FAX・メール・電話の注文を毎日人手で処理し続けることは、担当者の大きな負担になっています。
AIエージェントを使うと、注文書の読み取りから基幹システムへの登録までを自動化でき、食品商社では年間3,276時間の業務削減が報告されています。全体像は、以下の完全ガイドで体系的に解説しています。
▼全体ガイドの記事
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受発注業務とAIエージェントの関係

受発注業務は、顧客からの注文を受け付けてから商品・サービスを届けるまでの一連のプロセスを指します。注文情報の受け取りから出荷指示までには、入力や確認、基幹システムへの登録、在庫確認といった多くの工程が含まれ、そのすべてを正確かつ迅速に処理することが求められます。
AIエージェントは、大規模言語モデル(LLM)を中核に置き、情報の収集・判断・実行を自律的に行えるシステムです。従来の単純なRPAとは異なり、非定型のデータを読み取って文脈に応じた判断ができる点が大きな特徴です。
従来の受発注業務が抱える課題
従来の受発注業務では、多様な形式の注文が寄せられることが最大の課題です。FAXで届く手書きの注文書、メールに添付されたExcelファイル、電話口で伝えられる口頭注文——これらをすべて担当者が目視で確認したうえで、基幹システムに手入力する作業が毎日繰り返されます。
1件あたりの処理に1時間以上かかるケースも珍しくなく、繁忙期には残業が常態化します。さらに、属人化によって担当者が休んだ際のリスクが高まることも、多くの企業が抱える深刻な問題です。
ある調査では、受発注業務担当者の約7割が「単純入力作業に業務時間の半分以上を費やしている」と回答しています。また、付加価値の高い業務に時間を割けていない実態も浮かび上がっています。
- 多様な注文形式への対応:手入力の負担をどう減らすかが課題
AIエージェントが受発注を変える仕組み
AIエージェントは、LLM(大規模言語モデル)を「脳」として、OCR(光学文字認識)やRPAを「手足」として組み合わせた構成で動作します。
FAXで届いた注文書を自動でデジタル化し、商品名・数量・納期などの情報を高精度で抽出します。その後、過去の取引履歴や商品マスタを参照しながら、正しいデータ形式に変換して基幹システムへ自動登録します。
手書き文字の揺れや略称、曖昧な表記に対しても、LLMが文脈を理解して適切に解釈できます。そのため、従来のOCRやRPAだけでは対応が困難だったケースにも対処できます。
人が行うべき最終確認や承認のステップを残しつつ、それ以外の定型・半定型処理を一括で自動化できる点が、AIエージェントの最大の強みです。
- LLM・OCR・RPAの組み合わせ:役割を分けて一つの流れにまとめる構成
業種別の受発注AIエージェント活用事例
受発注業務へのAIエージェント導入は、食品・製造・建材など多くの業種で実績が積み上がっています。業種ごとの固有の課題に対して、AIエージェントがどのように活用されているかを、代表的な事例で見ていきます。
食品業界:年間3,276時間削減を実現した専門食材商社の事例
西洋料理食材を専門に扱う食材商社(松本食品)では、ホテルやレストラン、ウェディング関連企業からの注文を毎日大量に処理していました。
受注チャネルは電話・FAX・オンラインと多岐にわたり、担当者はそれぞれの形式に合わせて手入力を繰り返す状況が長年続いていました。
既にRPAを導入しており、203本のスクリプトを構築していましたが、FAXの手書き注文書には人の判断が必要な部分が多く、完全自動化には至っていませんでした。
生成AIエージェントをRPAと組み合わせ、注文の受け付けから基幹システムへの登録までを一気通貫で自動化するPoC(実証実験)に着手しました。
2ヶ月のPoC期間を経て、OCRの認識精度93%・CSV出力精度100%を達成し、年間3,276時間の業務時間削減という成果を得ています。
担当者は入力作業から解放され、品質確認や顧客対応といった付加価値の高い業務に専念できるようになりました。
- OCR読み取りと商品マスタ照合:FAX注文書の内容を商品マスタと突き合わせる
- 基幹システムへの登録:読み取ったデータを自動で書き込む
