アプリの導入/開発事例や活用/成功事例について

アプリの導入や開発を検討するとき、多くの担当者がまず知りたいのは「自社と似た規模・業態の企業が、実際にどの技術形態(ネイティブ/ハイブリッド/Web)を選び、どの開発言語で作り、どうやって投資を回収したのか」という具体的な事例ではないでしょうか。アプリ開発は手法・対応OS・機能規模によって費用が300万円規模から3,000万円規模まで大きく振れ、しかも一度選んだ技術形態を後から変えると二重運用コストが発生します。だからこそ、抽象的な比較論ではなく、実在する企業がどんな判断を下したのかという事例こそが、投資判断の精度を高めてくれます。

本記事は、アプリの導入事例・開発事例・活用事例・成功事例を、発注企業(事業会社)の視点から掘り下げる「事例特化」の解説です。月間4.2万人超が使う法人向け銀行アプリのネイティブからFlutterへのハイブリッド統合移行、メルカリ「ハロ」やスシロー・ユニクロなど国内大手のFlutter採用、AI駆動開発と分割発注で開発費を1/3に圧縮した事例、BMW車載システムのKMP段階統合まで、一次データとあわせて具体的に解説します。読み終えるころには、自社が「どの技術形態・言語を選び、どこから着手すべきか」のイメージが描けるはずです。なお、アプリ開発の全体像をまだ把握していない方は、まずアプリ開発の完全ガイドから読むことをおすすめします。

ネイティブからハイブリッド統合へ移行した事例

ネイティブからFlutterハイブリッド統合へ移行したアプリ事例のイメージ

アプリ開発の事例でまず注目したいのが、ネイティブで作ったアプリを、開発効率の高いクロスプラットフォーム(Flutter)へ移行しながらも、コア機能はネイティブを残す「ハイブリッド統合」という選択です。これは「ネイティブかFlutterか」の二者択一ではなく、両者の良いところを組み合わせる現実的な解で、大規模アプリで採用が進んでいます。

ING銀行が認証はネイティブを残して移行した事例

象徴的なのが、INGホールセールバンキングの法人向けアプリ「InsideBusiness App」の事例です(出典:学術ケーススタディ)。このアプリは月間4.2万人を超える法人ユーザーが利用する大規模なもので、もともとはiOS/Androidそれぞれのネイティブで開発されていました。同社は開発・保守の効率を高めるため、UI部分をFlutterへ移行する判断を下しましたが、ここで重要なのは「すべてをFlutterに置き換えなかった」点です。

具体的には、認証(mToken)などセキュリティが極めて重要なコア機能はネイティブSDKをそのまま継続利用し、画面表示などのUI部分だけをFlutterに統合する「ハイブリッド統合」を採用しました。これにより、UIの開発効率を高めながら、銀行アプリとして妥協できないセキュリティと性能を維持しています。事例から学べるのは、クロスプラットフォーム移行を「全置き換え」と考えるのではなく、性能・セキュリティが死活的なコア機能だけはネイティブを残す、という割り切りの有効性です。

アプリ容量の肥大化を受け入れた判断

このハイブリッド統合には代償もありました。同事例では、移行に伴ってアプリサイズがiOSで40.1MBから79MBへ、Androidで29.2MBから141MBへと大きく肥大化しています(出典:学術ケーススタディ)。クロスプラットフォームのフレームワークは独自の描画エンジンを内包するため、ネイティブよりアプリ容量が増える傾向があるのです。実際、別の学術研究では、iOSの単純なアプリでネイティブ(Swift)が1.3MBに対しFlutterは28.5MBと、約22倍の差が報告されています。

それでもING銀行が移行を選んだのは、容量の増加というデメリットよりも、二つのOSのUIを単一コードで保守できる開発効率のメリットが上回ると判断したからです。法人向け銀行アプリのユーザーは、容量よりも安定性と機能を重視するため、容量肥大化の影響が相対的に小さいという読みもあったと考えられます。事例が教えるのは、技術選定にトレードオフは必ず伴うということ、そして「自社のユーザーにとって何が許容でき、何が許容できないか」を起点に判断すべきだということです。容量や性能のメリット・デメリットの定量比較は、関連記事『アプリ開発のメリット・デメリットと判断基準について』もあわせてご覧ください。

国内大手のFlutter・クロスプラットフォーム採用事例

国内大手のFlutter採用アプリ事例のイメージ

クロスプラットフォーム、とりわけFlutterは、いまや国内の名だたる企業が本番アプリで採用しています。実在する採用事例を知ることは、「Flutterで本当に大規模アプリが作れるのか」という不安を払拭し、自社の技術選定の現実的な選択肢を広げてくれます。

