専属開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

パッケージソフトやSaaSでは満たせない独自の要件を、ゼロから自由に作り上げるフルスクラッチ・オーダーメイド開発は、自社の競争力の核となるプロダクトを生み出す手段です。しかし、フルスクラッチ開発は一度作って終わりではありません。市場の変化やユーザーの要望に応えて機能を拡張し続け、長期にわたって育てていくものです。この長期的な作り込みを支えるうえで決定的に重要なのが、専属開発チームの存在です。自社プロダクトに専任で張り付く固定メンバーのチームが、フルスクラッチで構築したシステムの内部構造を熟知し、ドメイン知識を蓄積しながら継続的に開発を回していく。この体制があってはじめて、オーダーメイドで作り込んだプロダクトの価値を長期にわたって維持・向上させられます。一方で、フルスクラッチ開発には「その人にしかわからない」という属人化のリスクが付きまといます。専属チームを構築するということは、この属人化リスクとどう向き合うかという課題に正面から取り組むことでもあります。

本記事では、専属開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当て、フルスクラッチを選ぶべき場面と専属チームが必要な理由、長期で暗黙知を蓄積した専属チームが生む価値、フルスクラッチ最大の弱点である属人化リスクへの対策、内製専属チームと外部ラボ型専任チームの判断軸、そして専属チームによる継続的なオーダーメイド開発・機能拡張の体制までを、具体例とともに体系的に解説します。これからフルスクラッチでプロダクトを構築し、専任チームで長期的に育てたい事業責任者の方はもちろん、属人化のリスクを抑えながら継続開発体制を作りたい開発マネージャーの方にとっても、判断の指針となる内容です。最後までお読みいただくことで、フルスクラッチ開発を「属人化との戦い」ではなく「専属チームで暗黙知を強みに変える取り組み」として設計する視点を得られるはずです。

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フルスクラッチで専属チームが必要になる理由

フルスクラッチで専属チームが必要になる理由

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を選ぶべきなのは、パッケージソフトやSaaSでは自社の独自要件を満たせない場合や、そのプロダクトが事業の差別化の核となる場合です。既製品で代替できる機能であれば、わざわざゼロから作るコストをかける必要はありません。しかし、自社ならではの業務フローや独自のビジネスロジック、競合との差別化を生む独創的な機能は、フルスクラッチでしか実現できません。そして、フルスクラッチで作り込んだプロダクトは、その複雑さゆえに、継続的に手を入れ続けられる専任の開発体制を必要とします。なぜなら、ゼロから設計したシステムは、その内部構造を深く理解した人でなければ、安全に改修したり機能を追加したりできないからです。案件ごとに別のチームに発注していては、毎回システムの構造を理解し直すコストがかかり、改修のたびに品質が不安定になります。フルスクラッチで作るなら、そのシステムを長期にわたって担当し続ける専属チームを構築することが、プロダクトを安定して育てていくための前提条件になるのです。

フルスクラッチを選ぶべき場面

フルスクラッチ・オーダーメイド開発が真価を発揮するのは、独自性と長期的な進化が求められる領域です。具体的には、自社の競争優位の源泉となる中核機能、既製品では対応できない複雑な業務要件、頻繁な仕様変更や機能拡張が見込まれるプロダクトなどが該当します。これらの領域では、初期の構築コストはパッケージ導入より高くなりますが、自由に作り込める柔軟性と、将来にわたって思い通りに進化させられる拡張性が、長期的に大きな価値を生みます。一方で、汎用的な業務(会計や勤怠管理など、自社の差別化に直結しない領域)まですべてフルスクラッチで作るのは合理的ではありません。差別化の核はフルスクラッチで作り込み、汎用領域は既製品を活用するという切り分けが賢明です。そして、フルスクラッチで作り込んだ核の部分こそ、長期にわたってドメイン知識を蓄積した専属チームが担当すべき領域です。どこをフルスクラッチで作り、その部分を誰に長期で任せるかという設計が、オーダーメイド開発の成否を分けます。

