受発注のAIエージェント活用事例|発注・受注処理を自動化する実例

受発注業務は、企業活動の根幹を支える重要なプロセスです。しかし、毎日膨大な数のFAX・メール・電話による注文を人手で処理し続けることは、担当者の大きな負担となっています。入力ミスによる誤出荷、繁忙期の処理遅延、ベテラン担当者への業務集中——こうした課題を抱えながらも、「どこから手をつければよいか分からない」と感じている企業は少なくありません。

近年、AIエージェントを受発注業務に導入することで、こうした課題を抜本的に解決する企業が相次いでいます。TOTOのセラミック事業部では1件60分かかっていた処理を5分に短縮し、食品商社では年間3,276時間もの業務時間を削減した事例が報告されています。本記事では、受発注業務へのAIエージェント活用事例を業種別に詳しく紹介するとともに、導入の仕組みや進め方、選定のポイントまで丁寧に解説します。

AIエージェント開発・活用の全体像は、以下の完全ガイドで体系的に解説しています。

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・受発注AIエージェント開発・構築の完全ガイド

受発注業務とAIエージェントの関係

受発注業務とAIエージェントの関係

受発注業務は、顧客からの注文を受け付けてから商品・サービスを届けるまでの一連のプロセスを指します。注文情報の受取・入力・確認・基幹システムへの登録・在庫確認・出荷指示といった多岐にわたる工程が含まれ、これらを正確かつ迅速に処理することが求められます。AIエージェントは、大規模言語モデル(LLM)を中核に置き、自律的に情報を収集・判断・実行できるシステムです。従来の単純なRPAとは異なり、非定型のデータを読み取り、文脈に応じた判断を行える点が大きな特徴です。

従来の受発注業務が抱える課題

従来の受発注業務では、多様な形式の注文が寄せられることが最大の課題です。FAXで届く手書きの注文書、メールに添付されたExcelファイル、電話口で伝えられる口頭注文——これらをすべて担当者が目視で確認し、基幹システムに手入力するという作業が毎日繰り返されます。1件あたりの処理に1時間以上かかるケースも珍しくなく、繁忙期には残業が常態化します。属人化によって担当者が休んだ際のリスクが高まることも、多くの企業が抱える深刻な問題です。ある調査では、受発注業務担当者の約7割が「単純入力作業に業務時間の半分以上を費やしている」と回答しており、付加価値の高い業務に時間を割けていない実態が浮かび上がっています。

AIエージェントが受発注を変える仕組み

AIエージェントは、LLM(大規模言語モデル)を「脳」として、OCR(光学文字認識)やRPAを「手足」として組み合わせた構成で動作します。FAXで届いた注文書を自動でデジタル化し、商品名・数量・納期などの情報を高精度で抽出します。その後、過去の取引履歴や商品マスタを参照しながら、正しいデータ形式に変換して基幹システムへ自動登録します。手書き文字の揺れや略称、曖昧な表記に対しても、LLMが文脈を理解して適切に解釈できるため、従来のOCRやRPAだけでは対応が困難だったケースにも対処できます。人が行うべき最終確認や承認のステップを残しつつ、それ以外の定型・半定型処理を一括自動化できる点が、AIエージェントの最大の強みです。

業種別の受発注AIエージェント活用事例

業種別の受発注AIエージェント活用事例

受発注業務へのAIエージェント導入は、食品・製造・建材など多くの業種で実績が積み上がっています。それぞれの業種が持つ固有の課題に対して、AIエージェントがどのように活用されているか、代表的な事例を紹介します。

食品業界:年間3,276時間削減を実現した専門食材商社の事例

西洋料理食材を専門に扱う食材商社(松本食品)では、ホテルやレストラン、ウェディング関連企業からの注文を毎日大量に処理していました。電話・FAX・オンラインと受注チャネルが多岐にわたり、担当者がそれぞれの形式に合わせて手入力を繰り返す状況が長年続いていました。既にRPAを導入しており203本のスクリプトを構築していましたが、FAXの手書き注文書には人の判断が必要な部分が多く、完全自動化には至っていませんでした。

