開発リソース不足のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

リソースが足りない企業でも、標準業務はSaaSやパッケージに任せ、競争優位になるコアだけを段階的に作れば、フルスクラッチのオーダーメイド開発を続けやすくなります。

避けるべき理由から、作り込む領域の決め方、開発体制、工数の抑え方へと、順に見ていきます。

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リソース不足下でフルスクラッチを避けるべき理由

フルスクラッチは要件に完全に合う反面、開発から保守まで多くのリソースを要します。人員が不足している企業が安易に選ぶと、開発工数が足りなくなり、リリース後も長く保守の負担を抱え続けます。リソースが少ない企業ほどSaaSやパッケージを優先すべき理由は、構造の面からも説明できます。

フルスクラッチによる保守負荷の増大

ゼロから作ったシステムは、バグ修正やセキュリティ対応、機能追加などに加えて、技術の更新も自社か委託先で担うことになります。

  • 維持費の増加:独自開発や改修を重ねるほど、将来の保守費用が膨らみます。
  • 属人化:担当エンジニアの退職後に、保守が難しくなることがあります。
  • DXの遅れ:技術的負債が残ると、システム刷新が進まないおそれがあります。

経済産業省のDXレポートでは、国内企業のIT関連費用の約80%が既存システムの維持・運営に使われていると示されています。また、部門ごとの過剰な独自開発やカスタマイズが、システムの複雑化とブラックボックス化を招いてきました。

対策をしなければ、2025年以降のメンテナンスコストはIT予算の9割以上を占めると予測されています。さらに、DXが進まない場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じるとされています。この損失額は、2018年時点の既存システム維持コストの約3倍に相当します。

人員が不足する企業がフルスクラッチを選ぶと、重い保守負荷を限られた人員で長く背負うことになります。そのため、パッケージソフトやSaaS、業界共通の標準システムへの移行を優先して検討します。業務を標準仕様に合わせれば、IT投資を抑えつつ、将来の変化に対応しやすい保守性と柔軟性を得られます。

SaaS・パッケージ優先という発想転換

リソースが不足している企業は、まずSaaSやパッケージを起点に検討します。

  • 保守:更新やセキュリティ対応、機能改善をベンダーに任せられます。
  • 導入:設定とデータ移行を中心に、短期間で立ち上げられます。
  • 初期負担:作り込み費用を抑え、月額のサブスクリプションで利用できます。

フルスクラッチと違い、要件定義から実装まで何か月もかけずに導入でき、自社の開発リソースを保守に取られずに済みます。

ただし、SaaSやパッケージでは自社業務を標準仕様に合わせる必要があり、普段のやり方と完全には一致しない場合があります。そこで大切なのは、現行業務の踏襲にこだわらず、標準仕様に沿って業務そのものを見直すことです。そうすれば、効率化と保守性を両立できるケースが多くあります。

長年続けてきた独自のフローが本当に競争優位の源泉なのか、それとも慣習にすぎないのかを問い直すことも欠かせません。標準で済む部分を標準に委ねれば、限られたリソースを、力を入れるべき領域へ集中できます。

ポイント

人員が限られる企業では、開発後の保守を誰がどこまで担えるかを先に確かめます。担えない範囲が多いなら、まずSaaSやパッケージを検討し、標準で済む部分は作り込まないようにします。

それでもフルスクラッチが必要な領域の見極め

標準部分、APIによる連携、独自部分を上下に示した構成図。
共通業務を標準に委ね、強みとなる領域に開発を寄せる構図です。

SaaSやパッケージが原則だとしても、すべてのシステムを標準で済ませられるとは限りません。そのため、競争優位の源泉となる領域には、独自開発で実現する価値があります。

どの領域がそれに当たるかは、次のFit&Gap分析で見極めます。見極めた領域へ、限られたリソースを集中させます。

Fit&Gap分析によるコアと非コアの分け方

Fit&Gap分析では、SaaSやパッケージの標準機能と、自社が必要とする要件を突き合わせます。

  • Fit:標準仕様で満たせる要件です。
  • Gap:標準仕様では満たせず、独自対応が必要な要件です。
  • コア領域:競争優位に直結する業務やシステムです。
  • 非コア領域:標準システムに委ねられる一般的な業務です。

