開発内製化の保守・運用費用・ランニングコストについて

開発内製化の保守・運用費用は、初年度に増える場合から年間約30%削減できる場合まで幅があります。その差を生むのは、外注の構造、採用・育成への投資、どこまでを内製で担うかの3点です。

費用を判断するには、保守の主導権を誰が握るかと、数年単位で費用を見る視点が欠かせません。

▼全体ガイドの記事
・開発内製化の完全ガイド

保守・運用費用を内製化の視点で捉える全体像

外注保守の変動費と内製化後の固定的な人件費を左右に比べた図
費用の支払い先と性質が、内製化で切り替わります。

保守・運用費用は、コストの主導権を誰が握っているかで見え方が変わります。外注保守では、システムの中身を理解しているベンダーに判断が偏りがちです。一方で内製化では、自社に必要な工数を自ら判断し、無駄なコストを削れます。

ランニングコストの性質も、ベンダーへの変動費から、自社の固定的な人件費へと変わります。

IT予算の8割を占めるレガシー保守の現実

レガシー保守の重さは、国内企業のIT関連費用に占める割合を見ると分かります。

  • 保守の割合:IT関連費用のうち約80%をレガシー保守が占めます。
  • 2025年の崖:保守費がIT予算の9割以上になると予測されています。
  • 内製化の役割:不要な維持費を抑え、その分を新規投資に回せます。

経済産業省の「DXレポート」は、2025年以降の経済損失を示しています。年間で最大約12兆円の損失が予測される一方、攻めのIT投資に回せる予算は限られます。

保守の中身を自社で把握できるかどうかで、予算の使い道は変わります。

外注保守が高騰する構造的な理由

外注保守の費用は、外注の仕組みそのものによって膨らみます。

  • 中間マージン:多重下請けで平均30%以上が加わります。
  • ブラックボックス:担当者の離職で改修費が高騰します。
  • 要件整理の不足:不要な機能を含む見積もりを招きます。

外注の開発・保守費には、実際に作業するエンジニア以外の会社も関わり、その分の中間マージンが発生します。発注側は、そうした上乗せを含んだ金額を支払うことになります。

構築を担ったベテランが定年などで離れると、仕組みを知る人がいなくなります。改修や障害対応の難しさが増し、ベンダーの言い値で高額な費用を払うことになります。

社内にノウハウがないと、課題を要件に落とし込めません。そのため、長期にわたる見積もりも鵜呑みにしがちです。

内製化で変わるコストの内訳

内製化では、外注費がなくなる代わりに、自社が担う費用が増えます。

  • 消える費用:保守委託料、改修の契約費、中間マージンです。
  • 新たな費用:人件費、採用・育成費、ツール費です。
  • 基盤の費用:開発・監視ツールとクラウド費が発生します。

外注費は改修のたびに膨らむ変動費ですが、内製化後は固定費に近づきます。そのため、月次の更新やバグ修正は、内製チームの通常業務で吸収しやすくなります。

採用や育成には初期投資が要るため、コストは初年度に高く、年を追うごとに下がっていきます。

ポイント

判断の目安は、保守費の中身を誰が決めているかです。外注先に判断が偏っているなら、内製化で無駄な工数を見直す余地があります。

内製化のTCO(総所有コスト)の考え方

内製化のTCOを初年度の増加、中長期の回収、調整コストの削減に分けた図
短期の増加と中長期の回収を同じ視野に置けます。

内製化の保守運用コストは、単年度ではなく数年間のTCO(総所有コスト)で捉えます。初年度は採用費や教育費で外注より高くなっても、中長期では見えにくい費用を減らせます。

評価は、初年度の増加、中長期の回収、調整コストの削減の3点で行います。

初年度はコスト増になる理由

初年度のコスト増は、内製化の特徴として最初から見込んでおく必要があります。

  • 採用投資:エンジニアの採用費が発生します。
  • 育成投資:教育費とオンボーディング費が必要です。
  • 環境整備:開発環境とライセンスを整えます。
  • 二重コスト:外注費と内製投資を並行して負担します。