そこで生成AIエージェントをRPAと組み合わせ、FAX注文書のOCR読み取りから商品マスタとの照合、基幹システムへのデータ登録までを一気通貫で自動化するPoC(実証実験)に着手しました。2ヶ月のPoC期間を経て、OCRの認識精度93%・CSV出力精度100%を達成し、年間3,276時間の業務時間削減という成果を得ています。担当者は入力作業から解放され、品質確認や顧客対応といった付加価値の高い業務に専念できるようになりました。

食品製造業:FAX商習慣を変えずに93.6%の自動化率を達成したパン粉メーカーの事例

パン粉製造を手掛けるフライスター株式会社では、取引先からFAXで届く注文書を担当者が手作業で処理する体制が続いていました。商品名が類似しており属人的な知識が不可欠なうえ、入力ミスによる誤出荷が急便コストの増大を招くという深刻な問題を抱えていました。人手不足も慢性化しており、業務効率化は経営上の急務でした。

ユーザックシステムが開発した「受注AIエージェント」を導入した実証実験では、FAX注文書の文字情報取得94.9%、商品情報取得100.0%、取引先情報取得93.6%、基幹システム取込みレイアウト出力100.0%という精度を達成しました。総合自動化率93.6%以上を実現しながら、既存のFAX受発注という商習慣を変えることなく業務をペーパーレス化できた点が大きく評価されています。取引先への影響を最小限に抑えながら社内業務のデジタル化を進められることは、多くの企業にとって理想的なアプローチです。

製造業:1件60分→5分へ90%短縮を達成したTOTOのセラミック事業部の事例

TOTO株式会社のセラミック事業部では、半導体製造装置向け部品の受発注業務に大きな課題を抱えていました。注文や納期変更の依頼がメールとExcelの添付ファイルで届き、担当者が手動で基幹システムに入力する工程が1件あたり約1,200クリックを要し、60分以上かかっていました。転記ミスや確認漏れのリスクも高く、業務改革が急務でした。

2026年1月にUiPathのAIエージェントプラットフォームを導入し、業務プロセスを「ルール化できる処理→ソフトウェアロボット」「自然言語の理解・情報抽出→AIエージェント」「意思決定・承認→人」の3層に再定義しました。BPMN2.0標準を用いてプロセスをモデル化したうえで自動化を実装した結果、1件あたりの処理時間が約5分に短縮し、処理速度が約90%改善されました。担当者はシステムへの入力作業から解放され、確認・承認といった本来人が担うべき判断業務に集中できる環境が整いました。

受発注AIエージェントを支える主要技術

受発注AIエージェントを支える主要技術

受発注業務の自動化を実現するAIエージェントは、複数の技術が組み合わさって動作しています。それぞれの技術の役割を理解することで、自社の業務課題に対してどのような解決アプローチが有効かを判断しやすくなります。

LLMとOCRの連携:非定型データを高精度で処理する

受発注業務の自動化における最大の技術的課題は、フォーマットが統一されていない注文書をいかに正確に読み取るかです。従来のOCRは、あらかじめ定義されたフォーマットに沿った定型書類には高い精度を発揮しますが、手書き文字の揺れや取引先ごとに異なるレイアウトには対応が困難でした。LLMと組み合わせることで、この問題が解決されます。LLMは文章の文脈を理解する能力に優れており、「P-001」という記載が商品コードを指すのか、略称なのかを過去の取引データと照合しながら判断できます。フォーマットの事前定義が不要となり、初めて取引する顧客の注文書にも柔軟に対応できる点は、業務効率化の観点から非常に大きな意味を持ちます。

RPAとの統合:ルール処理と判断処理を役割分担する

AIエージェントとRPAは競合する技術ではなく、互いの強みを補完し合うものとして活用されています。RPAはあらかじめ定義されたルールに基づく定型処理(システムへのデータ入力、画面操作、ファイル整理など)を高速かつ正確に実行します。一方、AIエージェントは自然言語の理解、文脈を考慮した判断、曖昧な情報の解釈といった非定型処理を担います。この2つを組み合わせることで、「AIエージェントが注文書から情報を抽出・判断し、RPAが基幹システムへ登録する」という流れが実現します。TOTOやフライスターの事例でも、AIエージェントとRPAのハイブリッド構成が採用されており、これが高い自動化率の鍵となっています。

