フルスクラッチ・オーダーメイド開発とは、既製のパッケージソフトやテンプレートに頼らず、自社の業務やビジネス要件に合わせてシステムをゼロから設計・構築する開発スタイルを指します。自社の業務にぴったり合った仕組みを手に入れられるという大きな魅力がある一方で、フルスクラッチで作ったシステムは「作って終わり」ではなく、その後の長い運用期間にわたって保守開発を続けていく前提で考えなければなりません。実は、フルスクラッチ・オーダーメイド開発を語るうえで、リリース後の保守開発こそが最も見落とされがちで、かつ最も重要なテーマです。独自に作り込んだシステムは、その独自性ゆえに保守が難しくなり、特定の開発会社に依存せざるを得なくなったり、保守費用が想定以上に膨らんだりするリスクを抱えています。「フルスクラッチで自由に作りたいが、後々の保守が不安だ」「オーダーメイドだと特定の業者から離れられなくなると聞いた」「パッケージと比べて長期的にどちらが得なのか分からない」——こうした疑問を抱く企業担当者は少なくありません。
本記事では、フルスクラッチ・オーダーメイド開発を「保守開発」の視点から捉え直し、なぜ完全フィットの裏に保守の重さが潜むのか、フルスクラッチ保守の最大のリスクであるベンダーロックインの構造、そして将来の保守開発をしやすくするための設計の工夫や、初期費用と保守ランニングコストを総額で比較する考え方までを、具体的な根拠とともに体系的に解説します。フルスクラッチの自由度を活かしながら、長期的に健全な保守開発を実現するための判断軸を理解することで、目先の開発だけでなく、その先の何年もの運用までを見据えた賢い意思決定ができるようになります。フルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討されている方、すでに独自システムの保守に悩まれている方は、ぜひ最後までご覧ください。
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フルスクラッチ・オーダーメイドと保守開発は切り離せない

フルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討する際、多くの企業は「どんな機能を、いくらで、いつまでに作れるか」という初期開発に意識を集中しがちです。しかし、システムのライフサイクル全体で見ると、初期開発にかかる期間はせいぜい数か月から1年程度であるのに対し、そこから先の運用・保守は5年、10年と続いていきます。総コストで見れば、保守開発の累計が初期開発費を上回ることも珍しくありません。つまりフルスクラッチを選ぶということは、同時に「その独自システムを長期にわたって保守し続ける責任」を引き受けることでもあるのです。そしてこの保守のしやすさ・しにくさは、初期開発の設計思想によって大きく左右されます。後の保守を考えずに作られた独自システムは、いざ改修しようとしたときに膨大なコストを要するブラックボックスになりかねません。ここでは、フルスクラッチの「完全フィット」という魅力の裏側にある保守の重さと、それを生む構造を見ていきます。
フルスクラッチ=完全フィットの裏にある保守の重さ
フルスクラッチ開発の最大の魅力は、自社の業務やビジネス要件に完全にフィットしたシステムを作れることです。たとえばコンテンツ管理システム(CMS)であれば200万円程度から、顧客管理システムであれば200万円程度からといった費用感で、市販のパッケージでは満たせない独自の要件を実現できます。既製品の制約に業務を合わせるのではなく、システムを業務に合わせられるこの自由度は、競争力の源泉にもなり得ます。しかし、その「完全フィット」を実現する独自の作り込みこそが、保守開発の局面では重荷になります。パッケージソフトであれば、ベンダーが世界中のユーザー向けに継続的にアップデートやセキュリティ修正を提供してくれますが、フルスクラッチのシステムはそうした共通の保守基盤を持ちません。バグ修正もセキュリティ対応も機能改善も、すべて自社専用に個別対応する必要があり、その担い手を確保し続けなければなりません。つまりフルスクラッチの自由度は、裏を返せば「保守を自分たちで背負う」という覚悟とセットなのです。完全フィットの恩恵を長く享受するには、その独自性を保守し続ける体制とコストをあらかじめ織り込んでおくことが欠かせません。
