システムやプロダクトは、リリースして終わりではありません。むしろ本当のコストは、リリース後に開発チームを維持し続ける「保守・運用フェーズ」で発生します。バグ対応、機能追加、セキュリティ更新、ユーザー要望への対応といった継続的な改善を担う体制を、どのように作り、いくらで維持するのか。この問いに対する答えは、開発チームを内製(自社採用)で持つのか、受託(請負)で保守契約を結ぶのか、ラボ型で専属チームを月額確保するのか、それとも混成(ハイブリッド)で組むのかによって、ランニングコストの構造も金額も大きく変わります。多くの企業が初期の開発費だけを比較して意思決定しますが、3年・5年というスパンで見れば、保守・運用のランニングコストこそが総支出を左右する主役なのです。
本記事では、開発チーム構築という上位の視点から「保守・運用費用・ランニングコスト」を体系的に解説します。個々の保守契約の各論ではなく、チームの作り方ごとに維持コストがどう違い、どのように総保有コスト(TCO)を最小化するかという総論として整理します。内製チームの月額維持費、受託保守の相場、ラボ型の人月単価、そして委託から内製への移行によるコスト最適化まで、具体的な金額を交えて解説します。最後までお読みいただくことで、目先の見積金額だけでなく、中長期で本当に得をするチーム組成の判断軸が身に付くはずです。
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開発チーム構築と保守・運用費用の全体像

保守・運用費用を正しく捉えるには、「サーバー代やライセンス費といったインフラコスト」と「開発チームを維持するための人件費」を分けて考える必要があります。前者は比較的わかりやすく見積もれますが、ランニングコストの大半を占めるのは後者、すなわちチームを維持し続けるための人的コストです。そしてこの人的コストは、チームをどう組成するかによって「固定費」になるか「変動費」になるか、その性格まで変わります。ここを理解しないまま初期開発費だけで業者やプランを選ぶと、リリース後に想定外のランニングコストがのしかかり、プロダクトの継続そのものが危うくなることがあります。
ランニングコストの大半は人件費
システム開発・運用のランニングコストは、その大半が人件費で構成されます。インフラ費用やSaaSのライセンス費は月数万円〜数十万円規模で予測しやすい一方、改善や保守を担うエンジニア・PM・QAといった人材を確保し続けるコストは、その数倍から数十倍に達することが珍しくありません。だからこそ「どんなチームを、どれだけの規模で、どの契約形態で維持するか」という組成の設計が、ランニングコストの大きさを決定づけます。たとえば内製で正社員を抱えれば、稼働の有無にかかわらず毎月の人件費が固定費として発生します。逆に受託やラボ型なら、必要なときに必要な分だけ契約する変動費として扱える余地が生まれます。ランニングコストを論じる際は、まずこの「人件費が主役」という前提を共有しておくことが欠かせません。
固定費か変動費かはチームの作り方で決まる
同じ「保守・運用にいくらかかるか」という問いでも、チームの作り方によってコストの性格はまったく異なります。100%内製のチームは、人件費や設備費が固定費化するため、開発・改善のボリュームが多い時期には割安に感じられますが、業務量が減った時期や担当者が退職した際にもコストと採用リスクを抱え続けることになります。一方、受託(請負)やラボ型を活用すれば人件費を変動費として扱え、繁忙期だけ増員し閑散期は縮小するといった調整が可能になります。ただし変動費型には、ベンダーとの仕様合意や稟議、調整にかかる「見えないコスト」が上乗せされる点に注意が必要です。どちらが得かは一概には言えず、プロダクトの改善頻度や事業の継続性、社内に残したいノウハウの量によって最適解が変わります。だからこそ、コストの絶対額だけでなく「固定費と変動費のバランスをどう設計するか」という視点が重要になります。
チーム維持コストの内訳