作り切りでなく「育て続ける」前提に立つ

フルスクラッチ開発で陥りがちな誤解が、「完成したら終わり」という発想です。オーダーメイドで作り込んだプロダクトは、リリースした時点がスタートであり、そこから市場の変化やユーザーの声に応えて継続的に進化させていくものです。この「育て続ける」前提に立つと、開発体制のあり方も変わってきます。完成までを請負で発注し、リリース後は別の保守チームに引き継ぐという従来型のモデルでは、開発時に蓄積された設計意図や実装の背景が引き継ぎの過程で失われ、その後の機能拡張が困難になります。フルスクラッチで作り込むほど、システムは複雑で独自性が高くなり、外から来た人には理解しにくくなるため、この引き継ぎロスは深刻です。だからこそ、構築から運用・機能拡張までを一貫して担う専属チームが必要になります。専属チームがプロダクトをゼロから作り、そのまま育て続けることで、設計意図と実装背景がチームに保持され続け、長期にわたる進化が滑らかに進みます。フルスクラッチを選ぶということは、専属チームでプロダクトを育て続ける長期的な体制を選ぶことと、ほぼ同義なのです。

暗黙知を蓄積した専属チームが生む価値

暗黙知を蓄積した専属チームが生む価値

フルスクラッチで作り込んだプロダクトを同じ専属チームが長期にわたって担当することの最大の価値は、暗黙知の蓄積にあります。暗黙知とは、ドキュメントには書き切れない、システムの内部構造や業務の背景に関する深い理解のことです。なぜこの設計にしたのか、この機能の裏にはどんな業務上の事情があるのか、過去にどんな問題が起きてどう対処したのか——こうした知識は、長くプロダクトに関わったメンバーの頭の中に蓄積されていきます。同じチームが長期間担当することで、この暗黙知が厚みを増し、バグ対応や機能拡張のスピードが格段に上がります。新しい機能を追加するときも、既存の構造を熟知しているからこそ、影響範囲を正確に見極めて安全に実装できます。一方、毎回別のチームに発注すると、この暗黙知はゼロからの再構築となり、引き継ぎコストと品質のばらつきが生じます。専属チームがフルスクラッチ開発で生む価値は、まさにこの「暗黙知を持ち続けることによる継続的な開発効率」にあり、これは時間をかけて同じチームで作り込むほど大きくなる、専属型ならではの複利的なリターンです。

ドメイン知識が開発効率を複利で高める

専属チームがドメイン知識を蓄積することは、開発効率を複利的に高めていきます。プロダクトに関わり始めた当初は、システムの構造や業務の理解に時間がかかり、一つの機能追加にも慎重な調査が必要です。しかし、半年、1年と同じチームが担当を続けるうちに、コードベースの隅々まで把握し、業務ドメインの勘所も体得していきます。すると、同じ規模の機能追加でも、初期に比べて格段に速く、かつ的確に実装できるようになります。この効率向上は、コスト面でも大きな意味を持ちます。長期で担当する専属チームは、暗黙知の蓄積によって引き継ぎコストや調査工数が圧縮されるため、結果的に総開発コストを抑えられます。これは、専属チームの維持費という固定費を正当化する重要な根拠でもあります。フルスクラッチ開発は初期コストが高くなりがちですが、専属チームがドメイン知識を蓄積しながら長期で育てることで、リリース後の継続開発における効率が複利で高まり、トータルでの投資対効果が向上していくのです。プロダクトを長く使い、進化させ続けるほど、この複利効果は大きくなります。

暗黙知の蓄積は諸刃の剣でもある

暗黙知の蓄積は専属チームの強みである一方、裏を返せばリスクにもなります。プロダクトの重要な知識が特定のメンバーの頭の中だけに蓄積されると、そのメンバーが退職や異動でいなくなった瞬間に、その知識ごと失われてしまうからです。フルスクラッチで作り込んだ独自性の高いシステムほど、その内部を理解しているのは限られたメンバーだけになりやすく、この依存度が高まります。つまり、専属チームがフルスクラッチ開発で蓄積する暗黙知は、生産性を高める資産であると同時に、属人化という弱点の温床でもあるのです。この諸刃の剣をうまく扱うには、暗黙知を個人の中に閉じ込めるのではなく、チーム全体で共有し、組織の資産へと変えていく仕組みが欠かせません。次の章では、フルスクラッチ開発最大の弱点である属人化リスクに対して、専属チームがどう備えるべきか、具体的な対策を見ていきます。暗黙知の強みを活かしつつ、その弱点である属人化を抑える。この両立こそが、フルスクラッチで専属チームを構築する際の核心的な課題です。

