Flutter(フラッター)は、Googleが開発したオープンソースのUIフレームワークで、Dartという言語を用いて1つのコードベースからiOSとAndroidの両方のアプリを同時に生み出せる「クロスプラットフォーム開発」の代表格です。最大の特徴は、OSが用意する標準UIに依存せず、Flutter自身が画面を描画する独自のレンダリングエンジン(ImpellerやSkia)を持つ点と、コードの変更を1秒未満で画面に反映する「ホットリロード」という仕組みにあります。これにより、iOSとAndroidを別々のネイティブ言語(SwiftとKotlin)で二重に作っていた従来開発に比べ、開発の費用と期間を大きく圧縮できる可能性があります。一方で、発注を検討する企業担当者からは、「Flutterなら本当に納期は短くなるのか」「ネイティブ開発と比べてどれくらい期間が変わるのか」「ストア審査やプラグイン対応で結局遅れないか」といった、スケジュールに関する具体的な疑問が必ず挙がります。
本記事では、Flutter開発の開発期間・スケジュール・納期に焦点を当て、規模別の期間目安、要件定義からストアリリースまでの工程別の週数配分、開発期間を左右する要因、Flutterならではの納期短縮策、そして納期遅延の典型要因とその対策までを、具体的な数値とともに体系的に解説します。単一コードベースによる期間短縮効果や、ホットリロードを活かした高速なイテレーション、逆にネイティブ機能依存やプラグインのメンテナンス切れといったFlutter特有の遅延リスクまで、実務に直結する論点を丁寧に取り上げます。これから開発パートナーを選定する方はもちろん、社内でリリース計画を立てる立場の方にとっても、現実的なスケジュールを描くための判断軸が身に付く内容です。なお本記事の数値はいずれも目安であり、正確な期間は要件定義を経て確定する点をあらかじめご了承ください。
本テーマに関する全体ガイドは、以下の記事をご覧ください。
▼全体ガイドの記事
・Flutter開発の完全ガイド
Flutter開発の開発期間の全体像

Flutter開発の開発期間は、搭載する機能の複雑さ、対応するOS、外部システムとの連携範囲によって大きく変動しますが、まずは規模別の大まかな目安を把握しておくことが計画の出発点になります。一般的なFlutterアプリの期間と費用の目安は、小規模(画面数10以下、情報閲覧・お知らせ・シンプルな問い合わせなどを備えたもの)で約1〜3か月・100万〜300万円程度、中規模(会員管理・決済・API連携・プッシュ通知などを備えたもの)で約3〜6か月・300万〜800万円、大規模(動画配信・複雑な決済・リアルタイム通信・AI連携を伴うもの)で6か月〜1年以上・800万〜1,500万円以上が一つの目安です。ここで重要なのは、Flutterはあくまで「iOSとAndroidを単一コードで作れる」点に強みがあり、ネイティブで両OSを別々に作る場合に比べて全体の費用と期間を約30〜40%削減できるという、効率化のための選択肢だという理解です。過去の比較研究(You and Huの調査)では、Flutterのコード量はネイティブ開発の約47%、つまり半分程度で済むというデータも示されており、実装の作業量そのものが大きく減ることが期間短縮の根拠になっています。
もう一つ意識しておきたいのが、開発が完了してもそれだけではユーザーに届かない、という点です。Flutterで作ったアプリも、最終的にはApp StoreとGoogle Playの審査を通過しなければ配信できません。Appleの審査は通常1〜7日程度で完了しますが、課金フローのガイドライン違反やプライバシーポリシーの不備でリジェクト(審査落ち)になると、修正と再申請で数日から数週間を要することがあります。Flutterは1つのコードベースから両OSのバイナリを生成するため、ネイティブ2本立てに比べてビルドや申請の手間自体は圧縮されますが、審査というプロセスそのものは省略できません。そのため、リリース希望日やキャンペーン開始日から逆算し、審査のバッファを織り込んだスケジュールを組むことが不可欠です。なお、ストア登録費用としてiOSは年99米ドル(約1.4万円)、Androidは初回のみ25米ドル(約3,300円)が必要になります。本記事では、こうしたFlutterならではの事情を踏まえた現実的なスケジュールの立て方を解説していきます。
