Webサービスやクラウド型のSaaSは、リリースした瞬間に完成するものではなく、公開後も継続的に運用・保守を行いながら成長させていく性質を持っています。サーバーやインフラの監視、障害発生時のインシデント対応、セキュリティパッチの適用、利用者の増加に合わせたスケーラビリティの確保、そしてグロースに伴う機能改善まで、運用保守フェーズで行うべきことは多岐にわたります。こうした「継続的に成長するWebサービス/SaaSの運用保守」を担う体制を立ち上げ、定常運用に乗せるまでには、新規開発とは異なる種類の期間とスケジュール設計が必要です。「運用保守の体制を立ち上げるのにどれくらいの期間がかかるのか」「開発チームから運用チームへの引き継ぎはどう進めればよいのか」「監視やSLAの設計、オンコール体制の構築にはどの程度のリードタイムを見込むべきか」といった疑問は、運用保守を外部に委託する、あるいは内製で立ち上げる企業担当者が最初に直面する課題です。
本記事では、Webサービス/SaaSの運用保守における「開発期間・スケジュール・納期」に焦点を当て、運用保守体制を立ち上げてから定常運用に至るまでの全体像、引き継ぎ・移行の工程別スケジュール、継続的デリバリー(CI/CD)が納期に与える影響、納期を短縮する具体的な手法、そしてスケジュールが遅延する典型的な要因とその対策までを、具体的な期間の目安とともに体系的に解説します。これから運用保守パートナーを選定する方はもちろん、社内でSRE(サイト信頼性エンジニアリング)的な運用体制を組み立てる立場の方にとっても、現実的な計画を立てるための判断軸が身に付く内容です。最後までお読みいただくことで、無理のないスケジュール設定と遅延リスクを最小化するためのポイントを押さえられるはずです。
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サービス運用保守の立ち上げ期間の全体像

Webサービス/SaaSの運用保守における「開発期間」という言葉は、新規開発の文脈とは少し意味合いが異なります。運用保守の場合は、ゼロからシステムを作る期間ではなく、「運用保守体制を立ち上げて定常運用に乗せるまでの期間」と、「定常運用の中で発生する継続的な改善・機能追加にかかる期間」の2つを指すのが実態です。まず体制立ち上げの全体像から押さえておきましょう。外部パートナー(ベンダー)を選定してSLA(サービスレベル合意)を結び、実際に運用を引き継いで定常運用に乗せるまでには、全体でおおむね6〜8か月を見込むのが典型的なスケジュールです。内訳としては、ベンダー選定とSLA合意に4〜6か月、実務的な引き継ぎに約2か月という配分が一般的です。自社内製で運用チームを組成する場合でも、人員確保・ツール選定・監視基盤構築・ランブック整備といった準備に同程度のリードタイムを要します。
ここで重要なのは、運用保守は「一度立ち上げたら終わり」ではなく、サービスが成長し続ける限り継続するという点です。特に継続的に機能を追加していくWebサービス/SaaSでは、アジャイル開発のように短いサイクルでリリースを繰り返すため、運用保守側もそのスピードに追従できる体制を作る必要があります。すなわち、立ち上げ期間の設計と同時に、定常運用後のリリースサイクル(週次・隔週・月次など)や、障害対応・セキュリティパッチ適用の運用フローも合わせて設計することが、後の手戻りを防ぐ鍵になります。本記事では、これらを踏まえた現実的なスケジュールの立て方を解説していきます。
運用保守フェーズにおける「開発期間」の捉え方
運用保守における期間を考える際は、「立ち上げ期間」と「定常運用期間」を分けて捉えることが出発点になります。立ち上げ期間とは、開発フェーズから運用フェーズへ移行し、監視・SLA・インシデント対応・オンコール体制といった運用の土台を整える期間です。一方、定常運用期間は、その土台の上で日々の監視と障害対応を行いながら、グロースに伴う機能改善や性能向上を継続的にリリースしていく期間を指します。Webサービス/SaaSの場合、定常運用期間中も小さなリリースが頻繁に発生するため、「1つの開発案件の納期」というよりは「スプリント(1〜2週間程度の開発サイクル)ごとのリリース納期」を積み重ねていく構造になります。したがって運用保守の納期管理は、大きな一括納品を1回行う発想ではなく、短いサイクルで継続的にデリバリーする発想へと切り替える必要があります。この前提を理解しておくことで、後述するCI/CDや自動化への投資が、なぜ運用保守の納期短縮に直結するのかが見えてきます。