メルカリ・スシロー・ユニクロなどの採用実例

国内でFlutterを採用しているアプリには、メルカリの新サービス「ハロ」、スシロー、じゃらん、マイナビ2025、ユニクロ、サイバーエージェント(WINTICKET)、DeNA(Voice Pococha)などがあります。スポット案件を扱うサービスから飲食、旅行予約、人材、アパレル、エンタメまで、幅広い業種でFlutterが選ばれている点が特徴です。これらの企業に共通するのは、iOSとAndroidの両方を素早く・同時に・少ない人数で開発・保守したいというニーズです。

Flutterは単一のコードベースから両OS向けのアプリを生成できるため、二つのチームでネイティブを別々に開発する場合に比べ、開発工数と保守負担を大きく圧縮できます。国内ベンチマーク(出典:オブライト)でも、1,000要素のリストスクロールでFlutterが2.1ms/フレーム、React Nativeが3.8ms/フレームと、Flutterの描画性能が確認されています。メモリ使用量も、同等のECアプリでFlutter180MB対React Native210MBと報告されており、性能面でも本番アプリに耐える水準にあることが、大手採用を後押ししていると言えます。

BtoC・BtoB・SaaS別の形態選定の傾向

事例を横断すると、ビジネスモデル別に技術形態の選び方に傾向が見えてきます。多数の一般消費者に使ってもらうBtoCアプリでは、メルカリやユニクロのように、開発効率と更新スピードを重視してクロスプラットフォームを選ぶケースが目立ちます。一方、特定企業の業務で使うBtoBアプリや、物流・製造の現場端末では、対象OSが限定できる(たとえば業務用Android端末に統一する)ため、片側OS先行で割り切る判断もしやすくなります。

SaaSアプリの場合は、まずWebアプリとして提供し、利用が定着してからモバイルアプリ化するという段階的なアプローチが現実的です。ブラウザで動くWebなら、OSを問わず素早く価値検証ができ、初期投資も抑えられます。事例から学べるのは、「自社のユーザーが誰で、どのデバイスで、どんな頻度で使うのか」というビジネスの前提が、技術形態の最適解を決めるということです。流行や他社の真似ではなく、自社のビジネスモデルから逆算することが、後悔のない技術選定につながります。

AI駆動開発と分割発注でコストを圧縮した事例

AI駆動開発と分割発注でアプリ開発費を圧縮した事例のイメージ

技術形態の選び方と並んで、発注企業が最も関心を持つのが「どうすれば開発費を抑えられるか」です。近年は、生成AIによるコード自動生成と、発注先の組み合わせを工夫することで、従来相場の数分の一でアプリを構築する事例が生まれています。これはアプリ開発のコスト構造を根本から変える可能性を秘めています。

市場相場の1/3に圧縮したAI駆動開発事例

具体的な事例として、市場相場で700〜1,500万円(13〜18人月相当)とされる案件を、実質8人月・500万円程度まで圧縮した例があります(出典:ぷらすわん合同会社)。この圧縮を実現した鍵が、Claude Codeなどの生成AIによるコード自動生成の活用です。仕様に沿った定型的なコードや画面の実装をAIに任せることで、エンジニアの工数を大きく削減し、人月ベースの開発費を引き下げています。

ただし、AI駆動開発は「丸投げすれば安くなる」という単純な話ではありません。AIが生成したコードの品質を見極め、設計やアーキテクチャの意思決定を担える熟練エンジニアがいて初めて、コスト削減と品質の両立が成り立ちます。事例が示すのは、AIはエンジニアを置き換えるのではなく、熟練者の生産性を倍増させる道具だということです。発注側としては、AI駆動開発を掲げるベンダーに対し、「誰がAIの出力をレビューし、品質を担保するのか」を確認することが重要になります。

フリーランス+小規模専門会社の分割発注

この事例のもう一つの工夫が、発注先の組み合わせです。すべてを一社の開発会社に任せるのではなく、「フリーランス+小規模専門会社」に分割して発注することで、中間マージンを圧縮しています。発注先別の人月単価を見ると、フリーランスが60〜80万円、中小開発会社が80〜120万円、大手SIerが150〜300万円が目安です(出典:ぷらすわん調べ)。この差の多くは、組織維持費や多重下請けの中間マージンであり、発注を工夫すれば削減できる余地があります。

