システムリアーキテクチャのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

システムリアーキテクチャとは、稼働中のシステムの「作り替え」の中でも、モノリスからマイクロサービスへの分解、ドメイン駆動設計(DDD)による業務境界の定義、API-first設計、クラウドネイティブアーキテクチャパターンという「構造そのものの再設計」に特化した取り組みです。姉妹記事「システムのモダナイゼーション」のリビルド(フルスクラッチ相当の手法)がクラウドネイティブな技術基盤への刷新という技術観点全般で語られ、「システムリニューアル」のフルスクラッチがブランド表現とUI/UXの独自性という観点で語られるのに対し、システムリアーキテクチャにおけるフルスクラッチは「ゼロからマイクロサービスアーキテクチャを構築するか、既存モノリスを段階的に作り替えるか」という、構造設計の進め方そのものを問う技術的な意思決定です。

本記事では、システムリアーキテクチャのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、リビルド(フルスクラッチ相当)とストラングラーフィグパターンによる段階的リアーキテクチャの違い、フルスクラッチでゼロからマイクロサービスアーキテクチャを構築する際の費用感、技術選定(言語・フレームワーク・コンテナオーケストレーション)の自由度と留意点、そしてどちらの進め方を選ぶべきかの判断軸までを、具体的な数値とともに体系的に解説します。既存モノリスの限界を感じてゼロからの再構築を検討し始めた方はもちろん、段階移行とフルスクラッチのどちらが自社に適しているか判断しかねている方にとっても、技術的な意思決定の材料が得られる内容です。

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システムリアーキテクチャにおけるフルスクラッチの位置づけ(構造再構築の進め方という論点)

システムリアーキテクチャにおけるフルスクラッチの位置づけ(構造再構築の進め方という論点)

システムリアーキテクチャにおいてフルスクラッチを検討する出発点は、「既存のコードを一切残さずゼロから書き直すべきか」を、感覚ではなく技術的な根拠に基づいて判断することにあります。モノリスの技術的負債があまりに深刻で、部分的な改修では構造上の限界を解消できないと判断される場合、既存を廃棄しクラウドネイティブなアーキテクチャでゼロから再構築する「リビルド」が選択肢に挙がります。一方で、業務を止めずに段階的にアーキテクチャを作り替えていく進め方も存在し、この2つのどちらを選ぶかによって、開発期間・リスク・コストの構造が大きく変わります。

部分改修では解消できない構造的負債という判断基準

フルスクラッチを検討すべきかどうかは、既存システムの技術的負債が「部分的な改修で解消できる範囲か」「構造そのものを作り直さない限り解消できない範囲か」という見極めから始まります。特定の機能だけを局所的にリファクタリングしても、データモデルの設計そのものが業務の実態と乖離している、あるいは特定の古い言語・フレームワークに深く依存していて段階的な移行が技術的に極めて困難であるといった場合は、部分改修の積み重ねでは構造的な限界を突破できません。こうした「土台から作り直す以外に選択肢がない」状態にあるかどうかを客観的に評価することが、フルスクラッチという大きな投資判断の出発点になります。

「モダナイゼーション」「リニューアル」との違いと本記事の焦点

姉妹記事「システムのモダナイゼーション」におけるリビルド(フルスクラッチ相当の手法)はクラウドネイティブな技術基盤への刷新という技術観点全般に、「システムリニューアル」のフルスクラッチはテンプレート・パッケージの制約を超えたブランド表現とUI/UXの独自性という観点に、それぞれ重心を置いています。本記事が扱うシステムリアーキテクチャのフルスクラッチは、このいずれとも異なり、モノリスからマイクロサービスへの分解・DDD・API-first設計・クラウドネイティブアーキテクチャパターンという構造再設計を「ゼロから作るか、段階的に作り替えるか」という進め方そのものの技術的判断に焦点を絞ります。ブランド表現や技術手法全般の詳細を知りたい方は、両姉妹記事の完全ガイドをあわせてご参照ください。本記事では、構造再構築の進め方という論点に絞って解説を進めます。