規模別の立ち上げ期間と費用の目安
運用保守体制の立ち上げ期間と費用は、対象となるWebサービス/SaaSの規模や可用性要件によって大きく変動します。小規模なサービス(単一のWebアプリ、平日日中のみの監視で足りる程度)であれば、引き継ぎから定常運用までを1〜2か月で立ち上げられるケースもあり、月額の運用保守費用は10万〜30万円程度が目安です。中規模のサービス(複数のマイクロサービス構成、24時間の自動監視と一次対応が必要なもの)では、SLA設計と監視基盤構築を含めて3〜4か月の立ち上げ期間を見込み、月額30万〜100万円程度が相場となります。大規模なサービス(高可用性が求められるミッションクリティカルなSaaS、24時間365日の有人オンコール体制が必要なもの)では、ベンダー選定からSLA合意、引き継ぎ完了までに6〜8か月を要し、月額100万円以上になることも珍しくありません。一般に運用保守費用は、初期開発費用の年間5〜15%程度が相場とされますが、高度にカスタマイズされた複雑なシステムでは年間20%程度まで高騰する傾向があります。これらの数値はあくまで概算であり、可用性目標やオンコールの有無によって大きく変わる点を理解しておく必要があります。
立ち上げ期間を左右する変数
同じ「中規模」のWebサービスでも、運用保守体制の立ち上げが3か月で済むプロジェクトと半年以上かかるプロジェクトがあります。この差を生む変数を理解しておくことが、現実的なスケジュール策定の鍵です。第一の変数はドキュメントの整備状況です。設計書・構成図・過去の障害履歴・運用手順が整っていれば引き継ぎは短く済みますが、属人化が進んでドキュメントが欠落していると、現行担当者へのヒアリングや実機調査に多大な時間を要します。第二の変数は可用性要件の高さです。「稼働率99.9%以上」「障害復旧6時間以内」といった厳しいSLAを設定するほど、監視設計・冗長構成・オンコール体制の構築に期間がかかります。第三の変数は対象システムの技術スタックとアクセス権限です。クラウド環境のアカウント発行、本番環境へのアクセス権付与、セキュリティ審査などの調整に想定外の時間がかかることが多くあります。第四の変数は監視アラートのチューニングです。アラートの感度設定は一度で最適化できることはまれで、誤検知(過剰アラート)と見逃しのバランスを取りながら数週間かけて調整することになります。これらの変数を見積もり段階で洗い出し、楽観的すぎないスケジュールを設定することが、後の遅延を防ぐ第一歩になります。
運用保守体制立ち上げの工程別スケジュール

運用保守の立ち上げ期間を正しく見積もるには、立ち上げプロセスを工程に分解し、それぞれにどれだけの期間が必要かを把握することが不可欠です。立ち上げは大きく「フェーズ1:SLA合意・体制要件の確定(約4〜6か月)」と「フェーズ2:引き継ぎ・基盤整備(約2か月)」の2段階に分かれます。フェーズ1では、SLA要件や24時間365日対応(オンコール体制)の必要性を定義し、RFP(提案依頼書)を通じてベンダーを選定、監視精度や応答品質を検証するPoCを2〜4週間実施した上で、応答時間・復旧目標・未達時のペナルティ・エスカレーション体制を契約書に落とし込んでSLAを最終合意します。フェーズ2では、契約締結後に開発チームや現行運用チームから新体制へ実務を引き継ぎます。品質を落とさず移行するには、4ステップ・約8週間の段階的な引き継ぎが推奨されます。ここでは各工程の標準的な期間配分を見ていきましょう。
引き継ぎ・移行の8週間ロードマップ