食品製造業:FAX商習慣を変えずに93.6%の自動化率を達成したパン粉メーカーの事例
パン粉製造を手掛けるフライスター株式会社では、取引先からFAXで届く注文書を担当者が手作業で処理する体制が続いていました。
商品名が類似しており属人的な知識が不可欠なうえ、入力ミスによる誤出荷が急便コストの増大を招くという深刻な問題を抱えていました。さらに、人手不足も慢性化しており、業務効率化は経営上の急務でした。
総合自動化率93.6%以上を実現しながら、既存のFAX受発注という商習慣を変えることなく業務をペーパーレス化できた点が評価されています。
取引先への影響を抑えながら社内業務のデジタル化を進める方法は、多くの企業にとって理想的なアプローチです。
- 取得精度:注文書から読み取った情報の正しさ
- 出力精度:基幹システムへ取り込む形式の正しさ
ユーザックシステムが開発した「受注AIエージェント」を導入した実証実験では、文字情報の取得が94.9%、商品情報の取得が100.0%でした。また、取引先情報の取得は93.6%、基幹システム取込みレイアウトの出力は100.0%でした。
製造業:1件60分→5分へ90%短縮を達成したTOTOのセラミック事業部の事例
TOTO株式会社のセラミック事業部では、半導体製造装置向け部品の受発注業務に大きな課題を抱えていました。注文や納期変更の依頼がメールとExcelの添付ファイルで届き、担当者が手動で基幹システムに入力する工程が1件あたり約1,200クリックを要し、60分以上かかっていました。
転記ミスや確認漏れのリスクも高く、業務改革は急務でした。
2026年1月にUiPathのAIエージェントプラットフォームを導入しました。
BPMN2.0標準を用いてプロセスをモデル化したうえで自動化を実装した結果、1件あたりの処理時間が約5分に短縮しました。
担当者はシステムへの入力作業から解放され、確認・承認といった本来人が担うべき判断業務に集中できる環境が整いました。
- 3層の役割分担:ソフトウェアロボット、AIエージェント、人で分担
- 処理時間の短縮:1件あたり約90%短縮
業務プロセスは、「ルール化できる処理→ソフトウェアロボット」「自然言語の理解・情報抽出→AIエージェント」「意思決定・承認→人」に分けて再定義しました。
受発注AIエージェントを支える主要技術
受発注業務の自動化を実現するAIエージェントは、複数の技術が組み合わさって動作しています。それぞれの技術の役割を知っておくと、自社の業務課題にどの解決アプローチが有効かを考えやすくなります。
LLMとOCRの連携:非定型データを高精度で処理する
受発注業務の自動化における最大の技術的課題は、フォーマットが統一されていない注文書をいかに正確に読み取るかです。
従来のOCRは、あらかじめ定義されたフォーマットに沿った定型書類には高い精度を発揮します。一方で、手書き文字の揺れや取引先ごとに異なるレイアウトには対応が困難でした。
LLMと組み合わせることで、こうした問題が解決されます。LLMは文章の文脈を理解する能力に優れており、「P-001」という記載が商品コードを指すのか略称なのかを、過去の取引データと照合しながら判断できます。
このため、フォーマットの事前定義が不要となり、初めて取引する顧客の注文書にも柔軟に対応できます。この点は、業務効率化の観点から大きな意味を持ちます。
- 初めての取引先の注文書:書式の違いを前提に読み取れる
RPAとの統合:ルール処理と判断処理の役割分担
AIエージェントとRPAは、互いの強みを補い合う関係として活用されています。
RPAは、あらかじめ定義されたルールに基づく定型処理(システムへのデータ入力、画面操作、ファイル整理など)を高速かつ正確に実行します。一方、AIエージェントは自然言語の理解、文脈を考慮した判断、曖昧な情報の解釈といった非定型処理を担います。
この2つを組み合わせることで、「AIエージェントが注文書から情報を抽出・判断し、RPAが基幹システムへ登録する」という流れが実現します。TOTOやフライスターの事例でも、AIエージェントとRPAのハイブリッド構成が採用されており、これが高い自動化率の鍵となっています。
- 定型と非定型:RPAとAIエージェントで分けて受け持つ
