コールセンターにおけるAI活用の活用事例/実例/具体例について

コールセンターにおけるAI活用は、問い合わせの自動受付だけではなく、オペレーター支援、応対後の記録、品質評価までを一体化して、顧客体験と現場の生産性を同時に高める取り組みです。

人手不足や採用難、あふれ呼、応対品質のばらつきに悩む企業にとって、AIは有力な選択肢です。ただし、いきなり完全無人化を目指すと、誤案内や顧客の不満、現場の反発を招きます。本記事では、業務別・シーン別の具体的な活用事例を、課題、導入内容、効果の順で紹介します。さらに、人とAIの役割分担、2026年時点の費用感、技術面の注意点、導入ステップまで解説します。

コールセンターにおけるAI活用の全体像

コールセンターでAIを活用するイメージ

AI活用は、顧客と直接会話する領域と、オペレーターの裏側で働く領域に分けて考えると整理しやすくなります。特に初期導入では、誤案内の影響が比較的小さい後処理や検索支援から始め、効果と安全性を確認しながら自動応答へ広げる方法が現実的です。

4つの活用領域で考えると導入目的が明確になります

1つ目はチャットボットやボイスボットによる定型問い合わせの自動応答です。営業時間外の受付、配送状況の確認、住所変更、予約受付など、手順と回答が決まっている業務に適しています。2つ目は、通話内容のリアルタイム文字起こし、FAQ検索、回答候補表示などのオペレーター支援です。経験の浅い担当者でも、承認済みのナレッジを見ながら対応できます。

3つ目は、応対要約、後処理入力、メール文面作成などのACW(After Call Work)自動化です。4つ目は、全通話の品質評価、VOC分析、カスハラ検知です。CCAJの2025年度調査では、生成AIをセンター運営の実務で運用している企業が48.5%を占め、活用方法は応対要約が74.5%、メール文章作成が63.6%、顧客直接対応のチャットボットなどが52.7%でした(出典: 一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業実態調査」、2025年)。まず裏側の業務から実用化が進んでいることがわかります。

顧客は速さを期待し、企業は慎重に実装しています

顧客側の期待も高まっています。Zendeskの2026年版CXトレンドレポートでは、日本のCXリーダーの71%がAI投資の効果を実感している一方、音声AIがCXを大きく進化させると考える日本の消費者は58%で、世界平均の83%を下回りました(出典: Zendesk「CXトレンドレポート2026年版」、2026年)。つまり、AIを使うこと自体よりも、自然で安心できる体験として設計できるかが重要です。

自動化率の目標も業種によって変わります。BtoCやECの定型問い合わせは最大80%を目安にできますが、金融・保険は40〜60%、医療・公共など慎重な判断を要する領域は20〜40%程度から検討するのが妥当です。これは一律の正解ではなく、誤案内の損失、本人確認、個人情報、顧客の心理的負担を含めて決める上限の目安です。

定量効果で見るコールセンターのAI活用事例

AIによるコールセンター業務の改善

AI導入の効果は「人を減らせたか」だけで判断すると、現場の品質や従業員の納得感を損ないます。工数、コスト、応答率、品質、顧客満足度を分けて計測し、導入前後で同じ条件を比較することが大切です。ここでは、業務ごとにどのような課題をAIで解消し、どのような効果につなげたかを見ていきます。

事例1:応対検索と要約で年間約9,200時間を削減した事例

課題:三井住友トラストTAソリューションでは、業務範囲が広く、オペレーターが必要なマニュアルを探す時間や、通話後に応対履歴をまとめる時間が負担になっていました。知識量の差によって案内のスピードや品質にもばらつきが生まれていました。

導入内容:キーワードに連動して関連マニュアルを画面へ提示するAIと、通話内容をテキスト化して応対履歴を要約するAIを導入しました。オペレーターは検索結果を確認しながら会話でき、通話終了後は生成された要約を確認して必要な情報だけを修正する運用にしています。

効果:コンタクトセンター従業員の総労働時間を年間約9,200時間、総労働時間の約1割削減し、導入から2年あまりでAIへの投資を回収しました(出典: トランスコスモス「三井住友トラストTAソリューション導入事例」)。この事例は、顧客との会話を無人化しなくても、検索と後処理を改善するだけで大きな成果を得られることを示しています。

事例2:入電予測と全件評価で現場管理を変えた事例

課題:家電メーカーA社では、季節やキャンペーンによる入電量の変動が大きく、シフト作成に時間がかかっていました。人を多く配置すればコストが増え、少なく配置すれば待ち時間やあふれ呼が増えるため、担当者の経験に依存した調整には限界がありました。

