TMSのリアーキテクチャの進め方/やり方/流れや方法/手法/工程/手順

TMSのリアーキテクチャは、現状を洗い出すところから移行リハーサル・リリースまでの4段階で進めます。この流れに沿えば、稼働を続けながら新しい構造へ移行できます。

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TMSのリアーキテクチャの全体像と他手法との違い

TMSの3つの手法について、業務・稼働環境・内部構造の変更対象をカードで示した図。
変える対象は業務、稼働環境、内部構造に分かれます。

リアーキテクチャは、TMSの業務機能をできる限り残したまま、内部の構造を現代的な設計に作り直す取り組みです。

たとえば、一つの大きなプログラム(モノリシック構造)に入っている配車、運賃計算、動態管理を機能ごとに分け、APIでゆるやかにつなぎます。

画面は大きく変えず、将来の機能追加や外部連携に強い構造を目指します。

リプレイス・マイグレーションとの違い

3つの手法は、何を置き換えるかと、業務にどこまで影響するかが異なります。

  • リプレイス:別のパッケージやSaaSに入れ替え、業務のほうを製品に合わせます。
  • マイグレーション:プログラムはほぼ変えず、サーバーやOSなどの稼働環境を移します。構造上の課題は基本的に残ります。
  • リアーキテクチャ:機能を保ったまま、内部の構造を作り直します。

なお、どの手法が正解かは一概には決められません。標準業務に合わせられるならリプレイス、今の仕組みを延命するのが目的ならマイグレーションが合う場合もあります。

独自の運賃ルールや業務フローを維持し、今後も機能を伸ばすTMSなら、リアーキテクチャが有力な選択肢になります。

リアーキテクチャが必要になる5つのきっかけ

いずれも、部分的な改修では手当てしきれなくなる典型的な状況です。

  • 基盤の老朽化:ハードウェアやミドルウェアのサポート終了(EOL)が迫っています。
  • 労働時間への対応:2024年問題に伴う、年960時間の時間外労働上限への対応が必要になります。
  • 配車の属人化:配車がベテランの経験に頼りきりになり、Excelや紙の運用も限界を迎えています。
  • 法改正への対応:荷待ち時間の記録や運行管理の可視化を、法改正によって求められています。
  • 外部連携の不足:WMSやERPと連携できず、同じ情報を二重に入力する状態が常態化しています。

これらが2つ以上重なる場合は、部分的な改修だけでは対処しきれないことがほとんどです。改修を重ねるほどソースコードが複雑になり、次の改修にかかるコストもさらに上がっていきます。こうした状態は、技術的負債がたまっているサインです。

きっかけを言語化しておくと、経営層が投資を判断する際の出発点になります。

TMSリアーキテクチャの進め方とプロジェクトの工程

TMSリアーキテクチャの工程を、要件定義からリリース準備まで4段階でつないだ図。
現場を含むチーム編成を設計・開発の前に置いています。

工程は、現状を洗い出して要件定義を行うところから始まり、PJチーム編成、設計・開発を経て、移行リハーサル・リリースへと進みます。

ウォーターフォール型で一気に進めると、要件が現場の実態から離れやすくなります。そこで、要件が固まる前から現場と相談し、1業務・1拠点から検証を始めると、成功率が高まります。

現状棚卸しと要件定義(MUST/WANTの切り分け)

棚卸しと要件定義では、対象と優先順位を整理します。表に出ている業務だけでなく、Excelで回っている裏業務まで含めて洗い出す必要があります。

  • 業務と連携先:配車計画や運賃計算のような中核の処理から、WMS・会計との連携まで、すべての処理を漏れなく洗い出します。
  • 例外運用:Excelで個別に対応している裏業務も一覧にします。取りこぼすと、移行後も二重入力が残り、効率化の効果が出なくなります。
  • 要件の優先度:要件を「MUST(必須)」と「WANT(あれば望ましい)」の2つに分けて扱います。
  • 段階的な追加:法令対応や日次配車はMUSTに置き、WANTは後の段階に回します。

すべての要件を一度に盛り込むと規模が膨らみ、フルスクラッチ相当の数千万円規模になることもあります。そのため、優先順位を付けて段階を分けることが、予算と納期を守ることにつながります。

現場を巻き込むPJチーム編成

リアーキテクチャは情シス部門だけでは完結しません。このため、現場を含む横断チームを作り、要件の面と定着の面の両方から準備を進めます。

  • 参加者:情シスに加え、ベテランの配車担当やドライバー、意思決定を担う経営層が加わります。
  • 要件の材料:荷主ごとの時間指定や、車両とルートの相性など、配車担当が持つ暗黙知を拾います。
  • 定着への備え:現場が設計に関わって、愛着と当事者意識を持てる状態を作ります。