オーダーメイドの独自仕様が保守コストを押し上げる
保守開発の費用は、一般的に年間で初期開発費の5〜15%程度が相場とされています。ところがオーダーメイドで独自仕様を作り込んだシステムでは、この比率が最大20%程度まで高騰する傾向があります。なぜ独自仕様だと保守コストが上がるのか。その理由は、独自に作り込んだ複雑なコードベースほど、それを理解して安全に手を入れられる人材が限られ、改修一件あたりの調査・対応工数が膨らむからです。汎用的な技術や一般的な設計パターンで作られたシステムであれば、多くのエンジニアが構造を理解でき、保守の担い手を見つけやすいのに対し、特殊な独自仕様は「作った本人や同じチームでなければ容易に解読できない」状態を生みやすいのです。さらに、外部APIとの連携が多いシステムや、長年の改修で複雑化したシステムは、一箇所の変更が思わぬ場所に波及するため、回帰テストや影響調査の負担も増大します。フルスクラッチ・オーダーメイドを選ぶ際は、初期開発費の安さだけでなく、その独自性が将来の保守コストをどれだけ押し上げるかという「総保有コスト」の視点で判断することが、後悔しないシステム投資の鍵になります。
フルスクラッチ保守の最大リスク「ベンダーロックイン」

フルスクラッチ・オーダーメイド開発の保守を語るうえで避けて通れないのが、「ベンダーロックイン」という問題です。ベンダーロックインとは、特定の開発会社(ベンダー)にシステムの保守を依存しきってしまい、他社へ乗り換えることが事実上できなくなる状態を指します。独自に作り込んだシステムは、それを開発したベンダーだけが内部構造を熟知しているため、保守も改修も「そのベンダーに頼むしかない」状況に陥りやすいのです。こうなると、保守費用が割高でも、対応が遅くても、品質に不満があっても、簡単には離れられません。フルスクラッチを選んだ企業が直面する保守の悩みの多くは、このベンダーロックインに根本原因があります。ここでは、なぜ独自コードは他社が引き継げないのか、そして保守費用が相場を超えて高騰する構造を、その仕組みから掘り下げて解説します。
なぜ独自コードは他社が引き継げないのか
独自に作り込んだフルスクラッチのコードベースは、他社が容易に解読できないという性質を持ちます。新しい開発会社が保守を引き継ごうとしても、まずは膨大なコードを一行ずつ読み解き、システム全体の構造や処理の意図を把握するところから始めなければなりません。とくに仕様書やドキュメントが整備されていないシステムでは、コードだけが唯一の手がかりとなり、解読には膨大な時間がかかります。その結果、保守を他社に移管しようとすると、ソースコードから設計を逆算する「リバースエンジニアリング」が必要となり、その初期コストだけで相当な金額に膨らみます。場合によっては「既存コードをゼロから読み解くくらいなら、いっそ最初から作り直した方が安い」とまで言われる事態に至ることもあります。これがベンダーロックインの正体です。開発したベンダーは内部を熟知しているため即座に対応できるのに対し、他社は一から解読しなければならない——この情報の非対称性が、企業を特定ベンダーに縛り付けます。独自性を追求するほど、この解読の壁は高くなり、乗り換えの自由は失われていくのです。
保守費用が相場の最大20%まで高騰する構造
ベンダーロックインの状態にあると、保守費用は構造的に高止まりします。前述のとおり保守費用の相場は年間で初期開発費の5〜15%程度ですが、独自仕様の複雑なコードベースを抱えるシステムでは、最大20%程度まで跳ね上がります。たとえば初期開発に2,000万円を要したシステムなら、通常なら年間100万〜300万円程度で済むはずの保守費用が、ロックインによって年間400万円に達することもあり得ます。この差は、競争原理が働かないことから生じます。本来であれば複数の開発会社から相見積もりを取り、価格や品質を比較して選べるはずですが、独自システムの構造を理解しているのが特定ベンダーだけだと、その一社の提示する条件を受け入れるしかありません。さらに、保守契約に「2年縛り」のような最低契約期間や、途中解約時の違約金が設定されていると、不満があっても契約期間中は身動きが取れず、コストの主導権を完全に握られてしまいます。フルスクラッチを発注する段階では、こうしたロックインのリスクを軽視しがちですが、運用が始まってから「もっと安く、速く対応してくれる会社に変えたい」と思っても手遅れになりかねません。だからこそ、契約締結前に保守の移管可能性まで見据えた条件交渉が重要になります。