リビルドとストラングラーフィグパターンによる段階的リアーキテクチャの違い

リビルドとストラングラーフィグパターンによる段階的リアーキテクチャの違い

マイクロサービスアーキテクチャへの再構築には、大きく2つの進め方があります。それぞれの特性を理解することが、自社に合った方法を選ぶ第一歩です。

リビルド(フルスクラッチでの再構築)の特性とビッグバン方式のリスク

リビルドとは、既存システムを廃棄し、クラウドネイティブなアーキテクチャ(マイクロサービスなど)を用いてゼロから再構築する手法です。技術的負債を一切引き継がず、非常に高いアジリティと競争優位性を獲得できる点が最大のメリットです。しかし、システム全体を一度にすべて入れ替える「ビッグバン方式」で実行しようとすると、移行テストが膨大になり、稼働直後に業務停止を伴う致命的な障害を引き起こすリスクが極めて高くなります。フルスクラッチという選択そのものと、それを一括で切り替えるビッグバン方式という進め方は本来別の論点であり、フルスクラッチを選ぶ場合でも、新システムへの切り替えは段階的に行うという設計が、リスクを抑えるうえで欠かせません。

ストラングラーフィグパターンによるインクリメンタルな再構築

ストラングラーフィグパターン等による段階的リアーキテクチャは、既存の巨大なモノリス(旧システム)を稼働させたまま、影響の小さい周辺機能や、DDD(ドメイン駆動設計)によって適切に切り出された特定の機能単位から徐々に新しいマイクロサービスへ移行・再構築していく「インクリメンタル方式」です。新旧システムを並行稼働させながら少しずつ切り替えるため、業務停止リスクをコントロールしやすく、成功を積み重ねながら安全に移行できるのが最大のメリットです。一方で、新旧両方のシステムを一定期間並行運用するための追加コストや、既存コードの制約を一部引き継がざるを得ないという妥協が生じる点は、リビルドと比較したデメリットとして理解しておく必要があります。

フルスクラッチでゼロからマイクロサービスを構築する際の費用感

フルスクラッチでゼロからマイクロサービスを構築する際の費用感

マイクロサービスアーキテクチャを用いたフルスクラッチ開発(リアーキテクチャ・リビルド)は難易度が高く、相応の費用と期間を要します。以下、具体的な数値を見ていきます。

規模別の初期費用と期間の目安

フルスクラッチでマイクロサービスアーキテクチャを構築する場合の費用感は、対象範囲によって大きく変わります。主要サブシステム全体をクラウドネイティブ化するリアーキテクチャの場合は約3,000万〜2億円・期間12〜30ヶ月、変更頻度が高いサブシステム単位に限定してマイクロサービス化する場合は約2,000万〜8,000万円・期間8〜18ヶ月、API化(連携基盤の整備)に絞る場合は約500万〜2,000万円・期間3〜8ヶ月が目安です。他の構築方法(既存パッケージのカスタマイズやリプラットフォーム)と比較すると、フルスクラッチは初期投資が最も大きくなりますが、その分だけ既存の技術的制約に縛られない自由な設計が可能になります。

ベンダー支払額以外にかかる実質総費用

予算化において見落としがちなのが、ベンダーへの開発支払額だけでは総費用が済まない点です。クラウドの利用料、Kubernetesやサービスメッシュ・API管理基盤の整備費、自社社員のテスト工数、並行稼働時の重複コスト、コンテナ運用に向けた社内の教育研修費などが別途発生します。これらを含めた実質総費用は、ベンダー支払額の1.3〜1.5倍程度を見込んでおくのが安全です。フルスクラッチという選択は、初期の開発費用だけでなく、その後の運用フェーズを含めた長期的な投資として捉え、稟議を通す際にもこの実質総費用を根拠に説明することが、後からの予算超過を防ぐ実務上のポイントです。

技術選定(言語・フレームワーク・コンテナ)の自由度と留意点

技術選定(言語・フレームワーク・コンテナ)の自由度と留意点

フルスクラッチでマイクロサービスアーキテクチャを構築する場合、技術選定における圧倒的な自由度が得られる一方で、運用面での高いハードルが存在します。

サービスごとに言語・DBを選べる「適材適所」の設計

モノリシックなシステムではシステム全体が1つの技術スタックに縛られますが、マイクロサービスでは機能(サービス)ごとに完全に独立しているため、サービスごとに異なるプログラミング言語やデータベースを自由に選択できます。「大量データを高速処理するサービスはGoで開発し、複雑な業務ロジックを扱うサービスはJavaで開発する」といったように、各機能の要件に最も適した技術を縛りなく選定できる点が大きな強みです。データベースについても、トランザクション整合性が重要なサービスにはリレーショナルデータベースを、大量の非構造化データを扱うサービスにはNoSQLを採用するといった使い分けが可能になり、モノリスでは実現できなかった技術的な最適化の余地が大きく広がります。