採用したエンジニアが即戦力になるまでには、1〜2ヶ月以上かかります。また、既存社員の育成には1年程度かかり、その間の人件費もコストに含めます。

外注保守費を払いながら体制にも投資するため、初年度は二重コストになりがちです。そのため、初年度の増加は、中長期のコスト削減を得るための先行投資と位置づけます。

中長期で回収されるコスト削減効果

初年度を越えると、外注費の削減と標準化によって、投資の回収が進みます。

  • 外注費の削減:中間マージンと追加見積もりが不要になります。
  • 製造業の事例:2年目以降に年間コストを約30%削減しました。
  • AWSの事例:最終的に利用コストを29%削減しました。

5名の開発チームを立ち上げた製造業では、初年度に採用・育成費が高額になりました。その後、プロセスを標準化し、2年目以降は年間コストを約30%削減しています。

星野リゾートでは、AWSのサーバー稼働時間を見直して初期に13%削減しました。さらに、伴走型パートナーの支援を受けてリザーブドインスタンスに切り替え、29%の削減につなげました。

内製化の効果は、着手から2〜3年の期間で評価すると見えてきます。

見えない「調整コスト」の削減

外注保守では、会計上の保守費には現れない調整工数も、TCOに含めて考えます。

  • 調整作業:要望整理、打ち合わせ、見積確認が必要です。
  • 社内手続き:稟議や発注にも担当者の工数を使います。
  • 内製化の効果:待ち時間と調整工数を減らせます。

外注では小さな改修でも、要望整理から発注までの調整が発生します。この調整コストによって、リードタイムに占める実作業時間の割合(プロセス効率)は数%まで下がります。

内製化で待ち時間を減らせば、帳簿には表れないコストも削減できます。

カインズでは、脆弱性診断を内製化したことで、契約事務手続きがなくなりました。その結果、リードタイムが最大4週間短縮され、累計で数千万円を削減しました。

ポイント

初年度の費用だけで判断すると、内製化の効果を見誤ります。2〜3年の期間で、採用・育成費と調整コストの削減を合わせて見ると判断の材料になります。

採用・育成コストとその抑制策

教育訓練経費、訓練中の賃金、IT導入補助金の支援上限を3枚のパネルで示した図
経費と賃金には異なる助成率が設定されています。

人材の採用費と育成費は、内製化の保守運用コストで大きな負担になりがちです。そこで、助成金の活用や既存社員のリスキリングによって、人材コストを抑えられます。

IT人材不足と採用コストの実態

外部採用だけに頼る内製化では、採用の難しさと高いコストを、計画に最初から組み込む必要があります。

  • IT人材不足:2030年に最大約79万人不足する試算です。
  • 専門人材不足:2040年に約326万人不足する推計です。
  • デジタルスキル:日本は67カ国中67位でした。

IT人材の不足は、経済産業省の試算でも示されています。AI・ロボット開発人材は2040年に必要数約498万人とされる一方、供給は約172万人にとどまると推計されています。

IMDの「世界デジタル競争力ランキング2024」でも、日本の課題が見て取れます。さらに、採用広告費や人材紹介費が膨らみ、人員が計画どおり揃わないリスクもあります。

助成金・補助金による育成コスト圧縮

外部採用が難しいときは、既存社員のリスキリング(学び直し)も選択肢になります。

  • 人材開発支援助成金:教育訓練経費を最大60%助成します。
  • IT導入補助金:最大450万円を支援します。
  • リスキリング:業務知識を持つ人材を育てます。

人材開発支援助成金では、訓練期間中の賃金も最大75%が助成されます。

この賃金助成の補助率は最大4分の3(75%)で、教育訓練経費の最大60%とは別の率です。ある事例では、総額500万円の育成を実質100万円程度に抑え、最大80%近い削減を実現したと報告されています。

リスキリングなら、自社の業務とシステムを理解したエンジニアを育てられます。政府も、個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる方針です。

ハイブリッド戦略による領域ごとのコスト配分

保守運用のコストを抑えるには、領域ごとに内製、外注、SaaSを使い分けます。

  • コア領域:設計から運用まで内製化します。
  • ノンコア領域:SaaS、パッケージ、外注を使います。
  • リソース配分:内製の力を競争優位に集中させます。

