専属開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

フルスクラッチ開発は、差別化の核となる領域を選び、専属チームで作って育て、知識をチームで共有し続ける流れで進めます。

専属チームが必要な理由、暗黙知の価値と属人化への対策、内製と外部ラボ型の選び方を、順に取り上げます。全体像は、専属開発チーム構築の完全ガイドもご覧ください。

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フルスクラッチで専属チームが必要になる理由

フルスクラッチを選ぶ場面を、競争優位の源泉、複雑な業務要件、継続的な変更の3項目で示した図。
作り込む範囲は、自社の強みとの結び付きで見極めます。

発注側がフルスクラッチを選ぶのは、独自の要件をパッケージソフトやSaaSで満たせない場合や、プロダクトが事業の差別化の核になる場合です。

既製品で代替できる機能であれば、ゼロから作るコストをかける必要はありません。一方で、独自の業務フローやビジネスロジック、競合と差別化する機能は、フルスクラッチで実現できます。

複雑なフルスクラッチのプロダクトには専任の体制が必要で、内部構造を深く理解する人でなければ、安全な改修や機能追加は難しくなります。

案件ごとに別のチームへ発注すると、そのたびに構造を理解し直す手間がかかり、改修の品質もばらつきやすくなります。そこで、長期で担当する専属チームが、安定して育てていく形を取ります。

フルスクラッチを選ぶべき場面

独自性と長期的な進化が必要な領域では、フルスクラッチが力を発揮します。どの領域を作り込むかは、その領域が自社の強みにどこまで直結するかで見極めます。

  • 競争優位の源泉:自社の中核機能として差別化を生む領域。
  • 複雑な業務要件:既製品では対応できない業務。
  • 継続的な変更:頻繁な仕様変更や機能拡張が見込まれるプロダクト。

初期構築費はパッケージ導入より高くなりがちですが、自由度と将来の拡張性が、長い目で見た価値を生みます。

会計や勤怠管理のように差別化に直結しない汎用業務まで作り込むのは、合理的とはいえません。そのため、差別化の核は作り込み、汎用の領域は既製品を使うのが基本です。

差別化の核となる領域は、ドメイン知識を蓄積する専属チームに、長期で任せます。作る範囲と担当する体制をどう設計するかで、開発の成否が分かれます。

完成後も育て続ける前提

オーダーメイドのプロダクトは、リリースを迎えた後も、市場の変化やユーザーの声に応じて進化させていくものです。

完成までを請負で発注して別の保守チームへ引き継ぐと、設計意図や実装背景が失われ、機能拡張が難しくなります。特に独自性と複雑さが高いプロダクトほど、外部の人には理解しにくく、引き継ぎで失われるものも大きくなります。

構築から運用、機能拡張まで同じ専属チームが担えば、設計意図と実装背景を保ったまま、長期の開発を続けられます。フルスクラッチを選ぶことは、チームで育て続ける体制を選ぶのとほぼ同じです。

ポイント

差別化に直結する領域だけを作り込み、会計や勤怠などの汎用業務は既製品に任せるのが目安です。作る範囲が決まったら、その領域を長期で担う専属チームを組みます。

暗黙知を蓄積した専属チームが生む価値

ドメイン知識による開発効率の効果を、実装の精度と速さ、新機能の影響範囲、調査と引き継ぎの工数、投資対効果に分けた図。
同じチームで知識を重ねるほど、継続開発の利点が広がります。

同じ専属チームが長期で担当することの価値は、暗黙知が蓄積されることにあります。暗黙知とは、ドキュメントに書き切れない、システムの内部構造や業務背景への深い理解のことです。

たとえば、なぜその設計にしたのか、機能の裏にどんな業務上の事情があるのか、過去の問題にどう対処したのかといった知識です。こうした知識は、長く関わるメンバーの中に蓄積されていきます。

ドメイン知識による開発効率の複利効果

当初は、システム構造と業務の理解に時間がかかり、機能を追加するにも調査が必要です。ただし、半年、1年と続けるうちに、コードベースの隅々や業務ドメインの勘所を把握できるようになります。

