開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

既製のパッケージやSaaSでは要件を満たせず、自社の業務やビジネスモデルに完全に合わせた独自システム・プロダクトをゼロから作り上げる――それがフルスクラッチ・オーダーメイド開発です。標準化された製品を使うのに比べ、自由度と競争優位性は格段に高まりますが、その分、開発を担うチームに求められる総合力も跳ね上がります。設計、フロントエンド、バックエンド、インフラ、品質保証、デザインといったあらゆる職種をフルラインで揃え、長期にわたる大規模開発をマネジメントしきれる体制をどう作るか。フルスクラッチの成否は、技術選定や予算よりも、この「開発チームをどう構築するか」という一点にかかっていると言っても過言ではありません。

本記事では、開発チーム構築という上位の視点から、フルスクラッチ・オーダーメイド開発に必要なチームの作り方を体系的に解説します。個々の契約形態や技術の各論ではなく、「本格的な独自開発を担うチームをどう組成し、どうスケールさせ、どうマネジメントするか」という総論として、必要な職種の網羅性、内製の壁と混成という現実解、大規模化に伴うチーム分割の考え方、そしてフルスクラッチ特有のマネジメント上の注意点までを整理します。最後までお読みいただくことで、長期戦となるフルスクラッチ開発を支えるチーム設計の指針が得られるはずです。

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開発チーム構築とフルスクラッチ・オーダーメイド開発の全体像

開発チーム構築とフルスクラッチ・オーダーメイド開発の全体像

フルスクラッチ・オーダーメイド開発は、出来合いの部品を組み合わせるのではなく、要件に合わせて一から作り込むため、開発期間が長く、関わる人数も多くなります。期間が1年以上、人数が数十名規模に及ぶことも珍しくありません。この長期・大規模という特性が、チーム構築にいくつもの固有の課題を突きつけます。パッケージ導入のように「決められたものを設定する」のではなく、「何を作るか」から自分たちで決めていくため、ビジネスを理解した意思決定者の存在が不可欠であり、同時に幅広い技術領域をカバーする専門人材も必要になります。まずは、フルスクラッチがなぜ重厚なチームを必要とするのか、その全体像を押さえましょう。

フルスクラッチが重厚なチームを必要とする理由

フルスクラッチ開発が重厚なチームを必要とするのは、作るべき範囲が広く、かつ前例のない部分を自分たちで設計しなければならないからです。パッケージやSaaSであれば、ベンダーが用意した機能や設計思想に乗れますが、フルスクラッチではアーキテクチャ設計からデータベース設計、UI設計、インフラ構成、セキュリティ対策まで、すべてを自分たちの判断で組み立てる必要があります。一つひとつの判断に専門性が求められ、それを誤れば後の工程で大きな手戻りを招きます。さらに、長期にわたる開発の中で要件は変化し、技術も進化します。これに追従しながら品質を保ち続けるには、各領域の専門家が揃い、かつ全体を統括するマネジメント層が機能している必要があります。つまりフルスクラッチでは、「作る力」だけでなく「決める力」と「束ねる力」を兼ね備えたチームが求められるのです。

長期戦を見据えたチーム設計が前提

フルスクラッチ開発は、リリースまでに1年以上、その後の保守・改善まで含めれば数年単位の長期戦になります。この時間軸を前提にしてチームを設計しないと、途中で立ち行かなくなります。具体的には、特定の個人に依存しすぎない冗長性、メンバーの入れ替わりに耐えるドキュメントとナレッジ共有の仕組み、そして長期にわたってモチベーションと品質を保てるマネジメント構造が、最初から組み込まれている必要があります。短距離走のように一気に作り切れるものではなく、マラソンのように走り続けられる体制をどう作るかが問われます。だからこそフルスクラッチでは、目先の開発スピードだけでなく、「このチームは1年後、2年後も健全に機能し続けられるか」という持続可能性の視点でチームを構築することが、最初の重要な意思決定になります。

フルスクラッチが要求するチームの規模感と職種網羅性

フルスクラッチが要求するチームの規模感と職種網羅性

フルスクラッチ開発では、特定の職種だけでなく、開発に必要なあらゆる職種をフルラインで揃える必要があります。ここでは、フルスクラッチに不可欠な職種と、その責務、そして専門部隊として独立させるべき領域について解説します。

フルラインで揃えるべき職種

フルスクラッチ開発で揃えるべき職種は多岐にわたります。プロジェクト全体を統括するPM(プロジェクトマネージャー)、システム全体の構造を設計するアーキテクト、ユーザーが触れる画面を実装するフロントエンドエンジニア、サーバー側のロジックやデータベースを担うバックエンドエンジニア、サーバーやネットワークの基盤を構築するインフラエンジニア、品質を担保するQA、そして使いやすさを設計するUI/UXデザイナー。これらをフルラインで揃えて初めて、独自システムをゼロから作り上げる体制が整います。特に重要なのは、何を作るべきか(What)を定めるPdM(プロダクトマネージャー)やプロダクトオーナーの存在です。フルスクラッチでは「決められたものを作る」のではなく「作るべきものを決める」ところから始まるため、ビジネスの目的と優先順位を判断できる役割が不可欠になります。役割の境界が曖昧なまま走り出すと、誰も全体のアーキテクチャに責任を持たないまま各自が部分最適で実装を進め、後で統合できないという事態を招きます。

