ECサイト運用保守のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

ECサイトをフルスクラッチで作るかどうかは、独自業務の有無、保守を担う体制、長期にかかる費用から決めます。その良し悪しが分かるのは、公開後に何年も続く運用保守の段階です。

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運用保守から見たフルスクラッチとSaaS・パッケージの違い

構築方式を比べる三つの運用保守観点をカードで示した図解。
方式選びでは公開後の担当範囲も見比べます。

ECサイトは公開後の運用保守が利益を左右します。同じ機能でも、構築方式によって保守の負担は大きく変わります。

比べる観点は5つで、まず保守性と脆弱性対応を見ます。そのほか拡張性、外部連携、商戦期スケールも比べます。自由度だけで方式を選ぶと、公開後の運用で予想外の負担を抱える恐れがあります。

保守性と脆弱性対応の責任範囲

保守性の差は、脆弱性対応を誰が担うかに表れます。発注側は、構築方法ごとの担当範囲を開発会社と確かめておく必要があります。

  • SaaS:サーバー管理、更新、脆弱性対応は、提供元による自動対応。
  • オープンソース・パッケージ:OS更新やパッチ適用は、自社または委託先が担当。
  • フルスクラッチ:独自コードの保守と脆弱性対応は、自社の責任。

Shopifyやmakeshopのようなクラウド型SaaSは、インフラ保守の手間をかけずに、最新で安全な状態を保ちやすい仕組みです。一方で、EC-CUBEなどは自社環境に構築するため、定期的な更新も欠かせません。

フルスクラッチでは、脆弱性情報の収集とパッチ適用も自社の責任になります。インターネット上のECサイトは、不正アクセスやサイバー攻撃の標的になります。そのため、対策を常に最新に保つ必要があります。

攻撃に備えて、24時間365日の監視と障害対応が必要になる場合もあります。さらに、潜在的なバグへの対応も加わります。その結果、保守の負担はパッケージ以上になりやすく、高額な保守費の要因にもなります。

拡張性とモール・外部連携の追従

拡張の自由度と連携先の保守負担は、構築方式によって異なります。ここでは、機能の追加と連携先の変更にどう対応するかで比べます。

  • フルスクラッチ:拡張性が高く、機能やデザインを自由に設計できる。
  • SaaS:基本仕様の範囲で、用意されたアプリを使った拡張。
  • パッケージ:プラグインを基にカスタマイズできるが、自由度はフルスクラッチに及ばない。

フルスクラッチなら、理想の機能を100%実現できます。一方で、機能を追加するたびに設計・開発・テストが発生し、費用と期間が増えやすくなります。それが、運用保守上の代償です。

外部連携への追従も、運用保守で差が出る部分です。SaaSやパッケージには、WMSやモールとの連携アプリや標準APIが備わる場合があります。連携先の仕様変更にも、提供元が更新で対応することがあります。

フルスクラッチでは、基幹ERPや外部モールの変更に合わせて、自社でAPIやデータ形式を改修する必要があります。楽天やAmazonも定期的に仕様を更新するため、改修は続いていきます。

連携エラーの監視と改修を怠ると、在庫ズレや受注エラーにつながります。拡張の自由には、仕様変更に追従する責任が伴います。

商戦期スケールとアクセス集中対策

テレビ紹介や大型セールでは、短時間にアクセスが急増します。商戦期の対策は、方式によって負担が変わる重要なテーマです。ここでは、各方式の担当範囲を比べます。

  • SaaS:クラウド基盤を使うため、サーバー増強の手配は基本的に不要。
  • 自社サーバー:事前テストの実施と、必要に応じた増強費の負担。
  • フルスクラッチ:容量設計、監視、増強手配の自社担当。

SaaS型のShopify Plusなどは、プラットフォーム側が拡張性を担保します。そのため、アクセスが急増したときもサーバーダウンのリスクは低くなり、担当者は負荷対策の心配から解放されます。

パッケージやフルスクラッチで自社サーバーを管理する場合は、ピーク負荷に耐えるかを確かめるインフラテストが必要です。フルスクラッチでは、さらにキャパシティ管理や24時間体制の監視も求められます。自前でオートスケールを組むには、高度な技術力と専門人材が要ります。