保守開発しやすいフルスクラッチの作り方

ここまで読むと「フルスクラッチは保守が大変で、ベンダーロックインも怖い」と感じるかもしれません。しかし、フルスクラッチの自由度を活かしつつ、保守開発のしやすさを両立させることは十分に可能です。鍵となるのは、初期開発の設計段階から「将来この システムを誰がどう保守していくか」を見据えておくことです。保守を後回しにして目先の完成だけを急ぐと、結果的にロックインや高コストを招きますが、最初から保守性を設計の要件に組み込んでおけば、独自システムでありながら複数の会社で保守できる柔軟な状態を保てます。ここでは、保守開発しやすいフルスクラッチを実現するための具体的な設計の工夫として、アーキテクチャの分割によるマルチベンダー化と、オープンソースの活用およびドキュメントの自社管理という二つの観点を解説します。これらは、フルスクラッチを選ぶなら発注前に必ずベンダーと合意しておきたいポイントです。
マイクロサービス化でマルチベンダー保守を可能にする
ベンダーロックインを防ぐ有効な手立ての一つが、アーキテクチャの工夫です。全機能を一つの巨大なプログラムにまとめる「モノリシック・アーキテクチャ」で作ると、システム全体が密接に結合し、一部だけを切り出して別の会社に保守を任せることが難しくなります。これに対し、機能ごとに独立したモジュールへ分割する「マイクロサービス・アーキテクチャ」を採用すれば、たとえば決済機能はA社、在庫管理機能はB社、というように、機能単位で異なる開発会社に保守を委ねる「マルチベンダー」体制を構築できます。各サービスが明確なインターフェースで疎結合に連携しているため、一つの機能の改修が他に波及しにくく、影響範囲の調査も限定的で済みます。これにより、特定の一社に全てを依存する状態を避けられ、保守の競争原理を働かせやすくなります。もちろんマイクロサービス化には設計の複雑さや運用の手間といったトレードオフもあるため、すべてのシステムに適しているわけではありませんが、長期にわたる保守を見据えた中・大規模システムでは、ロックイン回避と保守性向上の両面で大きな効果が期待できます。フルスクラッチを発注する際は、将来の保守体制まで見据えたアーキテクチャ選定をベンダーと議論することが重要です。
OSS活用とドキュメント自社管理で属人化を防ぐ
保守しやすいフルスクラッチを実現するもう一つの柱が、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用と、ドキュメントの自社管理です。独自の技術や特許を用いた設計を多用すると、その仕組みを理解できる人材が極端に限られ、保守の担い手を確保しにくくなります。これに対し、広く使われているオープンソースのフレームワークやライブラリをベースに構築しておけば、世の中に多くの理解者がいるため、他社への引き継ぎがはるかに容易になります。ただし、OSSにはライセンスや著作権の帰属に関する注意点があるため、利用にあたっては条件をよく確認する必要があります。そしてもう一つ、最も重要といえるのがドキュメントの自社管理です。仕様書がない状態で他社に保守を移管しようとすると、前述のリバースエンジニアリングが必要となり、膨大な初期コストが発生します。これを防ぐには、納品物に必ず設計書を含めてもらうこと、そしてシステムが改修されるたびに自社でも最新のドキュメントを保管し続ける運用ルールを徹底することが欠かせません。コードを書いたベンダーしか中身を知らないという属人化を防ぎ、いつでも別の会社が保守を引き継げる状態を保つこと——これこそが、フルスクラッチの自由とベンダーからの独立を両立させる、最も確実な備えなのです。
フルスクラッチ対パッケージと保守開発の費用設計

フルスクラッチ・オーダーメイドを選ぶべきか、それとも既製のパッケージを採用すべきか——この判断は、初期費用の比較だけでは正しく下せません。なぜなら、両者は保守開発のあり方が根本的に異なり、長期的な総コストの構造がまったく違うからです。フルスクラッチは初期費用こそ高めになりがちですが自由度が高く、パッケージは初期費用を抑えられる反面、独自要件への対応に限界があります。そして保守の局面では、フルスクラッチは自前で保守を背負い、パッケージはベンダー提供の更新に乗る、という違いが生まれます。ここでは、初期費用と保守ランニングコストを総額で捉える考え方と、フルスクラッチの保守開発を継続的に回していくための契約形態の選び方を解説します。目先のコストだけでなく、何年もの運用を見据えた費用設計が、フルスクラッチ投資の成否を分けます。