RAGによる社内知識の活用:属人化した判断の代替
受発注業務には、ベテラン担当者だけが知っている暗黙知が数多くあります。たとえば「この取引先は商品コードを略称で記載する傾向がある」「納期の記載がない場合は翌週月曜日が慣例だ」といった知識です。こうした知識をAIに習得させる技術が、RAG(Retrieval-Augmented Generation)です。
RAGは、過去の取引履歴や商品マスタ、取引先ごとの対応ルールといった社内データをリアルタイムで参照しながら、LLMが文章を生成・判断する仕組みです。
この機能により、担当者が休暇中でも同水準の処理品質を維持できます。特に、人材不足や世代交代が進む日本企業にとって、この機能は大きな価値を持ちます。
- 属人化の解消:社内データを参照し、ノウハウを標準化する
受発注AIエージェントの導入ステップ

AIエージェントの導入は、適切なステップを踏むことで成功率が高まります。全社展開を一度に目指すより、段階的に進めることがポイントです。
標準的な導入期間はPoC(2〜4ヶ月)、セキュリティ審査(3〜6ヶ月)、本番導入(1〜2ヶ月)を合わせた6〜12ヶ月程度とされています。
Step1:業務課題の整理とPoC設計
導入を成功させるためには、最初に「どの業務プロセスを自動化するか」を明確に定義することが不可欠です。
受発注業務のなかでも、工数がかかっている工程、ミスが頻発している工程、属人化が進んでいる工程を洗い出し、自社で優先度をつけます。
PoCは「1部門・1プロセス・定量KPI」に絞って実施することが、成功率を高める最も重要な点です。
発注側と開発会社は、「FAX注文書の情報抽出と基幹システム登録に限定し、自動化率90%以上・処理時間50%削減を目標KPIとする」といった具体的な条件を決めます。
範囲を絞ることで短期間での検証が可能となり、経営層への説得材料も得やすくなります。
- 1部門・1プロセス:定量KPIを決めて範囲を絞る
Step2:ツール・ベンダー選定と要件定義
PoC設計が固まったら、自社の環境に合ったツールとベンダーを選定します。選定の基準として特に重要なのは、既存の基幹システム(ERP、WMS、在庫管理システムなど)との接続性です。
そのうえで、ネイティブ連携が用意されているか、APIやMCP経由での連携が可能かを事前に確認します。次に、セキュリティ要件への対応状況を見ていきます。
受発注データには取引先情報や価格情報、在庫情報など機密性の高いデータが含まれるため、クラウド型かオンプレミス型か、データの保存場所、アクセス制御の仕組みを詳しく確認します。
自動化できない例外処理が発生した際に人間へエスカレーションする仕組みが整っているかも、重要な判断軸となります。
- 接続性:既存の基幹システムと連携できるか
Step3:段階的な本番展開とモニタリング
PoCで成果が確認できたら、セキュリティ審査を経て本番展開へ移行します。
全取引先・全チャネルへ一度に適用するより、最初は取引量の多い主要取引先のFAX注文に限定して、対象を段階的に増やすアプローチが安全です。
本番稼働後は、エラー発生件数や担当者の工数削減時間を確認しながら、ルールや設定を継続的に改善していきます。
AIエージェントは使うほど学習データが蓄積され、精度が向上する特性があります。そのため、長期的な視点で運用管理体制を整えておくことが大切です。
- 定期的なモニタリング:自動化率と処理精度を追う
導入効果と注意すべきリスク
受発注業務へのAIエージェント導入は大きな効果をもたらす一方、適切に対処すべきリスクも存在します。導入前に両面を把握しておくことで、現実的な期待値の設定と適切なリスク管理が可能になります。
導入で得られる具体的な効果
AIエージェントを受発注業務に導入することで得られる主な効果として、まず処理速度の飛躍的な向上が挙げられます。人が60分かけていた処理を5分に短縮したTOTOの事例が示すように、処理時間を90%以上削減できるケースがあります。
次に、ヒューマンエラーを大幅に減らせます。疲労や集中力の低下による入力ミスがなくなるため、誤出荷や返品対応のコストも抑えられます。
