システム刷新の保守・運用費用・ランニングコストについて

刷新後の保守・運用費用は、開発費の年間5〜15%が目安です(資料によっては15〜20%)。移行方式や利用量、保守の範囲によって金額が変わります。

予算承認を得るには、技術的な削減策に加えて、TCO(総保有コスト)と投資回収の見通しを経営層に示すことが欠かせません。

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システム刷新における保守・運用費用の考え方(経営判断としてのTCO・投資回収)

老朽化したシステムの維持負担として、IT費用の既存業務維持、EOS後の延長費用、脆弱性リスク、技術者の高齢化・退職を示す図。
維持費の内訳を並べると、刷新判断で見るべき範囲が広がります。

刷新では、初期費用と、刷新しない場合に払い続ける費用を比べます。また、保守費用は放置すると上がる傾向があるため、その上昇をいつ止めるかが議論の出発点になります。

老朽化放置のコスト構造とIT予算8割という実態

老朽化したシステムを維持すると、IT予算が既存業務に偏るうえ、保守や人材面の負担も積み上がります。

  • 長期運用による老朽化・複雑化(ブラックボックス化)で、IT費用の約80%が既存業務の維持・運営に使われる
  • ハードウェア・OS・ミドルウェアはEOS後の延長費用が高額になり、脆弱性を放置するリスクも高まる
  • 古い言語の技術者が高齢化・退職し、担当者への属人化が進むと、改修や障害対応の調査工数と人件費がかさむ
  • 経済産業省は、刷新できないまま放置したシステムによる損失を「2025年の崖」として警告している

「2025年の崖」では、2025年以降に最大年間12兆円の経済損失が生じるとされています。このため、放置にかかるコストを先に把握しておくことが、刷新費用と比べる土台になります。

技術的な削減手法の詳細と「システムのモダナイゼーション」シリーズ

マネージドサービス化やサーバーレス化、メインフレーム脱却などの削減の仕組みは、姉妹記事「システムのモダナイゼーション」シリーズで解説しています。

同シリーズでは、リホストからリプレースまでの技術的なアプローチを扱います。一方、本記事は削減効果を経営層に説明し、稟議や予算承認を得る視点に絞っています。両方をあわせて読むと、技術と投資判断の材料を一度に整えられます。

ポイント

放置すると保守費がどの時点から上がるかを示せると、刷新の時期を判断する材料になります。EOSの時期は、保守費の上昇が始まる目安として見ておくとよいでしょう。

刷新前後のコスト構造変化(CapExからOpExへ、TCOの視点)

システム刷新は、同じ機能を新しい技術で作り直すだけでなく、費用の計上方法を変える経営判断です。この構造変化を理解しないまま稟議を作ると、初期投資額ばかりが強調され、承認を得にくくなります。

CapEx(資本的支出)からOpEx(運用支出)への転換

この転換は会計処理だけでなく、予算の柔軟性にも関わります。そのため、支出の時期や変動の違いを比べておくことが大切です。

  • CapEx:物理機器を自社で所有するオンプレミスでは、数年ごとに数千万円〜数億円のハードウェア購入・更新費がかかる
  • CapExのリスク:一度の支出額が大きいうえ、需要予測を外すと過剰投資や陳腐化を招く
  • OpEx:クラウドでは利用量に応じた月額・年額の運用費として平準化され、事業環境に合わせて予算を組み替えやすい

このため、稟議ではこの転換による予算の柔軟性を明示しておくと、初期投資額への懸念を和らげる材料になります。

5〜10年スパンのTCOで評価する考え方

5年〜10年のTCO(総保有コスト)で評価し、初期の開発・導入費だけで決めないことが重要です。

  • 利用料:毎月のクラウド利用料やライセンス費
  • 保守費:障害対応やアップデートにかかる費用
  • 教育費:現場での教育・トレーニングにかかる費用

初期費用を優先して要件定義が甘くなると、追加開発が続くことがあります。さらに運用開始後には、バグ対応や高額な保守費用が重なり、総額が数倍になる失敗事例も少なくありません。

したがって、長期のTCOを議論の土台に据えることが、目先の金額比較による判断ミスを防ぐ最も確実な方法です。

ポイント

稟議で初期投資額への懸念が出たときは、月額・年額で支払う運用費の比重を示すと説明しやすくなります。判断は5〜10年のTCOで行うと、目先の金額に引きずられにくくなります。

投資回収(ROI)シミュレーションの考え方

ROIシミュレーションで稟議資料にまとめる投資額、年間削減額、回収年数の3項目を示す図。
3項目を同じ資料で見ると、投資と削減効果の関係を追えます。

TCOを把握したうえで、いつ投資を回収できるかを具体的にシミュレーションします。特に、回収時期が見えない案件は、理屈が正しくても稟議を通りにくくなります。

ROI回収期間の目安(1.5〜4年)と計画の立て方

システム刷新のROI回収期間は、1.5年〜4年が目安とされています。開発期間などの初期フェーズでは一時的なコスト増を許容し、2年目以降の効率化や保守費の削減で回収する計画が基本です。