開発から運用への引き継ぎは、品質を落とさず段階的に進めることが重要で、一般的に4ステップ・約8週間のロードマップで設計します。1〜2週目はシステム全体像の把握フェーズです。インフラ構成や技術スタックの理解、既存の設計書・構成図・過去の障害履歴のレビュー、そしてクラウド環境やデプロイ基盤へのアクセス設定と動作確認を行います。3〜4週目は保守運用業務の習得と監視設定の確認フェーズです。定期メンテナンス手順の習得、障害対応フロー(障害レベルの判定基準やエスカレーションルール)の理解を進め、並行して監視・アラート基盤の構築とチューニングに着手します。5〜6週目は、現行担当者の支援を受けながら新体制が主体的に運用を担う「並走運用」フェーズです。実際に発生したインシデントに新チームが一次対応し、不明点を都度確認することで実践的なノウハウを蓄積します。7〜8週目は、運用手順をランブック(運用手順書)として体系化し、新体制が完全に自走できる状態を作る仕上げフェーズです。この8週間を圧縮しすぎると、引き継ぎ漏れが定常運用後の重大障害につながるため、可用性要件が高いサービスほど十分な並走期間を確保することが推奨されます。
監視・SLA設計に要する期間
継続的に成長するWebサービス/SaaSの運用保守において、最も時間をかけて設計すべきなのが監視とSLAです。SLAの設計では、稼働率(可用性)の目標値を決めることが出発点になります。一般的なSaaSでは99.8%〜99.99%の範囲で設定し、計画停止時間を除いた実稼働時間で算出します。あわせて、障害発生からサービス復旧までの目標時間であるRTO(目標復旧時間、例:24時間以内)と、どの時点のデータまで復旧できるかを示すRPO(目標復旧時点、例:24時間前のデータ)を定義します。これらの目標値を達成可能なレベルに調整し、関係者間で合意するまでには、通常数週間から1か月程度の交渉期間を見込む必要があります。監視基盤の構築では、CPUやディスク容量などのリソース監視の自動化、障害自動通報(ハードウェア障害やリソース閾値超過を10〜60分以内に検知)、月次の稼働状況サマリレポートの仕組みづくりを進めます。特にアラートの感度設定は、低すぎると異常を見逃し、高すぎると対応工数が膨らむため、運用しながら数週間かけて最適化していくことになります。近年はAIに正常な振る舞いを学習させて異常を検知するAIOps(AIによる運用)の導入も進んでおり、アラート最適化の期間短縮に寄与しています。
オンコール・ランブック整備の期間
24時間365日の安定稼働を求められるWebサービス/SaaSでは、夜間や休日に発生する障害へ即応するためのオンコール体制が欠かせません。オンコール体制の構築では、当番制(ローテーション)の設計、エスカレーションルールの定義、連絡経路と対応手順の整備を行います。受付体制は、平日日中のみの対応から24時間365日の完全専任体制まで、サービスの重要度に応じて段階的に設計します。なお、24時間365日のオンコール対応を求める場合、ベンダー側は夜間・休日の待機要員を確保する必要があるため、平日日中のみの契約と比較して月額費用が2倍以上に跳ね上がるケースもあります。ランブック(運用手順書)の整備は、属人化を防ぎ、誰が当番でも一定品質で対応できるようにするための要です。よくある障害シナリオごとに、検知から切り分け、復旧、事後報告までの手順を文書化しておくことで、対応時間のばらつきを抑えられます。オンコール体制とランブックの整備は、引き継ぎ期間の後半(おおむね4〜8週目)に集中して行い、実際のインシデント対応を通じて手順を磨き込んでいくのが現実的な進め方です。
継続的デリバリー(CI/CD)が運用保守の納期を変える

運用保守フェーズにおける「納期」は、定常運用の中で発生する機能改善やバグ修正を、どれだけ短いリードタイムで本番環境に届けられるかで決まります。ここで決定的な役割を果たすのが、継続的インテグレーション・継続的デリバリー(CI/CD)の仕組みです。CI/CDが整っていない運用保守では、修正のたびに手作業でビルド・テスト・デプロイを行うため、小さな変更でもリリースに数日を要し、しかも人為的なミスによる障害リスクを抱えます。一方、CI/CDパイプラインが整備されていれば、コードの変更をプッシュするだけで自動テストとビルドが走り、検証環境への反映、さらには本番環境へのデプロイまでを短時間で安全に行えます。継続的に成長するWebサービス/SaaSにとって、CI/CDへの投資は単なる効率化ではなく、運用保守の納期そのものを根本的に短縮する基盤投資なのです。