システム移行や新規開発では、この分析をもとに、標準仕様に寄せる部分と、自社の強みを作り込む部分を分けます。

他社との差別化につながる業務を標準に合わせると競争力を失うため、その部分はフルスクラッチを選ぶ価値があります。一方で、経理処理、勤怠管理、一般的な顧客管理のように多くの企業で共通する非コア業務は、標準システムに委ねます。

すべてを作ればリソースが枯渇し、逆にすべてを標準にすれば差別化が失われます。そのため、見極めにはメリハリが必要です。競争優位のコアに開発リソースを集中し、その他はSaaSやパッケージで効率よく賄うことが、賢い活用の要になります。

標準とフルスクラッチを組み合わせる構成

コアと非コアを分けたら、標準システムと独自開発の組み合わせを設計します。

  • 標準部分:SaaSやパッケージを使います。
  • 独自部分:競争優位に直結するコアだけを作り込みます。
  • 連携:標準部分と独自部分をAPIでつなぎます。

たとえば会計や勤怠には既存SaaSを使い、独自の業務ロジックや顧客体験をオーダーメイドで開発します。

この構成なら、保守の大半を標準システムのベンダーに任せ、独自開発の範囲を絞れます。そのぶん、人材が不足していても、オーダーメイドの価値を持続的に提供できます。

設計の段階では、将来の拡張性と標準システムの更新への追従を考えて、両者の境界となるインターフェースを明確にします。境界が曖昧だと、標準システムの更新ごとに独自部分の改修が必要となり、保守負荷が増える恐れがあります。そこで、作り込む範囲を絞り、残りを標準に委ねてAPIで疎結合にすることが欠かせません。

ポイント

作り込むかどうかは、その業務が競争優位に直結するかで決めます。直結しない一般的な業務は、SaaSやパッケージに任せます。

外部リソースとコア内製のハイブリッド体制

内製と外部の2列に、内製の要件定義・設計・品質管理と外部の実装・テストを対応させた図。
設計と品質の判断を社内に置く分担です。

コア領域であっても、人材が不足する企業がすべてを内製するのは困難です。そこで、外部リソースとコア内製を組み合わせた体制が、限られた人員で開発を成り立たせる鍵になります。ハイブリッド体制では、内製と外部の役割分担を明確にしておくことが大切です。

コアは内製・実装は外部のスマートIT分業

外部リソースを活用するスマートIT分業は、IT人材が不足する状況で有効な方法です。

  • 内製:国内の自社コアメンバーが要件定義、設計、品質管理を担います。
  • 外部:オフショアや外部チームが実装やテストを担当します。
  • 体制調整:開発のピークに増員し、安定後に縮小できます。

たとえばベトナムなどの海外エンジニアを使うオフショア開発では、専門人材を比較的安定して確保できます。さらに、時差を活用して24時間体制に近い開発を行えば、リードタイムの短縮にもつながります。

外部に依存しきると、品質低下や技術の属人化、意思決定の遅れを招く恐れがあります。そのため、外部への丸投げは避けます。また、外部任せのシステムは、担当者がいなくなると誰も触れないブラックボックスになる可能性もあります。

競争優位のコア領域では、設計思想と重要な技術判断を社内で握ることが欠かせません。内製でそれらを押さえれば、独自の価値を作りながら自社の理解も保てます。実装を外部で補う分業によって、限られた人員でも開発を続けられます。

ラボ型・準委任による柔軟な作り込み

外部リソースを使う場合は、要件の変化とリソース制約に合う契約形態を選びます。

  • 請負:仕様が固まっている部分を確実に作る場合に向きます。
  • ラボ型:月額固定で体制を確保し、作るものを柔軟に変えられます。
  • 準委任:実工数に応じて費用が発生し、検証と改善を重ねる開発に合います。

要件が変わりやすいフルスクラッチでは、請負契約だと仕様変更のたびに追加費用や交渉が生じます。

要件が動くコア開発では、ラボ型や準委任で並走する方が適するケースが多くあります。さらに、コア領域を継続して育てる場合は、ラボ型のほうが都度発注より総額を抑えやすく、同じチームに知識も蓄積されます。

準委任はアジャイル開発と相性がよいものの、最終費用が変動するため、稼働上限を管理し、進捗を追える状態にしておく必要があります。仕様が固まった箇所は請負、変化する箇所はラボ型や準委任とする組み合わせも有効です。ただし、要件が動く前提で請負を選ぶと、追加費用や手戻りでリソースを浪費する恐れがあります。

