アジャイル開発は、計画・設計・実装・テストを短いスプリントで繰り返し、利用者の反応を次の改善に生かしながら機能を育てていく進め方です。
開発中の仕様変更に柔軟に対応でき、Webサービスやスマートフォンアプリで広く採用されています。
Webサービス開発の工程ごとの進め方と注意点については、無料ホワイトペーパー「Webサービス開発の完全ガイドブック」で詳しく解説しています。
アジャイル開発の全体像

日本企業でも、2020年代に入って導入率が急速に高まっています。IPA(情報処理推進機構)の調査でも、アジャイルへの移行を推進する動向が示されています。
アジャイル開発は、2001年発表の「アジャイルソフトウェア開発宣言」を思想的な基盤としています。宣言は「プロセスやツールよりも個人と対話を」「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」といった価値観を示しています。
ウォーターフォールは、要件を固めて全工程を順番に完成させてからリリースします。一方、アジャイルは機能単位の短いサイクルを重ね、早い段階で価値を届けながら改善します。
ウォーターフォール開発との違い
両者の違いは、仕様変更への対応と、得意とする案件の種類に表れます。
- ウォーターフォール:要件を先に固め、工程を順番に進める方式
- アジャイル:変更を受け入れ、短いサイクルで改善を重ねる進め方
ウォーターフォールは、上流工程で要件と仕様を固め、順番に進めることでコストと品質を管理します。一度決めた仕様を変えると手戻りが起き、後工程への影響も大きくなります。そのため、変更は原則として歓迎されません。
アジャイルは、変更を前提として設計されており、開発の途中でユーザーのフィードバックや市場環境の変化が生じても、柔軟に受け入れられる構造になっています。
ウォーターフォールは、要件が固定された大規模な基幹システムに適しています。一方、アジャイルはWebサービスや新規プロダクトなど、要件が流動的な案件に向いています。
近年は、上流をウォーターフォール、実装をアジャイルで進める「ハイブリッド型」も普及しています。たとえば、キオクシア株式会社などの大手メーカーが、この方法で成果を出しています。
代表的なアジャイルフレームワーク
アジャイル開発には、役割や進め方の型を定めたフレームワークがいくつかあります。
- スクラム:役割とイベントを定めた、反復型の開発
- カンバン:タスクの状態を一覧にして、作業の流れを管理する
- XP・SAFe・LeSS:技術の実践や、複数チームの連携に使う枠組み
その中で、スクラム(Scrum)は最も広く普及しているフレームワークです。1〜4週間を1スプリントとして開発を進めるのが特徴です。
スクラムには、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームの3つの役割があります。また、プロダクトバックログやスプリントバックログ、デイリースクラムなどのイベントで構成されます。
次に普及しているのがカンバン(Kanban)です。タスクを「ToDo」「進行中」「完了」などの列に分けて、チームの作業の流れを追えるようにします。カンバンは、スプリントという固定のサイクルを持たないため、継続的に発生するサポート業務や保守開発に向いています。
エクストリームプログラミング(XP)は、ペアプログラミングやテスト駆動開発(TDD)などの実践的な技術を重視したフレームワークです。大規模組織では、SAFe(Scaled Agile Framework)やLeSS(Large-Scale Scrum)も使われます。これらは、複数チームが協調して開発するためのスケーリングフレームワークです。
アジャイル開発の進め方
アジャイル開発をうまく進めるには、準備から各スプリントの運用までの一連の流れを理解しておくことが欠かせません。最も普及しているスクラムを軸に、要件定義・企画から設計・開発、テスト・リリースまでのステップを見ていきます。
要件定義・企画フェーズ
企画の段階では、目指す価値と、実装する機能の順番を決めます。
- プロダクトビジョン:解決する課題と対象者をはっきりさせた方向性
- ユーザーストーリー:利用者の目的に沿って機能を表す形式
- バックログと計画:優先順位とロードマップの整理
まず、プロダクトオーナーは「このプロダクトで誰の何を解決するのか」というビジョンを明確にします。実現したい機能や要件は、「ユーザーストーリー」と呼ばれる形式で一覧にします。
ユーザーストーリーは、「(ユーザー像)として、(目的)のために、(機能)が欲しい」という形式で要件を表します。開発チームとステークホルダーが、同じ目線で要件を共有するために使われます。
こうして作った一覧がプロダクトバックログで、優先度の順に並べられます。ウォーターフォールでは、全要件を詳細に定義してから開発に入ります。一方、アジャイルは詳細仕様を最初から固めず、大まかな方向性とバックログをもとに開発を始められます。
この柔軟さがあるため、初期段階のドキュメント作成コストを抑えつつ、早期にプロダクトを市場に投入できます。また、リリース全体の大まかなロードマップ(リリース計画)も、このフェーズで作成します。ただし、これは方向性を示すものなので、スプリントを重ねるなかで随時更新します。
設計・開発フェーズ(スプリントの運用)