リリースサイクルの短縮
従来型の運用保守では、月次や四半期ごとにまとめて変更をリリースする「ビッグバンリリース」が一般的でした。しかしこの方式は、一度に多くの変更を投入するため障害発生時の原因特定が難しく、切り戻し(ロールバック)の影響範囲も大きくなります。継続的に成長するWebサービス/SaaSでは、変更を小さな単位に分割し、週次・隔週・あるいは日次といった短いサイクルでリリースする方式が主流になっています。アジャイル開発で開発サイクルが短いWebサービスでは、保守運用側も同じスピードに追従しなければなりません。小さな変更を頻繁にリリースすることで、1回あたりのリリースに含まれる変更が少なくなり、問題が起きても原因を素早く特定でき、納期も「次のスプリント(1〜2週間)まで」という短いスパンで管理できるようになります。リリースサイクルを短縮するには、リリース方針と切り戻し計画を含むリリース管理プロセスをあらかじめ定義しておくことが不可欠です。
自動化による恒常的な納期短縮
運用保守の納期を恒常的に短縮するには、繰り返し行う作業を自動化することが効果的です。CI/CDパイプラインにおける自動テスト(ユニットテスト・結合テスト・E2Eテスト)は、変更を加えるたびに既存機能が壊れていないかを自動で検証するため、人手によるリグレッションテストの工数を大幅に削減します。インフラの構成管理をコード化するIaC(Infrastructure as Code)を導入すれば、検証環境や本番環境の構築・複製を短時間で再現でき、環境差異による不具合も減らせます。さらに、監視や障害対応の自動化を進めることで、運用担当者が定型作業に追われる時間を減らし、本来注力すべき機能改善や性能向上に工数を振り向けられるようになります。これらの自動化への初期投資は立ち上げ期間を一時的に延ばしますが、定常運用に入った後のリリースリードタイムを継続的に短縮するため、サービスのライフサイクル全体で見れば納期面の大きな利益を生みます。継続的に成長させていくWebサービスほど、この投資対効果は高くなります。
段階的リリースとロールバック
稼働中のWebサービス/SaaSに変更を加える際は、いきなり全ユーザーへ反映するのではなく、段階的にリリースして影響を確認しながら展開する手法が安全です。代表的な方式に、一部のユーザーやサーバーにだけ先行して新バージョンを適用するカナリアリリースや、新旧2つの環境を用意して切り替えるブルーグリーンデプロイメントがあります。これらの段階的リリースは、問題が起きた際に即座に旧バージョンへ切り戻せるよう設計されているため、障害発生時の復旧時間を大幅に短縮できます。納期管理の観点では、段階的リリースを前提にすると「本番反映までの納期」と「全ユーザーへの展開完了までの納期」を分けて管理することになります。前者は短く設定しつつ、後者は数日かけて段階的に広げることで、納期の速さと安全性を両立できます。切り戻し計画をリリースのたびに用意しておくことは、運用保守の納期を守りながらサービスの信頼性を維持するための基本動作です。継続的にリリースを重ねるサービスでは、この切り戻しの容易さがリリース頻度そのものを高める前提条件になります。
運用保守の納期を短縮する具体的な方法

運用保守の立ち上げ期間と定常運用におけるリリースリードタイムを短縮するには、いくつかの実践的な手法があります。ここでは、ランブック整備による属人化の排除、監視自動化による検知・対応の高速化、並走運用による円滑な知識移管という3つの観点から、納期短縮に効く具体策を解説します。いずれも一時的な手間はかかるものの、定常運用に入った後の対応スピードを継続的に高め、結果として納期面の余裕を生み出す取り組みです。
ランブック整備による属人化の排除