顧客向けプロダクトやデータ基盤などのコア領域は、内製で主導権を握ります。

経費精算や勤怠管理のような領域は、SaaSや外注に任せます。SaaSへ切り替えれば、月額費用で機能とセキュリティを維持できます。

コア領域を内製化すれば、ベンダーロックインによる保守費の高騰を避けられます。

ポイント

採用だけに頼らず、既存社員の育成と助成金を組み合わせて計画することが判断の目安です。採用難と高コストを前提にすると、無理のない体制を描けます。

ブラックボックス化の防止と保守費の安定

内製化でも、属人化したシステムは新たなコストリスクになります。そのため、属人化を防ぎ、保守費を長期にわたって安定させる仕組みが欠かせません。

属人化が招く保守費の高騰リスク

担当者しか理解できない状態では、外注と同じブラックボックス化が社内で起きます。

  • 設計不足:異動後に誰も触れない状態になります。
  • 再開発費:外部SIerへの依頼で投資が無駄になります。
  • 継続条件:属人化を防ぐ仕組みが必要です。

製造業N社では、担当者が業務の合間にGoogle Apps Script(GAS)で見積管理システムを開発しました。独自仕様のシステムでしたが、設計ドキュメントは残されていませんでした。

担当者の異動後、システムは誰も触れない完全なブラックボックスになりました。その結果、外部SIerへ再開発を依頼することになり、莫大な費用がかかっています。

外注の中間マージンを削っても、再開発費がかかれば、その効果は相殺されます。

標準化とドキュメント文化による保守費の安定

属人化を防ぐには、ドキュメント化と標準化を組織のルールとして定着させます。

  • ドキュメント:設計書と業務フロー図を残します。
  • 共同確認:コードレビューとペア作業を組み込みます。
  • 標準化:担当者が替わっても運用できる状態にします。

業務フロー図は、Mermaid.jsなどで記述して共有する方法があります。複数人によるコードレビューやペアプログラミングを行えば、属人性を意図的に減らせます。

標準化には短期的な工数がかかりますが、引き継ぎコストを下げられます。さらに、障害対応の難易度も下がるため、ランニングコストが安定します。

伴走支援からの引き継ぎによるコストの抑制

外部の伴走型パートナーを使う場合、権利と知識の引き継ぎをあらかじめ設計しておく必要があります。

  • 権利の確保:ソースコードと設計書の移転を契約します。
  • 知識の移転:ペア作業とレビューで社内へ移します。
  • 自走体制:支援終了後も自社で保守します。

著作権は、プロジェクト終了時に発注者側へ無償で移転する旨を、契約に明記します。権利を確保しなければ、伴走パートナーへの依存が続いてしまいます。

知識を社内へ移しておけば、支援が終わった後も内製の固定費で保守運用を続けられます。そのため、伴走支援を自走のための投資にできるよう、引き継ぎを契約の段階から組み込みます。

ポイント

担当者が替わっても保守できるかが判断の目安です。設計書の有無と、外注先から知識を移す契約になっているかを先に確かめておくと、後の再開発費を抑えられます。

まとめ

日本企業のIT費用の約80%は、レガシー保守に使われています。外注保守は、中間マージンやブラックボックス化によって、構造的に高騰します。

内製化は、保守運用の主導権を自社へ戻す取り組みです。コストは、ベンダーへの変動費から、自社で管理する固定費へと転換していきます。

TCOで見ると、初年度は採用・育成費がかかるものの、中長期では抑制できます。たとえば、製造業では2年目以降に年間約30%、星野リゾートではAWS費用を29%削減しました。

助成金と補助金を使い、コア業務は内製、ノンコア業務はSaaSへ分けます。さらに、ドキュメント化と標準化で属人化を防ぎ、保守費を安定させることも重要です。

最後に、単年度ではなく数年単位のTCOで評価し、伴走支援のパートナーと構成を設計します。

▼全体ガイドの記事
・開発内製化の完全ガイド

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。