規模別の開発期間と費用の目安
規模別にもう少し具体的に見ていきましょう。小規模開発は、画面数が10以下で、情報閲覧やお知らせ配信、シンプルな問い合わせフォームといった、機能を絞ったアプリが該当します。この規模であれば期間は約1〜3か月、エンジニア1〜3名で完結することが多く、費用は100万〜300万円程度です。Flutterの場合、この段階から最初の段階でiOSとAndroidの両方を同時に出せるのが大きな利点で、ネイティブで2本作る場合に片方を諦めたり後回しにしたりする必要がありません。中規模開発は、会員登録・ログイン、決済連携、外部API連携、プッシュ通知などを備えた本格的なアプリで、期間は約3〜6か月、プロジェクトマネージャー・アプリエンジニア・バックエンドエンジニア・デザイナーを含む3〜5名のチームで進めるのが一般的、費用は300万〜800万円が目安です。大規模開発は、動画配信やリアルタイム通信、AI連携といった複雑な処理を伴うもので、6か月〜1年以上・800万〜1,500万円以上、5〜10名以上の体制が目安となります。機能単位では、会員登録・ログインで30万〜80万円、決済連携で80万〜200万円、プッシュ通知で30万〜80万円、リアルタイムチャットで150万〜400万円といった追加費用が目安です。これらの数値はあくまで初期の概算であり、正確な期間は要件定義を経て初めて確定する点を理解しておく必要があります。
単一コードベースがもたらす期間短縮(ネイティブ比較)
Flutter開発のスケジュールが、ネイティブの個別開発と決定的に異なるのは、iOSとAndroidを「1つのコード」で同時に作れる点です。SwiftでiOSアプリを作り、KotlinでAndroidアプリを別々に作る従来の方式では、画面のレイアウト、ビジネスロジック、状態管理といった大半の実装を二重に行う必要があり、単純計算で工数が1.5〜2倍に膨らみます。Flutterは、UIの記述(ウィジェット)からロジックまでをDartの単一コードベースに集約するため、この二重実装をほぼ解消でき、結果として開発費用と期間を約30〜40%削減できるのが最大の効率化ポイントです。さらにFlutterは独自の描画エンジンを持つため、iOSとAndroidで見た目や操作感が食い違いにくく、両OSのデザイン差異を埋めるための調整工数も抑えられます。ただし注意したいのは、この短縮効果が最大化するのは「標準的なUIを中心とするアプリ」だという点です。後述するように、Bluetoothや高度なカメラ制御、AR、生体認証といった端末固有の機能を多用する場合は、結局SwiftやKotlinでネイティブのプラグインを書く必要が生じ、短縮効果が目減りします。要件定義の段階で「自社のアプリにネイティブ依存の機能が含まれるか」を見極めることが、Flutterの期間短縮メリットを正しく見積もる前提になります。
要件定義からストアリリースまでの工程別スケジュール

開発期間を正しく見積もるには、プロジェクト全体をいくつかの工程に分解し、それぞれにどれだけの期間が必要かを把握することが不可欠です。ここでは、中規模のFlutterアプリ(開発期間約4〜5か月)を例に、要件定義・企画、UI/UX・設計、開発・実装、テスト・品質管理、リリース・運用準備の各工程の標準的な配分を見ていきます。一般的な配分は、要件定義・企画が全体の約10%、基本・詳細設計(UI/UX・DB・API)が約20%、開発・実装が約40%、テスト・品質管理が約15〜25%、リリース・運用準備が約5%です。この比率を頭に入れておくと、各社から提示された見積もりのスケジュールが妥当かどうかを判断しやすくなります。たとえば「実装だけで全体の7割、テストは10%未満」という見積もりが出てきた場合、設計やテストが軽視されている可能性があり、リリース後のバグ多発や低評価レビューのリスクが高いと推測できます。Flutterは実装フェーズの生産性が高い分、相対的に要件定義・設計・テストの重要度が増すという点も意識しておきましょう。
要件定義・設計フェーズ(約4〜6週・30%)