ここでは、チームの作り方ごとに維持コストがどの程度かかるのか、具体的な金額の目安を示します。なお金額は規模や地域、スキルレベルによって変動するため、あくまで判断の出発点となる相場として捉えてください。
内製チームの月額維持費は400万〜600万円が目安
内製でチームを維持する場合、エンジニアの給与だけでなく、法定福利費(社会保険料の会社負担分)、採用費、PCやソフトウェアライセンス、オフィス関連費などの間接コストが上乗せされます。これらをすべて含めると、PM・エンジニア・QAなどで構成される4〜5名のチームの月額維持費は、おおよそ400万〜600万円程度の固定費になるのが一般的です。年間に換算すると5,000万〜7,000万円規模となり、決して小さくない投資です。注意すべきは、この費用は開発・改善の作業量が少ない月でも変わらず発生する点です。リリース直後の安定運用フェーズで改善要望が落ち着いた時期にも、抱えた人材分のコストは固定でかかり続けます。一方で、自社にエンジニアが常駐していることで、障害発生時の即応性やプロダクト知識の蓄積という、金額には換算しにくい価値が得られるのも内製の特徴です。
受託保守は初期開発費の年10〜15%が相場
受託(請負)でシステムを開発したベンダーと結ぶ保守契約は、バグ対応やシステム監視、軽微な修正などを範囲とし、一般的に初期開発費の年間10〜15%(月額換算で約1%前後)が相場です。たとえば初期開発費が1,000万円であれば、月額10万円前後の保守費用がランニングコストとしてかかる計算になります。これは固定的な人材を抱えるより安く見えますが、注意点があります。まず、軽微な修正を超える機能追加や改修は保守契約の範囲外となり、その都度の見積もりと契約が必要になるため、改善を重ねるほど追加コストが積み上がります。さらに、外部ベンダーによる受託開発では、システム開発費のうち平均30%以上が多重下請けによる「中間マージン」で占められているという構造的な問題も指摘されており、支払った金額のすべてが実装に回るわけではありません。改善頻度が低く安定運用が中心のプロダクトには適していますが、継続的に手を入れたいプロダクトでは割高になりやすい点を踏まえて選ぶ必要があります。
ラボ型の人月単価は国内80〜120万円・オフショア30〜50万円
ラボ型開発は、月額固定で専属チームを確保する契約形態です。1人月(エンジニア1人が1ヶ月稼働する分)あたりの単価相場は、国内のSIerやSES企業で80万〜120万円程度、ベトナムやフィリピンなどのオフショアで30万〜50万円程度が目安です。オフショアを活用すれば国内の2分の1〜3分の1程度に月額費用を抑えられますが、通訳・調整役となるブリッジSEのコストが追加でかかる点には注意が必要です。また、製品コードやテストコードの実装を含むアジャイル開発プランでは月額300万円〜、コンサルティングや伴走支援を伴う場合は月額100万〜数百万円規模という相場感もあります。ラボ型の利点は、契約期間内であれば追加費用や再契約なしで改善タスクを柔軟に進められる点で、継続的にプロダクトを育てたい場合に、受託保守のような都度見積もりの煩雑さを避けつつ、内製の固定費リスクも回避できる中間的な選択肢になります。
組成方法別のランニングコスト比較

ここまで見てきた各方式のコスト構造を、「採用(内製)」「委託(受託)」「ラボ型」という三つの組成方法の使い分けという観点で整理します。重要なのは、どれが一律に安いということではなく、プロダクトの性格や事業フェーズによって最適な方式が変わるという点です。
採用・委託・ラボの使い分け
採用(内製)が向くのは、プロダクトが事業の中核であり、改善を継続的に重ねながらノウハウを社内に蓄積したいケースです。固定費は高くつきますが、長期で見れば外注マージンや都度契約コストが不要になり、最も安定した体制になります。委託(受託保守)が向くのは、安定運用が中心で改善頻度が低く、年間の保守費を予算として固定したいケースです。改善が少ないほど割安になりますが、頻繁に手を入れると追加見積もりが積み上がります。ラボ型が向くのは、継続的にプロダクトを育てたいが、採用のリスクや固定費は避けたいケースです。月額で専属チームを確保しつつ、契約調整で増減できる柔軟性が魅力です。これらは排他的な選択ではなく、「コア機能の改善は内製、特定領域の実装はラボ、安定領域は受託保守」といった組み合わせで運用するのが、コストと品質を両立させる現実的なアプローチになります。
見えないコスト(中間マージン・調整コスト)
ランニングコストを比較するとき、見積書に書かれた金額だけを並べても正しい判断はできません。受託型には、前述の通りシステム開発費の平均30%超を占める多重下請けの中間マージンが潜んでいます。さらに、ベンダーとの仕様合意や稟議待ち、コミュニケーションロスといった「調整・協調コスト」が、目に見えない形でコストを押し上げます。これらは請求書には現れませんが、社内担当者の工数や意思決定の遅れという形で確実に発生しています。逆に内製や近接した混成チームは、この調整コストを大幅に圧縮できるため、月額の数字だけ見ると割高でも、トータルでは効率的なことがあります。コスト比較の際は、「表に出る費用」と「表に出ない調整コスト」の両方を勘案し、自社の意思決定スピードや社内リソースの状況を踏まえて評価することが欠かせません。
内製化によるコスト最適化