自社の運用能力とのミスマッチリスク

実行環境としてDockerなどを用いた「コンテナ化」を行い、それらを統合管理するオーケストレーションツールとしてKubernetesを採用するのがクラウドネイティブの標準的なアプローチです。また、サービス間通信を管理するためにIstioなどのサービスメッシュ技術を自由に組み込むことも可能です。しかし、これらの最先端技術は自由に選定できる反面、学習・管理コストが極めて高いという特徴があります。自社の組織運用能力やITスキルが追いつかないままこれらの技術を導入してしまうと、トラブル発生時に誰も対応できない「新たな運用型ブラックボックス」を生み出してしまい、結果として開発が泥沼化し運用コストが激増する致命的な失敗(手段の目的化)につながるリスクが警告されています。技術選定の自由度は諸刃の剣であり、自社のチームが将来的に自走できる技術レベルを見極めて選定することが、フルスクラッチを成功させる実務上の鍵になります。

どちらの進め方を選ぶべきかの判断軸と依頼先選定

どちらの進め方を選ぶべきかの判断軸と依頼先選定

ここまで見てきた特性を踏まえ、フルスクラッチとストラングラーフィグパターンのどちらを選ぶべきかの判断基準と、依頼先選定で確認すべきポイントを整理します。

フルスクラッチが向いている企業の特徴

フルスクラッチが向いているのは、大きく3つの特徴を持つ企業です。1つ目は、数千万〜数億円という初期投資と、Kubernetes・サービスメッシュを自社で運用できる技術体制を維持できる資金力・人材基盤がある企業です。2つ目は、既存システムの技術的負債があまりに深刻で、部分改修や段階移行では構造上の限界を突破できないと判断される企業です。3つ目は、サービスごとに最適な技術を選定できる自由度そのものが、将来の事業拡張性や競争優位性に直結すると判断し、それに対する投資対効果が見込める企業です。逆に、業務を止めるリスクを避けたい、あるいは段階的に投資を分散させたい企業にとっては、ストラングラーフィグパターンによる段階的リアーキテクチャのほうが現実的な選択肢になります。

依頼先選定で確認すべきアーキテクト実績

フルスクラッチでのリアーキテクチャを依頼する際は、単に実装力があるだけでなく、DDDによるドメインモデリングからクラウドネイティブ基盤の構築・運用まで一気通貫で伴走できるアーキテクト人材を抱えているかを見極める必要があります。過去に手掛けたマイクロサービス移行の実績、技術選定の判断根拠を具体的なアーキテクチャ図とともに説明できるか、稼働後の運用設計まで含めて提案できるかを確認しましょう。あわせて、自社のチームが将来的にKubernetesやサービスメッシュを自走できるようになるための教育・ナレッジトランスファーを前提とした契約形態を提示できるパートナーであれば、フルスクラッチ特有の「作って終わりではない」長期的な負担を分散させることができます。

まとめ

システムリアーキテクチャのフルスクラッチ開発まとめ

本記事では、システムリアーキテクチャのフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、リビルドとストラングラーフィグパターンによる段階的リアーキテクチャの違い、フルスクラッチでゼロからマイクロサービスを構築する際の費用感、技術選定の自由度と留意点、どちらの進め方を選ぶべきかの判断軸と依頼先選定を体系的に解説しました。フルスクラッチを正しく選択する鍵は、これを単なる高額な開発手法としてではなく、既存の技術的制約から完全に解放されたアーキテクチャ設計を実現するための投資として捉えることにあります。初期費用は主要サブシステム全体で約3,000万〜2億円、実質総費用はベンダー支払額の1.3〜1.5倍を見込む必要があり、サービスごとの技術選定の自由度は大きな強みである一方、Kubernetes・サービスメッシュの学習コストが自社の運用能力とミスマッチを起こすリスクにも注意が必要です。技術基盤全般やブランド表現の詳細については、姉妹記事「システムのモダナイゼーション」「システムリニューアル」もあわせてご参照ください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。