特に、現場が設計に関わっておくと、稼働後に「使いたくない」という声が出にくくなります。また、導入後の定着を左右するチェンジマネジメントは、プロジェクトの初日から始める必要があります。

設計・開発フェーズ(段階的なアーキテクチャ移行)

機能を段階的に切り出すと、稼働を続けたままリスクを分散できます。

  • 運賃計算:新しい基盤のサービスに移したうえで、既存システムからAPI経由で呼び出す形にします。
  • 動態管理:先行する機能の動作が安定してから、置き換えます。
  • 配車エンジン:動態管理のあとに切り出して、内部構造を移し替えます。

こうした進め方は「ストラングラーパターン」と呼ばれ、稼働中のシステムを止めずに移行する手法です。クラウドを前提に設計すると、法改正やブラウザのセキュリティ要件の変更に追従しやすくなります。さらに、外部連携用のAPIを標準化しておけば、後からの連携コストを大きく抑えられます。

移行リハーサル・テスト・リリース

本番移行では、データの整備と配車を止めないための準備を並行して進める必要があります。

  • リハーサル:本番データを使って、移行とトライアル運用を繰り返します。
  • マスタ整備:顧客の登録情報や複雑な運賃ルールがExcelや紙で管理されているなら、整備の責任者と移行方法をあらかじめ決めます。
  • 並行稼働:配車を止めないために、新旧のシステムを一定期間並べて動かします。
  • 障害対応:連携に問題が起きたときに備えて、ベンダーの休日・夜間のオンコール体制とエスカレーションルートを決めておきます。

とくに、マスタデータの移行は失敗しやすく、整備の段取りが曖昧だと、移行そのものが難航します。

稼働初日に連携が止まり、配車が停止すれば、大規模な配送遅延に直結します。そのため、障害時への備えは投資対効果がとくに高い部分です。

移行方式の選び方(一括/段階/並行/パイロット)

移行方式は大きく4つに分けられます。拠点数や業務の独自性を踏まえて、リスク、現場の負荷、期間のバランスから選びます。

4方式のメリット・デメリット比較

4つの方式は、一度に切り替える範囲と現場への負担がそれぞれ異なるため、この2点を比べると自社に合う方式を選びやすくなります。

  • 一括移行(ビッグバン):期間は短く済む一方、不具合の影響が全社に及びます。
  • 段階移行(機能ごと):少しずつ移すためリスクは抑えられますが、新旧をつなぐ連携モジュールが必要です。
  • 並行移行:新旧のシステムを並べて動かすため安全性は高いものの、両方への二重入力が現場の負担になります。
  • パイロット移行:1営業所やルートで先に試し、得た知見をもとに全体へ広げます。

機能を順に切り出すリアーキテクチャでは、段階移行やパイロット移行が選ばれやすい傾向にあります。

一括移行は、配車が止まれば事業にすぐ響くため、TMSでは慎重な判断が欠かせません。

スモールスタート→段階開発という現実解

小規模に始め、検証後も改善を続けられる体制を整えます。

  • 開始規模:1拠点・数台から導入して、全社規模の投資に伴うリスクを抑えます。
  • 先行検証:効果と課題を確かめ、合わなければ方向を見直します。
  • 開発パートナー:要件が固まる前から相談でき、運用中も機能を広げていける会社を選びます。

つまり、小さく始めれば、大きな投資が無駄になるリスクも抑えられます。最初から完璧を目指さず、物流業界の変化に合わせて運用中に磨いていけば、システムが陳腐化しにくくなります。

ポイント

移行方式は、拠点数と業務の独自性を見たうえで、リスクと現場の負荷、期間のバランスから選びます。一括移行は、配車が止まったときの影響を先に見積もってから判断します。

費用相場と「隠れコスト」の実態

費用は提供形態によって変わります。また、本体価格だけでなく、連携やカスタマイズ、運用の隠れコストも総額を左右します。

提供形態別の費用感

形態ごとの目安を並べると、費用の桁が大きく違うことが分かります。

  • フルスクラッチ:数千万円から億単位が目安です。
  • リプラットフォーム:数百万円から数千万円が目安です。
  • クラウド・SaaS:月額数万円からが目安です。

独自業務を多く作り込むほどフルスクラッチに近づき、標準機能を生かすほど費用を抑えられます。

「4年以上使うならオンプレミスが安い」という一般論だけで決めると、判断を誤るおそれがあります。

TMSでは、時間外規制などの法改正やOS更新、ブラウザのセキュリティ要件の変更が頻繁に起きます。オンプレミスでは有償保守が発生するため、クラウドより維持費が急に膨らみやすくなります。