初期費用と保守ランニングコストの総額で比較する
フルスクラッチとパッケージを比較する際は、初期開発費だけでなく、その後5年・10年にわたる保守ランニングコストまで含めた「総保有コスト」で考えることが鉄則です。たとえばフルスクラッチで顧客管理システムを200万円程度から構築した場合、年間の保守費用は初期費の5〜15%、独自仕様が複雑なら最大20%として、おおよそ年間10万〜40万円が継続的に発生します。これを5年間積み上げれば、保守だけで初期費用に匹敵する、あるいは上回る金額になることもあります。一方パッケージ製品は、月額や年額のライセンス費用という形で保守・更新コストが平準化されており、ベンダーがセキュリティ対応や機能アップデートを共通基盤として提供してくれます。どちらが有利かは、独自要件の重要度、想定する利用年数、そして自社で保守体制をどこまで持てるかによって変わります。重要なのは、初期の見積もり金額の安さに惑わされず、「このシステムを何年使い、その間に毎年いくらの保守費用がかかり、機能追加の頻度はどれくらいか」を試算したうえで、総額で意思決定することです。安く作れても保守で高くつくのでは本末転倒であり、逆に保守まで含めれば独自開発が合理的という場合もあります。
準委任・ラボ型で継続的な改修体制を確保する
フルスクラッチで作った独自システムを長く育てていくには、リリース後も継続的に改修できる体制を契約面から確保しておくことが欠かせません。保守開発のように運用しながら仕様変更や機能追加が次々に発生する領域で、完成責任を負う「請負契約」だけに頼ると、変更のたびに追加費用の交渉が発生し、機動的な改善が難しくなります。そのため実務では、作業時間や体制に対して対価を支払う「準委任契約」や、チーム単位でエンジニアを毎月定額で確保する「ラボ型開発」を組み合わせるのが一般的です。ラボ型開発は月額10万円程度から、最低契約期間1か月といった条件で、必要な開発リソースを継続的に確保でき、優先順位の変化にも柔軟に対応できます。フルスクラッチの初期開発を請負契約で進め、その後の保守開発を準委任やラボ型で継続する、という組み合わせが、独自システムを健全に運用し続ける現実的な形です。なお、こうした契約を結ぶ際は、前述のドキュメント納品やソースコードの権利帰属、そして将来他社へ移管する可能性まで含めて条件を取り決めておくと、ベンダーロックインに陥るリスクをさらに減らせます。フルスクラッチの自由度を最大限に活かすには、作るときだけでなく、その後の保守開発までを一貫して見据えた契約設計が重要なのです。
まとめ

本記事では、フルスクラッチ・オーダーメイド開発を保守開発の視点から捉え直し、その魅力とリスク、そして長期的に健全な保守を実現するための設計と契約の考え方を解説しました。フルスクラッチは自社の業務に完全フィットしたシステムを作れる一方で、その独自性ゆえに保守の担い手が限られ、保守費用が相場の最大20%まで高騰したり、特定ベンダーに依存するベンダーロックインに陥ったりするリスクを抱えます。独自コードは他社が容易に解読できず、移管にはリバースエンジニアリングという膨大なコストがかかるため、乗り換えの自由が失われがちです。この問題を防ぐには、機能ごとに分割するマイクロサービス・アーキテクチャでマルチベンダー保守を可能にし、オープンソースを活用しつつ、設計書を含むドキュメントを自社で管理し続けて属人化を防ぐことが有効です。費用面では、初期開発費だけでなく5年・10年の保守ランニングコストを含めた総保有コストで判断し、準委任やラボ型契約で継続的な改修体制を確保することが、フルスクラッチを成功させる鍵となります。フルスクラッチ・オーダーメイド開発を検討されている方は、作る段階から「その後の保守を誰がどう担うか」を見据え、保守性とベンダーからの独立性を要件に組み込んだうえで、信頼できるパートナーと相談を進めることをお勧めします。
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株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
