ECサイトの多言語対応開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について

ECサイトの多言語対応を検討する企業が最終的に直面するのが、「ShopifyのようなSaaSの多言語機能で十分なのか、それともフルスクラッチで独自に作り込むべきか」という選択です。Shopify Marketsは標準で50以上の言語と130か国以上の通貨に対応しており、多くの企業にとっては多言語ECの実装難易度を最も下げる現実的な選択肢です。しかし、国ごとに商品ラインナップや価格戦略、在庫の引き当て元、決済方法がまったく異なる複雑なビジネスを完全に統合したい、あるいはグローバル対応のERP(基幹システム)と制約なく自由に連携したいといった、SaaSやパッケージの標準機能の枠に収まらない高度な要件を持つ企業にとっては、フルスクラッチ・オーダーメイド開発が選択肢に上がります。一方で、フルスクラッチは開発費用が数千万〜数億円、期間も1年以上に及ぶことが一般的で、各国の法改正や海外決済APIの仕様変更にもすべて自社のコストで対応し続ける必要があります。安易に選べば、多額の投資と長い納期が事業展開のスピードを損なうリスクもはらんでいます。

本記事では、ECサイトの多言語対応開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発に焦点を当て、フルスクラッチが適すケースと不適なケース、SaaS・パッケージ・オープンソースとの比較、フルスクラッチで多言語ECを作るメリットとデメリット、成功を左右する多言語・多通貨のデータモデルと地域別の出し分け設計、そして開発を成功させるための具体的なポイントまでを体系的に解説します。どんな企業がフルスクラッチを選ぶべきか、多言語・多通貨のデータをどう設計すべきか、地域別の決済・配送・税をどう出し分けるのか、そして長期にわたる保守コストをどう見積もるのかといった、多言語・越境ECならではの論点を中心に取り上げます。これからフルスクラッチとSaaSのどちらで多言語ECを構築するか判断したい方はもちろん、本格的なグローバルEC基盤の構築を検討している方にとっても、後悔のない意思決定をするための判断軸が身に付く内容です。

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多言語ECのフルスクラッチ開発とは

多言語ECのフルスクラッチ開発とは

多言語ECにおけるフルスクラッチ開発とは、SaaSやパッケージ、オープンソースといった既存のプラットフォームを使わず、自社の要件に合わせて多言語・多通貨・越境対応のECシステムをゼロから設計・開発する手法です。最大の特徴は、言語ごとの表示、現地通貨での価格、国別の決済・配送・税の扱い、現地法令への対応といったあらゆる要素を、既存製品の制約に縛られず完全に自社の要件どおりに作り込める点にあります。その代わり、構築には数千万〜数億円の費用と1年以上の期間がかかり、公開後の保守も含めて重い負担を伴います。多言語ECの実装には、集客支援タグ型、SaaS標準機能型、マルチサイト運用型、オープンソース+プラグイン型、そしてフルスクラッチ型という選択肢があり、フルスクラッチはこのスペクトラムの中で最も自由度が高く、同時に最もコストと期間がかかる位置にあります。

重要なのは、フルスクラッチは「すべての企業にとって最良の選択肢」ではないということです。多言語化の難易度を最も下げるのはShopify MarketsのようなSaaSであり、多くの企業はまずSaaSやパッケージで多言語対応を実現できます。フルスクラッチが意味を持つのは、これらの標準機能の枠にどうしても収まらない、超高度で独自性の高いグローバル要件を持つ場合に限られます。そのため、フルスクラッチを検討する前に、まず「自社の要件は本当にSaaSやパッケージで実現できないのか」を見極めることが、無駄な投資を避ける出発点になります。本章では、多言語ECの実装方式におけるフルスクラッチの位置づけ、適すケースと不適なケース、そしてSaaS・パッケージ・オープンソースとの比較を整理します。