一般的な運用・保守費の相場は、開発費の年間5〜15%とされています。一方で15〜20%とする資料もあり、刷新後にどこまで下げられるかが回収試算の根幹になります。

稟議資料では、投資額・年間削減額・回収年数を一枚のグラフにまとめます。単年度の数字だけでなく、複数年の累積効果も示すと、長期的な判断を促せます。

削減効果の実例(年間40〜50%削減、TCO30%削減)

ROIの説得力を高めるには、自社の想定値だけでなく、他社事例も参照すると効果的です。クラウド移行で年間運用費を40%〜50%削減した実例が、複数報告されています。

たとえば、ある企業は初期費用が高めでも運用費の低いベンダーを選び、5年間のTCOを30%削減しました。こうした事例は、削減効果が再現可能な水準にあることを示す材料になります。

削減率は業種・システム規模・移行前の状態によって幅があります。だからこそ、現状費用を細かく洗い出し、保守的な前提で試算しておくと、実績とのずれを防ぎやすくなります。

ポイント

回収期間は、開発期間の一時的なコスト増をどこまで許容するかで変わります。許容の範囲を経営層と先に決めておくと、回収計画の議論がぶれにくくなります。

稟議でTCOを説明し予算承認を得るポイント

稟議の判断材料として、定量的KPI、TCO比較過程、浮いた予算、IT人材の再配置を並べたチェックリスト図。
削減額に加えて、再配置先まで視野に入れた構成です。

回収試算は稟議資料に落とし込み、経営層の納得感を高めます。刷新は「古いから新しくする」作業ではなく、経営課題を解決する投資として説明します。

定量的KPIの設定と提示方法

稟議では、経営に直結する定量目標(KPI)を置きます。目標は、自社の現状と投資効果に合わせて決めます。

  • ITコスト:削減率の目標値
  • 締め処理時間:業務時間の短縮率
  • 在庫ロス:データを一か所にまとめた場合の年間削減額

経営層の意欲を引き出すには、削減額に加えて、浮いた予算とIT人材の使い道を示すことが効果的です。たとえば、AI活用や新規事業といった「攻めのDX」に再配置する計画を添えられます。

浮いたリソースが将来の成長投資にどうつながるかまで描くと、稟議を通しやすくなります。

初期費用の安さだけで選ばないためのリスクと失敗事例

初期費用の安さに偏らないよう、失敗につながる流れと、稟議で比べる材料を確認しておきます。

  • 最安見積もり:そのまま採用すると、想定外の追加費用が生じるおそれがある
  • 要件定義:内容が甘いと追加開発が相次ぐ場合がある
  • 運用開始後:バグ対応や高額な保守費で、総額が数倍に膨らんだ事例がある
  • 稟議資料:初期費用、保守委託費の内訳、追加開発の発生確率を記載する
  • 契約と選定:サポート範囲を明記し、複数社のTCO比較過程も示す

比較過程を示しておくと、安さだけを優先していないことが経営層に伝わります。

ポイント

「古いから新しくする」という説明が通りにくい場合は、経営課題のどれを解決するかを一つに絞ると、判断の軸が定まります。

保守・運用費用を見誤らないための実務ポイント

稟議を通したあとに想定外のコスト増で慌てないよう、見積もりの段階で確認しておきたい注意点を取り上げます。

二重コスト期間(並行稼働)の見積もり

移行直後の並行稼働中は、旧システムと新システムの両方で保守費が発生します。二重コスト期間の長さによって、移行初年度の総費用は大きく変わります。

稟議でこの費用を織り込まないと、初年度の支出が想定を超え、ROI試算と実績の乖離を指摘されかねません。並行稼働の期間は、リスクと費用のバランスを見て決めます。

業務への影響の大きさに応じて、業務部門と並行稼働の期間をすり合わせておくことが望ましいといえます。

運用体制の実績把握と浮いた予算の再配置

保守費の内訳を説明するには、現在の稼働実績を把握しておく必要があります。各保守作業にかかる時間を洗い出し、不要な委託範囲を見直すことで、適正な費用を算出します。

刷新で浮いた予算や人材を、どこへ再配置するかも計画します。そのうえで、次の成長投資につなげると、単なる削減ではなく戦略案件として位置づけやすくなります。

保守運用費の議論を削減額だけで終えず、削減後の姿まで設計しておくと、経営層の継続的な支持につながります。

ポイント

並行稼働の期間が長いほど、旧新両方の保守費が積み上がります。稟議の時点で期間の想定を置いておくと、初年度の試算が実績と大きくずれにくくなります。

まとめ

ここまで、老朽化放置によるコスト、刷新前後の費用構造、ROI、稟議でTCOを説明する方法を見てきました。

保守運用費の見積もり時の注意点も扱いました。IT費用の約80%が維持管理に使われるという実態を踏まえ、刷新では長期のTCOで考えることが欠かせません。

ROI回収の目安は1.5年〜4年です。そのうえで、定量KPIを添えた稟議資料を用意し、費用と効果を説明しましょう。

技術的な削減手法は、姉妹記事「システムのモダナイゼーション」もあわせてご覧ください。

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。