柔軟性を確保しながらコストも管理できる契約設計が、開発を破綻させないための実務上の要点です。

ポイント

コアの設計と重要な技術判断は内製で握り、実装やテストは外部の力を借ります。外部に任せる範囲が広がるほど、担当者がいなくなった後に保守が難しくなる点にも注意します。

生成AI活用とスコープ最小化による工数の抑制

コーディング時間、課題完了時間、テスト工程、データ分析への生成AIの報告・事例を数値付きカード4枚で示す図。
示されている効果は工程ごとに指標が異なります。

コア領域と体制が決まったら、少ない工数で実現する工夫が必要になります。その工夫として、範囲の最小化と生成AIの活用が挙げられます。

スコープ最小化と断捨離による需要の平準化

工数を抑える基本は、作る範囲であるスコープを必要最小限にすることです。

  • 廃棄:不要な機能は作らず、システムから取り除きます。
  • 塩漬け:必要性が定まらない機能は、開発を保留します。
  • 段階開発:競争優位に直結する最小機能から提供します。

経済産業省のDXレポートは、システムを可視化して不要な機能を仕分け、全機能を一度に作り直さない方法を勧めています。

必要な機能に絞ると開発需要のピークを抑えられ、限られた人員に負荷が集中するのも防ぎやすくなります。

コア領域も最初から全部は作らず、競争優位に必要な機能を最小範囲から段階的に作るのが有効です。後から追加できる機能は、初回の作り込みから外します。

この分け方は、MVP(Minimum Viable Product)の考え方をフルスクラッチに当てはめたものです。初回リリース後は、ユーザーの反応を見て機能を広げていきます。この進め方なら、工数とリスクを同時に抑えられます。

作った機能は、将来の保守対象にもなります。だからこそ、小さく始めることで、長期的なランニングコストも抑えられます。

生成AIによるフルスクラッチの工数圧縮

スコープを最小化したあとは、生成AIが工数を圧縮する強力な手段になります。特に、ゼロからコードを書くフルスクラッチでは、支援の効果が大きく表れます。

  • コーディング:コードを書く時間が最大50%削減された報告があります。
  • 課題完了:実証実験では、完了までの時間が55%短縮しました。
  • テスト:AI自動化により、工程を90%削減した事例があります。
  • データ分析:従来の10倍以上の速度になった例があります。

コーディングでは、GitHub CopilotのようなAIツールの効果が報告されています。

GitHub社は、開発者95名を利用群と非利用群に分けて実験し、利用群の方が課題を早く終えたと確認しました。

実装の手間が減れば、限られたエンジニアでも、より広いコア領域を作り込めます。

データ分析では、品質分析や性能改善のサイクルを速められる点も見逃せません。

生成AIで一人ひとりの生産性が高まれば、エンジニアを増やせない現場でも、実質的に工数を増やしたのと同じ効果が得られます。

ただし、競争優位のコアを作るには、生成AIが出したコードの品質と設計の妥当性を、人間が責任を持って確認する必要があります。

生成AIを使う場合でも、何を作るかという設計思想と技術判断は内製のコアメンバーが担います。この部分を自社で押さえてこそ、限られたリソースで価値ある開発を続けられます。

ポイント

最初に作る範囲は競争優位に必要な機能に絞り、初回リリース後に機能を広げます。生成AIは実装の工数を減らす手段として使い、設計の判断は内製で行います。

まとめ

リソースが不足する企業は、先にSaaSやパッケージ、業界標準への移行を検討します。フルスクラッチは、開発から保守まで多くのリソースを使うためです。

国内企業のIT関連費用の約80%は既存システムの維持に使われ、2025年の崖が示す損失を踏まえると、現行業務の踏襲にこだわらず発想を転換する必要があります。

Fit&Gap分析でコアと非コアを分け、競争優位の源泉となる領域に開発リソースを集中します。コアの設計と意思決定は内製で担い、外部には実装を任せるハイブリッド体制が現実的です。

要件が動く部分はラボ型や準委任で柔軟に進め、固まった部分は請負にする方法もあります。

範囲を絞り、生成AIも活用すれば、限られた人員で価値あるオーダーメイド開発を目指せます。コーディング時間は最大50%削減、課題完了は55%短縮、テスト工数は90%削減した報告や事例があります。

作り込む部分を選び、その他を標準に委ねれば、フルスクラッチとパッケージを組み合わせた進め方になります。まず自社のコア領域を見極めることから始めます。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。