中長期のランニングコストを最適化する有力な打ち手が、委託から内製への移行です。一見すると内製はコストが高そうに思えますが、時間軸を伸ばして考えると、その評価は逆転することがあります。ここでは内製化によるコスト変化の実際を、具体的な事例とともに見ていきます。
初年度は割高、2年目以降に約30%削減の事例
内製化へ移行すると、初年度はエンジニアの採用・育成費やツール導入などの初期投資がかさみ、外注よりも高額になるケースが大半です。しかし中長期的には、外注費に含まれていた30%の中間マージンや、追加改修ごとの契約コストが不要になるため、大幅なコスト削減(最適化)が可能になります。具体的な事例として、ある製造業の企業では5名の内製チームを立ち上げた結果、初年度は外注より高額だったものの、2年目以降は年間コストが約30%削減されたと報告されています。また、星野リゾートではAWSなどのインフラ保守を外部の伴走支援を受けつつ内製化したことで、結果的にAWS利用費を29%削減することに成功しています。これらの事例が示すのは、内製化のコスト評価は単年度ではなく、初期投資を回収する2年目以降まで含めた複数年スパンで行うべきだということです。改善を継続的に重ねるプロダクトほど、内製化の経済合理性は高まります。
伴走型ハイブリッドで段階的に内製へ移す
いきなり全面内製に踏み切るのはリスクが高いため、現実的には伴走型のハイブリッドを経由して段階的に内製比率を高めるアプローチが取られます。これは、初期段階で外部パートナーに「移行トランザクションコスト(伴走支援費用)」を計画的に支払い、アジャイル開発の型やノウハウを社内に移植してもらう手法です。外部の専門家が自社メンバーとワンチームで動きながら、設計手法・運用フロー・技術選定の考え方を伝授し、徐々に社内メンバーが主体的に回せる状態へ引き上げていきます。この方式なら、完全内製による固定費リスクと、完全外注による調整コスト増大のリスクの双方を回避しながら、中長期的なランニングコストを最小化できます。コスト最適化は「外注をやめて内製に切り替える」という二者択一ではなく、「外部の力を借りて内製力を育てる」という移行プロセスとして設計するのが、失敗の少ない進め方です。
TCOで考えるコスト評価とリスク

チーム組成のコストを正しく評価するには、月額や年額といった目先の費用ではなく、TCO(Total Cost of Ownership=総保有コスト)の視点が欠かせません。ここでは、TCOの考え方と、各組成方法に潜むリスクを整理します。
TCOの構成要素
ランニングコストを比較する際は、目に見える月額費用だけでなく、TCO(初期投資+運用・保守費用+インフラ費+教育費+サポート費用の総和)で評価することが重要です。システム開発における取引コスト理論では、TCOは「直接開発コスト+外部調達費用+調整・協調コスト+移行トランザクションコスト」という要素でモデル化されます。ここで見落とされがちなのが「調整・協調コスト」です。これは、要件のすり合わせ、仕様変更の合意、稟議や承認のための待ち時間といった、直接的な開発以外に費やされる労力を指します。受託型では、このコストが膨らみやすく、実際にプロセス効率が数%にまで低迷するケースもあると指摘されています。月額単価が安いオフショアを選んでも、調整コストが膨らめばTCOはかえって高くなることもあるのです。コスト評価は、この四つの要素すべてを足し合わせた総額で行うべきだという原則を押さえておきましょう。
各方式に潜むコストリスク
TCOの観点で各方式のリスクを整理すると、次のように見えてきます。外注(請負)チームは人件費を変動費として扱えるメリットがある一方、要件定義やベンダーとの仕様合意、稟議待ちに膨大な時間と労力がかかり、調整・協調コストが莫大になってプロセス効率が大きく低下するリスクがあります。100%内製チームは、外部との調整コストをゼロに近づけられスピードは劇的に上がる一方、人件費や設備費が固定費化するため、業務量が減った際や担当者が退職した際の経営の柔軟性が損なわれるリスクを抱えます。ハイブリッド型(伴走・ラボ型活用)は、初期に外部パートナーへ移行コストを計画的に支払い、ノウハウを社内に移植することで、完全内製の固定費リスクと完全外注の調整コスト増大の双方を回避でき、中長期的なTCOを最小化する現実的なアプローチとされています。つまり、ランニングコストを抑える最適解は単一の方式に固定するのではなく、事業フェーズに応じて配分を見直し続けることにあります。
まとめ

本記事では、開発チーム構築の視点から保守・運用費用・ランニングコストを体系的に解説しました。ランニングコストの大半は人件費であり、内製・受託・ラボ型のどの方式でチームを維持するかによって、コストの性格(固定費か変動費か)も金額も変わります。内製チームは4〜5名で月額400万〜600万円程度の固定費、受託保守は初期開発費の年10〜15%、ラボ型は1人月あたり国内80〜120万円・オフショア30〜50万円が目安です。受託型には平均30%超の中間マージンや調整コストが潜み、内製化は初年度こそ割高でも2年目以降に約30%削減した事例があるなど、評価は複数年のTCOで行うべきです。最適解は単一方式への固定ではなく、「コアは内製、実装はラボ、安定領域は受託保守」といった配分を事業フェーズに応じて見直し続けることにあります。目先の見積金額に惑わされず、調整コストや中間マージンまで含めた総保有コストで判断し、自社のプロダクトに最適なチーム維持の形を設計してください。
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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