多言語ECの実装方式とフルスクラッチの位置づけ

多言語ECの実装方式は、自由度とコスト・期間のトレードオフで整理できます。最も手軽なのが集客支援タグ型で、既存サイトにタグを設置するだけで越境購入導線・多言語サポート・海外決済・国際配送をサービス側に代行してもらえますが、作り込みの自由度は低くなります。次がSaaS標準機能型(Shopify Markets等)で、50言語・130通貨・100種類以上の決済を標準対応し、実装難易度が最も低い反面、チェックアウト画面の特殊なカスタマイズや、国ごとに完全に独立した複雑なビジネスロジックの実装には一定の制約があります。マルチサイト運用型は、国ごとに独立したサイトを構築して現地のニーズに寄せられますが、サイト数分の運用負荷がかかります。オープンソース+プラグイン型(Magento/Adobe Commerce等)は多通貨・多言語に強い反面、サーバーのセキュリティ対応やバージョンアップを自社責任で行う必要があります。そして最も自由度が高いのがフルスクラッチで、これらの標準機能の枠にどうしても収まりきらない超高度なグローバル要件を実現するために選ばれます。フルスクラッチは「自由度の最大化」と引き換えに「コストと期間と保守負担の最大化」を受け入れる選択であり、その位置づけを正しく理解することが、適切な方式選定の前提になります。

フルスクラッチが適すケース・不適なケース

フルスクラッチが適すのは、年商数十億円以上のグローバル・エンタープライズ企業で、国や地域ごとに商品ラインナップ・価格戦略・在庫の引き当て元(グローバルの複数倉庫)・決済方法がまったく異なる複雑な業務フローを完全に統合したいケースです。また、既存のグローバル対応ERPとAPIの制約なく完全かつ自由にデータ連携を行いたい場合も、フルスクラッチが選択肢になります。こうした要件は、SaaSやパッケージの標準機能では実現が難しく、独自開発でしか満たせないためです。一方、フルスクラッチが不適なのは、立ち上げ期から年商数億円規模の企業で、まずは海外市場の反応をテストマーケティングで見たい段階や、初期費用を抑えて早期に市場参入したいケースです。このフェーズでフルスクラッチを選ぶと、多額の開発費と年単位の期間がかかり、事業展開のスピードが大きく損なわれます。市場の反応がまだ不確実な段階で大規模投資をすれば、もし需要が想定を下回ったときの損失が甚大になります。多言語ECでフルスクラッチを選ぶべきかは、「自社の事業規模と要件の複雑さが、フルスクラッチでなければ実現できない水準に達しているか」で判断するのが基本です。多くの企業にとっては、まずSaaSやパッケージで始め、事業が成長して標準機能の制約が明確になってからフルスクラッチを検討する順序が現実的です。

SaaS・パッケージ・オープンソースとの比較

フルスクラッチを判断するには、他の実装方式と多言語対応の観点で比較しておくことが欠かせません。SaaS(Shopify Markets等)は、標準で50言語・130か国以上の通貨に対応し、越境ECの実装難易度が最も低いプラットフォームです。手軽に多言語・多通貨を展開できる反面、チェックアウト画面の特殊なカスタマイズや、国ごとに完全に独立した複雑なビジネスロジックの実装には制約があります。オープンソース(Magento/Adobe Commerce等)は、世界的に使われ多通貨・多言語対応に強みを持ちますが、サーバーのセキュリティ対応やバージョンアップを自社責任で行う必要があり、運用には相応の技術力が求められます。これらに対してフルスクラッチは、SaaSやパッケージの標準機能の枠にどうしても収まらない、たとえば国ごとに異なるサブスクリプションモデルを複合させるといった超高度なグローバル要件を実現するために選ばれます。比較の要点は、「標準機能で要件の何割を満たせるか」です。標準機能で7割を満たせるのに、残り3割の独自要件のために全体をフルスクラッチにすると、コストと期間が跳ね上がり、保守負担も増えます。多くの場合、まずSaaSやパッケージで標準を試し、標準で詰まる独自要件が明確になってからフルスクラッチへ移行する段階的なアプローチが、最初から作り込むより手戻りが少なく合理的です。

