カスタマーサポートにおけるAI活用の活用事例/実例/具体例について

カスタマーサポートにおけるAI活用とは、問い合わせへの回答を自動化するだけでなく、受付・検索・応対支援・記録・分析・有人引き継ぎまでを一つの業務として改善する取り組みです。

人手不足や応対品質のばらつきに悩む企業では、AIによって定型業務を吸収し、オペレーターが複雑な相談や感情的な対応に集中できる体制を作れます。本記事では、業務別・シーン別の活用事例を「課題 → 導入内容 → 効果」の順で紹介し、有人エスカレーションの設計、マニュアル整備、KPI、費用、導入ステップまで解説します。

カスタマーサポートにおけるAI活用の全体像

カスタマーサポートにおけるAI活用の全体像

AIは、顧客向けの自動応答と、オペレーター向けの支援機能に大きく分けて考えると整理しやすいです。導入時は「何件を自動化するか」だけでなく、「人に渡すときにどれだけ文脈を残せるか」まで設計することが重要です。

7つの主要活用領域

代表的な領域は、問い合わせの分類とルーティング、FAQや社内ナレッジの検索、チャット・メール・電話の自動応答、通話の文字起こしと要約、リアルタイムの回答候補提示、応対品質の自動評価、VoC分析の7つです。たとえば電話中にAIが会話を認識し、本人確認の手順や商品情報を画面に提示すれば、新人でも確認漏れを減らせます。終了後は要約と次回対応をCRMへ登録し、管理者は大量のログから不満や解約兆候を探せます。

AIの得意・不得意と人間との役割分担

AIが得意なのは、決められた情報源から候補を探すこと、大量の会話を同じ基準で処理すること、営業時間に関係なく一次受付することです。一方、契約解釈が分かれる相談、強い不満や不安を伴うクレーム、例外的な返金判断は人間が担う方が安全です。AIを人の代替と捉えるのではなく、定型処理をAI、判断と共感を人間が担う協働モデルにすると、顧客体験と現場の納得感を両立しやすくなります。

カスタマーサポートのAI活用事例を業務別に紹介します

カスタマーサポートAIの導入事例

ここでは、チャット、電話、オペレーター支援、バックオフィス処理という異なるシーンの事例を見ていきます。数値は各社が公開した導入結果であり、そのまま自社の成果を保証するものではありませんが、対象業務と測定指標を決める際の参考になります。

チャットの自動応答:Klarna

課題:多国間で大量の決済・配送・返金に関する問い合わせが発生し、24時間対応と多言語対応を人員だけで維持することが課題でした。

導入内容:KlarnaはOpenAI技術を使ったAIアシスタントをアプリの顧客サービスに導入しました。注文や支払いに関する定型相談を会話形式で受け付け、23市場・35言語超で利用できる体制にしました。

効果:稼働初月に230万件の会話を処理し、カスタマーサービスチャットの3分の2を占めました。フルタイム担当者700人分に相当する業務を担い、用件解決時間は従来の11分から2分未満へ短縮され、再問い合わせも25%減少したと発表されています(出典: Klarna、2024年)。大規模企業の事例ですが、AIの回答精度だけでなく、注文・決済データとつないで処理を完了させた点が重要です。

音声IVRの自動化:DoorDash

課題:配達中のユーザーからの電話が多く、問い合わせが集中するとオペレーターへの転送や待ち時間が増え、初回解決率と運用コストの両方に影響していました。

導入内容:DoorDashはAmazon ConnectとAmazon Lexを使った音声セルフサービスを構築し、生成AI基盤とも連携しました。用件を音声で受け付け、定型的な確認を自動処理し、複雑な相談だけをオペレーターへ渡す流れです。

効果:オペレーターへの転送を49%削減し、初回解決率を12%高め、前年比300万米ドルの運用コスト削減につながりました(出典: AWS「DoorDash導入事例」)。電話自動化では、音声認識率だけでなく、転送条件、本人確認、聞き返し、通信障害時の代替手段を一連の体験として設計する必要があります。