フルスクラッチのECでは、商戦期の安定稼働が毎年繰り返される試練になります。そのため、継続的な費用と労力を投じる必要があります。また、セールの時期にもサイトを落とさずに保つことは、大きな保守作業です。

ポイント

運用の負担を誰が担うかを、保守性から商戦期まで5つの観点で見極めることが出発点です。自社が担えない部分があるなら、フルスクラッチは避けるほうが安全です。

フルスクラッチを選ぶべきケースと避けるべきケース

フルスクラッチの選定条件として独自業務、独自機能、大規模連携、運用体力を並べた図解。
独自性を支える運用資源も選定の軸になります。

保守の負担と費用の面から見ると、多くのEC事業者にとっては、フルスクラッチが合いにくいといえます。それでも、フルスクラッチが正解になるケースはあります。運用保守の現実に照らして、両面から見ていきます。

フルスクラッチを選ぶべきケース

前提になるのは、既存のSaaSやパッケージをどうカスタマイズしても実現できず、競争力の源泉となる独自業務があることです。自社が該当するかを確かめておきましょう。

  • 独自業務:複雑な商流や特殊なビジネスモデルを持つ。
  • 独自機能:レコメンドや価格設定、会員ランク、ポイント体系の仕組みが競争力を形作る。
  • 大規模連携:数十万SKUを一品ごとに管理し、APIのない巨大なレガシー基幹とミリ秒単位の完全リアルタイム連携(密結合)が必須。
  • 運用体力:高額な保守費と専任チームを維持できる。

初期費用は数千万円から、月額保守費用は100万円以上となる場合があります。そのため、専任チームと監視体制を保てる年商数十億から数百億円規模の大企業が、現実的な対象になります。

独自性が競争力に直結し、長期にわたって自社で守り育てる覚悟と資源があるなら、他の方式では得にくい強みになります。

フルスクラッチを避けるべきケース

フルスクラッチを避けるべきケースは少なくありません。たとえば、標準機能で要件を満たせる場合などがあります。

  • 標準機能で対応可能:SaaSやアプリで要件の8割を満たせる。
  • デザインが主な理由:ブランド表現やUI/UXへのこだわりだけで選ぼうとしている。
  • 投資回収が難しい:立ち上げ期、または年商数億円未満でTCOの回収見込みが立たない。
  • 体制が不足:IT人材や運用予算を確保できない。

要件の8割をSaaSで満たせるなら、残りの2割のこだわりのために、保守負担が何倍にもなる方式を選ぶのは合理的ではありません。また、SaaSやパッケージでも高度なデザインは実装できます。

保守費を出せずに脆弱性対応や仕様変更が滞ると、セキュリティリスクを抱えたまま塩漬けになる失敗が珍しくありません。特定の担当者しか仕様を把握できない属人化や、開発した1社に依存し続けるベンダーロックインを許容できない企業にも、フルスクラッチは不向きです。

導入費用を抑えたい場合や、短期間で立ち上げたい場合は、SaaSやパッケージが候補になります。

ハイブリッドという第三の選択肢

フルスクラッチとSaaSの二択で考えると、判断を誤りやすくなります。近年は、両者を領域ごとに分けて組み合わせる方法も現実的な選択肢になっています。どの領域を任せ、どの領域を自社で作るかを分けるのが特徴です。

  • SaaSに任せる領域:購入体験やフルフィルメントを安定基盤で運用する。
  • 独自開発する領域:競争力の源泉となる機能をAPI連携で外付けする。

この構成はヘッドレスコマースやコンポーザブルコマースとも呼ばれ、フルスクラッチとSaaS専業の中間に位置します。SaaSのセキュリティ対応とインフラの拡張性を受けつつ、独自性も保てます。

