入出庫管理システムのリアーキテクチャの選定ポイント/選び方/種類

入出庫管理システムのリアーキテクチャは、技術トレンドではなく自社の負債と現場への影響から選びます。まず密結合や端末連携の遅延を特定し、段階移行を前提に候補を比べると、過剰な構成や検証不足を避けやすくなります。

移行の型は3種類あり、型ごとの向き不向きを押さえてから候補を比べます。

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選定前に整理すべき自社の技術的課題

最初に行うべきなのは、製品や事例を集めることではなく、自社の入出庫管理システムのどこに技術的負債が集中しているかを特定することです。

負債の所在によって必要なアプローチも投資の妥当性も大きく変わるため、ここを先に押さえておくと、後の判断の土台になります。

入庫検収・出庫承認ロジックの密結合の切り分け

入庫検収の処理を直すたびに出庫承認や在庫連携まで動作確認が必要になっている場合は、ドメイン境界の再設計が優先課題です。一方、ハンディターミナルからの検収データ送信が特定の時間帯に集中して遅延する場合は、現場端末とのリアルタイム連携性能そのものが課題になります。

この2つは技術的に重なる部分もありますが、どちらが自社にとって切実かによって、最初に着手すべき範囲が変わります。

負債の所在を切り分けるには、直近半年程度の障害チケットや現場からの問い合わせを洗い出すと判断材料になります。検収データの遅延が端末連携に集中しているかを集計し、改修のたびに承認フローまで巻き込む場合も分けて記録しておくと、負債の重さを比べられます。

トラフィック規模と開発体制から見る投資の妥当性

イベント駆動アーキテクチャへの投資が見合うのは、入出庫の取引量が多く、拠点数やハンディターミナルの台数が多いために現場影響が大きくなりやすい規模の企業です。

開発者の人数が少ない組織がフルスクラッチのマイクロサービス化を無理に進めると、組織構造とシステム構造の不一致が生じやすく、分割そのものが破綻する要因になります。

逆に、拠点数が少なく既存の開発体制で日常の改修を回せている場合は、リアーキテクチャそのものを急ぐ必要はありません。まずは負債が最も深刻な一部分に絞った小規模な段階移行から着手し、効果を確認しながら投資判断を積み上げていくのが現実的です。

ポイント

負債が密結合と端末連携のどちらにあるかで、最初に着手する範囲が変わります。取引量や開発体制に対して負債が小さければ、リアーキテクチャを急がず、一部分の段階移行から始めます。

リアーキテクチャアプローチの3つの種類

段階移行型、ビッグバン移行型、コア・サテライト型の特徴を3枚のパネルで示した図
移行中の確認を重視するか、短期切り替えを選ぶか、業務ごとに役割を分けるかで特徴が分かれます。

移行方針は大きく、段階移行型、ビッグバン移行型、コア・サテライト型のハイブリッドに分けられます。

どの型を選ぶかで、リスクの取り方とプロジェクト期間の見立てが変わります。

ストラングラーフィグパターンによる段階移行型

既存のモノリスを動かしたまま、新しい入出庫サービスを周囲に作り、APIゲートウェイで対象を段階的に切り替えていく方法です。並行稼働で整合性を確かめられ、問題が起きても旧システムへすぐ戻せる点が利点です。現在のエンタープライズ・モダナイゼーションでは、標準的な進め方になっています。

移行対象の拠点や取引種別は、取引量が比較的少なく業務影響を限定しやすい拠点から選ぶと、想定外の不具合が起きたときの被害を抑えられます。

並行稼働の期間中は、新旧両方のシステムで入出庫数量を突き合わせるモニタリングの仕組みも用意しておくと、切り替えの判断材料になります。

ビッグバン移行型とコア・サテライト型のハイブリッド

ビッグバン移行型は並行運用が不要で、短期間に終えられる可能性があります。ただし、切り替え後の問題が広範囲に影響するため、基幹業務では慎重な判断が求められます。

コア・サテライト型では、業務特性に直結する部分を自社で作り込み、汎用的な部分は既存のSaaSやAPIに任せます。

  • 個別に作り込む部分:独自の入庫検収・出庫承認ロジックなど、業務特性に直結する部分
  • 既存のSaaSやAPIに任せる部分:汎用的な通知機能や帳票出力

実際には、3つの型を一つに絞るより、コア・サテライト型の考え方をベースにして、コア領域の移行手順にストラングラーフィグパターンを採用する組み合わせ方が現実的です。

自社の技術的課題と体制を踏まえ、無理のない移行速度を決めます。

ポイント

段階移行型は影響を限定しながら確かめたいとき、コア・サテライト型は独自の業務ロジックだけを作り込みたいときに合います。ビッグバン移行型は切り替え後の影響が広いため、基幹業務では慎重に判断します。