スプリントは通常1〜4週間で、期間中は計画から機能開発までを順に回します。
- 計画:実装する機能と、具体的なタスクを決める場
- 日次共有:進捗やブロッカーを、チーム全員で確認する時間
- 機能開発:設計、実装、単体テストを進める作業
各スプリントは、スプリントプランニングから始まります。ここでは、実装する機能をプロダクトバックログから選びます。選んだ機能はスプリントバックログにまとめ、タスクを具体的な作業に分けて担当者に割り当てます。
開発期間中は、毎日15分程度のデイリースクラム(朝会)を実施します。「昨日やったこと」「今日やること」「ブロッカー(障害)」の3点を全員が共有し、チームの状況が全員に見えるようにします。
この15分ほどのミーティングは、課題の早期発見と解決を促す場です。そのため、プロジェクトのスピードを保つ役割も担います。
スクラムマスターは、デイリースクラムの進行を担いながら、チームの作業を妨げる問題を取り除きます。また、開発は機能ごとに設計、コーディング、単体テストまでを1スプリント内で終えるのが理想です。
ベネッセコーポレーションは、進研ゼミの新サービス開発にアジャイルを採用しました。毎週のリリースサイクルを実現したこの事例からも、短いスプリントがフィードバックを速めることが分かります。
テスト・リリースフェーズ
終盤では、成果を評価して次の改善に生かします。
- レビュー:完成した機能を示し、受け入れの可否を確かめる場
- 振り返り:改善点を話し合い、次のスプリントに生かす
- テストと公開:品質を確かめたうえでのリリース
スプリントレビューでは、その期間に完成した機能をプロダクトオーナーやステークホルダーに示し、受け入れ可否を確認します。ここで得られたフィードバックは、次スプリントのプロダクトバックログに反映されます。
レトロスペクティブでは、チームでスプリントを振り返ります。「うまくいったこと」「改善すべきこと」「次に試すこと」を話し合い、働き方を継続的に改善します。
ウォーターフォールではテストを最終工程にまとめますが、アジャイルは各スプリントの中に組み込みます。単体テストと結合テストを各スプリントで行い、継続的インテグレーション(CI)も使って品質を保ちます。
機能が十分にそろった段階で、リリースを判断し、エンドユーザーへデプロイします。近年は、CI/CDパイプラインの整備により、コードのコミットからテスト実行・デプロイまでを自動化し、リリースサイクルをさらに短縮する企業も増えています。
費用相場とコストの内訳

アジャイル開発の費用は、ウォーターフォールのように一括で確定することが難しいものです。総額は、スプリント数とチーム構成によって変わります。費用を正しくつかむには、人件費と工数の考え方と、ランニングコストの両面を理解しておく必要があります。
人件費と工数
人件費は、チーム単価にスプリント数を掛けて考えます。
- チーム構成:必要な役割と開発メンバー数を定めること
- 開発期間:初回リリースまでのスプリント数の想定
- 見積もり精度:ストーリーポイントとベロシティの活用
一般的なスクラムチームでは、開発メンバーは4〜6名が目安です。
月額は、プロダクトオーナーが100〜200万円、スクラムマスターが150〜250万円程度です。開発メンバーは1名あたり月額60〜120万円程度で、チーム全体では600〜1,000万円前後になることが多いです。
フリーランスや中小規模の開発会社に外注する場合は、エンジニアの人月単価が40〜80万円程度と比較的安価になることもあります。仮に月額750万円のチームで初回リリースまでに6スプリント(6ヶ月)かかる場合、人件費だけで4,500万円規模になります。
ウォーターフォールに比べると、アジャイルは初期の総費用を読みにくい面があります。一方で、スプリントごとに機能を届けられるため、投資対効果(ROI)を早い段階で確認できます。
アジャイルでは、ストーリーポイントという相対的な単位でタスクの難易度を見積もります。チームの速度(ベロシティ)を測っておくと、長期的なコストを予測しやすくなります。
初期費用以外のランニングコスト
リリース後も運用・改善費はかかり続けるため、開発費と合わせて見積もります。
- インフラ:クラウドサービスの利用料
- 開発ツール:管理、ソースコード、CI/CDの利用料
- 品質と安全:自動テストやセキュリティ監視の費用
AWSやGoogle Cloudなどを使う場合、月額数万円〜数十万円のインフラコストが継続的に発生します。
ツールやライセンスの費用も、継続して発生します。対象には、JiraやBacklogなどの管理ツール、GitHubなどのソースコード管理、CI/CDツールの利用料が含まれます。さらに、継続的な品質維持のためのテスト自動化ツールや、セキュリティ診断・監視ツールの費用も必要です。
アジャイルは、リリース後も改善を続けて価値を高めていく開発スタイルです。そのため、初回リリース後も、チームとインフラの費用がかかり続けます。
これらを含めた総保有コスト(TCO)は、初期の段階から試算しておくと、予算超過の防止に役立ちます。特に新規事業でアジャイルを採用する場合は、少なくとも12〜18ヶ月分のランニングコストを見込んでおくことをお勧めします。
見積もりを取る際のポイント

