医療系アプリでは、すべてをフルスクラッチで作ると費用が大きく膨らみます。核心となる機能を個別開発し、汎用機能を既製サービスで賄う切り分けが、投資対効果を左右します。
開発手法の違いから発注時の注意点まで、順に説明します。全体像は医療系アプリ開発の完全ガイドもご覧ください。
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フルスクラッチ・オーダーメイド開発の基礎

フルスクラッチは、既存のパッケージやテンプレートに頼らず、要件に合わせてシステムをゼロから構築する手法です。
医療系アプリでフルスクラッチを選ぶかは、開発手法それぞれの特性を理解したうえで判断します。ここでは、手法どうしの違い、フルスクラッチが採用される理由、規模別の費用と工期を見ていきます。金額や期間は一般的な目安で、要件によって変動します。
フルスクラッチ・パッケージ・ノーコードの違い
開発手法は、自由度や費用、期間を見比べて選びます。さらに、実現できる機能の範囲も判断材料になります。
- フルスクラッチ:自由度が高く、要件に合わせて構築できる手法
- パッケージ:既製品をカスタマイズして使うため、開発費を抑えやすい
- ノーコード・ローコード:低コストかつ短期間で構築できる手段
フルスクラッチは、あらゆる機能やセキュリティ要件を実装できますが、工数が大きく、費用も期間もかかります。
パッケージで変えられるのは、製品仕様の範囲内に限られます。また、ノーコード・ローコードは、複雑な処理や独自のセキュリティ要件、外部システムとの高度な連携には対応しきれないことがあります。
一般的なアプリであれば、コストと要件のバランスで手法を選ぶことになります。一方で医療系アプリでは、データの機微性や規制要件から、フルスクラッチが必要になる場面が多くあります。機能ごとに手法を組み合わせる考え方も、あわせて押さえておくとよいでしょう。
医療系でフルスクラッチが選ばれる理由
医療系アプリでフルスクラッチが選ばれる根本的な理由は、既製プラットフォームでは医療領域特有の要求水準を満たしきれないことにあります。
- 医療情報の機微性:保存やアクセスの条件を細かく制御できる点
- 厳格なセキュリティ:3省2ガイドラインの要件に応じた対策
- 院内システムとの連携:個別仕様に合わせた連携の設計
- 将来の変更:機能追加や法改正に、自社の判断で応じられる点
ノーコード・ローコードは費用を抑えやすい一方で、高度な医療機能やセキュリティ要件には限界があります。
また、電子カルテなど閉鎖的な院内システムと複雑なAPIで連携する場合も、既製プラットフォームでは対応しきれないことがあります。さらに、国内サーバーへの保存や特定の暗号化方式、職種や役割に応じた権限設定も、既製サービスの設定だけでは実現できないことがあります。
フルスクラッチであれば、インフラやデータベースまで要件に合わせて構築できます。長期運用での機能追加や法改正にも、柔軟に応じられます。
費用・工期の目安(規模別)
費用と期間は、診療機能や院内連携など、構築する機能の範囲によって変わります。下の目安は、標準的な開発費に、医療特有の要件への対応費用を加えた水準です。
- 予約・問診管理:患者アプリと管理画面を含め、6〜10ヶ月程度、500万〜1,200万円程度
- 院内システム連携:既存システムとのAPI連携に、別途100万〜300万円
- オンライン診療:1,500万〜4,000万円以上、期間は1年以上の場合があります
- セキュリティ診断:第三者機関の診断や脆弱性テストに100万〜300万円
- SaMD対応:薬事申請やPMDA審査に、別途数百万〜数千万円規模
オンライン診療の例では、ビデオ通話や電子処方箋の実装が含まれます。さらに、決済やeKYC(オンライン本人確認)も、実装の対象になります。
医療系アプリでフルスクラッチが必要になる領域

医療系アプリでは、核心部分だけを個別に作る考え方が現実的です。医療領域の核心は既製サービスで代替できないことがあるため、そこに個別開発の工数を充てることになります。
個別開発が必要な領域を見極めることが、過不足のない開発計画につながります。代表的な領域を、順に見ていきます。
機微な医療データの処理・保存とセキュリティ
医療系アプリの中核は、患者の診療情報やバイタルデータといった機微情報を、安全に処理・保存する基盤です。
- データ管理:保存場所や暗号化方式を、要件に合わせた設計
- アクセス制御:職種や役割に応じた権限の設定
- 運用記録:バックアップや監査ログの設計
この基盤は、3省2ガイドラインが求める機密性、完全性、可用性の水準を満たす必要があります。具体的には、医療向けリファレンスアーキテクチャに基づき、国内サーバーへの保存と、全操作の監査ログ記録を設計します。
加えて、3省2ガイドライン第6.0版は、クラウドを使う際に責任分界点(SLA)を明確にするよう求めています。ISMSによる継続的なリスク管理も求められるため、運用を続けられる基盤を自社の管理下に置くうえで、フルスクラッチが適しています。
電子カルテ・レセコンとの連携
院内の基幹システムとの連携方法は、標準規格と個別仕様の両方に対応できるかで判断します。
- 連携先:電子カルテ、レセコン、オーダリングシステム。
- 標準規格:HL7 FHIR、SS-MIX2、日本医師会のORCA。
- 個別対応:ベンダーや医療機関ごとの仕様・運用ルール。
実際には、連携先ごとに独自の仕様があるため、汎用的な既製ツールでは柔軟な対応が難しくなります。そのため、データ項目のマッピングと、閉鎖的な院内ネットワークへの安全な接続方式を個別に設計する必要があります。
データの整合性を保ちながら双方向にやり取りする処理も、個別要件に合わせて作り込みます。さらに、連携先の仕様が変わったときも、自社の判断で追従できる点がオーダーメイドの利点です。
SaMD・独自診断ロジック/オンライン診療
医療の専門性とセキュリティが重なる機能は、独自設計が必要かどうかを見極めて進めます。
- 診断支援:独自の医療ロジックの実装
- オンライン診療:通信や本人確認の安全な統合
- SaMD:薬機法上のプログラム医療機器への対応
SaMDに該当する診断支援機能では、精度や挙動を厳密に制御し、薬事申請に耐える設計と検証が欠かせません。
オンライン診療では、ビデオ通話の品質を保ちながら、通信を暗号化します。さらに、患者の本人確認(eKYC)や電子処方箋、決済も、医療水準のセキュリティで統合します。専門性とセキュリティを要する機能に開発を集中させることが、医療系アプリの競争力につながります。
ハイブリッド開発による費用対効果の最適化