運用保守で納期や対応時間が安定しない最大の原因は、特定の担当者しか手順を知らない「属人化」です。ベテラン担当者が休暇や離職で不在になると、障害対応や定例作業が止まり、復旧やリリースが大幅に遅れます。これを防ぐのがランブック(運用手順書)の整備です。よくある障害シナリオ、定期メンテナンス、デプロイ手順、データバックアップ・リストア手順などを、誰が見ても同じ手順で実行できるレベルまで文書化します。ランブックが整っていれば、当番が変わっても一定品質・一定時間で対応でき、対応時間のばらつき(=納期の不確実性)を大幅に減らせます。さらに、ランブックの内容を自動化スクリプトへ昇華させていくことで、人手を介さずに復旧や定例作業を実行できるようになり、対応リードタイムをさらに短縮できます。継続的に機能を追加していくサービスでは、新機能をリリースするたびにランブックを更新する運用ルールを定め、ドキュメントの陳腐化を防ぐことが重要です。
監視自動化とAIOpsによる検知の高速化
障害対応の納期(検知から復旧までの時間)を短縮するには、異常をいかに早く正確に検知するかが鍵になります。リソース監視を自動化し、CPU・メモリ・ディスク容量・レスポンスタイムなどの指標が閾値を超えた際に自動でアラートを発報する仕組みを整えることで、利用者からの問い合わせを待たずに障害を検知できます。障害自動通報を10〜60分以内に受信できる体制を作れば、初動対応の開始が早まり、結果として復旧までの時間も短縮されます。近年はAIOps(AIによる運用)の導入が進んでおり、AIに正常な振る舞いを学習させて異常を検知したり、ログを分析して根本原因の候補を提案させたりすることで、原因特定にかかる時間を短縮できます。前述のとおりアラートの感度設定は運用上の大きな課題で、過剰アラートは対応工数を膨らませ、見逃しは重大障害につながります。監視自動化とAIOpsを組み合わせ、アラートを継続的にチューニングしていくことが、検知の精度と速度を両立させる近道です。
並走運用と知識移管
運用保守体制の立ち上げ期間を短縮しつつ品質を担保するには、現行担当者と新体制が一定期間並走する「並走運用」が有効です。新体制がいきなり単独で運用を引き継ぐと、想定外の事象に対応できず障害が長引くリスクがありますが、現行担当者が伴走しながら新体制に一次対応を任せることで、実際のインシデントを通じて生きたノウハウを移管できます。並走期間中は、対応した事象とその解決方法を記録し、ランブックへ反映していくことで、知識の属人化を防ぎながら新体制の自走を早められます。知識移管を効率化するには、システム全体像を示すアーキテクチャ図、過去の障害履歴とその対応記録、頻出する問い合わせと回答のナレッジベースを整備しておくことが効果的です。並走期間を適切に設定することで、立ち上げ全体のスケジュールを過度に延ばすことなく、定常運用後の対応スピードを早期に立ち上げられます。継続的に成長するサービスでは、新機能のリリースごとに小さな知識移管が発生し続けるため、知識を共有・蓄積する仕組みそのものを運用に組み込んでおくことが、長期的な納期安定につながります。
納期遅延・スケジュール超過の典型要因と対策

運用保守の立ち上げや定常運用において、スケジュールが当初計画を超過する主な原因として、ドキュメント不備と属人化、SLA条件交渉の長期化、監視アラートのチューニング反復、そしてアクセス権限・環境調整の遅延が挙げられます。これらは事前に予見し、対策を講じておくことで影響を最小化できます。ここでは代表的な3つの遅延要因とその対策を解説します。
ドキュメント不備と属人化
運用保守の立ち上げで最も頻繁に発生する遅延要因が、引き継ぎ対象システムのドキュメント不備と属人化です。設計書や構成図が最新化されていない、過去の障害対応が記録されていない、特定のベテランしか仕様を把握していないといった状況では、新体制が全体像を理解するのに想定の何倍もの時間がかかります。対策としては、ベンダー選定や契約の段階で「引き継ぎ用ドキュメントの整備」を作業範囲に明記し、誰が・いつまでに・どの粒度で用意するかを合意しておくことが重要です。現行担当者へのヒアリング時間も計画に織り込み、口頭でしか得られない暗黙知を早期に文書化します。また、引き継ぎ期間中に判明した不足ドキュメントは、その場でランブックやナレッジベースへ追記し、同じ調査を二度行わないようにします。属人化の解消は一朝一夕には進まないため、立ち上げ期間に一定のバッファ(おおむね2〜3週間程度)を確保しておくことが、現実的な遅延対策になります。