アジャイル開発の見積もりは、ウォーターフォールのように最初から全体の金額が確定するものではありません。そのため、発注側にも、見積もりを正しく読み取り、発注先と適切にやりとりする力が求められます。見積もりの精度は、要件の整理、発注先の比べ方、リスクへの備えの3点で高まります。
要件明確化と仕様書の準備
詳細な仕様書を最初から完成させる必要はありません。ただし、目的、対象ユーザー、MVP(最小限の製品)の範囲は、発注前に明確にしておきます。
- 必須機能:初回リリースに必要な機能の選定
- 優先順位:「あれば良い」機能との区別
- 関連要件:他システムとのつながりや、品質に関する条件
要件が曖昧なまま見積もりを依頼すると、会社ごとに前提がずれます。その結果、同じ案件でも金額に数倍の差が生じることがあります。
特に重要なのは、「ファーストリリースまでに絶対に必要な機能」と「あれば良い機能」を明確に分けることです。この優先順位の整理がないと、スコープが膨らみ続けてプロジェクトが長期化し、コストが予算を超える原因になります。
既存システムとの連携や非機能要件(パフォーマンス・セキュリティ・可用性など)は、開発コストに大きく響きます。そのため、見積もりの前に確認しておきましょう。
発注前に、機能一覧と優先順位をまとめた簡単なプロダクトバックログを作っておくと、開発会社からより精度の高い見積もりを得られます。
複数社比較と発注先の選び方
発注先は、少なくとも3社以上から見積もりを取って比べます。金額だけでなく、チーム体制、スプリント設計、連絡体制も確認しましょう。
- 経験:アジャイルの実績と、過去案件の内容
- 担当人材:スクラムマスターなどの配置
- 比較条件:単価、スプリント数、人月費用をそろえること
アジャイルはチームと密接に協働するため、経験と相性を確かめておくことが大切です。特に、スクラムの実践経験があるスクラムマスターやプロダクトオーナーを配置できるかどうかは、プロジェクトの成功率に直結します。
見積もりを比べるときは、「スプリント単価」「想定スプリント数」「チームの人月コスト」の3点を同じ書式にそろえると、判断しやすくなります。
アジャイル開発は、始まってからの関係が長く続くことが多いため、コミュニケーションの取りやすさや価値観の合い方も、重要な選定基準になります。
試験的に短期間(1〜2スプリント)のパイロット開発から始め、チームの相性を確認してから本格発注するという方法も有効です。
注意すべきリスクと対策
アジャイル開発には、特有のリスクがあります。
- 範囲管理:追加要件の優先度と工数の評価
- 記録の更新:各スプリントで設計と仕様を文書に残すこと
- 契約と予算:変更への柔軟性と、上限額の検討
中でも注意したいのが、仕様が際限なく広がるスコープクリープです。要件変更を無制限に受け入れると、スプリント数が増えます。その結果、コストと期間が大幅に膨らむおそれがあります。
そのため、追加の際は、優先度と工数を評価する手順を決めておきます。判断の権限はプロダクトオーナーに持たせ、変更の承認者をはっきりさせます。
次に挙げられるのが、チーム内のコミュニケーション不足によるドキュメント不足のリスクです。アジャイルは「動くソフトウェア」を重視するため、設計書や仕様書が不十分になりがちです。
将来のメンバー交代や保守に備えて、最低限のドキュメントを各スプリントで更新するルールを設けましょう。
契約形態のリスクも重要です。アジャイル開発には、「時間・材料費型(T&M)」と「固定金額型」の契約があります。柔軟性の観点からはT&M型が適していますが、予算管理が難しくなるため、予算上限(キャップ)を設定した「Capped T&M」契約を採用する企業も増えています。
デンソーは、アジャイル導入時に内製化と外注を組み合わせたハイブリッド体制を組みました。このように、リスクを分散しながら段階的にアジャイルを広げていく方針が、長期的に効果的です。
まとめ
アジャイル開発は、機能単位の短いサイクルで計画・設計・実装・テストを繰り返します。仕様変更に対応しながら、早期にビジネス価値を届けられる手法です。
スクラムでは、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームの3つの役割が連携します。その連携によって、スプリントごとに動くプロダクトを届けられます。
基本の流れは、プロダクトバックログを作り、スプリントプランニングで作業を決めることです。その後、デイリースクラム、レビュー、レトロスペクティブを経て、次のサイクルへつなげます。
費用面では、「チーム単価×スプリント数」が基本的な考え方です。ランニングコストを含めた総コストの設計も重要です。
見積もりを取る際には、要件を明確にし、複数社を比べ、契約形態を検討することが大切です。こうした丁寧な準備が、予算超過やプロジェクト失敗のリスクを下げることにつながります。
アジャイル開発の導入や開発パートナーの選定についてお悩みの場合は、コンサルティングから一気通貫で支援するプロフェッショナルへの相談をお勧めします。
▼開発を相談する前に読みたい無料ホワイトペーパー
・Webサービス開発の完全ガイドブック
・【2026年最新版】AI駆動開発の完全ガイドブックをご覧ください。
会社紹介
株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>


株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。