  • 実装の精度と速さ:バグ対応や機能拡張が速くなり、新機能の影響範囲を見極めて安全に実装できます。
  • 調査と引き継ぎの工数:別チームでは知識をゼロから再構築しますが、暗黙知の蓄積で手間と品質のばらつきを抑えられます。

この効率向上は、専属チームの維持費という固定費を正当化する根拠にもなります。また、初期費用が高くなりがちな開発でも、継続開発の投資対効果は高まっていきます。

プロダクトを長く使い、進化させるほど、複利効果は大きくなります。これは、同じチームで積み上げる専属型ならではのリターンです。

暗黙知の蓄積が持つ諸刃の剣の面

知識が特定のメンバーだけに偏ると、退職や異動でその人がいなくなった際に、知識も失われてしまいます。とりわけ独自性の高いシステムほど、内部を理解する人が限られ、依存度が高まりやすくなります。

暗黙知は生産性を高める資産である一方で、属人化の温床にもなります。そのため、知識を個人に閉じ込めず、チームで共有して組織の資産にする仕組みが必要です。

次章では、フルスクラッチ最大の弱点である属人化に、専属チームが備える具体策を取り上げます。暗黙知を活かしつつ依存を抑えることが、体制構築の核心になります。

ポイント

暗黙知の蓄積は開発効率を高めますが、知識が特定の人に偏ると属人化の恐れがあります。知識をチーム全体で共有する仕組みを、初期から組み込んでおくことが目安です。

フルスクラッチ最大の弱点・属人化への対策

知識をチームで共有する仕組みとして、ペアローテーション、モブプログラミング、社内Wiki、ワークフローシステムを示した図。
日々の協働と記録が、知識を個人に閉じ込めにくくします。

長期のフルスクラッチでは、書いた本人しか仕様を知らないブラックボックス化が起こりがちです。退職や異動でその人がいなくなると、致命的なリスクになります。

専属チームの暗黙知が個人に偏れば、退職や異動によって失われ、開発が止まりかねません。だからこそ、長期の安定運用には、属人化を抑えることが欠かせません。

知識をチームに分散させ、誰が抜けても開発を続けられる体制を作ります。文書を残すだけでなく、日々の進め方の中に共有を組み込みます。

次の節では、ペアローテーション、モブプログラミング、ITツールによる形式知化を、企業事例とともに見ていきます。いずれも、暗黙知を活かしながら個人への依存を抑える方法です。

ペアローテーションとモブプロによる知識の分散

ペアの組み替えの頻度や、複数人で実装する進め方が、知識の分散につながります。

  • ペアローテーション:ヤフーの「ヤフオク!」チームは毎日組み替え、一週間以内に全員が全作業に触れます。
  • モブプログラミング:3人以上で1つのプログラムを完成させ、仕様を議論しながら、全員でコードの構造を理解します。

ヤフオク!では、ほとんど文書を書かずに属人化を完全に排除し、引き継ぎも不要な体制を実現しています。誰かが抜けても、ほかのメンバーが作業を引き継げる状態です。

複数人での作業は一見非効率に見えますが、属人化を考えれば、知識を一人に集中させない合理的な投資です。長期で協働する専属チームなら、こうした仕組みを根づかせることもできます。

ITツールを使った暗黙知の形式知化

社内Wikiやワークフローシステムを整えれば、個人の暗黙知を、組織で使える形式知にすぐ変えられます。

後から参照したい情報には、次のようなものがあります。

  • 設計判断:設計を決めた理由。
  • システム構成:システムの構造や全体の組み立て。
  • トラブル対応:過去に起きた問題と対応内容。

情報をチーム全員が参照できれば、新メンバーが素早く学べ、既存メンバーが抜けても知識を残せます。

すべてを完璧に文書化しようとすると、難しいうえに保守の負担も大きくなります。そこで、ペアローテーションやモブプロとツールを組み合わせ、共有を開発プロセスに組み込むことが、長期的な属人化防止につながります。