国内の電話・店舗・保険業務の事例

課題:国内企業では、営業時間への問い合わせ、予約受付、保険書類の再発行など、ルールが比較的明確でも件数が多く、担当者の時間を奪う業務が課題になります。

導入内容:一蘭は電話自動応答サービスを導入し、営業時間に関する問い合わせを自動化しました。おたる政寿司はAIコールセンターPBXを使って予約電話を受け付け、生命保険業S社はボイスボットとRPAを組み合わせて、生命保険料控除証明書の再発行を自動化しました。

効果:一蘭では営業時間問い合わせの50%以上を自動化し、本来の接客・調理に集中できる状態を作りました。おたる政寿司では応答率が60%から80%に上がり、月間予約数が約50件増えました。生命保険業S社では年間約300時間を削減し、関連クレームをゼロにした事例があります。定型業務から始めれば、AIの不得意領域を避けながら成果を測りやすいです。

導入時に押さえるべき実装・運用論点

カスタマーサポートAIの実装と運用

AIを導入しても、有人対応の画面や社内データが整っていなければ、顧客が同じ説明を繰り返す問題や誤回答が残ります。現場の運用に入る前に、AIがどこまで判断し、何を根拠にし、どの状態で人へ渡すかを定義します。

有人エスカレーション時のUI・UX設計

課題:AIが解決できない相談を人へ転送しても、オペレーター画面に会話履歴や顧客情報が表示されなければ、顧客は最初から説明し直すことになります。転送された案件だけ難易度が高くなり、現場の負担感が増すこともあります。

導入内容:引き継ぎデータとして、顧客の意図、本人確認の状態、会話要約、参照したFAQ、AIが回答できなかった理由、未解決の論点、次に必要な処理を渡します。画面では、要約と原文ログを切り替えられるようにし、AIの提案回答をそのまま送信せず、担当者が編集・承認できる設計にします。

効果:顧客の説明時間とオペレーターの検索時間を減らし、転送後の解決率を測定できます。転送率だけを下げると、AIが顧客を囲い込んで不満を増やす可能性があるため、有人転送後の解決率、再問い合わせ率、顧客満足度も合わせて評価します。

クレーム対応におけるAIの対話デザイン

課題:正しい回答でも、顧客の感情を無視した短い返答や、責任の所在を曖昧にする表現は不信感につながります。特に返金、障害、配送遅延などでは、AIが会話を長引かせるほど不満が高まります。

導入内容:クレーム兆候を検知したら、謝罪、事実確認、対応可能な選択肢、担当者への転送という会話設計に切り替えます。AIを使っていることを表示するタイミング、回答できない場合の言い方、禁止表現、返金や補償を約束してはいけない条件をトーン&マナーとして明文化します。

効果:AIが感情的な案件を無理に完結させず、適切な段階で人へつなげられます。日本ロレアルでは、AIの方が人間より話しかける心理的なハードルが低く、従来は表に出なかった質問や関心データが集まったという発見があります。Spartyでも、接客AIの育成期間が3か月から6日に短縮され、2週間で3,000件超の接客を受けた事例があります。効率化だけでなく、相談の入口を広げる効果も見逃せません。

古いマニュアルをAIが読める形に整える

課題:現場の知識は、Excelの結合セル、PDFの表、紙の改訂履歴、担当者だけが知る例外処理に分散しています。このまま検索システムへ取り込むと、条件と結果の対応が崩れ、古いルールを参照する原因になります。

導入内容:まず資料を業務、商品、対象顧客、前提条件、手順、例外、エスカレーション先、改訂日という単位に分解します。次に、1つの質問に対する回答と根拠がまとまるように見出しを付け、表を文章へ変換し、版数と適用期間を持たせます。最後に、実際の問い合わせから代表的な質問と危険な質問を作り、正答・保留・転送の判定をテストします。

効果:回答の根拠を追跡しやすくなり、ナレッジ更新の担当者も明確になります。データ整備は華やかな作業ではありませんが、検索拡張生成(RAG)の精度、回答の安全性、更新後の再テストを支える基盤です。

セキュリティと費用相場をどう考えるべきですか?