QA・インフラ・セキュリティは専門部隊として独立

フルスクラッチ開発が大規模になると、QA(品質保証)やインフラ、セキュリティは、開発チームの片手間ではなく、独立した専門部隊として横断的に機能させることが求められます。QAは、リリース直前にまとめてテストするのではなく、初期段階から仕様をチェックし、重大な欠陥を早期に発見する役割を担います。単体テストから受け入れテストまでを体系的に実施し、長期開発の中で品質基準を一貫して維持します。インフラとセキュリティは、システム全体の土台として、可用性・性能・安全性を担保する横断機能です。これらを各開発チームに任せきりにすると、チームごとに基準がバラバラになり、全体としての品質や安全性が担保できなくなります。そのため一定規模を超えたら、これらを専任部隊として独立させ、全チームに共通の基盤と基準を提供する体制にするのが定石です。職種を揃えるだけでなく、横断的に支える専門部隊をどう配置するかも、フルスクラッチのチーム設計の重要な論点になります。

内製の壁と混成(ハイブリッド)という現実解

内製の壁と混成(ハイブリッド)という現実解

フルスクラッチに必要なフルラインの職種を、すべて自社の正社員(内製)で賄えれば理想的です。しかし現実には、採用とリソース確保の壁が立ちはだかります。ここでは、内製の難しさと、その現実的な解として広く採られる混成(ハイブリッド)体制について解説します。

内製でフルラインを揃える難しさ

フルスクラッチに必要なすべての役割を内製で揃えるのは、容易ではありません。まず、プロジェクトの目的と優先順位を決定するPdM(プロダクトマネージャー)は、絶対に社内の人間、あるいは深くコミットするパートナーであるべきです。ここを外部に丸投げすると、自社のビジネス目的から外れた「ベンダーのためのシステム」になってしまうリスクがあります。一方で、高度なスキルを持つリーダー層(PMやPL)や、5〜10年以上のコーディング経験を持つシニア開発者は、社内でも既に別のプロジェクトにアサインされているケースが多く、適任者の確保は困難を極めます。さらに、履歴書上の経験年数だけでなく、「新しいAIツールを面白がって使えるか」「ビジネスの成功に興味があるか」といったマインドセットを持つ人材を集めることが、現在の開発現場では強く求められています。こうした人材を必要な人数だけ、必要なタイミングで社内に揃えるのは、IT人材不足が続く中で極めて難しいのが実情です。

「コアは内製、手足は外注」のワンチーム体制

内製のみでの人材確保が難しい中、最も成功確率が高い現実解は「コア(核)は内製、手足は外注」とするハイブリッド体制です。役割分担の基本は、ビジネスの意思決定(PdM)やコアとなるアーキテクチャの設計は自社で担い、実装リソースが不足する部分をフリーランスや開発会社(受託・ラボ型)といった外部パートナーに委託するというものです。この体制を成功させる鉄則は、外部チームを活用する際に「仕様書通りに作って」と切り離すのではなく、Slackなどのチャットツールで常時接続し、一つのチーム(ワンチーム)として密に連携することです。これにより、仕様の認識ズレをなくし、アジャイルな変更要求に耐えうる体制を作れます。フルスクラッチのような長期・大規模開発では、外部に丸投げするとビジネス目的からの乖離や品質のばらつきが生じやすいため、自社が手綱を握り続けながら外部の実装力を取り込むワンチーム型が、最も現実的で堅牢なアプローチになります。

スケール時のチーム分割とチームトポロジー

スケール時のチーム分割とチームトポロジー

フルスクラッチ開発が長期化し、人数が増えていくと、一つの大きな集団を一括管理する方式は限界を迎えます。ここでは、大規模化に伴うチーム分割の考え方と、その指針となる「チームトポロジー」の発想について解説します。

4〜8名のサブチームへの分割と大規模体制例

開発が長期化し、人数が30名を超えるような大規模開発へとスケールする場合、大きな集団を一括管理するのではなく、4〜8名程度の小規模なサブチームへと分割し、それぞれに専任リーダーを配置する構造設計が極めて有効です。大規模開発(30名以上)の体制例としては、全体を統括するPM(1名)の下に、進捗・リスク管理や標準プロセスの整備、品質管理を専任で担うPMO組織(3〜5名)、サブPMやプログラムマネージャー(2〜3名)、そして機能単位やモジュール単位で分割されたチームを率いるPL(5〜10名)とそのメンバー(30名以上)という階層構造が挙げられます。意思決定も、ステアリングコミッティ(月次)、PM会議(週次)、チーム定例(週次)といった4階層の会議体へと多層化させ、横断的な連携の仕組みを整えます。人数を増やせば速くなるという単純な話ではなく、自律的に動ける小さなチームに分割し、それらを束ねる構造をどう設計するかが、大規模フルスクラッチの成否を分けます。