ヤフオク!のように日々の開発に共有を組み込めば、文書への依存を減らして属人化を防げます。仕組みを初めから開発プロセスに入れておくことが、未然防止につながります。

ポイント

属人化を防ぐには、誰が抜けても開発を続けられる状態を目指します。ペアローテーションやモブプロ、社内Wikiを日々の進め方に組み込むことが、判断の目安になります。

内製専属チームと外部ラボ型の判断軸と継続開発体制

内製社員でチームを作るか、外部のラボ型契約で確保するかは、大きな判断になります。基本は「コアは内製、手足は外注」です。

PdM(プロダクトマネージャー)など意思決定の役割は社内に置きます。独自性を生み出すフルスクラッチでは、方向性を内製で握る必要があります。外注任せにすると、事業の目的から外れる恐れがあるからです。

実装リソースや専門技術が不足する場合は、外部の専門家や開発会社を、スポットまたはラボ型の専任契約で活用します。その際の条件は、Slackなどで常時接続し、内製チームと協働することです。

「コアは内製・手足は外注」の判断軸

内製か外部ラボ型かは、役割ごとに使い分けて組み合わせるものです。判断の基準は、その役割が自社の意思決定や独自性にどれだけ直結するかです。

  • 内製する役割:PdMや全体設計を担う中核アーキテクト。
  • 外部で確保する役割:実装や専門技術を担う人材を、外部ラボ型で柔軟に集めます。

工数の大きい開発をすべて内製の採用で賄おうとすると、採用だけで半年以上かかり、立ち上げが遅れることがあります。一方で、実装要員を外部ラボ型で確保すれば、柔軟に立ち上げられます。

外部チームとも一体で協働し、内製と外部の垣根を越えてペアローテーションやモブプロを行います。こうした進め方が、速度を保ちながら自社の方向性と属人化対策を両立させる、判断の基準になります。

領域横断チームによる継続的な機能拡張

長期の機能拡張には、専門領域の壁を越えて対応する、クロスファンクショナル(領域横断)なチームが役立ちます。企業の事例にも、領域を補い合う進め方が見られます。

  • ソニーのPCアプリ:テスト駆動開発を採用し、毎晩の自動テストとレビューをイテレーションに組み込みました。

PayPayフリマの立ち上げ時は、Kotlinやバックエンドの経験者が少ない状況でした。テスト駆動開発に詳しいAndroid担当と、Javaに詳しいバックエンド担当がペアプロしました。

さらにiOS担当もBFF(フロントエンド向けバックエンド)を開発し、言語やエディタの違いを補いました。必要に応じて、アプリ担当者がバックエンドも修正する体制です。

ソニーのPCアプリ開発では、不具合の検出率を大幅に高めながら、機能拡張を続けつつ品質を保っています。

専属チームが専門外にも踏み込み、互いに補い合う協働の文化が、長期の機能拡張とプロダクトの進化を支えます。

ポイント

意思決定の役割は社内に置き、不足する実装や専門技術は外部ラボ型で補うのが目安です。外部チームも内製チームと常時協働できることを、契約の条件にします。

まとめ

フルスクラッチは、差別化の核となる独自のプロダクトを作る方法です。そのためには、複雑なシステムを構築から運用、機能拡張まで一貫して担う専属チームが必要になります。

同じチームの暗黙知は開発効率を高めますが、個人に知識が偏ると属人化のリスクになります。そこで、ペアローテーションやモブプログラミング、社内Wikiを使い、知識をチームで共有します。

体制は、コアの意思決定者を内製で確保し、実装リソースを外部ラボ型で補う形が基本になります。領域を越えた協働も、継続開発を支えます。

構築後も専任チームで育てていくなら、差別化の核を見極めたうえで、属人化対策を含む継続開発の体制を開発パートナーと一緒に設計しましょう。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。