選定で比較すべき評価軸

候補の評価軸として、ドメイン境界設計、現場端末連携、コスト対効果、体制・実績を示すハブ図
4観点をそろえると、候補ごとの強みと懸念を同じ土台で見比べられます。

方針の方向性が決まったら、体制やパートナーの候補を比べます。比べる観点は、ドメイン境界設計の妥当性、現場端末連携の実装力、コスト対効果、体制・実績です。

印象や実績社数の多さだけで選ぶと判断を誤るおそれがあるため、確認方法まで揃えて評価することが大切です。

  • 境界設計:入庫・出庫・承認・在庫連携の分け方
  • 端末連携:通信断や重複送信への対応を、実際に確かめます。
  • 体制適合:運用を引き継げる開発体制かどうか。

ドメイン境界設計と現場端末連携の実装力の確認

まず境界設計では、入庫・出庫・承認ワークフロー・在庫連携の境界をどのような手順で定義するか、イベントストーミングにどれだけの工程を割くかを確認します。実際にイベントストーミングの作業に立ち会い、担当者が入出庫業務の言葉で境界を説明できるかを見ると、机上の説明との差が分かります。

次に現場端末連携では、ハンディターミナルとのAPI連携について、契約駆動テストの実施経験、モックサーバーを使った並行開発の実績、冪等性・オフライン耐性への対応方針を確認します。「API連携対応」と書かれていても、現場のネットワーク切断時にどう振る舞うかは、そこからは読み取れません。

あえて疑似的な通信障害を起こし、検収データが重複登録されないか、順序が入れ替わった場合にどう振る舞うかをデモで確かめると、資料上の説明との差が見えてきます。

コスト対効果・体制適合・パートナー実績の確認

初期投資の増加分と、独立スケーリングや保守効率化によって見込める中長期の削減効果を、同じ前提条件で比べます。

投資回収までの期間感を示せるか、自社の開発体制で運用を引き継げる設計になっているかも確認が必要です。

外部パートナーを検討する場合は、次の2点を確認します。

  • 実績:類似の入出庫ドメインでの境界設計や現場端末連携の実績
  • 設計への関与:PoC段階からのアーキテクトの関与

確認を重ねれば、絵に描いた設計で終わるリスクを減らせます。

提案書の実績件数だけで判断すると、業種は近くても入出庫トランザクションの複雑さや現場端末の種類が大きく異なるケースを見落としがちです。

可能であれば、提案時点で自社のハンディターミナルの機種や通信環境の課題を簡単に共有し、想定する連携方式について初期回答をもらうと、実力差が見えやすくなります。

ポイント

判断に迷ったら、境界設計と端末連携は説明ではなく立ち会いやデモで確かめます。コスト対効果は同じ前提条件で比べ、実績件数だけで決めないようにします。

内製・外部パートナー・フルスクラッチの選び分け

内製と外部パートナーは、役割を分けて組み合わせられます。どこを自社のコア業務とみなすかによって、体制の組み方が変わります。

内製で対応できる範囲とスキルギャップ

ドメイン駆動設計やイベント駆動アーキテクチャの経験があるエンジニアが社内にいるかどうかで、内製で進められる範囲は大きく変わります。

経験が乏しいまま内製にこだわると、境界設計をやり直す手戻りが発生しやすく、結果的に外部パートナーを後から巻き込むよりも時間がかかることがあります。そこで、設計初期だけ外部の知見を借り、実装以降を内製へ引き継ぐ役割分担も現実的な選択肢です。

社内に経験者がいる場合でも、日常の保守業務と並行して境界設計を担当させると、どちらも中途半端になりがちです。また、専任に近い体制を一時的にでも確保できるかどうかも、内製の実現性を左右します。

コア業務とコモディティ業務の投資判断の分け方

独自の出庫承認フローや理由コード管理など、業務特性に直結するコア領域は、フルスクラッチで作り込む価値があります。一方、一般的な通知機能や帳票出力のようなコモディティ領域は、既存のSaaSやAPIをそのままカプセル化して使うほうが、開発と保守の負担を抑えられます。

すべてを同じ基準で自社開発しようとすると、投資対効果の低い部分にまで工数が割かれてしまいます。コア領域とコモディティ領域の線引きは、事業の成長や拠点拡大にあわせて変わることがあります。そのため、半年から1年ごとに区分を見直す機会を設けておくと、投資判断の精度を保てます。

ポイント

社内に経験者がいない場合は、設計初期だけ外部の知見を借りる判断が現実的です。コア領域だけを作り込み、コモディティ領域はSaaSやAPIに任せます。

RFPとPoCの進め方

RFPで対象条件と合格基準を定め、PoCで境界設計と通信障害時の再送を検証する流れ図
提案資料では見えにくい境界設計や通信時の挙動を、PoCで具体的に確かめます。

RFPや比較資料の段階では見えにくい技術的リスクは、パイロットフェーズのPoCで洗い出します。

ここで境界設計や現場端末連携の甘さを見つけられるかどうかで、その後の手戻りの大きさが決まります。

RFPに明記するアーキテクチャスパイクの合格条件

RFPには、対象となる拠点数や、ハンディターミナルの機種・台数、現行の入出庫連携方式を記載します。さらに、許容できる検収データの反映遅延の目安と、開発体制の現状も書いておきます。