ただし、分割発注には「複数の発注先を束ねるディレクション能力」が発注側に求められます。誰が全体の品質と進捗に責任を持つのかが曖昧だと、安く発注したつもりが、かえって統合の手間とトラブルでコストが膨らみます。事例から学べるのは、コスト削減は単なる値切りではなく、発注の設計(誰に何を任せ、誰が束ねるか)によって生まれるということです。自社にディレクション人材がいない場合は、上流から伴走できるパートナーと組むほうが、結果的に総コストは下がります。

KMP段階統合とネイティブ回帰の事例

BMWのKMP段階統合とネイティブ回帰の事例のイメージ

クロスプラットフォーム化は万能ではありません。事例の価値は、華やかな成功談だけでなく、「段階的に統合した成功」と「限界にぶつかってネイティブに戻った判断」の両面を読むことにあります。ここでは、より慎重なクロスプラットフォーム活用と、ネイティブ回帰のリアルな声を取り上げます。

BMWが全体工数の約20%でKMPを段階統合した事例

Flutterのように画面全体を置き換えるのではなく、ビジネスロジックだけを共通化するアプローチもあります。その代表がKMP(Kotlin Multiplatform)です。BMWの車載システムでは、全体工数の約20%にKMPの導入を抑え、段階的に統合を進めることで成功した事例が報告されています(出典:技術ケース)。いきなり全面採用するのではなく、リスクの低い一部から共通化を始め、効果を見ながら範囲を広げる進め方です。

この段階統合の利点は、万一KMPが自社の要件に合わなかった場合でも、影響範囲を限定できることにあります。ビジネスロジックだけを共通化し、UIは各OSのネイティブで作るため、UIの自由度や性能を犠牲にしません。事例から学べるのは、新しい技術を採用するときは「全面導入か見送りか」の二択ではなく、影響範囲を絞った段階導入でリスクをコントロールできるということです。慎重に進めたい大規模アプリほど、この段階主義が有効に働きます。

クロスプラットフォームからネイティブへ回帰した声

一方で、現場の開発者からは「クロスプラットフォームで限界にぶつかり、ネイティブに回帰する人もいる」という声も上がっています(出典:開発者コミュニティ)。「ネイティブのエラーのほうがデバッグしやすい」「大企業ではObjective-CやJavaが今も最強」といった意見も根強く、クロスプラットフォームが常に最適とは限らないことを示しています。とくにOSの最新機能をいち早く使いたい場合や、極限の性能が求められる場合は、ネイティブに優位性があります。

こうしたネイティブ回帰は「失敗」と捉えるべきではなく、要件の変化に応じた合理的な再選択と理解すべきです。MVP(必要最小限の製品)期はWebやクロスプラットフォームで素早く検証し、利用が定着してOS深部の機能が必要になった段階でネイティブへ移行する、という流れは理にかなっています。重要なのは、最初の技術選定を「一生変えられない決断」と思い込まないことです。技術選定の失敗パターンと回避策の詳細は、関連記事『アプリ開発の失敗・課題・注意点・リスクについて』もあわせてご覧ください。

まとめ

アプリ開発事例のまとめイメージ

アプリの導入事例・開発事例を振り返ると、成功の共通点は「作りたい機能とビジネスモデルから技術形態・言語を逆算し、効率を取りつつコア機能の性能は犠牲にしない」という一点に集約されます。ING銀行は認証などのコアをネイティブに残しつつUIをFlutterへ統合し、メルカリやユニクロなど国内大手はクロスプラットフォームで両OSの開発効率を高めています。さらに、AI駆動開発と分割発注を組み合わせて市場相場の1/3でアプリを構築した事例や、BMWのKMP段階統合のように影響範囲を絞ってリスクを抑えた事例もあります。一方で、クロスプラットフォームの限界からネイティブへ回帰する判断も、要件変化に応じた合理的な再選択として実在します。

事例を読むときに大切なのは、「最新の技術かどうか」ではなく「自社のビジネス要件と技術が一致しているか」という視点です。自社のユーザー・デバイス・利用頻度に照らし、まずは効果の見えやすい範囲から、現実的な技術形態で一歩を踏み出してください。riplaはフルスクラッチ受託と国内開発、元事業会社の知見を組み合わせ、ビジネスから逆算した技術選定と、現場に定着するアプリづくりを一貫して支援します。全体像の確認には、あらためて完全ガイドをご活用ください。

株式会社riplaでは、IT事業会社出身のプロフェッショナルが「Impact-Driven型支援」を通じて、プロダクトやシステムの納品・提供を目的とせず、お客様と同じ目線で、事業成果の達成をゴールとして、高品質なDX/開発支援をいたします。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。IT事業会社出身のプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、「Impact-Driven型支援」を掲げ、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の実現に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。