導入内容:過去の入電数、曜日、季節、販売施策などをAIに学習させ、時間帯別の入電量を予測しました。予測値をシフト作成に利用し、応答率を維持しながら必要な人数を配置する仕組みに変えました。また製造業B社では、全通話をAIで評価し、評価項目に沿ったフィードバック候補をSVへ提示しました。

効果:家電メーカーA社はシフト作成工数を20分の1にし、コストを10%削減しながら応答率KPIを100%維持しました。製造業B社は品質チェック工数を80%削減し、フィードバック頻度を月1回から週1回へ増やしました。人がサンプルを聞く方式から全件を継続的に分析する方式へ変えた点が、品質改善のスピードを高めています。

事例3:FAQと会話分析で問い合わせ・営業成果を改善した事例

課題:同じ質問が集中する企業では、オペレーターが対応に追われ、簡単な問い合わせに人員を取られていました。また、営業要素を含む窓口では、担当者によって説明の順序や提案内容が異なり、成果が安定しない問題もありました。

導入内容:ベルーナや株式会社Daiの事例では、過去の問い合わせと承認済み回答をAI搭載FAQへ集約し、顧客が自己解決できる導線を整えました。採用サービス企業C社では、会話をAIで解析して成果につながるセールストークを抽出し、標準スクリプトへ反映しました。

効果:ベルーナでは問い合わせ件数が50%減少し、返答時間が半減しました。Daiでもピーク時と比較して問い合わせ数が約47%減少しました。採用サービス企業C社ではアポイント獲得率が10%程度から23%超へ向上し、約2.3倍になりました。AIが回答するだけでなく、問い合わせの傾向と成果の出る会話を学習し、FAQやスクリプトを継続的に更新したことが共通点です。

人とAIの役割分担をどう設計すればよいですか?

人とAIが連携するコールセンター

結論から言うと、AIには定型処理、検索、記録、異常検知を任せ、人には共感、例外判断、交渉、責任を伴う意思決定を任せるハイブリッド運用が適しています。競合調査で共通して示される「80%自動化、20%有人」は固定ルールではなく、顧客と業界のリスクに応じて人へ戻せる状態を維持する考え方です。

業種別に自動化上限を設定します

ECの配送状況や営業時間の案内はAIが最後まで完結しやすい一方、金融商品の契約変更や保険金請求は、本人確認や説明責任が伴います。医療や公共サービスでは、誤案内が生活や安全に直結するため、AIは候補提示にとどめ、最終判断は人が行う設計が必要です。導入前に問い合わせを「AI完結」「AIが下調べして有人対応」「最初から有人対応」に分類しておくと、期待値のずれを防げます。

自動化率は、処理件数だけでなく、再入電率、転送率、FCR(初回解決率)、CSAT(顧客満足度)と併せて評価します。AIが一度回答しても顧客が再度電話をかけるなら、見かけの自動化率だけが上がり、実際の負担は減っていないためです。

エスカレーション条件を先に決めます

エスカレーションは「AIが答えられなかったら人へ渡す」だけでは不十分です。顧客が怒りや不安を示した、同じ質問を繰り返した、本人確認に失敗した、返金や契約変更を求めた、禁止された情報を入力したといった条件を、業務ごとに明文化します。引き継ぎ時には、会話全文、要約、顧客の意図、AIが提示した回答、未解決の論点をオペレーター画面へ渡します。

カスハラ対策では、AIが暴言や脅迫、長時間拘束などの兆候を検知し、SVへリアルタイム通知する仕組みも有効です。AIはオペレーターを監視するためではなく、必要なときにSVが割り込み、担当者を守る「防護服」として位置付けると、心理的安全性と現場定着につながります。

オペレーターをAI活用スペシャリストへ再定義します

日本では長期雇用を前提とする企業も多く、「AI導入はリストラにつながる」という不安が現場の反発を生みやすくなります。簡単な問い合わせをAIが吸収すると、有人窓口には難しい相談や感情的な案件が集まり、従来の件数だけで評価すると、オペレーターほど不利になる問題も起きます。

そこで、評価指標を処理件数だけから、難易度の高い案件の解決、AIへの正しいフィードバック、ナレッジ改善、顧客満足度、適切なエスカレーションへ広げます。研修も「AIに仕事を奪われない方法」ではなく、「AIの回答を検証し、より難しい相談に集中する方法」として設計します。役割をAI活用スペシャリスト、ナレッジ編集者、品質コーチへ広げることが、導入を雇用削減ではなく仕事の高度化に変えます。

導入時に見落としがちな技術的論点

コールセンターAIの技術設計

AIの精度だけを比較しても、実際のコールセンターでは安定稼働しません。会話体験、個人情報の扱い、既存電話基盤との接続、障害時の業務継続までを一つのシステムとして設計する必要があります。