これは、保守負担の大きい領域を提供元に任せ、独自ロジックに労力を集中させる、リスク分散の考え方です。機能ごとに作るか借りるかを選ぶ視点が、長期運用に役立ちます。

まず、自社の要件を洗い出し、本当にフルスクラッチでしか実現できない部分を見極めます。開発範囲を絞れば、保守負担を大幅に軽減できる可能性があります。

ポイント

独自業務と独自機能が競争力に直結し、運用体力もある企業なら、フルスクラッチを選ぶ価値があります。標準機能で足りるなら、SaaSかハイブリッドを先に検討します。

初期費用・保守費用・開発期間の目安

3〜5年間のTCOを構成する初期構築費、月額保守費、決済手数料・サーバー代を積層で示した図解。
継続して発生する費用も総額に含めます。

フルスクラッチを検討するなら、初期費用、運用保守費用、開発期間の見積もりを現実的に出すことが欠かせません。特に保守費は長期収支を左右するため、発注側は構築前に把握しておく必要があります。ここでは、各方式の相場を比べたうえで、フルスクラッチのコスト構造を見ていきます。

初期費用と開発期間の相場

方式ごとに、初期費用と開発期間には大きな差があります。見積もりの条件と、長期運用への影響も確かめておきたいところです。

  • SaaS・ASP型:0円〜500万円程度、1ヶ月〜4ヶ月。
  • オープンソース型:100万円〜1,000万円程度、数ヶ月〜1年。
  • ECパッケージ:500万円〜5,000万円程度、半年〜1年。
  • フルスクラッチ:3,000万円〜数千万円以上、場合により1億円超。期間は半年〜1年以上。

SaaS・ASP型はShopifyやmakeshop、オープンソース型はEC-CUBE、パッケージはecbeingが例です。SaaSの費用は、デザインの作り込みでも変わります。

なお、中〜大規模なEコマースWebシステムは、要件定義から本番運用まで1年以上かかることも珍しくありません。初期費用と期間の大きさは、運用保守にも影響します。大きな投資をしたシステムは簡単に作り替えられないため、何年もの保守が続きます。

初期構築の段階で将来の保守しやすさを確保することが、総費用を決める重要な分岐点です。

運用保守費用の相場とコスト構造

運用保守費用は、フルスクラッチを検討する際に特に慎重な見積もりが必要です。構築費や連携の複雑さで変わるため、年率と月額の両方で比べます。

  • 年間の保守費:開発費用の5〜15%程度が目安で、高度なカスタマイズや外部API連携が多い場合は最大20%になることがあります。
  • SaaS:月額数千円〜数万円に、決済手数料とアプリ利用料が加わる。
  • オープンソース:月額数万円〜で、インフラ費と自社責任の保守費がかかる。
  • ECパッケージ:月額10万円〜50万円程度で、月額利用料と保守サポート費を含む。
  • フルスクラッチ:月額50万円〜100万円以上。

フルスクラッチは監視などを含め、年間数百万円から1,000万円を超える場合があります。そのため、発注側は保守費を最初から予算に組み込んでおく必要があります。

費用には、インフラ維持や24時間365日の死活監視、脆弱性パッチが含まれます。加えて、外部連携の改修、障害対応、機能改善も含まれます。

保守費は安全な稼働に必要なコストで、削るほどセキュリティや障害のリスクが高まります。したがって、保守費は5年間の総額で判断します。

TCOによる投資回収のシミュレーション

TCO(Total Cost of Ownership=総保有コスト)で比べると、初期費用だけでは分からない差が見えてきます。比較の際は、含める費用を一つずつ確かめておく必要があります。

  • 初期構築費:構築時に必要な費用。
  • 月額保守費:公開後の運用・保守費用。
  • 決済手数料・サーバー代:運用中に継続してかかる費用。

SaaSは初期費用が安くても、売上の3〜5%の決済手数料やオプション課金が重なる場合があります。特に、売上規模が大きいほど月々の負担も増えます。

フルスクラッチは初期費用と保守費が高額でも、決済手数料の条件を整えれば、一定の売上規模を超えたところで総費用が逆転する可能性があります。

耐用年数は一般的に3〜5年です。そのため、年商の成長を複数のシナリオで描き、3〜5年間の費用と採算を比べることで、方式や切り替え時期を検討できます。目先の初期費用だけでなく、5年スパンの総額で投資回収を判断します。