フルスクラッチ最大の弱点・属人化への対策

フルスクラッチ最大の弱点・属人化への対策

長期のフルスクラッチ開発では、「そのコードを書いた本人しか仕様がわからない」という属人化(ブラックボックス化)が起きやすく、メンバーの退職や異動時に致命的なリスクとなります。せっかく専属チームで蓄積した暗黙知も、それが特定の個人に偏っていれば、その人がいなくなった途端に開発が止まりかねません。フルスクラッチで作り込んだプロダクトを安定して長期運用するには、この属人化をいかに排除するかが決定的に重要です。属人化対策の本質は、知識を個人ではなくチームに分散させ、誰が抜けても開発を継続できる「冗長化された強いチーム」を作ることにあります。これは単にドキュメントを書けばよいという話ではなく、日々の開発の進め方そのものに知識共有の仕組みを組み込むことで、より効果的に実現できます。ここでは、ペアローテーション、モブプログラミング、そしてITツールによる形式知化という三つの代表的な対策を、実際の企業事例とともに紹介します。これらは、専属チームの強みである暗黙知の蓄積を活かしながら、その弱点である属人化を抑える実践的な手法です。

ペアローテーションとモブプロで知識を分散する

属人化を排除する強力な手法が、ペアローテーションとモブプログラミングです。ヤフーの「ヤフオク!」開発チームでは、毎日ペアを組み替える「ペアローテーション」を実施しています。このルールにより、一週間以内にメンバー全員がチーム内のすべての作業に触れることになり、ドキュメントをほとんど書かなくても属人化を完全に排除し、引き継ぎ作業も発生しない、冗長化された強いチームを実現しています。誰か一人が抜けても、他のメンバーがその作業を引き継げる状態が常に保たれているのです。また、モブプログラミング(3人以上で1つのプログラムを完成させる手法)を導入することで、仕様の不明点が生じた瞬間にその場で議論・解決でき、チーム全体がコード構造に対して同一の理解を持てるようになります。これらの手法は、一見すると「複数人で同じ作業をするのは非効率」に映りますが、フルスクラッチ開発の属人化リスクを考えれば、知識を一人に集中させないための極めて合理的な投資です。専属チームは長期で同じメンバーが協働するからこそ、こうした知識分散の仕組みを定着させやすく、暗黙知の強みを保ちながら属人化の弱点を克服できます。

ITツールで暗黙知を形式知に変える

ペアローテーションやモブプロが「人を通じた知識共有」だとすれば、もう一つの柱が「ツールを通じた知識の形式知化」です。社内Wikiやワークフローシステムを整備し、個人の暗黙知を組織の形式知へと即座に変換する仕組みを作ることで、知識がチームに定着しやすくなります。フルスクラッチ開発では、設計の判断理由、システムの構成、過去のトラブル対応の記録など、後から参照したい情報が膨大に生まれます。これらを個人のメモや記憶に留めるのではなく、チーム全員がアクセスできる形で蓄積しておけば、新しくチームに加わったメンバーも素早くキャッチアップでき、既存メンバーが抜けても知識が残ります。ただし、すべてを完璧にドキュメント化するのは現実的ではなく、メンテナンスの負担も大きいため、ペアローテーション・モブプロによる人を通じた共有と、ツールによる形式知化をバランスよく組み合わせることが肝要です。ヤフオク!の事例のように、日々の開発の進め方に知識共有を組み込めば、ドキュメントへの依存を減らしつつ属人化を防げます。専属チームがフルスクラッチ開発を長期で続けるなら、こうした知識共有の仕組みを最初から開発プロセスに組み込んでおくことが、属人化を未然に防ぐ最善策です。

内製専属チームと外部ラボ型の判断軸と継続開発体制

内製専属チームと外部ラボ型の判断軸と継続開発体制

フルスクラッチ開発の専属チームを、内製の社員で組むか、外部のラボ型契約で確保するかは、重要な判断です。ここでも指針となるのは「コア(核)は内製、手足は外注」という原則です。プロダクトのビジョンや優先順位を決めるPdM(プロダクトマネージャー)など、ビジネスの意思決定を担う役割は、絶対に社内に置くべきです。ここを外注に丸投げすると、自社のビジネス目的から外れたシステムになるリスクがあります。フルスクラッチはまさに自社の独自性を作り込む開発ですから、その方向性を決める意思決定は内製で握ることが不可欠です。一方、実装リソースが不足している場合や、専門的な技術力が手元にない場合は、外部の専門家や開発会社を、スポット的に、あるいはラボ型(専任の中長期契約)で活用します。重要なのは、外部チームを使う場合でも「仕様書通りに作って」と切り離すのではなく、Slackなどで常時接続し、内製チームと同等の「ワンチーム」として協働するスタイルを貫くことです。これがフルスクラッチの専属チームを外部活用で成立させる必須条件です。