要件定義・企画フェーズは、約4〜5か月のプロジェクトであれば約2〜3週を割り当てます。この期間で、アプリの目的やターゲットユーザー、必要な機能を洗い出し、優先順位を決定します。Flutter開発で特に重要なのは、要件定義の段階で「ネイティブ依存の機能が含まれていないか」を仕分けすることです。Bluetooth常時接続、NFC、AR、高度なカメラ制御、生体認証といった、OSの深い機能にアクセスする要件があると、Flutter標準のウィジェットだけでは対応できず、SwiftやKotlinでネイティブのプラグインを書く工数が追加で発生します。この見極めをこの段階で済ませておくことが、後工程での想定外の遅延を防ぐ鍵になります。続くUI/UX・設計フェーズには約3〜4週を割り当て、画面設計、データベース設計、API設計を行います。Flutterはウィジェットを組み合わせて画面を構成する思想のため、デザイン段階からコンポーネント(再利用するUI部品)を意識して設計しておくと、実装フェーズの生産性が大きく上がります。よくある失敗は、この上流工程を短く見積もることです。要件定義書・機能一覧・画面遷移図・API仕様書を成果物として残すことを必須とし、認識のズレを早期につぶしておきましょう。
開発・実装フェーズ(約40%・ホットリロードが効く工程)
開発・実装フェーズには全体の約40%を割り当て、Flutter(Dart)によるフロントエンド(アプリ画面)の実装と、サーバ側API・外部システム連携の実装を進めます。このフェーズでFlutterの生産性が最も発揮されるのが「ホットリロード」です。通常のネイティブ開発では、コードを少し変更するたびにアプリ全体を再ビルドして確認する必要があり、その待ち時間が積み重なって開発を遅らせます。Flutterのホットリロードは、アプリの状態(入力中のフォームや画面のスクロール位置など)を保持したまま、コードの変更を1秒未満で画面に反映します。これにより、UIの微調整、アニメーションの確認、バグ修正の試行錯誤のサイクルが劇的に速くなり、実装フェーズ全体の生産性が大きく向上します。実装を効率化するもう一つの鍵は、APIのレスポンス仕様(型)を先に確定させ、バックエンドの完成を待たずにアプリ側をモックデータで先行実装する「並行開発」です。Flutterはウィジェットの再利用性が高いため、ボタンやカード、リスト項目といったUI部品をコンポーネントとして共通化しておくと、同じUIを何度も作る手間が省け、実装期間をさらに圧縮できます。この設計・開発フェーズが全体の生産性を左右するため、ここでFlutterの強みを最大限に引き出すことが、納期短縮の本丸になります。
テスト・ストア審査フェーズ(約20〜30%)
テスト・品質管理フェーズには全体の約15〜25%を割り当てます。単体テスト・結合テスト・システムテストを順に行い、ユーザーの操作フローに沿った実機検証を実施します。Flutterの利点は、単一コードベースであるため共通ロジックのテストを一度書けば両OSに効くことですが、注意すべきは「両OSでの実機検証は省略できない」という点です。Flutterは独自エンジンで描画するとはいえ、カメラやGPS、プッシュ通知といった端末固有の機能はプラグイン経由でOSのAPIを呼び出すため、iOSとAndroidそれぞれの実機・OSバージョンでの動作確認は必須です。特定の端末でのみ表示崩れや権限まわりの不具合が出ることもあり、テスト工数を10%未満に圧縮した見積もりはリリース後のバグ多発リスクが高いと考えるべきです。続くリリース・運用準備フェーズには全体の約5%を割り当て、ストア申請、本番環境の構築、運用マニュアルの整備を行います。前述のとおりAppleの審査は通常1〜7日ですが、リジェクトのリスクを織り込み、リリース希望日の少なくとも2週間前には申請できるようスケジュールを逆算しておくと安全です。キャンペーンに合わせて配信したい場合は、審査通過後に配信開始日を任意で設定できる機能を活用し、公開タイミングをマーケティング施策と合わせる段取りも、このフェーズで詰めておきましょう。
開発期間を左右する要因

同じ「中規模」でも、実際の開発期間が3か月で終わるプロジェクトと6か月かかるプロジェクトがあります。この差を生む変数を理解しておくことが、現実的なスケジュール策定の鍵です。Flutterの場合、一般的なアプリ開発で語られる変数に加えて、「ネイティブ機能への依存度」と「プラグインの成熟度」というFlutter固有の変数が大きく効いてきます。ここでは、期間を左右する主な要因を整理し、それぞれがどれだけの差を生むのかを具体的に見ていきます。これらの変数を見積もり段階で洗い出すことが、後の遅延を防ぐ第一歩になります。