フルスクラッチで多言語ECを作るメリット・デメリット

フルスクラッチで多言語ECを作るメリット・デメリット

フルスクラッチで多言語ECを構築するかを判断するには、メリットとデメリットを正しく天秤にかけることが欠かせません。フルスクラッチは「何でも自由に作れる」という強力なメリットを持つ一方で、その自由と引き換えに高コスト・長納期・重い保守負担というデメリットを背負います。とくに多言語・越境ECでは、各国の法改正や海外決済APIの仕様変更への継続対応という、国内ECにはない保守の重さが加わります。ここでは、フルスクラッチで多言語ECを作るメリットとデメリット、そして費用と期間の目安を整理します。

メリット(制約のないローカライゼーションとヘッドレス)

フルスクラッチで多言語ECを作る最大のメリットは、制約のないローカライゼーションです。国ごとの特殊な税制(EUの付加価値税/VATなど)や、現地のローカル決済(中国のAlipay・WeChat Pay、東南アジアのGrabPayなど)、関税の計算を、自社の要件に合わせてミリ単位で自由に設計・実装できます。SaaSやパッケージでは標準機能の範囲でしか対応できない国別の細かなルールも、フルスクラッチなら完全に自社の業務フローどおりに作り込めます。もう一つの大きなメリットが、フロントエンドの完全な自由です。ヘッドレスコマースの構成を採れば、言語や文化圏ごとに好まれるまったく異なるUI/UX(画面デザインや購入導線)を、バックエンドのシステムに縛られず制約なく構築できます。たとえば、ある国向けには画像中心の華やかなデザイン、別の国向けには情報量の多いシンプルなデザインといった、現地の嗜好に深く寄り添った体験を提供できます。さらに、システムを完全に自社所有できるため、特定のプラットフォームに依存するベンダーロックインを避けられ、IT資産として長期的に活用できる点もメリットです。これらの自由度は、標準機能の枠を超える独自のグローバル戦略を持つ企業にとって、フルスクラッチを選ぶ強い動機になります。

デメリット(高コスト・長納期・法改正の自力対応)

フルスクラッチで多言語ECを作るデメリットは、まず莫大なコストと長い納期です。開発費用は数千万円〜数億円、期間は1年以上かかることが一般的で、SaaSなら数週間〜数か月で始められる多言語対応に、桁違いの投資と時間を要します。この大規模投資は、事業の立ち上げスピードを遅らせ、市場の変化への対応を鈍らせるリスクを伴います。さらに多言語・越境ECで特に重いのが、法改正や仕様変更への「自力対応」リスクです。SaaSであればプラットフォーム側が対応してくれる各国の法改正(GDPRなどのプライバシー規制など)や、海外決済APIの仕様変更に対し、フルスクラッチではすべて自社のコストで継続的にシステムを改修し続けなければなりません。越境ECは対象国の制度に依存するため、ある国が税制を変えれば対応が必要になり、決済事業者がAPIを更新すれば追従が必要になります。これらは公開後も延々と発生する保守負担であり、対応を怠れば法令違反や決済停止といった重大なリスクに直結します。加えて、セキュリティ対策やインフラの運用、不具合への対応もすべて自社か保守契約で継続する必要があります。フルスクラッチの「自由」は、これらの重い継続責任とセットであることを理解したうえで選択することが重要です。

費用と期間の目安

フルスクラッチで多言語ECを構築する場合の費用と期間の目安を把握しておくと、他の方式との比較がしやすくなります。初期開発費用は数千万円〜数億円規模、開発期間は1年以上が一般的です。これは、要件定義から多言語・多通貨のデータモデル設計、国別の決済・配送・税のロジック実装、各言語のフロントエンド構築、現地法令対応、そして越境決済や海外配送、基幹システムとの連携開発まで、すべてを独自に作り込む必要があるためです。さらに公開後は、月額数十万〜数百万円規模の保守費用がかかり得ます。これには、インフラの運用、セキュリティ対応、各国の法改正への追従、海外決済APIの仕様変更への対応、不具合修正などが含まれます。参考までに、SaaSベースの越境ECであれば、初期投資180万円程度に英語版制作・翻訳や決済・配送自動化を加えて約4か月で立ち上げられた事例や、基幹システム連携を含めても初期投資250万円規模・約6か月で構築できた事例があり、フルスクラッチとは費用・期間の桁が大きく異なります。この差を踏まえ、フルスクラッチに見合うだけの独自要件と事業規模があるかを冷静に見極めることが、投資判断の出発点になります。多言語ECでは、まずSaaSで始めて標準で詰まる要件が明確になってからフルスクラッチへ移行する段階的な進め方が、初期から作り込むよりリスクを抑えられます。