そのうえで、3つのアーキテクチャスパイクを、どのような合格基準で確認するかを明記します。3つとは、入出庫ドメインの境界設計の妥当性検証、現場端末とのAPI契約テストの実施検証、複数拠点間の連携プロトタイプ検証です。

要件をすべて必須にすると評価が硬直するため、必須・推奨・将来検討の3段階に分けておくと運用しやすくなります。あわせて、移行期間中の開発体制の稼働見込みや、既存の運用チームへの引き継ぎ計画もRFPに含めておくと、提案側が持続可能な体制を前提に見積もりを組み立てられます。

PoCで検証する境界設計と現場端末連携

PoCでは、入庫・出庫ドメインが在庫連携から独立してデータを管理できているかを、モックアップで検証します。続いて、ハンディターミナルからの検収データ送信中にネットワークを意図的に切断し、通信復旧後の再送で二重登録が起きないかを確認します。

あわせて、出庫承認後の後続処理が失敗した場合に、Sagaが在庫を安全に戻せるかも試します。

カオスエンジニアリングの手法でネットワーク遅延やプロセス強制終了を意図的に注入し、障害範囲がどこまで封じ込められるかも見ておくと、本番稼働後の不安を減らせます。

ポイント

RFPには合格基準を必須・推奨・将来検討の3段階で書いて、PoCでは境界設計と現場端末連携を、通信障害時の振る舞いまで試しておきます。

選定の失敗を避ける方法

よくある失敗は、技術トレンドや事例の華やかさに引っ張られ、自社の入出庫トランザクションの複雑さや開発体制の実情と切り離して手法を決めてしまうことです。

技術トレンドに頼らない手法の選び方

マイクロサービス化やイベント駆動は万能ではありません。数分の遅延を許容できるなら、定期バッチ同期のほうが複雑度を抑えられます。そのため、即時反映が本当に必要かを確かめてから構成を選びます。具体的な製品候補は、入出庫管理システムのリアーキテクチャのパッケージ・クラウド製品一覧で紹介しています。

段階移行のロードマップと撤退基準

段階移行を選ぶ場合も、対象範囲を無計画に広げると、旧システムとの並行運用がいつまでも終わらなくなります。

着手前に決めておくべきことは、どの拠点・取引種別から始め、どの時点で次の範囲へ進むか、想定外の問題が見つかった場合にどこまで戻すかという撤退基準です。

撤退基準がないまま進めると、分散モノリス化の兆候が出ていても引き返すタイミングを逃しがちです。そのため、撤退基準には具体的な閾値を置きます。遅延や在庫不整合が一定回数起きたら元へ戻す、と決めておくと判断に迷いません。

導入前に確認しておきたいポイント

方針や比較軸が分かっていても、着手の段になると細かい判断で迷うことがあります。選定時に判断が分かれやすい点を、下のとおり取り上げます。

小規模な開発体制での段階移行

体制が小規模な場合は、一部の拠点や取引種別に絞ったストラングラーフィグ型から始め、成果を確かめながら範囲を広げるのが現実的です。

全拠点規模のフルスクラッチを一度に狙うと、体制とのミスマッチを招きます。

現場影響の大きさで決める着手範囲

分割は、すべてのドメインを一度に進めなくても構いません。検収・承認の遅延が最も業務に影響している範囲、あるいは改修のたびに関連機能まで動作確認が必要になっている範囲から着手すると、限られた投資で効果を確かめられます。

パートナー選定での設計工程への関与度

実装の速さだけでなく、ドメイン境界の設計段階からアーキテクトが関与するか、PoCで境界設計の妥当性や現場端末連携まで検証してくれるかを確認します。

設計を軽視して実装を急ぐパートナーは、後工程での手戻りを招きがちです。

まとめ

選定では、密結合と端末連携の遅延のどちらが課題かを特定し、ストラングラーフィグ型などの方向性を決めます。

そのうえで、ドメイン境界設計、現場端末連携の実装力、コスト対効果、体制・実績の観点で候補を比べ、アーキテクチャスパイクを含むPoCで境界設計と連携の仕組みを実際に検証します。

課題診断からアプローチの絞り込みまでの流れ

入庫検収・出庫承認ロジックの密結合、現場端末連携の遅延、開発体制の規模という3つの視点で現状を診断します。そのうえで、段階移行を基本にしながら、コア業務とコモディティ業務で投資判断を分けます。

評価軸をそろえて候補を比べれば、話題性だけに左右されず、進め方を決められます。

アーキテクチャスパイクを含むPoCでの最終確認

資料上の説明だけでなく、境界設計の妥当性、現場端末との契約テスト、複数拠点間の連携プロトタイプを実際に動かして検証したうえで、最終判断してください。

既存の枠組みを組み合わせても、自社独自の入出庫ドメインや基幹システムとの連携を吸収しきれないことがあります。そうした場合は、個別のアーキテクチャ設計や実装支援が必要になります。

riplaはフルスクラッチ開発の立場から、選定段階の要件整理から段階移行の実装、既存システムとの連携までを支援しています。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。