期間を左右する基本変数
第一の変数は機能の数と複雑さです。会員登録・ログイン(30万〜80万円)、決済連携(80万〜200万円)、プッシュ通知(30万〜80万円)、リアルタイムチャット(150万〜400万円)など、機能を追加するごとに実装・テストの工数が積み上がり、期間が延びます。Flutterは単一コードで両OSに対応できるため、同じ機能数でもネイティブ2本立てより実装は速いものの、機能を盛り込みすぎれば当然期間は伸びます。第二の変数は外部システム連携の数と複雑さで、クレジットカード決済やSNS連携、外部APIの呼び出しは1連携あたり30万〜100万円の追加費用が発生します。第三の変数は非機能要件の厳しさで、決済情報を扱う場合のセキュリティ基準(PCI DSS等)への準拠や、大量アクセスを想定したインフラ設計は、開発工数を10〜50%押し上げます。第四の変数は画面数とUI/UXの作り込みで、独自のオリジナルデザインやアニメーション、マイクロインタラクションを実装すると20〜50%の費用・期間増につながります。ただしFlutterは独自描画エンジンのおかげで凝ったUIやアニメーションを比較的得意とするため、ネイティブで同じ表現を両OS分作るよりは効率的です。第五の変数は依頼先の単価で、フリーランス(人月60〜80万円)か中小開発会社(80〜120万円)か大手(150万円〜)かによって、同じ要件でも最終的な見積もりに2〜3倍の差が生じます。
ネイティブ機能依存とプラグインという固有変数
Flutterの開発期間を最も予測しにくい形で左右するのが、「ネイティブ機能への依存度」と「利用するプラグインの成熟度」です。Flutterは標準のウィジェットだけで多くの画面を作れますが、カメラ・GPS・Bluetooth・生体認証・ヘルスケアデータなど、端末固有の機能にアクセスする際は、その機能を仲介する「プラグイン」に依存します。広く使われている成熟したプラグインであれば短期間で組み込めますが、ニッチな機能や最新のOS機能に対応したプラグインが存在しない、あるいはメンテナンスが止まっている場合、自前でSwiftやKotlinのネイティブコードを書いてブリッジする必要が生じ、ここで工数が一気に跳ね上がります。特に、Bluetooth常時接続やAR、複雑なカメラ制御といった「アプリのコアがネイティブ機能そのもの」であるケースでは、Flutterを採用しても結局ネイティブ実装の比率が高くなり、単一コードベースによる短縮メリットが薄れます。逆に、標準的なUIと一般的な機能(会員・決済・通知・一覧表示など)で構成されるBtoC/業務アプリでは、プラグイン依存が小さくFlutterの短縮効果が最大化します。発注前に、自社のアプリがどの程度ネイティブ機能に依存するかを棚卸しし、必要なプラグインの有無と成熟度を開発会社に確認しておくことが、Flutterの納期を読み違えないための前提条件です。
開発手法と納期短縮策

納期短縮は、単に人を増やせば実現できるものではありません。むしろ人を急に増やすとコミュニケーションコストが増え、立ち上がりに時間がかかって逆効果になることもあります。ここでは、品質を犠牲にせずにFlutterの開発期間を短縮するための実践的な手法を紹介します。Flutterはそもそも単一コードベースによる効率化フレームワークですが、その特性を活かしきるための工夫を重ねることで、さらに納期を圧縮できます。市場の反応を見ながら改善を続けることが成功の前提となるアプリ開発では、開発手法の選択が事業戦略そのものに直結します。
ホットリロードとウィジェットによる高速化
Flutter最大の納期短縮策は、フレームワークそのものに組み込まれた「ホットリロード」と「豊富なウィジェット」を最大限に活用することです。ホットリロードは、コードの変更を保存した瞬間に、アプリを再起動することなく1秒未満で実機やエミュレータの画面に反映します。これにより、デザイナーとエンジニアが画面を一緒に見ながらリアルタイムでUIを詰めていく「ライブな開発スタイル」が可能になり、デザインカンプを渡して実装し、確認して修正を依頼し、また実装する、という従来の往復に費やしていた時間を大幅に削減できます。ウィジェットについては、FlutterはMaterial Design(Android系)やCupertino(iOS系)に準拠したUIコンポーネントを標準で豊富に備えており、一度コードを書くだけで両OSで高品質な操作感を持つ画面を短期間で構築できます。これらのウィジェットを自社のデザインシステムとして整理し、ボタン・カード・入力フォームなどを再利用可能な共通部品としてカタログ化しておけば、新しい画面を作るたびにゼロから組む必要がなくなり、実装フェーズの期間を大きく圧縮できます。Flutterの納期短縮効果は、この「描画の速さ」ではなく「試行錯誤と再利用の速さ」にこそ宿るという点を、発注側も理解しておくと開発会社との議論がかみ合いやすくなります。