成功を左右する多言語データモデルと設計

多言語ECの成功を左右するデータモデルと設計

フルスクラッチで多言語ECを作る場合、その成否は要件定義段階のデータモデルとロジックの設計で大きく決まります。多言語・多通貨・地域別の出し分けという複雑な要件を、後から継ぎ足しで対応しようとすると破綻するため、最初の設計でこれらを正しく構造化しておくことが不可欠です。とくに重要なのが、商品データを言語・通貨にどう持たせるかというデータモデル、地域に応じて決済・配送・税をどう出し分けるかというロジック、そして公開後の翻訳運用をどうシステムに組み込むかという仕組みです。ここでは、フルスクラッチの多言語ECで成功を左右するこれら3つの設計ポイントを解説します。

多言語・多通貨のデータモデル設計

フルスクラッチの多言語EC設計で最も重要なのが、商品データを言語・通貨にどう持たせるかというデータモデルです。よくある失敗は、商品を言語ごとに別々のデータとして登録してしまうことで、これをすると在庫管理が言語数だけ分裂し、整合性が崩れます。正しい設計は、商品ID・重量・寸法といった言語に依存しない不変のデータを持つ「ベースの商品マスタ」を一つ用意し、それに対して商品名・説明文・メタタグといった「言語ごとの翻訳データ」をリレーショナルデータベースで紐づける構造です。こうすることで、在庫は1つに統合したまま、アクセス元の言語設定に応じてフロントエンドの表示内容だけを動的に切り替えられます。多通貨対応では、外部の為替APIと連携してリアルタイムで価格を変動させる設計と、特定の国に対しては現地通貨での固定価格(たとえばアメリカ向けは常に決まった金額)をマスタとして持たせる設計の双方を許容できるデータモデルにしておく必要があります。為替連動だけにすると価格が常に変動して値付け戦略が立てにくく、固定価格だけにすると為替変動で利益が削られるため、両方を選べる柔軟性が求められます。このデータモデルを最初に正しく設計することが、多言語ECを将来の言語・通貨追加にも耐える拡張性の高いシステムにする土台になります。

地域別の決済・配送・税の出し分けロジック

多言語・越境ECのフルスクラッチで設計が難しく、かつ重要なのが、地域別の決済・配送・税の出し分けロジックです。国によって使える決済手段、利用できる配送方法、適用される税率や関税の扱いが異なるため、ユーザーの状況に応じてこれらを動的に制御する仕組みが必須になります。具体的には、ユーザーのIPアドレス、ブラウザの言語設定、または配送先住所の入力情報をフックにして、その国・地域で利用できない決済手段や配送方法を動的に非表示にする制御を実装します。たとえば、ある決済が対象国で使えない場合は決済画面に表示しない、特定の地域にしか配送できない商品は配送先がその地域外なら選べないようにする、といった具合です。税金と関税の計算も、仕向地(配送先の国や州)によって税率が異なるため、配送先が確定した瞬間に現地税率を動的に計算するロジックが必要です。さらに、関税を事業者が負担するDDPにするか、購入者が負担するDDUにするかのフラグをシステム内に持たせ、注文ごとに適切に処理できるようにします。この出し分けロジックが甘いと、対象国で使えない決済が表示されてエラーになったり、税・関税の計算が合わず購入者とのトラブルになったりします。地域別の出し分けは多言語ECの中核機能であり、要件定義の段階で対象国ごとのルールを漏れなく洗い出し、それを汎用的に処理できる設計にしておくことが、運用後の混乱を防ぐ鍵になります。