さらに、24時間365日の対応が可能になります。たとえば、深夜や休日に届いた注文も自動で処理が進み、翌朝確認すれば対応が完了している状態を実現できます。
パナソニック コネクトでは、業務自動化によって年間44.8万時間の業務時間削減を実現した事例もあり、AIエージェントが持つ効果の大きさが伝わります。
- 処理速度と入力精度:処理時間の短縮と入力ミスの減少
注意すべきリスクと対処法
リスクとして最初に挙げられるのが、ハルシネーション(AIによる誤情報生成)です。LLMは高い精度を持ちますが、稀に存在しない商品コードを生成したり、誤った数量を推定したりすることがあります。
これを防ぐには、AIの出力を人が最終確認するヒューマン・イン・ザ・ループの仕組みを設けることが有効です。また、信頼性の低い処理は、自動的に人へエスカレーションされるよう設定しておく必要があります。
次の課題は、機密情報と個人データの保護です。受発注データには取引先の個人情報や価格情報が含まれるため、クラウドサービスを利用する場合はデータの送受信経路と保存場所を厳密に確認したうえで、NDAや利用規約に基づいた適切な管理体制を整える必要があります。
また、導入・運用に必要な専門人材の確保も課題となります。社内にAI活用の知見を持つ人材がいない場合は、外部の専門ベンダーと連携しながら内製化を段階的に進めるアプローチが有効です。
- 人の最終確認とエスカレーション:誤った出力を防ぐための設定
受発注AIエージェント選定のポイント

受発注AIエージェントは多くのベンダーから提供されており、自社に合ったソリューションを選ぶことが導入成功の鍵です。選定では、既存システムとの統合性やカスタマイズ性、導入後のサポート体制を順に確認していきます。
既存システムとの統合性・カスタマイズ性の確認
選定において最優先で確認すべきは、自社が現在使用している基幹システムとの接続性です。SAP・Oracle・弥生・勘定奉行など、ERPや販売管理システムに対応する仕組みが最初から備わっているかを確認します。
接続性が不十分な場合は追加開発コストが発生するため、見積もり段階で明確にしておくことが大切です。
カスタマイズ性も見ておく必要があります。自社固有の商品マスタや取引先ルール、例外処理ロジックを、どの程度組み込めるかを確認します。
汎用的なSaaS型ツールはセットアップが容易な反面、細かい業務ルールへの対応が難しいことがあります。一方、フルカスタム開発は柔軟性が高いものの、費用と期間が増大します。
どちらを選ぶかは、自社の業務標準化の度合いと予算のバランスで判断することが大切です。
- 基幹システムとの連携方式:コネクタの有無とAPI連携の可否
導入後のサポート体制と運用支援の確認
AIエージェントの導入は、システムを構築して終わりではありません。運用開始後も、精度の継続的な改善、例外パターンへの対応追加、システムアップデートへの追従が必要となります。
自社の担当者がシステムを自律的に改善・管理できるよう、管理画面の操作性やドキュメントの充実度も判断材料になります。
初期費用だけでなく、年間のライセンス費用・サポート費用・カスタマイズ費用を含めたトータルコストを比較することで、長期的な費用対効果を正確に見積もることができます。
- サポート体制:専任担当者の有無、SLA、対応時間
まとめ
受発注業務へのAIエージェント導入は、単なる業務効率化にとどまらず、担当者が本来集中すべき判断業務や顧客対応、改善活動に人手を振り向けられる環境をつくる取り組みです。
TOTOの処理時間90%短縮、フライスターの93.6%自動化率、松本食品の年間3,276時間削減といった事例が示すように、導入効果は業種を問わず着実に出ています。
LLMとOCR・RPAを組み合わせ、RAGで社内知識を活用するハイブリッドな構成が現在の主流となっています。さらに、手書きFAXを含む非定型注文書の処理も、現実的な精度で自動化できるレベルに達しています。
導入にあたっては、PoCを「1部門・1プロセス・定量KPI」に絞って始め、成果を確認しながら段階的に展開することが成功の鉄則です。
自社の受発注業務の現状と課題を整理し、まずは小さく試すことから始めてみてください。
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