カスタマーサポートAIのセキュリティと費用

結論として、費用はAIの利用料だけでなく、初期設定、データ整備、電話・CRM連携、監視、改善を含むTCO(総保有コスト)で比較します。セキュリティも、モデル名だけで判断せず、入力データの保存、学習利用の有無、権限、ログ、削除、障害時の切り戻しを確認します。

FISC・PCI DSSなどを踏まえた確認項目

金融・決済に関わる窓口では、個人情報やカード情報をAIへ入力する範囲を最小化します。カード番号をマスキングしてから文字起こしする、顧客ごとの権限でCRMを参照する、プロンプトや回答を監査ログへ残す、モデル提供者の学習に使われない契約を確認する、といった対策が必要です。FISCやPCI DSSへの適合はサービス単体で決まるものではなく、自社の運用・委託先・アクセス権限を含む構成全体で確認します。

2026年時点の月額総コストの見方

小規模なFAQチャットなら、初期設定・ナレッジ登録・画面設定を含めて数十万〜数百万円、月額は数万円〜数十万円が目安です。電話自動応答やCRM連携、独自の権限管理、有人引き継ぎまで含める場合は、初期費用が数百万円から1,000万円超になることもあります。個別の業務エージェント開発では、PoC、本番構築、データ移行、運用設計を分けて見積もることが大切です。

公開料金の例では、IntercomのFin AI Agentは2026年6月時点で、解決や手続き引き継ぎなどの成果1件あたり0.99米ドル、座席料金1人あたり月19米ドルからと案内されています(出典: Intercom公式料金ページ、2026年)。NTTドコモビジネスのAI-IVRでは、2026年4月開始のサービスとして月額使用料5万円に加え、AI利用料や電話料金が発生する構成です(出典: NTTドコモビジネス、2026年)。料金モデルは席課金、会話課金、解決件数課金、音声分数課金が混在するため、月間問い合わせ数と自動化率を入れた試算を依頼します。

失敗しない導入ステップとKPI設計

カスタマーサポートAI導入のロードマップ

導入は、AIツールを契約してから用途を探すのではなく、現状の問い合わせログから効果の出やすい業務を選びます。PoCでは正答率だけでなく、顧客が解決できたか、担当者が使えたか、1件あたりの費用が妥当かを確認します。

課題洗い出しからPoC、本番展開まで

最初の1〜2週間で、問い合わせ上位20〜50件、対応時間、転送率、再問い合わせ率、クレーム件数、利用中のFAQやCRMを整理します。次に、営業時間案内や注文状況照会など、正解が明確で失敗時の影響が限定される業務を選び、匿名化した実データでPoCを実施します。本番前には、正答、保留、有人転送、禁止回答のテストケースを用意し、現場のオペレーターにも評価してもらいます。

本番後は、月1回のナレッジ更新と、週次の誤回答レビューを運用に組み込みます。東京海上日動あんしんコンサルティングの事例のように、既存ビジネスフォンを活かしてクラウドCTIへ移行する方法もあります。大規模刷新を前提にせず、既存設備を残す範囲と将来の拡張範囲を分けることで、導入リスクを抑えられます。

AI導入後にオペレーターKPIを再定義する

AIが簡単な問い合わせを吸収すると、人間に届く案件の平均処理時間(AHT)が伸びることがあります。AHTだけで評価すると、難しい案件を丁寧に解決した担当者が不利になるため、初回解決率、顧客満足度、転送後の解決率、要約の修正時間、品質評価、ナレッジ改善への貢献を組み合わせます。

電話応対では、コールセンター業J社が要約作業を1件あたり65秒短縮し、週報のVoC分析作成を2時間から30分へ削減した事例があります。こうした効果を測るには、AIが生成した要約を担当者が何秒で確認できたか、分析結果が商品改善やFAQ更新に使われたかまで記録します。AIは導入して終わりではなく、現場の評価指標と改善会議を変える仕組みです。

開発会社・AIツールを選ぶポイント

カスタマーサポートAIの選定ポイント

選定では、AIの回答デモだけでなく、自社の匿名化ログ、古いマニュアル、CRMの権限、電話基盤を前提に確認します。特に、答えられない質問への反応、有人転送時に渡る情報、回答根拠の表示、管理者がナレッジを更新する手間、障害時の手動運用を見せてもらうことが大切です。