本体より高くなる連携・カスタマイズ費用の罠

見積もりの本体価格とは別に、連携や運用の段階で発生しやすい費用があります。

  • 基幹連携:WMSやERPとの接続は100万円から500万円が目安です。
  • 端末連携:バーコードやハンディ端末との接続は、50万円から500万円が見込まれます。
  • 地図利用:デジタル地図基盤(ゼンリンなど)のライセンス料が必要になります。
  • 運用作業:AIモデルの再学習や、並行稼働中の入力支援に工数と人件費がかかります。

たとえば、本体が500万円でも、連携に1,000万円かかる例は珍しくありません。そのため、連携の要件は見積もりの段階で洗い出し、別建ての金額を確かめておく必要があります。

TCO(総保有コスト)とROI(投資対効果)で総額を比べ、投資を回収できるかを判断します。

ポイント

社内で比べる単位は見積もりの本体価格ではなく、TCOとROIで見た総額です。連携の要件は、見積もりの段階で別建ての金額まで確かめておきます。

失敗しないためのTMS特有チェックポイント

TMS導入前に確認する、時間外労働・連携・運賃計算・現場定着の要件を並べた図。
法令対応とシステム要件に加え、現場で使い続ける準備も必要です。

TMSには、一般的な業務システムにはない固有の要件が多くあります。そのため、固有の確認事項を押さえることが、プロジェクトの成否を分けます。

2024年問題対応と複雑な運賃計算の自動化

法令への対応と運賃計算を支える機能や連携は、要件に含めておきます。

  • 時間外労働:年960時間の上限に対して、配車計画の段階で拘束時間の超過を自動で計算し、事前に警告します。
  • 荷待ち時間:削減に向けて、バース予約システムとの連携も重要性を増しています。
  • 運賃ルール:距離・時間による計算に加え、冷蔵冷凍などの特殊車両の割増、深夜・早朝・休日の割増、距離逓減制まで扱います。

拘束時間を自動計算して事前に警告する機能がなければ、法令遵守は困難です。

また、運賃ルールをマスタとして登録し、実績から自動で集計する形にすると、請求漏れや手計算のミスを防げます。さらに、計算ロジックを独立したサービスにしておくと、将来のルール変更にも対応しやすくなります。

WMS/ERP/EDI連携とデータ移行

TMSは単独では業務が完結せず、WMSやERP、取引先とのEDI連携がつながって初めて、一気通貫の業務が回ります。そのため、連携とデータ移行は設計の段階で項目ごとに確かめておく必要があります。

  • 業務連携:WMS(倉庫管理)、ERP(基幹)、取引先とのEDIを、業務の流れに沿ってつなぎます。
  • データ形式:会計や販売管理とのあいだの差は、柔軟なAPIやETL(データ変換)で吸収します。
  • 動態管理:GPSの位置を追うだけでなく、渋滞や天候を取り込んでルートを再計算します。
  • データ移行:マスタ整備の責任者を決めておき、リハーサルで整合性を確かめます。

なお、形式の違いを確かめずに進めると、連携開発が難航することがあります。動態管理では、AIでルートを動的に組み直すと、配送時間を平均8〜12%短縮できるという試算もあります。

現場定着のチェンジマネジメント

現場の不安に向き合いながら、システムを使う利点を実際に体験してもらう場を用意することが大切です。

  • 不安への対応:配車担当の「AIは例外に対応できないのでは」という声や、ドライバーの「GPSで監視されるのでは」という心配に向き合います。
  • 役割の共有:システムは人を支える道具だと、関係者に伝えます。
  • 小さな成功:パイロット導入の段階で、入力や残業が減ることや、運賃計算が一瞬で終わることを実感してもらいます。
  • 操作支援:ITリテラシーに配慮したUI/UXを用意し、丁寧な操作教育も行います。

現場が使わなければ、システムは定着しません。導入時の支援を重ねて、現場の協力を得ていく必要があります。

ポイント

設計に入る前に、年960時間の上限への対応と、WMS・ERP・EDIとの連携が要件に入っているかを確かめます。

まとめ

機能を残しつつ内部の構造を作り替えて、拡張性と法令対応力を取り戻すのが、TMSのリアーキテクチャです。

まず現状と要件を整理し、現場を巻き込みながら段階的に移行します。

移行方式は拠点数や業務の独自性を踏まえて選び、スモールスタートでリスクを抑えます。

費用は本体価格にとどまらず、連携やカスタマイズ、運用の隠れコストまで含めたTCOとROIで判断します。

2024年問題への対応や運賃計算に加え、連携やデータ移行、現場定着も確かめておきたい点です。これらを踏まえて、自社に合う進め方を具体的に組み立てます。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。