「コアは内製・手足は外注」の判断軸

内製と外部ラボ型のどちらを選ぶかは、二者択一ではなく、役割ごとに使い分けるのが現実的です。判断軸の中心は「その役割が自社の意思決定や独自性にどれだけ直結するか」です。PdMやプロダクトの全体設計を担う中核アーキテクトのように、自社の事業判断と密接に結びつく役割は内製で固めるべきです。一方、実装ボリュームを担うエンジニアや、特定の専門技術を要する部分は、外部のラボ型で柔軟に確保するのが効率的です。フルスクラッチ開発は工数が大きくなりがちなため、すべてを内製採用で賄おうとすると、採用に半年以上かかり、立ち上げが大幅に遅れます。コアの意思決定者だけは内製で握り、実装の手足は外部ラボ型の専任チームで素早く確保する。そして外部チームともワンチームとして密に協働し、属人化対策のペアローテーションやモブプロを内製・外部の垣根なく実践する。この組み合わせが、フルスクラッチ開発のスピードと、自社の方向性の堅持、そして属人化の防止を同時に成り立たせる、現実的な専属チーム構築の判断軸になります。

領域横断チームによる継続的な機能拡張

フルスクラッチで作ったプロダクトを長期で進化させ続けるには、専門領域の壁を越えて柔軟に対応できる、クロスファンクショナル(領域横断)なチーム体制が求められます。ヤフーの「PayPayフリマ」の開発では、立ち上げ当初にKotlinやバックエンドの経験者が少ない中、テスト駆動開発に精通したAndroidエンジニアと、Javaに詳しいバックエンドエンジニアがペアプロを行い、さらにiOSエンジニアがBFF(フロントエンド向けバックエンド)の開発にも入るなど、言語やエディタの違いを補い合いながら開発を進めました。その結果、「必要であればアプリエンジニアがバックエンドの修正も行う」という、領域にとらわれない理想的な継続開発体制が構築されています。また、ソニーのPCアプリ開発では、現場主導のアジャイル改善を取り入れ、テスト駆動開発や毎晩の自動テスト、メンバー間のレビューをイテレーションに組み込むことで、不具合検出率を大幅に引き上げ、継続的な機能拡張を行いながらも高い品質を維持しています。これらの事例が示すのは、フルスクラッチの専属チームは、メンバーが自分の専門領域だけに閉じこもらず、互いの領域に踏み込んで補い合うことで、長期にわたる機能拡張に強い体制になるということです。専属チームを構築する際は、こうした領域横断の協働文化を育てることが、プロダクトを末永く進化させる鍵になります。

まとめ

専属開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイドまとめ

本記事では、専属開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、フルスクラッチで専属チームが必要になる理由、暗黙知を蓄積した専属チームが生む価値、フルスクラッチ最大の弱点である属人化への対策、内製専属チームと外部ラボ型の判断軸、そして領域横断チームによる継続的な機能拡張体制までを体系的に解説しました。フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、自社の差別化の核となる独自プロダクトを作り込む手段であり、その複雑さゆえに、構築から運用・機能拡張までを一貫して担う専属チームを必要とします。同じチームが長期担当することで蓄積される暗黙知は、開発効率を複利的に高める一方、特定個人への依存という属人化リスクの温床にもなります。この弱点には、ヤフオク!のペアローテーションやモブプログラミング、社内Wikiによる形式知化といった、知識をチームに分散させる仕組みで対処できます。体制づくりでは「コアは内製・手足は外注」を軸に、意思決定者を内製で握りつつ実装リソースは外部ラボ型で柔軟に確保し、PayPayフリマのような領域横断の協働文化を育てることが、長期的な進化を支えます。フルスクラッチでプロダクトを構築し専任チームで育てたい方は、まず差別化の核となる領域を見極め、属人化対策まで含めた継続開発体制を、信頼できる開発パートナーと設計することから始めてみてください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。