RAGによる社内知識の活用:属人化した判断をAIが代替する

受発注業務には、ベテラン担当者だけが知っている暗黙知が数多く存在します。「この取引先は商品コードを略称で記載する傾向がある」「納期の記載がない場合は翌週月曜日が慣例だ」——こうした知識をAIに習得させる技術がRAG(Retrieval-Augmented Generation)です。RAGは過去の取引履歴、商品マスタ、取引先ごとの対応ルールといった社内データをリアルタイムで参照しながら、LLMが文章を生成・判断する仕組みです。これにより、属人化していたノウハウをシステムとして標準化でき、担当者が休暇中でも同水準の処理品質を維持できます。人材不足や世代交代が進む日本企業にとって、この機能は特に大きな価値を持ちます。

受発注AIエージェントの導入ステップ

受発注AIエージェントの導入ステップ

AIエージェントの導入は、適切なステップを踏むことで成功率が大きく高まります。いきなり全社展開を目指すのではなく、段階的に進めることがポイントです。標準的な導入期間はPoC(2〜4ヶ月)、セキュリティ審査(3〜6ヶ月)、本番導入(1〜2ヶ月)を合わせた6〜12ヶ月程度とされています。

Step1:業務課題の整理とPoC設計

導入を成功させるためには、最初に「どの業務プロセスを自動化するか」を明確に定義することが不可欠です。受発注業務の中でも、特に工数がかかっている工程、ミスが頻発している工程、属人化が進んでいる工程を洗い出し、優先度をつけます。PoCは「1部門・1プロセス・定量KPI」に絞って実施することが成功率を高める最重要ポイントです。たとえば「FAX注文書の情報抽出と基幹システム登録に限定し、自動化率90%以上・処理時間50%削減を目標KPIとする」といった具体的な条件を設定します。範囲を絞ることで短期間での検証が可能となり、経営層への説得材料も得やすくなります。

Step2:ツール・ベンダー選定と要件定義

PoC設計が固まったら、自社の環境に合ったツールとベンダーを選定します。選定基準として特に重要なのは、既存の基幹システム(ERP、WMS、在庫管理システムなど)との接続性です。ネイティブ連携が用意されているか、APIやMCP経由での連携が可能かを事前に確認します。次に、セキュリティ要件への対応状況を確認します。受発注データには取引先情報・価格情報・在庫情報など機密性の高いデータが含まれるため、クラウド型かオンプレミス型か、データの保存場所、アクセス制御の仕組みを詳しく確認します。また、自動化できない例外処理が発生した際に人間にエスカレーションする仕組みが整っているかも重要な判断軸となります。

Step3:段階的な本番展開とモニタリング

PoCで成果が確認できたら、セキュリティ審査を経て本番展開へ移行します。いきなり全取引先・全チャネルに適用するのではなく、最初は取引量の多い主要取引先のFAX注文に限定するなど、段階的に対象を広げるアプローチが安全です。本番稼働後は、自動化率・処理精度・エラー発生件数・担当者の工数削減時間などを定期的にモニタリングし、ルールや設定を継続的に改善していきます。AIエージェントは使えば使うほど学習データが蓄積されて精度が向上する特性があるため、長期的な視点での運用管理体制を整えることが大切です。

導入効果と注意すべきリスク

導入効果と注意すべきリスク

受発注業務へのAIエージェント導入は大きな効果をもたらす一方、適切に対処すべきリスクも存在します。導入前に両面を把握しておくことで、現実的な期待値設定と適切なリスク管理が可能になります。