翻訳運用のシステム化(TMS連携)

フルスクラッチで多言語ECを作る際に見落とされがちなのが、公開後の「日々の翻訳運用」をどうシステムに組み込むかという設計です。システムが多言語表示できるように作っても、新商品を追加するたびに手作業で全言語の翻訳を流し込む運用では、商品点数と言語数が増えるほど運用が破綻します。これを防ぐには、翻訳運用をシステム化する仕組みを最初から設計に織り込んでおくことが重要です。具体的には、商品を追加したときにDeepLなどの機械翻訳APIを自動で呼び出して一次翻訳を生成する仕組みや、外部の翻訳管理システム(TMS)と連携できるAPIを用意しておくことです。これにより、商品登録のたびに翻訳が自動で走り、必要な箇所だけ人手でポストエディットするフローが回せるようになり、運用コストを劇的に下げられます。フルスクラッチの利点は、こうした翻訳運用の自動化を自社の業務フローに合わせて自由に作り込める点にあり、SaaSの標準機能では難しい高度な翻訳ワークフローも実現できます。逆に、翻訳運用の仕組みを後回しにすると、せっかく多言語対応のシステムを作っても、コンテンツの更新が追いつかず、一部の言語で商品情報が古いまま放置されるという事態に陥ります。多言語ECのフルスクラッチでは、システムを「作る」だけでなく、公開後に「翻訳を回し続ける」運用までを設計対象に含めることが、長期的な成功を左右します。

フルスクラッチ開発を成功させるポイント

多言語ECのフルスクラッチ開発を成功させるポイント

多言語ECのフルスクラッチ開発は、多額の投資と長い期間を要する大規模プロジェクトであるだけに、進め方を誤ると予算超過や納期遅延、さらには完成しても使われないシステムという最悪の結果を招きます。これを避けるには、スコープを明確にし、隠れた保守コストを織り込み、適切なパートナーを選ぶという基本を押さえることが重要です。ここでは、多言語ECのフルスクラッチ開発を成功させるための実践的なポイントを解説します。

スコープの明確化と段階的移行

フルスクラッチ成功の第一のポイントは、スコープの明確化です。多言語ECは対応したい言語・国・決済・配送・税のルールが多岐にわたるため、要求を曖昧にしたまま着手すると、開発途中で要件が次々と膨らみ、予算と期間が際限なく超過します。これを防ぐには、必須機能(Must)とあれば良い機能(Want)を厳格に仕分け、最初のリリースで何を作り、何を後回しにするかを明確にすることが重要です。とくに多言語ECでは、いきなり全言語・全機能を作り込むのではなく、まず最も有望な1〜2言語・1か国に絞って公開し、市場の反応を見ながら段階的に対象を広げるアプローチが有効です。標準機能で7割を満たせるのに残り3割の独自要件のために全体をフルスクラッチにすると予算が大きく膨張するため、本当にフルスクラッチが必要な部分はどこかを見極め、それ以外はSaaSやパッケージ、外部サービスを組み合わせることも検討すべきです。現実的には、まずSaaSやパッケージで標準を試し、標準で詰まる独自要件が明確になってからフルスクラッチへ移行する段階的なアプローチが、最初からすべてを作り込むより手戻りが少なく、投資対効果も高くなります。スコープを絞り込み、段階的に進める規律が、大規模化しやすい多言語ECのフルスクラッチを成功に導く土台になります。