SLA条件交渉の長期化
SLA(サービスレベル合意)の条件交渉が長引き、契約締結が遅れることも、立ち上げスケジュール超過のよくある原因です。稼働率の目標値、障害復旧時間、未達時のペナルティ(減額や違約金)の有無、エスカレーション体制といった条件は、発注側と受注側の利害が対立しやすく、合意までに想定以上の時間を要することがあります。特に、SLAには改善努力を促す「努力目標型(ペナルティなし)」と、未達時に費用減額などのペナルティが生じる「目標保証型」があり、どちらを選ぶかで交渉の難易度が変わります。なお、未達時にペナルティがない契約は、実質的にSLAなしと同じとみなされる点には注意が必要です。対策としては、交渉の前提となる可用性要件やビジネス上の許容停止時間を社内で先に固めておくこと、そして過剰に厳しいSLAを求めすぎないことが挙げられます。可用性目標を1段階引き上げるだけでコストと立ち上げ期間が大きく増えるため、サービスの重要度に見合った現実的な水準を設定することが、交渉を早期に着地させる鍵になります。
監視アラートのチューニング反復
監視基盤を構築しても、アラートの感度設定を一度で最適化できることはまれです。立ち上げ直後は誤検知(過剰アラート)が頻発して対応工数が膨らんだり、逆に閾値が緩すぎて重要な異常を見逃したりと、チューニングの反復に予想以上の期間を要することがあります。これが定常運用への移行を遅らせる一因になります。対策としては、立ち上げ計画の段階でアラートチューニングに2〜4週間程度の調整期間を明示的に確保しておくことが有効です。また、初期はアラートを多めに設定して徐々に絞り込むのではなく、ビジネス影響の大きい指標(サービス停止やレスポンス劣化に直結するもの)から優先的にアラートを整備し、運用しながら段階的に拡張していくアプローチが現実的です。前述のAIOpsを活用すれば、正常な振る舞いの学習に基づいて閾値を動的に調整でき、チューニングの反復期間を短縮できます。アラートの最適化は定常運用に入ってからも継続する取り組みであると割り切り、立ち上げ時点で完璧を目指しすぎないことが、結果としてスケジュール全体を守ることにつながります。
まとめ

本記事では、Webサービス/SaaSの運用保守における開発期間・スケジュール・納期について、体制立ち上げの全体像から工程別スケジュール、CI/CDが納期に与える影響、納期短縮の具体策、そして遅延要因と対策までを体系的に解説しました。運用保守の期間は「立ち上げ期間(おおむね6〜8か月)」と「定常運用における継続的なリリースのリードタイム」の2軸で捉えることが出発点です。立ち上げでは、SLA合意・監視設計・引き継ぎ・オンコール体制構築・ランブック整備といった工程を段階的に進め、特に引き継ぎは4ステップ・約8週間の並走運用で品質を担保することが重要です。定常運用では、CI/CDや自動化への投資、段階的リリースと切り戻しの仕組みが、リリースリードタイムを継続的に短縮する基盤となります。そして、ドキュメント不備と属人化、SLA交渉の長期化、アラートチューニングの反復という典型的な遅延要因に対しては、事前のドキュメント整備合意、現実的なSLA設定、そして調整期間のバッファ確保で備えることが肝心です。継続的に成長するWebサービス/SaaSの運用保守を成功させるには、これらのポイントを押さえた現実的なスケジュール設計が欠かせません。運用保守体制の構築を検討されている方は、まずは複数の会社に相談し、自社サービスの可用性要件に見合った体制と期間を見極めることから始めることをお勧めします。
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株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