BaaS・CI/CD活用とMVPで小さく早く
第二の手法は、BaaS(Backend as a Service)の活用です。FirebaseやSupabaseといったBaaSを使えば、ユーザー認証、データベース、プッシュ通知、ファイルストレージといった基盤機能を自前でゼロから構築せずに済みます。FlutterはGoogle製であるためFirebaseとの親和性が高く、認証や通知を短期間で組み込めるのは大きな利点で、特にMVP段階では数週間単位で開発期間を短縮できます。第三の手法は、テストとデプロイの自動化です。CI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)パイプラインを構築すると、コードの変更ごとに自動テストとビルドが走り、不具合を早期に発見できます。Flutterはコマンド一つで両OSのビルドが走るため、CodemagicやBitrise、Fastlaneを使ってビルドからストア申請までを自動化すれば、リリースのたびに発生する手作業の時間とミスを削減できます。そして第四に、納期の観点で最も有効なのがMVP(実用最小限の製品)で小さく早くリリースする考え方です。最初から30機能(例:3,000万円規模)を盛り込もうとすると半年以上かかりますが、まずはコアとなる10機能(例:900万〜1,500万円)に絞って初期リリースを行えば、初期投資を50〜70%圧縮しつつ、ビジネス上の「最初の市場投入」までの期間を大幅に短縮できます。Flutterは両OSを同時に出せるため、MVPを「iOS・Android同時に・小さく・早く」市場へ届けられる点で、段階リリースとの相性が非常に良好です。
納期遅延の典型要因と対策

どれだけ綿密に計画しても、納期遅延のリスクはゼロにはなりません。重要なのは、遅延の典型要因を事前に把握し、対策を契約や進捗管理の仕組みに組み込んでおくことです。ここでは、Flutter開発でよく見られる遅延要因と、それぞれの具体的な対策を解説します。とりわけストア審査・OS対応・プラグイン更新といった、自社のコントロールが及びにくい外部要因への備えが、Flutterでは欠かせません。単一コードベースで効率化できる分、こうした外部要因の影響が相対的に目立ちやすいという点も理解しておきましょう。
仕様変更とスコープの明文化
最も多い遅延要因が、スコープ(開発範囲)の曖昧さと、開発途中の仕様変更による手戻りです。要件定義が不十分なまま実装に進むと、「思っていたものと違う」という認識のズレが終盤で発覚し、大規模な作り直しが発生します。Flutterは実装が速い分、つい「あの機能も追加しよう」と要望が膨らみがちですが、機能を詰め込めばテスト項目も指数関数的に増え、最終的に納期が破綻します。対策は、要件定義書をしっかりと明文化し、「どこまで作るか・作らないか」というスコープ範囲と除外項目を明示することです。さらに、開発途中で仕様が変わった場合に備えて、変更要求が発生した際の「影響範囲の調査→工数・費用の見積もり→承認→実施」という変更管理プロセス(Change Request)を契約に組み込んでおきます。口頭での「ちょっとした追加」が積み重なって予算超過・納期超過になる事態を防ぐには、この変更管理ルールの事前合意が決定的に重要です。MoSCoW法(Must/Should/Could/Won’t)で機能に優先順位をつけ、MVPの考え方に立ち返って「初回リリースに本当に必要な機能か」を常に問い直す姿勢が、納期を守る最大の防衛策になります。
ストア審査リジェクトとプラグイン・OS対応