隠れた保守コストの織り込み

第二のポイントは、隠れた保守コストを事前に織り込むことです。フルスクラッチの多言語ECは、初期構築費用だけに目が行きがちですが、本当のコストは公開後に継続して発生します。各国の法改正(GDPRなどのプライバシー規制の変更など)への対応、海外決済APIの仕様変更への追従、為替レートの管理、新商品ごとの翻訳更新、セキュリティ対策、インフラ運用——これらはすべて、SaaSなら一部をプラットフォーム側が担ってくれるのに対し、フルスクラッチではすべて自社のコストで継続する必要があります。これらの保守コストを初期の予算検討に含めず、構築費用だけで投資判断をすると、公開後に想定外の維持費がのしかかり、システムを十分に保守できずに陳腐化させてしまいます。対策は、構築費用だけでなく、5年程度の期間で発生する保守・運用の総コスト(TCO)で投資判断をすることです。とくに多言語・越境ECでは、対象国の制度変更や決済事業者の仕様変更といった「自社ではコントロールできない外部要因による改修」が継続的に発生するため、これらに対応するための保守体制と予算を最初から確保しておく必要があります。隠れた保守コストを正しく見積もり、それを賄える事業規模かを確認することが、フルスクラッチを選んで後悔しないための重要な判断材料になります。

パートナー選定と見積もりの取り方

第三のポイントは、適切な開発パートナーの選定と見積もりの取り方です。多言語・越境ECのフルスクラッチは、通常のEC開発に加えて、i18nの実装、多通貨・多言語のデータモデル設計、現地決済・海外配送との連携、現地法令対応といった専門性が求められるため、これらの実績を持つ開発会社を選ぶことが成功の前提になります。見積もりを取る際は、少なくとも3社以上から取得し、単に金額を比較するのではなく、工程別の内訳(要件定義・設計・開発・テスト・移行)が明示されているか、多言語・越境ECの類似実績があるか、追加費用の発生条件や変更管理のプロセスが明確か、公開後の保守体制とその費用が示されているかを確認します。とくに多言語ECでは、越境決済や海外配送の連携、現地法令対応をどこまでスコープに含むかで見積もりが大きく変わるため、依頼前に対応したい言語・国・決済・配送・税のルールを整理した要件概要を用意し、各社が同じ前提で見積もれるようにすることが重要です。また、フルスクラッチは長期にわたる関係になるため、技術力だけでなく、公開後の保守や機能追加にも継続的に対応してくれる体制があるかも重視すべきです。要件を明確にしたうえで複数社を比較し、多言語・越境ECの知見を持つパートナーを選ぶことが、フルスクラッチという大規模投資を成功に導く最後の鍵になります。

まとめ

ECサイトの多言語対応開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発まとめ

本記事では、ECサイトの多言語対応開発のフルスクラッチ・オーダーメイド開発について、実装方式におけるフルスクラッチの位置づけ、適すケースと不適なケース、SaaS・パッケージ・オープンソースとの比較、メリットとデメリット、成功を左右する多言語データモデルと地域別の出し分け設計、そして開発を成功させるポイントまでを体系的に解説しました。フルスクラッチは、国ごとに商品・価格・在庫・決済がまったく異なる複雑な業務を完全に統合したい年商数十億円以上のグローバル企業や、グローバルERPと自由に連携したい場合に適する一方、立ち上げ期や年商数億円規模で市場の反応を見たい段階には不適で、その場合はShopify MarketsのようなSaaSが現実的な選択肢です。フルスクラッチのメリットは制約のないローカライゼーションとヘッドレスによるUI/UXの自由ですが、数千万〜数億円の費用と1年以上の期間、そして各国の法改正や海外決済APIの仕様変更への自力対応という重い保守負担がデメリットになります。成功には、不変の商品マスタと言語別翻訳データを分けた多言語・多通貨のデータモデル、地域別の決済・配送・税の出し分けロジック、機械翻訳API・TMS連携による翻訳運用のシステム化という設計が不可欠です。そして、スコープを絞って段階的に移行し、隠れた保守コストをTCOで織り込み、多言語・越境ECの実績を持つパートナーを複数社比較して選ぶことが、大規模投資を成功に導く鍵になります。多くの企業にとっては、まずSaaSで多言語対応を始め、標準で詰まる独自要件が明確になってからフルスクラッチを検討する段階的な進め方が現実的です。具体的な相談は、対応したい言語・国・決済・配送・税のルールを整理したうえで、複数の開発会社に要件概要を提示して見積もりを取ることから始めることをお勧めします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。