導入で得られる具体的な効果

AIエージェントを受発注業務に導入することで得られる主な効果として、まず処理速度の飛躍的な向上が挙げられます。人が60分かけていた処理を5分に短縮したTOTOの事例が示すように、処理時間を90%以上削減できるケースがあります。次に、ヒューマンエラーの大幅な削減です。疲労や集中力の低下による入力ミスがなくなり、誤出荷や返品対応のコストを削減できます。さらに、24時間365日の対応が可能になります。深夜や休日に届いた注文も自動で処理が進み、翌朝確認すれば対応が完了している状態を実現できます。パナソニック コネクトでは業務自動化によって年間44.8万時間の業務時間削減を実現した事例もあり、AIエージェントの持つポテンシャルの大きさが伝わります。

注意すべきリスクと対処法

リスクとして最初に挙げられるのが、ハルシネーション(AIによる誤情報生成)です。LLMは高い精度を持ちますが、稀に存在しない商品コードを生成したり、誤った数量を推定したりすることがあります。これを防ぐためには、AIの出力を人間が最終確認するヒューマン・イン・ザ・ループの仕組みを設け、信頼性の低い処理は自動的にエスカレーションされるよう設定することが重要です。次に、機密情報・個人データの保護です。受発注データには取引先の個人情報や価格情報が含まれるため、クラウドサービスを利用する場合はデータの送受信経路と保存場所を厳密に確認し、NDAや利用規約に基づいた適切な管理体制を整える必要があります。また、導入・運用に必要な専門人材の確保も課題となります。社内にAI活用の知見を持つ人材がいない場合は、外部の専門ベンダーと連携しながら内製化を段階的に進めるアプローチが有効です。

受発注AIエージェント選定のポイント

受発注AIエージェント選定のポイント

受発注AIエージェントは多くのベンダーから提供されており、自社に合ったソリューションを選ぶことが導入成功の鍵です。選定の際に確認すべき軸を整理します。

既存システムとの統合性・カスタマイズ性を確認する

選定において最優先で確認すべきは、自社が現在使用している基幹システムとの接続性です。SAP・Oracle・弥生・勘定奉行など、ERPや販売管理システムへのコネクタがあらかじめ用意されているか、API連携が可能かを確認します。接続性が不十分な場合は追加開発コストが発生するため、見積もり段階で明確にしておくことが重要です。またカスタマイズ性も重要な観点で、自社固有の商品マスタ・取引先ルール・例外処理ロジックをどの程度組み込めるかを確認します。汎用的なSaaS型ツールはセットアップが容易な反面、細かい業務ルールへの対応が難しいことがあります。一方、フルカスタム開発は柔軟性が高いものの、費用と期間が増大します。自社の業務標準化度合いと予算のバランスで判断することが大切です。

導入後のサポート体制と運用支援を確認する

AIエージェントの導入は、システムを構築して終わりではありません。運用開始後も精度の継続的な改善、例外パターンへの対応追加、システムアップデートへの追従が必要となります。ベンダー選定の際には、導入後のサポート体制として「専任の担当者がいるか」「SLA(サービスレベル合意)が定義されているか」「問題発生時の対応時間はどの程度か」を確認します。また、自社担当者がシステムを自律的に改善・管理できるよう、管理画面の操作性やドキュメントの充実度も重要な判断材料です。初期費用だけでなく、年間のライセンス費用・サポート費用・カスタマイズ費用を含めたトータルコストを比較することで、長期的な費用対効果を正確に見積もることができます。

まとめ

まとめ

受発注業務へのAIエージェント導入は、単なる業務効率化にとどまらず、担当者が本来集中すべき判断業務・顧客対応・改善活動にリソースを振り向けられる環境をつくる取り組みです。TOTOの処理時間90%短縮、フライスターの93.6%自動化率、松本食品の年間3,276時間削減といった事例が示すように、導入効果は業種を問わず着実に出ています。LLMとOCR・RPAを組み合わせ、RAGで社内知識を活用するハイブリッドな構成が現在の主流となっており、手書きFAXを含む非定型注文書の処理も現実的な精度で自動化できるレベルに達しています。導入にあたっては、PoCを「1部門・1プロセス・定量KPI」に絞って始め、成果を確認しながら段階的に展開することが成功の鉄則です。自社の受発注業務の現状と課題を整理し、まずは小さく試すことから始めてみてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。