アプリ開発に固有の遅延要因が、アプリストアの審査リジェクトです。Appleの審査は通常1〜7日で完了しますが、課金フローのガイドライン違反、プライバシーポリシーの記載不備、権限取得の説明不足など、さまざまな理由でリジェクトされることがあります。一度リジェクトされると修正と再申請が必要になり、対応に数日から、内容によっては数週間を要します。対策は、開発の初期段階からAppleとGoogleの審査ガイドラインを熟知したエンジニアを関与させ、決済方式や権限の扱いを設計時点で整理しておくこと、そしてリリース希望日の少なくとも2週間前には申請できるよう、審査の往復を見越したバッファを組み込むことです。Flutter固有の遅延要因としては、プラグインとOS対応があります。iOSとAndroidは毎年メジャーなOSアップデートがあり、開発期間がそのタイミングと重なると、新OSへの対応や検証で追加工数が発生します。さらに、利用しているサードパーティ製プラグインが新OSにすぐ対応しない、あるいはメンテナンスが止まっている場合、自前でネイティブコードを書いて補修するか別のプラグインへ乗り換える必要が生じ、想定外の数十万円単位・数週間単位の遅延につながることがあります。対策として、利用するプラグインはスター数やメンテナンス頻度を確認して成熟したものを選び、重要な機能ほど代替プラグインの存在も事前に把握しておくことが有効です。
バッファ確保とリリース日からの逆算
第三の遅延要因は、進捗管理の甘さとリスク対策不足です。対策としては、ガントチャートやJIRAなどのツールを使って「クリティカルパス(遅れると全体が遅れる作業経路)」を可視化し、週次・隔週で進捗報告を行うことが基本です。アジャイル開発であれば、スプリントごとに完成した機能をホットリロードや実機ビルドで確認し、進捗を成果物ベースで把握します。加えて、見積もり段階で全体工数の10〜15%程度をバッファ(予備)期間として含めておくことを強く推奨します。バッファを持たない「ギリギリのスケジュール」は、ストア審査のリジェクトやプラグインの非互換といった小さな想定外が一つ起きただけで全体が崩れます。そして、キャンペーンや新サービス開始といった「動かせない締切」がある場合は、その日を起点に、ストア審査のリジェクトバッファ(2週間以上)、テスト期間、開発期間、要件定義期間を順に手前へ積み上げ、現実的な着手日を割り出す逆算が欠かせません。発注側として最も効果的なのは、デザイン確認や仕様判断を迅速に行い、エンジニアの「待ち時間」を作らないことです。Flutterはホットリロードで「その場で見て決める」スタイルが取りやすいため、発注側がレビューに積極的に参加し即断即決することが、Flutterの納期短縮メリットを実際の成果に変える決め手になります。
まとめ

本記事では、Flutter開発の開発期間・スケジュール・納期について、規模別の期間目安、工程別の配分、開発期間を左右する要因、Flutterならではの納期短縮策、そして遅延要因と対策までを体系的に解説しました。開発期間の目安は、小規模で約1〜3か月(100万〜300万円)、中規模で約3〜6か月(300万〜800万円)、大規模で6か月〜1年以上(800万〜1,500万円以上)であり、要件定義10%、設計20%、開発・実装40%、テスト15〜25%、リリース準備5%という工程配分を押さえておくことが、見積もりの妥当性を判断する基準になります。Flutter最大の強みは、iOSとAndroidを単一コードベースで作ることでネイティブ2本立てに比べ費用と期間を約30〜40%削減できる点、そしてホットリロードと豊富なウィジェットによって試行錯誤と再利用のサイクルが高速になる点にあります。一方で、Bluetoothや高度なカメラ制御といったネイティブ機能への依存度が高い場合や、利用するプラグインのメンテナンスが止まっている場合は、短縮メリットが目減りし、かえって遅延要因になり得ます。納期を守るためには、BaaS・CI/CD活用・MVPでの段階リリースといった短縮策に加え、スコープの明文化・変更管理プロセスの合意・10〜15%のバッファ確保・進捗の可視化、そしてストア審査とプラグイン更新への備えが不可欠です。具体的なスケジュールの相談は、自社のアプリがネイティブ機能にどの程度依存するかを整理したうえで、Flutterの開発実績が豊富な複数の開発会社に要件概要を提示して見積もりを取ることから始めることをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