VUXは相づち・沈黙・音声速度まで設計します

音声AIでは、回答内容が正しくても、会話の間が不自然だったり、相づちが多すぎたりすると顧客は機械的な印象を受けます。VUX(Voice User Experience)では、顧客が話し終わるまでの待ち時間、聞き返しの表現、沈黙時の案内、TTSの声質と速度、AIであることの告知方法をテストします。高齢者や電話に慣れた顧客には、短い文と明確な選択肢を使い、いつでも「オペレーターにつなぐ」と伝えられるようにします。

音声認識や生成に時間がかかると、顧客は応答が止まったと感じます。処理を小さな単位に分け、入力音声を受け取りながら認識し、定型応答は軽量モデルで返し、複雑な検索だけ高性能モデルへ回すと、体感レイテンシとトークン従量課金の両方を抑えやすくなります。

機密情報は入力前後のマスキングを設計します

クレジットカード番号、暗証情報、口座番号、本人確認情報を生成AIへそのまま送る設計は避けます。音声認識の直前に電話番号やカード番号を検知して置換し、要約データにも元の値を残さないリアルタイム・マスキングを実装します。PCI DSSの対象業務では、録音停止、DTMF入力、アクセス権限、保存期間、監査ログを含めて確認します。

回答生成はRAGで承認済みのFAQや業務規程だけを参照させ、参照元がない場合は「確認して担当者へつなぐ」と返すルールにします。ナレッジは一度作って終わりではなく、誤回答、問い合わせの増加、制度変更を週次で確認します。KDDIアイレットの事例で紹介されているように、Ragasなどの評価を取り入れると、人的チェックを月2.6人日程度削減しながら分析サイクルを短縮できます。

レガシーPBX接続とAI障害時の切り替えを確認します

既存のPBXやIVRを残したままAIを追加する場合は、SIP接続、録音連携、CTI画面、CRMの顧客情報、転送時の会話履歴を確認します。AIの回答が画面に表示されるまでの遅延だけでなく、顧客の発話を認識してから音声を返すまでの総時間を実測し、混雑時にも許容範囲に収まるかをテストします。

外部生成AI APIや音声認識サービスが停止した場合のフェイルオーバーも必要です。定型案内はルールベースのIVRへ切り替え、複雑な相談は有人キューへ送る、障害時は録音や要約を一時停止して業務を継続する、といった手順を決めます。障害を想定した訓練を行い、復旧後に滞留した問い合わせを優先順位付けして処理できるようにします。

失敗しない導入ステップとKPI設計

コールセンターAIの導入計画

AI導入は、ツールを契約することではなく、問い合わせ業務を再設計するプロジェクトです。最初に対象業務と成功指標を決め、影響範囲の小さい業務で検証し、ナレッジと運用を整えてから対象を拡大します。

スモールスタートは対象業務を絞って進めます

最初の対象は、問い合わせ件数が多く、回答が比較的安定し、誤案内のリスクを管理しやすい業務が適しています。例えば、営業時間、配送状況、予約変更、必要書類の案内、応対要約などです。現状の入電数、AHT、ACW、転送率、再入電率、CSATを4〜8週間計測し、同じ期間のAI導入後データと比較します。

2026年時点の費用感は、クラウド型AIコールセンターシステムで初期数十万円〜数百万円、月額は1席あたり数千円〜数万円が一般的な目安です。AIチャットボットだけなら月額数万円から始められる場合があり、自社開発やオンプレミスでは数百万円〜数千万円になることもあります(出典: Zendesk「2026年版 コールセンターのAI活用とは」、2026年)。導入費だけでなく、FAQ整備、CRM連携、音声データの保存、評価、運用担当者の工数を含めて見積もります。

AHT・ACW・CSATを組み合わせて効果を測定します

AHTは1件あたりの平均処理時間、ACWは通話後処理時間です。AIによる要約や回答候補表示では、この2つが短くなるかを確認します。チャットボットやボイスボットでは、AI完結率だけでなく、有人転送後の解決率、再入電率、放棄呼率を見ます。品質評価では、全件評価により重大な誤案内やコンプライアンス違反を見つけるまでの時間を測定します。

最終的にはCSAT、NPS、顧客の再利用意向などのCX指標と、従業員の処理負荷、離職率、研修期間を組み合わせます。AIが処理速度を上げても、顧客満足度が下がったり、難しい案件を担当するオペレーターの負荷が増えたりするなら、導入方法を見直す必要があります。KPIは月次で集計するだけでなく、業務別・時間帯別・顧客属性別に分解して改善へつなげます。

よくある質問

コールセンターAIに関するよくある質問

コールセンターへのAI導入では、完全自動化の可否、費用、誤案内、従業員への影響がよく質問されます。ここでは、導入前に確認したい代表的な疑問へ直接回答します。

コールセンターのAI導入で何ができますか?