機能・連携・運用支援を一体で比較する

機能面では、文字起こし、要約、FAQサジェスト、自動ルーティング、音声・チャット・メールの横断、VoC分析を確認します。連携面では、CRM、SFA、注文・予約システム、本人認証、チケット管理、既存PBXとの接続方式を確認します。運用面では、誤回答の報告、プロンプトやルールの変更、モデル更新、監査ログ、教育、障害時の問い合わせ先を契約前に決めます。

現場の伴走支援と改善体制を確認する

AI導入は、初期構築よりも、回答が古くなったとき、商品や料金が変わったとき、想定外のクレームが発生したときに差が出ます。提案会社が、業務整理、マニュアル構造化、PoC評価、オペレーター研修、定例レポート、改善バックログまで支援できるかを確認します。株式会社riplaのように、コンサルティングから開発まで一気通貫で支援できる会社であれば、AI単体ではなく、業務成果とシステム定着をまとめて相談できます。

よくある質問

カスタマーサポートAI活用のよくある質問

カスタマーサポートへのAI導入では、費用、対象業務、有人対応との分担について多くの質問があります。導入前に社内で判断しやすいよう、よくある質問に簡潔に回答します。

カスタマーサポートのAI活用は何から始めるべきですか?

営業時間、配送状況、パスワード再設定など、正解が明確で問い合わせ件数が多い業務から始めることをおすすめします。過去ログで件数、解決率、誤回答時の影響を確認し、小さなPoCで効果を測定します。

AIに任せず、人が対応すべき問い合わせは何ですか?

強いクレーム、契約や補償の判断、本人確認に不備がある相談、例外処理、健康・金融など影響が大きい相談は、人へ転送する設計が適しています。AIは要約や情報検索を支援し、担当者が根拠を確認して最終判断する役割分担にします。

カスタマーサポートAIの費用はいくらですか?

簡易なチャット導入なら初期数十万〜数百万円、月額数万円〜数十万円が目安ですが、電話、CRM連携、独自データ整備、運用支援を含めると数百万円から1,000万円超になる場合があります。席数、問い合わせ数、AI利用量、成果課金、通話料、保守費を分けた見積もりで比較してください。

まとめ

カスタマーサポートAI活用のまとめ

カスタマーサポートにおけるAI活用は、FAQの自動回答だけでなく、音声受付、オペレーター支援、通話要約、VoC分析、CRM連携、業務処理の自動化まで広がっています。KlarnaやDoorDashの大規模事例だけでなく、一蘭、おたる政寿司、生命保険業S社のように、定型業務へ絞って成果を出す方法もあります。

導入判断で確認する3つのポイント

対象業務は定型性と件数だけでなく、誤回答時の影響まで確認します。人へ渡す案件では会話履歴と判断材料を画面に残します。効果測定ではAIの自動化率だけでなく、顧客満足度、転送後の解決率、オペレーターの負担、TCOを同時に見ます。

次に行うべきアクション

まず直近3か月の問い合わせログを分類し、上位の定型問い合わせを1つ選びます。そのうえで匿名化データを使ったPoCの評価項目と、有人転送時に引き継ぐ情報を決め、現場・情報システム・セキュリティ・顧客体験の関係者で試験します。

成功のポイントは、課題の大きさだけでなく、AIが得意な業務と人が担う業務を分け、有人引き継ぎ時の画面、マニュアルの構造化、セキュリティ、TCO、導入後のKPIまで先に設計することです。まずは問い合わせログを分類し、最も安全に効果を測れる1業務からPoCを始め、顧客満足度と現場の使いやすさを確認しながら対象範囲を広げていきます。

本文で参照した主な情報源は、Klarna「AI assistant handles two-thirds of customer service chats」、AWS「DoorDash導入事例」、Intercom「Fin AI Agent outcomes・料金ページ」、NTTドコモビジネス「docomo business ANCAR提供開始」です。各社の数値は公開された特定条件での実績であり、自社での成果を見積もる際は、問い合わせ件数、対象業務、転送条件、運用体制をそろえて試算してください。

参考ソース:Klarna公式発表(PR Newswire掲載)AWS DoorDash導入事例Intercom Fin AI Agent成果課金NTTドコモビジネス ANCAR料金発表

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株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

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執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。