チームトポロジーの4タイプという考え方

チーム分割の指針として近年広く参照されるのが、「チームトポロジー(Team Topologies)」という考え方です。これは、組織のチーム編成を四つの基本タイプに整理するフレームワークで、大規模フルスクラッチの体制設計に有用な視点を与えてくれます(以下はフレームワークの一般的な定義です)。一つ目は「ストリームアラインドチーム」で、特定の機能やサービスといった価値の流れに沿って自律的に開発を進める主役のチームです。先述のモジュール単位に分割した開発チームがこれに当たります。二つ目は「プラットフォームチーム」で、共通の基盤やツールを提供し、ストリームアラインドチームが本来の開発に集中できるよう支える役割で、前述のインフラ専任部隊が近い存在です。三つ目は「イネイブリングチーム」で、特定の技術やノウハウを他チームに移植し、能力を底上げする支援役です。四つ目は「コンプリケイテッド・サブシステムチーム」で、高度な専門性を要する複雑な部分を専任で担います。こうした類型を意識すると、大規模化したフルスクラッチで「どのチームが何に責任を持ち、どう支え合うか」を整理しやすくなります。実際の現場では、機能横断的なプロダクト型チームを基本としつつ、専門基盤を支えるプラットフォームチームを組み合わせた、いわゆるSpotifyモデルのようなマトリクス型へと発展させるケースも見られます。

フルスクラッチ特有のチームマネジメント注意点

フルスクラッチ特有のチームマネジメント注意点

フルスクラッチ開発は長期にわたるため、チームマネジメントの巧拙が品質と継続性を大きく左右します。ここでは、長期・大規模開発で特に陥りやすい落とし穴と、その対策を整理します。

属人化の排除とナレッジの分散

フルスクラッチ開発の長期化に伴って最も深刻なリスクとなるのが、属人化です。「特定の天才的な個人(英雄崇拝)」への依存や、「そのコードを書いた人しか仕様がわからない」という状態は、引き継ぎや保守において致命的なリスクになります。長期開発ではメンバーの入れ替わりが避けられないため、キーパーソンが抜けた途端にプロジェクトが立ち行かなくなる事態は、何としても防がなければなりません。これを防ぐため、社内Wiki等でのドキュメント(形式知)化はもちろん、ペアプログラミングやモブプログラミングを定常業務に組み込むことで、設計意図や暗黙知をリアルタイムにチーム全体へ分散(冗長化)させる仕組みが必須です。一人で抱え込ませず、常に複数人が同じ知識を共有している状態を作ることが、長期戦を戦い抜くチームの基礎体力になります。属人化の排除は、効率を一時的に犠牲にするように見えても、長期的にはチームの持続可能性を高める投資だと捉えるべきです。

RACIによる責任分界点の明確化

体制が複雑化し、チームが多層化すると、「誰が決めるのか」が曖昧になりがちです。意思決定の所在が不明確なまま進めると、判断が膠着したり、問題が起きたときに責任の押し付け合いが生じたりして、プロジェクト全体が停滞します。これを防ぐため、RACIマトリクス(実行責任・説明責任・相談先・報告先を整理する手法)を導入し、各タスクや決定事項について誰がどの立場で関わるのかを明文化します。特に重要なのは、一つの決定事項に対して「最終的な説明責任者」を厳格に1名のみとする原則です。説明責任者が複数いると、結局誰も最終判断を下せなくなります。あわせて、設計と実装のあり方も見直す価値があります。完璧な設計書を作ってから実装に渡すのではなく、設計書を「上司への報告用」ではなく「思考を共有し、チーム内で合意形成するためのツール」として最低限のものにとどめ、設計と実装を密に行き来させるアプローチが、長期開発では有効に働きます。責任の所在と意思決定の流れを明確にすることが、複雑なフルスクラッチ体制を機能させる土台になります。

まとめ

開発チーム構築のフルスクラッチ・オーダーメイド開発まとめ

本記事では、開発チーム構築の視点から、フルスクラッチ・オーダーメイド開発に必要なチームの作り方を解説しました。フルスクラッチは長期・大規模になりやすく、PM・アーキテクト・フロント・バック・インフラ・QA・デザイナーをフルラインで揃え、QA・インフラ・セキュリティは横断的な専門部隊として独立させる必要があります。すべてを内製で揃えるのは採用の壁が高く、現実解は「コアは内製、手足は外注」のワンチーム型ハイブリッドです。PdMなどビジネスの意思決定は社内に残し、実装リソースを外部から取り込みつつ、Slackで常時接続して密に連携します。30名を超える大規模化では、4〜8名のサブチームへ分割して専任リーダーを置き、ストリームアラインド・プラットフォーム・イネイブリング・コンプリケイテッドサブシステムというチームトポロジーの発想で責任分担を整理します。長期戦を支えるには、属人化を排除しナレッジを分散させ、RACIで説明責任者を1名に絞って意思決定を明確にすることが欠かせません。フルスクラッチの成否は技術や予算以上にチーム設計にかかっています。自社のプロダクトを長く健全に育てられる体制づくりを、ぜひ最優先で検討してください。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。