主な活用は、チャットボットやボイスボットによる自動応答、オペレーターへの回答候補表示、通話の文字起こしと要約、品質評価、VOC分析です。最初から顧客対応を無人化するのではなく、要約や検索支援から始めると、顧客体験への影響を抑えながら効果を確認できます。

コールセンターAIの費用相場はいくらですか?

2026年時点では、クラウド型の初期費用が数十万円〜数百万円、月額が1席あたり数千円〜数万円という目安があります。ボイスボットは通話量に応じた従量課金、生成AIはトークン課金が加わる場合があるため、問い合わせ件数と会話時間を使って月額を試算します。CRM連携、ナレッジ整備、セキュリティ対応、運用改善の費用も含めて比較することが重要です。

AI導入でオペレーターの仕事はなくなりますか?

AIによって定型業務の比率は下がりますが、難しい相談、共感を要する対応、例外判断、AIの回答確認、ナレッジ改善など、人が担う仕事は残ります。件数だけでなく解決の難易度や品質改善への貢献を評価し、AI活用スペシャリストや品質コーチへ役割を再定義することが、現場の不安を減らし導入効果を高めます。

まとめ

コールセンターAI活用のまとめ

コールセンターにおけるAI活用は、顧客対応をAIへ置き換えることではなく、定型処理を自動化し、人が本当に判断すべき相談へ集中できる業務へ再設計することです。応対要約、検索支援、品質評価、FAQから始め、効果と安全性を検証したうえでボイスボットや複雑な自動応答へ広げると、失敗のリスクを抑えられます。

導入前に確認するチェックポイント

導入前には、対象業務の課題とKPI、AI完結と有人対応の境界、エスカレーション条件、承認済みナレッジの管理者、個人情報のマスキング方法、PBX・CRMとの接続、AI障害時の代替手順、オペレーターの評価制度を確認します。特に「誰が誤回答を直すのか」「誰が回答を承認するのか」を曖昧にしないことが重要です。

AIの導入効果は、導入初月の自動化率ではなく、数か月後もナレッジが更新され、顧客と従業員の双方にとって使いやすい状態が続いているかで判断します。目的に合った範囲から始め、数字と現場の声を見ながら段階的に広げることが、コールセンターAI活用を成功させる最も確実な進め方です。

参考情報

本文で参照した情報は、一般社団法人日本コンタクトセンター協会「2025年度 コンタクトセンター企業実態調査」 https://ccaj.or.jp/telemarketing/doc/outsourcing_research_2025.pdf ; Zendesk「CXトレンドレポート2026年版」 https://www.zendesk.co.jp/company/press/cxt2026/ ; トランスコスモス「三井住友トラストTAソリューション導入事例」 https://www.trans-cosmos.co.jp/customercase/customer/sumitra_ta.html ; IBM「三井住友海上火災保険株式会社 事例紹介」 https://www.ibm.com/jp-ja/case-studies/ms-ins ; Zendesk「2026年版 コールセンターのAI活用」 https://www.zendesk.co.jp/blog/ai/productivity/ai-call-center/ です。費用や効果は提供時期、業務範囲、データ量、連携要件によって変動するため、導入時には自社条件で再見積もりしてください。

会社紹介

株式会社riplaでは、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを、構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルによる高い要件定義力・システム設計力を活かし、事業成果の最大化に伴走します。

また、当社独自の開発テンプレート「Boxシリーズ」による標準機能の高速開発と、AI駆動開発の独自フレームワーク「GoDD」による独自機能のAI実装を組み合わせることで、低コスト・短期間で開発を実現いたします。

もし、システム開発やプロダクト開発に関するご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

・サービス概要資料のURLはこちら >>>
・お問合せページのURLはこちら >>>
・お役立ち資料のURLはこちら >>>

執筆者プロフィール
張田谷凌央
張田谷凌央

株式会社ripla 代表取締役CEOとして、システムパッケージ活用、システム開発、データ分析、生成AI活用、SaaS開発、アプリ開発、EC構築など、幅広い領域で企業のDX推進と事業成長を支援している。事業会社でIT・DXを経験したプロフェッショナルが集う株式会社riplaにおいて、お客様の事業・ユーザー・業務に最適化したオーダーメイド型システムを構想策定・要件定義から開発・改善まで一気通貫で支援し、単なるシステム納品にとどまらず、クライアントと同じ目線で事業成果の最大化に向けた伴走支援を行う。早稲田大学卒業後、ラクスル株式会社、LINEヤフー株式会社にて事業開発やDX推進などに従事した後、株式会社riplaを創業。