フルスクラッチだけでは費用が膨らみ、既製ツールだけでは医療要件を満たせないことがあります。そこで、核心部分をオーダーメイドにし、汎用機能に既製サービスを使う方法がハイブリッド開発です。手法の組み合わせ方と費用感は、順に見ていきます。
既製で代替できる領域とフルスクラッチすべき領域
医療固有の要件があるかどうかを基準に、既製サービスと個別開発の範囲を切り分けます。
- 既製サービス:認証、通知、汎用データベース、ビデオ通話、決済。
- フルスクラッチ:医療データ基盤、院内連携、診断ロジック、SaMD、オンライン診療のセキュアな通信。
既製サービスの例には、Auth0などの認証サービスや、一般的なデータベースとバックエンド機能(BaaS)があります。実績のあるサービスを使えば、開発工数とその後の保守負荷を減らせます。
医療データの処理・保存には医療向けリファレンスアーキテクチャを用い、院内システムとの連携も行います。医療の核心に開発リソースを集中させることで、品質を保ちながらコストを抑えられます。
ハイブリッド開発の費用感
ハイブリッド開発は、フルスクラッチと既製サービス活用の中間に位置し、費用のバランスを取りやすい方法です。予算は、次のとおり分けて配分します。
- 汎用機能:既製サービスで開発工数を減らせる部分
- 医療の核心:安全性や差別化につながる部分への投資
たとえば、認証から決済やビデオ通話までを既製サービスで構築し、医療データ基盤と院内連携を個別開発する例があります。この構成であれば、全機能を一から作る場合より初期費用を抑えながら、医療要件を満たせます。
費用だけを理由に、医療の核心部分まで既製ツールで済ませるのは避けます。限られた予算を核心に振り向けることで、費用対効果を最大化できます。
どの機能をどの手法で実現するかは、発注側が開発会社と早い段階で具体的に擦り合わせておく必要があります。
フルスクラッチ発注時の注意点
発注時には、医療特有のコスト要因と、仕様変更の起こりやすさを見込んでおく必要があります。
見落としがあると、見積もりが上振れし、途中で予算が破綻するおそれがあります。確認すべき点は、隠れた費用と契約形態の2つです。
見積もりの「隠れた費用」の確認
見積書に医療特有の要件への対応が含まれているかは、項目ごとに確認します。
- SaMD:該当性調査や薬事申請・PMDA審査。
- 個人情報:保護への対応設計や方針作成の支援。
- セキュリティ:第三者機関による診断や脆弱性テスト。
医療領域に不慣れな会社の見積もりでは、一般的な開発にない項目は抜けてしまうことがあります。こうした項目が抜けていると、開発後に対応が必要だと分かった時点で、追加費用として大きく上振れする場合があります。
たとえば、第三者機関の診断だけで100万〜300万円かかり、SaMDの薬事申請やPMDA審査は数百万〜数千万円規模になることもあります。そのため、これらが見積もりに含まれるか、別途発生するかを発注前に明確にします。
医療系アプリの開発実績が豊富なパートナーを選ぶことで、費用の見落としを防げます。
契約形態の工夫(ハイブリッド契約)
法規制や現場運用の調整で仕様が変わりやすいため、フェーズごとに契約形態を選びます。
- 要件定義:時間単価で柔軟に対応できる準委任契約。
- 開発・実装:予算を確定しやすい請負契約。
この使い分けは、コスト超過を防ぐ方法として推奨されています。すべてを請負で固定すると、仕様変更のたびに追加費用の交渉が生じ、発注側と開発会社の関係がぎくしゃくしがちです。一方で、すべてを準委任にすると、最終的な費用の見通しが立ちにくくなります。
そこで、フェーズごとに契約を分けておけば、仕様変動に対応しながら予算の見通しも立てられます。発注前に開発会社と契約の設計を率直に話し合い、双方が納得できる進め方を決めておくと、プロジェクトを円滑に進められます。
まとめ
ここまで、開発手法の基礎、フルスクラッチが選ばれる理由、個別開発が必要な領域、ハイブリッド開発、発注時の注意点を見てきました。
医療系アプリでフルスクラッチが選ばれるのは、既製プラットフォームでは、厳格なセキュリティや院内連携、SaMD対応を満たしきれない場合があるためです。
予約・問診管理は500万〜1,200万円、院内連携は別途100万〜300万円が目安です。また、オンライン診療は1,500万〜4,000万円以上が目安で、期間が1年以上に及ぶこともあります。
認証、通知、決済は既製サービスに任せます。一方で、医療データ基盤、院内連携、診断ロジックは個別開発するのが、費用対効果の面で最も合理的です。
発注時は、隠れた費用を見積もりで確認し、準委任と請負を使い分けて仕様変更に備えます。
医療系アプリの開発実績が豊富な信頼できるパートナーと組み、自社に合う手法を見極めながら進めてください。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
