ移行したからといって、自動的にランニングコストが下がるわけではない点には注意が必要です。オンプレミス環境を単にクラウドへ移すだけのリホスト(クラウドリフト)では、最適化に至らずコストが減らないどころか増えてしまうケースが少なくありません。オンプレミス時代の過剰なサイジング設定(負荷ピークを見越して余裕を持たせたスペック)をそのままクラウド上に引き継いでしまうと、使っていないリソースにも課金され続け、かえってクラウド利用費が高騰してしまいます。リホストは移行期間の短さという点では優れた選択肢ですが、コスト削減を主目的とするならば、移行後に必ずリソースの見直しとサイジングの最適化を行う工程を計画に組み込んでおく必要があります。
リファクタリング・リビルドで得られる長期的なコスト最適化
リファクタリングやリビルドは初期投資が大きい一方、長期的なコスト最適化効果が高い手法です。マイクロサービス化により機能単位で個別にスケーリング・デプロイができるようになれば、負荷が集中する機能だけにリソースを割り当て、それ以外は最小限に抑えるといった精緻なコスト制御が可能になります。また、コードの内部構造が整理されることで、将来の機能追加や改修にかかる工数そのものが減り、中長期的な保守コストの伸びを抑制できます。初期投資の回収には数年単位の視点が必要になりますが、業務の中核を担うコアシステムであれば、この長期的な視点での投資判断が結果的に総保有コスト(TCO)を最小化する道につながります。
移行後に欠かせないFinOps(クラウドコスト最適化)の実践

クラウドネイティブ化やマイクロサービス化による真のコスト削減効果は、移行直後ではなく「運用フェーズ」で顕在化します。そのため、稼働前からFinOps(クラウドコスト最適化)、パフォーマンス監視、運用自動化の設計を綿密に計画しておく必要があります。
稼働後6〜12ヶ月の継続的モニタリングと最適化
移行後も、システム稼働後6〜12ヶ月間にわたり、クラウドの利用状況を継続的にモニタリングし、不要になったリソースの削減やインスタンスサイズの最適化を行うことで、初めて適正なランニングコストに着地します。稼働直後は移行時の設定をそのまま使っていることが多く、実際のアクセス傾向やデータ量に基づいた最適化はここから始まります。利用状況を可視化するダッシュボードを整備し、想定外のコスト増加を早期に検知できる仕組みを作っておくことが、稼働後のコスト管理を成功させる第一歩です。
コスト最適化を定着させる運用体制
FinOpsを一度きりの取り組みで終わらせず、社内に定着させるためには、コスト最適化を継続的に見直す運用体制が欠かせません。エンジニアリング部門とコスト管理部門が定期的にクラウド利用料をレビューする場を設け、予算超過の兆候があれば早期に是正できる運用ルールを整備することが重要です。あわせて、クラウドの運用に不慣れな従来のオンプレミス担当者に対するリスキリング(再教育)も並行して進める必要があります。せっかくクラウドネイティブな環境へ移行しても、運用担当者がマネージドサービスやサーバーレスの特性を理解しないまま従来型の運用を続けてしまうと、コスト最適化の効果を十分に引き出せません。
保守・運用費用を見誤らないためのポイント

保守・運用費用を正確に見積もり、後から想定外の出費に驚かないためには、見積もり段階で確認すべきポイントを押さえておくことが重要です。
見積もり時に確認すべき費用の内訳
見積もりを取る際は、インフラ費用(クラウド利用料)、保守・運用委託費用(バグ修正、セキュリティアップデート、監視対応)、ライセンス費用(監視ツール、セキュリティツールなど)の3つを分けて確認することが重要です。特にクラウド利用料は、アクセス数に応じたオートスケーリングを行う場合、トラフィックの急増時に費用が跳ね上がるリスクがあるため、コスト上限の設定や予算アラートの仕組みをあらかじめ組み込んでおくべきです。また、移行直後の並行稼働期間中は、旧システムと新システムの両方の保守費用が同時に発生することも見落とされがちなポイントで、この二重コスト期間をどの程度の長さに設定するかによって、移行初年度の総コストが大きく変わります。
事例に学ぶコスト削減効果の測り方
コスト削減効果を社内で説明する際は、単純な「移行前後の月額費用の差額」だけでなく、障害対応にかかっていた人件費、属人化していた保守担当者の負担軽減、機能追加のスピード向上といった間接的な効果も含めて評価することが望ましいといえます。前述のメインフレーム脱却の事例のように運用コストを約50%削減できたケースや、SaaSリプレースによって年間400万円規模のダイレクトな経費削減を実現できたケースなど、削減効果は業種や規模によって幅がありますが、共通しているのは「移行前にどれだけ正確に現状のコストを可視化できていたか」が、削減効果を測るうえでの前提になっているという点です。移行前のコスト構造を精緻に棚卸ししておくことが、投資対効果を正しく評価するための出発点になります。
まとめ

本記事では、システムのモダナイゼーションにおける保守・運用費用・ランニングコストについて、レガシー放置コストの実態、移行前後のコスト比較、アプローチ別の削減効果、稼働後に欠かせないFinOpsの実践、費用を見誤らないためのポイントを体系的に解説しました。多くの企業でIT予算の8〜9割以上がレガシーシステムの維持管理費に費やされている実態を踏まえると、モダナイゼーションは単なる技術投資ではなく、コスト構造そのものを変革する経営判断だといえます。マネージドサービス化やサーバーレス化、メインフレーム脱却によって60〜90%規模のコスト削減が見込める一方、「とりあえずクラウドに移す」だけでは削減効果が得られない「クラウドリフトの罠」に注意が必要です。稼働後6〜12ヶ月の継続的なFinOps実践こそが、真のコスト最適化を実現する鍵となります。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