ポイント

初期費用だけで判断せず、保守費を含めた3〜5年のTCOで比べます。フルスクラッチが割に合うかは、売上規模と決済手数料の見通し次第です。

運用保守を見据えたフルスクラッチ設計の留意点

フルスクラッチを選ぶなら、構築時の設計が長期の運用費用とリスクを左右します。そこで、将来の保守や契約に備えて、押さえたい点を順に見ていきます。

マイクロサービス化によるロックインの回避

アーキテクチャを分けると、障害の影響範囲やベンダーへの依存を抑えやすくなります。ここでは、構成ごとの特徴を比べます。

  • モノリシック:機能を一体化し、一部の障害が全体の停止につながるリスクがある。
  • マイクロサービス:機能単位で分け、サービスごとに切り替えやすい。

決済や在庫などを疎結合にしておくと、決済だけをより安価で高性能なサービスに変えられます。モノリシック構成では、一部の変更にも全体の改修と大規模なテストが必要になります。

一方で、機能を分割すれば影響を限定し、機動的に改修できます。そのため、運用中の機能強化やベンダー変更を見込み、部分的に作り替えられる設計にしておきます。

著作権の明確化とSLA・定期レビューの設定

契約では、権利と責任の範囲、稼働の基準を明確にしておきます。長期運用に必要な取り決めを、発注側と開発会社で一つずつ確かめておきます。

  • 技術と権利:オープンソースの活用を検討し、ソースコードの著作権・所有権を定める。
  • 責任の範囲:RFPや契約で、データ移行とトラブル時の担当を明記する。
  • 稼働条件:対応時間と目標復旧時間を定めたSLAの締結。
  • 定期確認:月次または四半期ごとの運用状況レビュー。

独自技術に依存すると、特定のベンダーから離れにくくなります。ただし、オープンソースでも、権利がベンダーに帰属すれば他社へ引き継げない場合があります。

定期レビューでは、SLAの達成率やセキュリティパッチの適用状況を確かめます。見つかった課題を、ベンダーと改善し続ける体制が、安定稼働を支えます。

データポータビリティと将来の移行への備え

事業の成長や技術の変化によって、システムは老朽化し、将来リプレイスが必要になることがあります。そのため、移行のしやすさは初期の段階から確かめておく必要があります。

  • データ出力:顧客、受注、商品マスタをCSVなど標準形式で出せる。
  • 連携API:外部システムと連携する拡張性のあるAPIが公開されている。
  • データ形式:連携するデータの粒度や形式を、担当者とベンダーで決める。

データが独自形式でしか取り出せないと、移行時に膨大な変換が生じ、事実上移行できなくなる場合もあります。たとえば、ECで受注した後に基幹で在庫を減らし、倉庫から出荷する業務では、文字コードや桁数、税込と税抜の違いが連携エラーを招きます。

開発の前に、データ形式を運用担当者やベンダーとすり合わせておきます。将来の移行まで見据えた設計が、システムの負債化を防ぎます。

ポイント

将来の作り替えや移行を前提に、マイクロサービス化、権利、SLA、データ形式を開発前に決めておくことが、長期の保守費を抑える鍵です。

まとめ

フルスクラッチは理想の機能を実現できる一方、保守や脆弱性対応を自社で担うことになります。また、外部連携や商戦期の対策も、自社の担当になります。

独自業務が競争力の源泉で、運用費用と体制を確保できる企業なら、フルスクラッチが合います。一方で、要件の8割をSaaSで満たせる場合や、デザインだけが理由の場合、立ち上げ期や年商数億円未満の場合は、避ける判断も必要です。

初期費用3,000万円以上、月額保守50万円以上となる場合もあります。そのため、3〜5年のTCOで投資回収を比べます。

選ぶ場合は、マイクロサービス化を検討し、権利の明確化とデータ移行の備えを、初期から整えます。SLAと定期レビューも、契約の段階で決めておきます。

作るときだけでなく、運用保守に何年も向き合う前提で方式を選びます。まずは自社の要件を洗い出し、独自開発が必要な範囲を見定めてから、開発パートナーに相談します。

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会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。